本メルマガは、IoT価値創造推進チームのリーダーである稲田修一が取材を行ったIoT導入事例の中から、特に参考となると感じた事業や取り組みを分かりやすくお伝えする見聞記です。

 今回は2024年度のIoT等導入事例の概要を、2回に分けて紹介します。第2回目は、AIの活用事例を紹介します。

ここに注目!IoT先進企業訪問記 第91回

AIの上手な活用 2024年度のIoT等導入事例の概要(その2)

 2024年度のIoT等導入事例9件の概要紹介の2回目です。今回は、AIの活用事例を紹介します。いずれもビジネスや社会に新しい価値を提供するアプリケーションです。

1. みんがくの「スクールAI」

みんがくの佐藤雄太代表から話を伺った時、なるほどねと感じたことがあります。それは、スクールAIを開発する際に参考にしたのはサイボウズのキントーン注1で、プログラミングの知識がなくても、自分が作成したいアプリが作れるようにしたかったのだそうです。これをプロンプトの工夫で実現したのがスクールAIです。生成AIの上手な活用法に至ったアイデアを端的に説明されたことに感銘を受けました。

 スクールAIは、教育現場に特化した生成AI活用のためのプラットフォームです。セキュリティに強いMicrosoft社のAzure環境の活用に加え、RAG注2を利用することにより、生成する情報の品質を向上させています。生成AIを簡単に利用できるように、校務用のテンプレート注3と授業用のテンプレートを用意しています(図1参照)。

  

図1:スクールAIの授業用テンプレート例の一部
(出所:みんがく提供資料)

スクールAIの導入は、塾よりも学校で進んでいるそうです。現在、学校の方では、今までの画一的に教える教育から対話的な学びへの転換に挑戦しています。この挑戦にスクールAIが向いているというのが佐藤代表の見立てです。英作文の添削、小論文の添削など、先生が行うと膨大な時間を要するものに対して、生成AIは直ちに添削結果を回答することができます。生成AIとの対話を活用することで、先生の負担を大幅に減らしながら個別最適な学びを実現できるのです。経済産業省の「探究・校務改革支援補助金2025」への採択に伴って、スクールAIは2026年3月末まで無償提供されるそうです。日本の教育を変えるきっかけになれば良いなと期待しています。

 

注1:プログラミングの知識がなくてもノーコードで、業務のシステム化や効率化を実現するアプリがつくれるクラウドサービスの名称。
注2:Retrieval-Augmented Generationの略語。RAGは、検索(Retrieval)機能を拡張(Augmented)し、質の高い回答を生成(Generation)できるようする技術です。LLMのテキスト生成の際に、信頼度の高い外部情報をデータベースから検索し、その情報を基にテキストを生成します。 このプロセスにより、エビデンスが明確でより精度が高い内容のテキスト生成が可能になります。
注3:生成AIを活用して文書などを生成するための雛形となる文書のこと。この文書を指示文(プロンプト)の雛型として使います。

 

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2.音声解析AI「MiiTel」で音声コミュニケーションの価値を創出したRevComm

 RevCommの取材は、ASPICクラウドアワード表彰式のスピーチで「同社のMiiTelがないと仕事ができないと言っている社員がいるくらいなので、総務大臣賞は当然です」というコメントを聞いたのがきっかけです。MiiTelは、一般社団法人日本クラウド産業協会のASPICクラウドアワード2024の最優秀サービスとして総務大臣賞を受賞しているのですが、何故それほどまでに頼られるサービスなのかを確認したかったのです。

 RevCommが注目したのは、テキストコミュニケーションがさまざまなデータ分析の対象となり大きな価値を生んでいるのに対し、音声コミュニケーションはそうではないことでした。音声コミュニケーションをデータ化することによって、例えば電話でのインサイドセールスの成約率をあげるなどさまざまな価値を生むことができると考え、これに挑戦したのです。幸いなことにMiiTelは2018年10月のリリース以来、お客さまから商談獲得率がアップした、トップ営業の話し方の特徴を分析・可視化し研修に活かすことができたなどと評価されており、2024年6月末の時点で導入社数は2,500社、累計ユーザ数は80,000ユーザを超えています。

 MiiTelの活用シーンと提供価値は図2のとおりで、これだけを見るとそのすごさを見落としてしまいます。「ゆっくりと適度な間をとって会話するなど営業成績が良い社員の特性を定量的に可視化し、話し方の速度や対話の回数に着目してこれを横展開することで、アポイントを取り付ける率が31%アップした」「通話料・オプション代等を含め、月額2万円程度/IDで、AIによる音声のテキスト化・自動要約、応対品質の評価・分析ができ、応対品質向上と業務効率化が図れた」など、効果を実感したユーザからのコメントで、音声コミュニケーションを可視化する価値の大きさをあらためて実感しました。

図2:MiiTelの活用シーンと提供価値(出所:RevComm提供資料)

また、深層学習やTransformer注4技術の活用によって音声認識の精度があがり、実用に耐えるレベルとなったタイミングを逃さずに音声解析AI「MiiTel」に取り入れたRevCommの慧眼にも感心した次第です。

注4:自然言語処理における深層学習モデル。GPT、BERT、PaLMなど言語系生成AIのベースとなっている技術。

 

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3. 感性をビジネス化した感性AI株式会社

 感性AI株式会社は、京王電鉄株式会社と国立大学法人電気通信大学坂本真樹教授の共同出資により2018年5月25日に設立された電気通信大学発のベンチャー企業です。同社が提供するクリエイティブの印象を可視化するツールである「感性AIアナリティクス」を初めて知ったのは2021年です。非常に面白いツールだけれど大学発の手作り感が残っており、ビジネス的に大丈夫かなという印象でした。このツールと再会したのは2024年です。使えるツールに進化したというのが第一印象。感性という捉えにくい対象をビジネス化するのは簡単ではありません。この点に興味を持ったので、取材することにいたしました。

 感性AIアナリティクスは、消費者の印象評価をAIで推測し、マーケティングや商品開発に役立てるサービスです。提供形態はウェブ型で、導入企業は食品・飲料メーカーや日用品メーカー、広告代理店などで、主にマーケティング担当者や商品開発部門が利用しています。主な機能は、ネーミングやキャッチコピー、パッケージの感性評価と連想語の提示を行うことです。これで、よりコンセプトに合致した商品開発や消費者の感性に働きかける価値創造を実現しています。(図3参照)

図3:感性AIアナリティクスの主要機能(出所:感性AI提供資料)

 感性は定量評価が難しい人間の知覚的能力です。感性は人によって異なり、フワフワしたところがあるのでビジネスに活用できるレベルの精度確保が難しかったのですが、この限界突破に貢献したのはAIです。収集した多くのデータを機械学習などの手法で分析することで、人の印象を数値化するだけでなく、精度向上にもつながったのです。感性評価精度の向上によって、パーソナライズされた顧客体験を実現するための手がかりとなり、化粧品や自動車など顧客の感性にフィットする商品開発、広告やマーケティングの最適化、レコメンドの的確性向上など、多くの適用分野が見えてきているのです。

 

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4.  森林づくりをトータルサポートする鹿島建設の「Forest Asset」

 鹿島建設の「Forest Asset」では、森林の状況を計測して詳細なデータを取得し、解析・評価するとともに森林づくり計画の策定や森林経営・活用支援など森林づくりをトータルサポートし、森林管理の効率化やカーボンクレジットの取得支援、環境保全に貢献しています(図4参照)。上空ドローンと林内ドローンを使用して取得するデータをGISデータや3次元点群データとして保存し、森林管理計画の策定に活用しています。

図4:Forest Assetの概要
鹿島建設HPから引用(https://www.kajima.co.jp/news/press/202406/21e1-j.htm)

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 「Forest Asset」の核となる技術は2つあります。一つは、名古屋大学と共同で研究開発した、上空からドローンで取得した森林の点群データを機械学習で解析し、材積(木材の体積)や樹種、樹高、立木位置、胸高直径を高精度で推定する技術です。そして、もう一つは、ドローンが森林内の樹々の幹や枝、葉などの障害物を検知し、回避、自律飛行しながらレーザー計測して点群データを取得し、樹高、立木位置、胸高直径・曲がりや下草の有無など多様かつ複雑なデータを高精度にデータ化する技術です。

 「Forest Asset」は、発展余地が大きなサービスです。鹿島建設は、強化していきたいポイント、将来に向けて考えられる行動として「他企業との連携を強化し、ネットワークを拡大することで、森林管理の効率化と環境保全の推進を図っていきたい。また、森林の計測、評価、解析、それから計画に落とし込み森林の経営や活用を支援する一連のプロセスをさらに強化し、持続可能な森林管理を実現したい。」と述べています。

 

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5. 全世代型予防・健康づくりを目指す日立の「健康・医療情報分析プラットフォーム」

 日立製作所は、2020年度から北海道が主導する「全世代型予防・健康づくり推進事業」の一環として、北海道国民健康保険団体連合会とともに「健康・医療情報分析プラットフォーム:KDB Expander」の共同構築に3カ年計画で取り組みました。KDB Expanderは、国民健康保険、後期高齢者医療、介護保険、協会けんぽ注5の4つの保険制度の健康・医療情報を集約・統合しています。制度横断でのデータ関連付けにより、全世代に渡る健康・医療情報を統合管理し、多角的な分析が可能となり、保健事業の効率化を支援しています。(図5参照)

図5 「健康・医療情報分析プラットフォーム:KDB Expander」の概要
(出所:日立製作所提供資料)

 KDB Expanderでは、大規模な健診結果データやレセプトデータ注6から生活習慣病の発症傾向をAIが高精度に分析し、個人の健康状態に応じた健康改善アドバイスなどをまとめた健康レポートを作成します。AIは生活習慣病の種類、年代、性別ごとに予測モデルを構築しており、対象者一人ひとりのライフステージに応じたきめ細かいリスク予測とアドバイスを行っています。さらに、医師や保健師の協力を得て、現場の指導感覚を反映した分かりやすいアドバイスを提案しています。

 本取り組みの大きな価値は、協会けんぽデータと国民健康保険データを集約したことです。これによって、働き盛り世代の健康・医療情報の網羅性が飛躍的に向上し、地域全体の健康課題などをデータで捉えることができるようになりました。本システムが提供する健康課題データが自治体の地域住民全体に対する事業のエビデンスに利活用されるなど、道内の自治体で健康課題データを利活用した取り組みが広がっています。また、自治体保健師が、対象者の健康・医療情報解析に時間を割くことなく、保健指導に集中できる環境づくりにも貢献しています。

 

注5:全国健康保険協会のこと。協会けんぽ北海道支部からのデータは匿名加工情報として提供されたものを集約しています。

注6:診療報酬明細書の通称で、保険医療機関が患者の傷病名と行った医療行為の詳細をその個々の請求額とともに審査支払機関を通して保険者に請求する情報のこと。

 

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6.おわりに

 AI活用はアイデア次第だといつも思います。取材のためにいろいろな事例を探したのですが、2024年度は日本企業のAI活用が板についてきたと感じました。それと同時に、使っている企業とそうでない企業の差の広がりも感じました。AIは便利なツールです。ツールは使うことでその価値の理解が深まります。2025年度も面白くて参考になる先進的事例を、できる限り多くお届けできるよう頑張ります。

 

 
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