
感性AI株式会社
- 企業・自治体等向け製品・サービス等の提供
- 社会課題解決の取り組み
【関連する技術、仕組み、概念】
- ビッグデータ
- AI
- DX
【利活用分野】
- 製造(食品)
- 製造(化学)
- ヘルスケア・医療・介護
- 運輸・交通
- その他(自動車メーカ)
【利活用の主な目的・効果】
- 生産性向上、業務改善
- サービス・業務等の品質向上・高付加価値化、顧客サービス向上
- 新規事業開拓・経営判断の迅速化・精緻化
課題(注目した社会課題や事業課題、顧客課題等)
京王電鉄と電気通信大学 坂本真樹教授(以下、坂本教授)との共同出資で設立された感性AI株式会社(以下、当社)は、五感で感じる曖昧な感性をAIで定量化する技術を商用化しており、ものづくりやウェルネスなどの分野でサービスが利用されている。消費者の多様化するニーズに対応する新たな付加価値を創造するために、また、従来の機能性や価格競争から脱却するために感性が注目されており、これに訴える商品開発に利用されている。
感性が生み出す価値は、2007年に経済産業省が発表した「感性価値創造イニシアティブ~第四の価値軸の提案」で「生活者の感性に働きかけ、感動や共感を得ることで顕在化する価値」とされている。この価値を可視化するために、人々の感性に結び付くさまざまな言語情報や画像情報の印象をAIで定量化することに挑戦し、「感性AIアナリティクス」を実用化した。
なお、このサービスは、一般社団法人日本クラウド産業協会の第18回ASPICクラウドアワード2024のAI部門において、総合グランプリを受賞している。
関連URL:https://www.aspicjapan.org/event/award/18/index.html
AI等利活用の経緯
当社は、感性をAIで可視化する研究を長年続けておられる坂本教授の感性評価システム「Hapina」をコア技術として利用している。この技術の特長の一つは、オノマトペ(擬音語・擬態語)を用いた感性の可視化である。(図1参照) ちなみに坂本教授は、オノマトペの第一人者と言われている。
京王電鉄は、少子高齢化の進行に伴い従来の事業だけでは将来的な成長が難しいと考え、地域活性化や新たな事業分野への進出を模索していた。そのような中で坂本教授との出会いをきっかけに、感性AI技術を活用した新たな事業の展開を進めた。
図1 技術の一例(出所:感性AI提供資料)
事例の概要
サービス名等、関連URL、主な導入企業名
感性AIアナリティクス
関連URL:https://www.kansei-ai.com/marketingsolution-analytics
サービスやビジネスモデルの概要
感性AIアナリティクスは、消費者の印象評価をAIで推測し、マーケティングや商品開発に役立てるサービスである。提供形態はウェブ型で、月額6万円から利用可能となっている。導入企業は食品・飲料メーカーや日用品メーカー、広告代理店などで、主にマーケティング担当者や商品開発部門が利用している。主な機能は、ネーミングやキャッチコピー、パッケージの感性評価と連想語の提示を行うことである。これで、よりコンセプトに合致した商品開発や消費者の感性に働きかける価値創造を実現している。(図2参照)
図2:感性AIアナリティクスの概要図(出所:感性AI提供資料)
ビジネスやサービスの内容詳細
感性AIアナリティクスでは、消費者の印象評価アンケートデータ、言語情報、画像情報をもとに独自のAIモデルを構築し、このAIモデルを活用して、ネーミングやキャッチコピー、パッケージのイメージを瞬時に数値化・分析する。この数値化・分析は性別、年代別に行うことが可能である。ネーミングやキャッチコピーが狙った印象で伝わるのか、複数のパッケージデザインの好意度や比較結果がどうなのか、などを分析する。また、ターゲットごとの連想語の出力により、分析結果を深掘りする。(図3参照)
当社は、このように消費者の商品に対する印象を推測することに加え、その結果を基にマーケティングや商品開発を企画段階からサポートしている。例えば、商品のコンセプト作りの段階では、テキストマイニングを用いて、消費者の自由記述欄や口コミ情報を分析し、次のものづくりに役立ている。また、顧客企業の中に眠っているデータを活用し評価の高かった過去事例と感性評価を組み合わせ、注目を集めた要素や好評をはくした要因を分析している。
図3:感性AIの主要機能(出所:感性AI提供資料)
取り扱うデータの概要とその活用法
感性AIアナリティクスでは、言語情報、画像情報、消費者からの印象評価アンケートデータを取り扱っている。ポイントは、精度が高いアンケートデータを使っていることである。
事例の特徴・工夫点
価値創造
感性AIアナリティクスの導入により、従来、数十万~数百万円のコストと半月~1か月の期間を要した消費者調査のコスト削減とスピードアップを実現した。また、感性に基づく商品開発が可能となり、従来の機能性や価格競争から脱却した新たな付加価値を創造している。さらに、意思決定のスピード向上にも貢献している。感性価値は人によってモノサシが異なるので、組織内で合意を得ることが難しい領域である。感性AIアナリティクスの利用は、このモノサシを数値化して統一することにつながる。これによって合意形成を促進できるのである。
苦労した点、解決したハードル、導入にかかった期間
顧客企業からは「この分析結果は正しいですか」という質問がでる。この疑問への回答は、感性AIの評価精度を高め、実際の消費者アンケート調査結果との相関を高めることで、顧客企業の信頼を得るしかない。感性AIの推測精度を高めるには、消費者アンケートデータの質を確保することが不可欠である。このために、対面でアンケート調査を実施し、精度の高いデータを収集してきた。満足できる相関係数を達成するまでに約2年を要した。
重要成功要因
顧客企業からのフィードバックを基にした継続的な改善が成功要因となった。このために、マーケティング担当者にサービスを無償で使ってもらい、コメントをもらった。また、このコメントに応えたエンジニアの熱意と技術力が高品質なサービス提供に寄与した。例えば、マーケティング担当者からのフィードバックを基に、連想語の機能やテキストマイニングの機能を追加している。
技術開発を必要とした事項または利活用・参考としたもの
感性AIアナリティクスの技術は、坂本研究室の研究成果をベースに、独自のモデル開発や生成AIを活用している。例えば、単語解析がベースであった研究成果を文章の解析や画像の解析に拡張した。また、顧客企業のビジネスニーズを想定し、このニーズに応えるための技術開発を行った。
今後の展開
現在抱えている課題、将来的に想定する課題
感性のマーケティングへの活用に関しては、食品・飲料、化粧品、自動車など、これに注目している業種に片寄りがある。感性はもっと広い分野で活用可能だと考えており、このため、その重要性を広く発信する必要がある。また、グローバル対応や新たなサービス開発も課題となっている。例えば、感性AIアナリティクスの多言語対応や、外国人の感性データの収集などである。
技術革新や環境整備への期待
技術革新により、感性評価の精度向上や新たなサービスの提供が期待される。特に、生成AIや大規模言語モデルの進化が感性AIアナリティクスの発展に寄与すると期待している。例えば、生成AIを用いた新たな感性評価モデルの開発や、感性データの収集方法の改善などが考えられる。
強化していきたいポイント、将来に向けて考えられる行動
感性AIアナリティクスの技術をAPI経由で提供し、他社のソリューションに組み込んでもらうことで、利用シーンを拡大していきたい。また、ビジネスマッチングを通じて他企業との連携を強化し、共創の仕組み作りを進めていきたい。
将来的に展開を検討したい分野、業種
現在の感性AIアナリティクスは五感のうち「視覚」「聴覚」を扱っているが、これを「触覚」に拡大したい。触覚に対応する素材マテリアルプラットフォームを展開し、触覚という感性ニーズに合致する素材開発など自動車メーカーや素材メーカーのDXに挑戦していきたい。また、痛みを可視化するデータを持っているので、これをウェルネス分野で活用できるのではないかと考えている。