掲載日 2025年03月05日

 

鹿島建設株式会社

【事例区分】
  • 企業・自治体等向け製品・サービス等の提供
  • 社会課題解決の取り組み

​​​​​【関連する技術、仕組み、概念】

  • ビッグデータ
  • AI
  • DX

【利活用分野】

  • 農林水産業
  • その他(森林管理支援(環境))

【利活用の主な目的】

  • サービス・業務等の品質向上・高付加価値化、顧客サービス向上
  • 新規事業開拓・経営判断の迅速化・精緻化

課題(注目した社会課題や事業課題、顧客課題等)

 鹿島建設はグループ全体で全国49か所に5500ヘクタールの山林(以下、グループ山林)を所有している。これらの山林所有は、1902年に北海道の尺別山林の取得に始まり、現在に至るまで拡大してきた。長年にわたり、これらの山林はグループ会社である株式会社かたばみと連携し、管理してきた。近年、気候変動やネイチャーポジティブへの関心の高まりから、森林への注目が社内外で高まっている。森林に関する具体的な課題やニーズとしては、以下の点が挙げられる。

・森林の詳細な情報を効率的に整理し、実効性のある管理計画の策定と実行
・環境貢献と関連するクレジットや認証取得
・適切な森林管理による防災減災、水源保全、生物多様性の保全など、森林の多様な機能の発揮

 

利活用の経緯(課題解決の鍵となる技術・アイディアの発想やビジネスパートナーとの出会い等活用に至った経緯)

 当社は、森林管理の効率化と精度向上を図るために、上空からのリモートセンシング技術やドローン技術を導入している。まず、2018年に上空からのドローンよるリモートセンシング技術を導入し、グループ山林を対象とした広範囲の森林データを取得することから始めた。これにより、森林の全体像を把握し、管理計画の基礎データを収集した。このデータは、Jクレジット申請にも活用できることがわかった。

 次に、より詳細なデータを取得するために、ドローン技術を活用した。上空ドローンに加え、林内を自律的に飛行するドローンを導入して森林の詳細なデータを収集し、解析している。木の太さや曲がり具合、森林の構造など、従来の方法では把握しにくかった情報も取得できるようになった。これらの技術を用いて、自治体や企業などの森林所有者が行う森林づくり計画の提案から森林経営、活用支援までをトータルにサポートするサービス「Forest Asset」(フォレストアセット)の提供を開始した。

注:省エネルギー設備の導入や再生可能エネルギーの利用によるCO2等の排出削減量や、適切な森林管理によるCO2等の吸収量を「クレジット」として国が認証する制度。

 

事例の概要

サービス名等、関連URL、主な導入企業名

『Forest Asset』

 関連URL:https://www.kajima.co.jp/news/press/202406/21e1-j.htm

サービスやビジネスモデルの概要

 当社の「Forest Asset」では、森林の状況を計測して詳細なデータを取得し、解析・評価するとともに森林づくり計画の策定や森林経営・活用支援など森林づくりをトータルサポートし、森林管理の効率化やカーボンクレジットの取得支援、環境保全に貢献している。(図1参照)上空ドローンと林内ドローンを使用して取得するデータは、GISデータや3次元点群データとして保存され、森林管理計画の策定に活用されている。(図2参照)

 「Forest Asset」の核となる技術は次の2つである。一つは、名古屋大学と共同で研究開発した、上空からドローンで取得した森林の点群データを機械学習により解析し、材積(木材の体積)や樹種、樹高、立木位置、胸高直径を高精度で推定する技術、もう一つは、森林内をドローンが樹々の幹や枝、葉などの障害物を検知し、回避、自律飛行しながらレーザー計測して点群データを取得し、樹高、立木位置、胸高直径・曲がりや下草の有無など多様かつ複雑なデータを高精度にデータ化する技術である。森林内のドローンの自律飛行に関しては、スウェーデンのDeep Forestry社製の高性能ドローンを国内の環境に初めて適用した。

 「Forest Asset」は、森林管理の効率化と精度向上を目指し、最新の技術を活用することで、持続可能な森林管理を実現している。このサービスに関するプレスリリースを2024年6月21日に行ったが、その後、80-90件もの問い合わせがあり、予想以上に多様なニーズが存在することが判明している。都市緑地の管理や森林経営管理制度の運用支援など、当初想定していなかった分野からの引き合いも多く、森林管理のデジタル化に対する潜在的なニーズの大きさが確認されている。

図1 Forest Assetの概要
鹿島建設HPから引用(https://www.kajima.co.jp/news/press/202406/21e1-j.htm)

図2 ドローンでの計測データの一例
鹿島建設HPから引用(https://www.kajima.co.jp/news/press/202406/21e1-j.htm)

 

取り扱うデータの概要とその活用法

 点群データ、画像、映像などのデータを取り扱っている。データ形式としては、GISデータやレーザースキャナーにより取得した3次元点群データが使用されている。

 

事例の特徴・工夫点

価値創造

 「Forest Asset」では、開発した森林計測技術の活用により、精度の高い森林データの取得と管理効率の向上を実現している。従来の方法では把握しにくかった、木の太さや曲がり具合、樹種の分布などの詳細な情報を取得できるようになった。これらのデータは、森林管理の効率化や環境保全に大きく貢献している。また、環境保全意識の向上にも寄与している。

サービス導入や事業化時に苦労した点、解決したハードル、解決に要した期間

 Deep Forestry社の技術を導入する際に、スウェーデンと日本の森林環境の違い(地形の起伏差、下草の密度等)に対応するために技術的な調整が必要であった。また、詳細なデータ取得ニーズに対応するための改良も行った。さらに、ドローンの輸入手続きや日本の電波法への適合性確保の手続き(特にBluetooth・Wi-Fi機器の技術適合認証)に時間を要するなどのハードルを乗り越える必要があった。これらの課題を解決するために、数ヶ月から1年の期間がかかった。

重要成功要因

 このプロジェクトの成功要因は、社有林をテストベッドとして活用できたことである。また、名古屋大学との共同研究やスウェーデン企業との連携により、専門知識と技術を活用することができた。これにより、森林管理の効率化と精度向上が実現した。多くの企業が森林に関心を示してくれたこと、それから森林環境譲与税の創設により森林整備の促進に関する施策に資金が投じられるようになった社会の潮流も大きい。

技術開発を必要とした事項または利活用・参考としたもの

 このプロジェクトでは、リモートセンシングやドローン技術などの最新技術を活用した。また、各種文献や専門家の意見を参考にしながら、技術開発を進めた。これにより、日本の地形に適応した森林管理支援サービスが実現できた。

 

今後の展開

現在抱えている課題、将来的に想定する課題、挑戦

 データの精度向上やサービス提供コストの削減に挑戦したい。将来的には、バリューチェーンのトレーサビリティを確立し、サプライチェーン全体の見える化を目指したい。

技術革新や環境整備への期待

 電波法の規制緩和やドローン技術の進化に期待している。

強化していきたいポイント、将来に向けて考えられる行動

 他企業との連携を強化し、ネットワークを拡大することで、森林管理の効率化と環境保全の推進を図っていきたい。また、森林の計測、評価、解析、それから計画に落とし込み森林の経営や活用を支援する一連のプロセスをさらに強化し、持続可能な森林管理を実現したい。

将来的に展開を検討したい分野、業種

 将来的には、リモートセンシングや環境コンサルティングなどの分野での展開を検討している。また、林業、環境保全、技術開発企業など、幅広い業種との連携を強化し、森林管理の効率化と環境保全の推進を図っていきたい。

 

本記事へのお問い合わせ先

鹿島建設株式会社 担当:大久保 敏宏

e-mail : okuboto@kajima.com

URL : https://www.kajima.co.jp/