掲載日 2024年09月04日

株式会社 日立製作所

【事例区分】
  • IoT等を活用した企業・自治体等向け製品・サービス等の提供
  • IoT等を活用した社会課題解決の取り組み

【関連する技術、仕組み、概念】

  • ビッグデータ
  • AI
  • DX

【利活用分野】

  • ヘルスケア・医療・介護

【利活用の主な目的・効果】

  • 生産性向上、業務改善
  • 事業の全体最適化
  • 新規事業開拓・経営判断の迅速化・精緻化

課題(注目した社会課題や事業課題、顧客課題等)

 日本にはライフステージや職種などに応じて多数の保険制度が存在し、さらに制度間の連携が十分ではない。このため、ライフステージや職種の変化により保険者の健康・医療情報が分断されてしまう、あるいは保険制度をまたがって健康・医療情報を集約しないと、都道府県単位や市町村単位での地域の健康課題を正確に把握できないなどの課題があった。これに加え、北海道では、急速な高齢化と全国平均を上回る高額な医療費が大きな課題となっている。北海道や市町村では予防・健康づくりの推進に向けた施策立案に取り組んでいるが、小規模自治体が多く、人手不足などにより、健康・医療情報の分析結果から地域の健康課題を明確化した予防・健康づくりの推進が困難な状況であった。

 こうした中、2019年に厚生労働省が提供する「地域・職域連携推進ガイドライン」が改訂され、2020年度から保険者努力支援制度が強化された。これにより、地域保険と職域保険が保有する健康・医療情報を連携・分析し、地域の実情に即した継続的な保健事業を推進することが可能となった。

 そうした中、日立製作所(以下、当社)は、2020年度から北海道が主導する「全世代型予防・健康づくり推進事業」の一環として、これまでに培った地域・職域保険のシステム構築実績やデータ分析のノウハウを活かし、北海道国民健康保険団体連合会(以下、北海道国保連)1とともに「健康・医療情報分析プラットフォーム:KDB Expander」の共同構築に3カ年計画で取り組んできた。北海道と北海道国保連が本取り組みの企画・推進を主導し、当社はシステムの設計や環境構築を担当した。このKDB Expanderは2023年4月より本格稼働しているが、これは北海道の人口の約7割にあたる若年層から高齢者まで約370万人の健康診断結果やレセプトデータ注2などの健康・医療情報を、地域保険注3と職域保険注4から横断的に集約した「地域・職域データプラットフォーム」となっている。

注1:北海道国民健康保険団体連合会は、国民健康保険の全道の保険者162団体が共同して国保事業の推進などの目的を達成するため設立した公法人 (非営利団体) 。

注2:診療報酬明細書の通称で、保険医療機関が患者の傷病名と行った医療行為の詳細をその個々の請求額とともに審査支払機関を通して保険者に請求する情報。

注3:自営業者・農林水産業者・無職者など、職域保険に加入していない人を対象とする社会保険。

注4:会社員・公務員・船員とその扶養家族を対象とする社会保険。

 

実証事例の概要

サービス名等、関連URL、主な導入企業名

『北海道民の生涯を通じた全世代型予防・健康づくりをめざし、人口の約 7 割を対象とする「健康・医療情報分析プラットフォーム」が本格稼働』
関連URL:https://www.hitachi.co.jp/New/cnews/month/2023/04/0403.html

『データ分析で健康寿命を伸ばせ 日立と北海道国保連が協創』
関連URL:https://social-innovation.hitachi/ja-jp/article/kdb-expander/

サービスやビジネスモデルの概要

 「健康・医療情報分析プラットフォーム:KDB Expander」は、国民健康保険、後期高齢者医療、介護保険、協会けんぽ注5の4つの保険制度の健康・医療情報を集約・統合。制度横断でのデータ関連付けにより、全世代に渡る健康・医療情報を統合管理し、多角的な分析が可能となり、保健事業の効率化を支援している。最大で10年分のビッグデータを集約・分析することができる。(図1)

本システムでは、専門家の視点でデータを詳細に分析し、地域の健康課題や個人の健康リスクを見える化した約50種類の分析レポートを生成する。これらのレポートは、自治体が実施する保健事業のPDCAサイクル全体をカバーするよう設計されている。

注5:全国健康保険協会のこと。協会けんぽ北海道支部からのデータは匿名加工情報として提供されたものを集約。

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図1 「健康・医療情報分析プラットフォーム:KDB Expander」の概要
(出所:日立製作所提供資料)

 図2にあるように「健康レポート」注6は、当社独自のAIが、大規模な健診結果データやレセプトデータから生活習慣病の発症傾向を高精度に分析し、個人の健康状態に応じた健康改善アドバイスなどをまとめたもの。AIは生活習慣病の種類、年代、性別ごとに予測モデルを構築しており、対象者一人ひとりのライフステージに応じたきめ細かいリスク予測とアドバイスを行う。さらに、医師や保健師の協力を得て、現場の指導感覚を反映した分かりやすいアドバイスを提案している。「健康レポート」の活用により、保健師の分析業務負荷を軽減しつつ、被保険者への適切な保健指導に寄与している。

注6:本レポートは、国民健康保険の被保険者を対象としたもの。

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図2 健康レポートのイメージ
(出所:日立製作所提供資料)

 

取り扱うデータの概要とその活用法

KDB Expanderの健康・医療情報のデータ取扱範囲は次の通りとなっている。

 ・国民健康保険の特定健診データ・レセプトデータ
 ・後期高齢者の特定健診データ・レセプトデータ
 ・介護保険の認定・給付実績データ
 ・協会けんぽの特定健診データ・レセプトデータ

上記の4保険制度の健康・医療情報を集約して、若年層から高齢者までの健康・医療情報を網羅している。

 

事例の特徴・工夫点

価値創造

 本システムで、協会けんぽデータと国民健康保険データを集約したことで、働き盛り世代の健康・医療情報の網羅性が飛躍的に向上し、地域全体の健康課題などをデータで捉えることができるようになった。本システムが提供する健康課題データは、自治体の地域住民全体に対する事業のエビデンスに利活用されるなど、道内の自治体で健康課題データを利活用した取り組みが広がっている。

 また、自治体保健師の保健指導支援を目的として、健康リスクが高い対象者を、特定健診データやレセプトデータから自動で抽出し、タイムリーに自治体へ提供している。対象者ごとに健診結果や、生活習慣病の通院・服薬状況の解析結果も提供できるようになっている。自治体保健師が、対象者の健康・医療情報解析に時間を割くことなく、保健指導に集中できる環境づくりに貢献している。

苦労した点、解決したハードル、導入にかかった期間

 本システムは2023年4月に本格稼働を開始したが、システム構築を開始してから本格稼働までに約3年を要している。本システムのユーザである市町村は、道内に179存在しており、当社のみでは市町村の理解を得つつ、本システムの方向性をまとめあげるのは困難であった。北海道と北海道国保連が、道内179市町村の取りまとめ役を担い、積極的に道内179市町村と調整いただいたことにより、市町村の理解を得たうえで、本格稼働を迎えることができた。

重要成功要因

 当社と北海道・北海道国保連が自治体の実際の業務プロセスと課題を理解した上で、自治体から具体的な意見や要望を聞き取り、一つ一つ反映させながら地域の関係者のノウハウを取り入れ、特定健診データやレセプトデータから必要なデータを自動解析・出力する機能を盛り込んだ。例えば、従来は受診勧奨者を割り出すのに、職員がレセプトを一枚一枚見て割り出していた。このようなプロセスを本システムで自動化した。また、操作が複雑だと利用しづらいので、条件を設定してデータを抽出し、これを本システムで自動解析し、結果のみを提示できるようにしている。こうした自治体のニーズを取り入れながら共同でシステムを構築したことが重要な成功要因となっている。

技術開発を必要とした事項または利活用・参考としたもの

 株式会社日立社会情報サービスのデータヘルス支援ソリューション「スマートアナリシス/NI」のデータ集約技術を活用している。

 

 

今後の展開

現在抱えている課題、将来的に想定する課題、挑戦

 国の保健事業方針が毎年変わるため、制度変更に合わせてシステムの機能追加・見直しが継続的に必要である。例えば、子どもの医療費を抑えるという国の方針に対応したデータの自動解析・出力機能が必要になるなどである。今後も、国のニーズ、地域のニーズをとらえながら、持続的なプラットフォームの成長を実現していきたい。

強化していきたいポイント、将来に向けて考えられる行動

 国の新たな施策に柔軟に対応できるように適宜、新規の帳票や分析機能を追加・強化していきたい。ユーザーインタフェースの改善や機能の追加を行い、システムを最新状態で維持し、現場で使い続けられるシステムにしていきたい。この実現のためにデータ解析の自動化を一層推し進め、データ解析に要する時間を効率化したい。これによって、自治体職員が住民に対する保健指導などの本業に専念できる環境を整備していきたい。

将来的に展開を検討したい分野、業種

 全国の都道府県で同じような課題を抱えている自治体が数多く存在する。同じような取り組みができるように本システムを横展開し、全国に広げていきたい。

 

本記事へのお問い合わせ先

株式会社日立製作所 公共システム営業統括本部 カスタマ・リレーションズセンタ

URL :   https://www.hitachi.co.jp/Div/jkk/inquiry/inquiry.html