掲載日 2025年01月10日

株式会社みんがく

【事例区分】
  • AI等を活用した社会課題解決の取り組み
  • AI等を活用した実証実験等の取り組み
  • その他(生成AIを活用した次世代教育の実現)

【関連する技術、仕組み、概念】

  • ビッグデータ
  • AI
  • DX

【AI等の利活用分野】

  • その他(教育)

【利活用の主な目的・効果】

  • 生産性向上、業務改善
  • サービス・業務等の品質向上・高付加価値化、顧客サービス向上
  • 新規事業開拓・経営判断の迅速化・精緻化

課題(注目した社会課題や事業課題、顧客課題等)

 教育現場にはさまざまな課題がある。熱意があり高い理想を掲げる先生ほど、生徒一人ひとりに寄り添う「個別最適な学び」を実現したいと考えている。しかし、さまざまな要因によりその実現は難しい。また、先生方は様々な校務に追われており、教育現場のブラック化が進行している。

 一方で、生徒の多様化が進んでおり、学力の高低差が広がっている。また、普段接するメディアが、均一性が高い情報を提供するテレビから個々が好きな情報を選択するYouTubeへと変化しており、生徒の興味、やりたいことが多様化しているが、教育はこの多様化に対応できていない。

 このような教育現場の課題解決を考えていたところに生成AIが登場し、これによって上記の課題が解決できるのではと考えた。

生成AI利活用の経緯

 2022年に生成AIと出会い、教育現場を大きく変えることができると気付いた。その後、インフルエンサーを含め生成AIに詳しい方々にコンタクトして生成AIの可能性を学んだ。その結果、生成AIの可能性を確信し、「スクールAI」サービスの開発に挑戦した。

 

事例の概要

サービス名等、関連URL、主な導入企業名

『スクールAI』

関連URL:https://school-ai.mingaku.net/

サービスやビジネスモデルの概要

 スクールAIは、教育現場に特化した生成AI活用のためのプラットフォームである。セキュリティに強いMicrosoft社のAzure環境を活用している。これに加え、RAG注1を利用することにより、生成する情報の品質を向上させている。生成AIを簡単に利用できるように、校務用のテンプレート注2と授業用のテンプレートを用意している(図1参照)。テンプレートを選んで生成AIを利用すると回答を得ることができる。もちろん、テンプレートの文章を修正することにより、個別の要望にも対応することが可能である。

 スクールAIは、教育現場に特化した生成AI活用のためのプラットフォームである。セキュリティに強いMicrosoft社のAzure環境を活用している。これに加え、RAG注1を利用することにより、生成する情報の品質を向上させている。生成AIを簡単に利用できるように、校務用のテンプレート注2と授業用のテンプレートを用意している(図1参照)。テンプレートを選んで生成AIを利用すると回答を得ることができる。もちろん、テンプレートの文章を修正することにより、個別の要望にも対応することが可能である。

 

図1:スクールAIの授業用テンプレート例の一部
(出所:みんがく提供資料)

 また、新たなテンプレートの作成により、簡単に教材アプリをつくることができる。例えば、生徒の英語文法力を強化するために英作文の添削アプリをつくる、効率的な小論文指導をするために小論文対策アプリをつくるなどである。ここでは、小論文対策アプリの概要を説明する。まず、先生が生成AIに対する指示文(プロンプト)を作成する(図2(a)参照)。

図2(a) 小論文アプリの概要-まず先生が指示文(プロンプト)を作成する
(出所:みんがく提供資料、図2(b)(c)も同様)
https://school-ai.mingaku.net/essay-preparation/

 その次に生徒が小論文をアプリ上で作成する(図2(b))。生徒が作成した小論文は生成AIから見ると、「#前提条件」で指示された{input1}に該当する。なお、小論文のテーマは{input3}で示されるが、「日本の少子化について」。

 

図2(b) 小論文アプリの概要-次に生徒が小論文を入力する

 入力された小論文に対して、生成AIはプロンプトの指示に従って添削する(図2(c))。

図2(c)  小論文アプリの概要-生成AIの添削結果

 

 先生は指示文となるテンプレートを作成するが、その際にアプリを作成している、あるいはプログラムを作成しているという意識はないと思われる。スクールAIに対して指示を与えるだけで、意図した結果が得られるからである。生成AIの効果は絶大である。個々の小論文を人が添削すると膨大な時間が必要であるが、生成AIは直ちに添削結果を回答することができる。先生の負担を大幅に減らしながら個別最適な学びを実現できるのである。

 スクールAIの提供価格は1アカウント当たり月額990円(税込)である。学校や教育委員会向けには、別途特別プランを用意している。2024年11月現在で、学校を中心に導入校は100校を超えており、1万人以上の生徒がスクールAIを使っている。

 なお、みんがくは、教材開発などコンテンツそのものの開発は視野に入れていない。むしろ、コンテンツを作る企業などと連携する方向である。昔から教材開発を行っている企業などは、良質で大量の教材を紙ベースで持っていることが多い。スクールAIでは、これをPDF化すると信頼度の高い外部情報として利用することができる。

注1:Retrieval-Augmented Generationの略語。RAGは、検索(Retrieval)機能を拡張(Augmented)し、質の高い回答を生成(Generation)できるようする技術である。LLMのテキスト生成の際に、信頼度の高い外部情報をデータベースから検索し、その情報を基にテキストを生成する。 このプロセスにより、エビデンスが明確でより精度が高い内容のテキスト生成が可能になる。

注2:生成AIを活用して文書などを生成するための雛形となる文書のこと。この文書を指示文(プロンプト)の雛型として使う。

 

ビジネスやサービスの内容詳細

 教育現場では、次の3点が原因となって生成AIが使えないと言われることが多い。

   ① ログ管理ができず、ハルシネーション(幻覚)が心配
   ② 教育現場での使い方が分からない
   ③ アカウント管理が大変

 このため、スクールAIでは、

   ① 生徒管理システムと連携したログ閲覧など教育現場利用に最適化
   ② ボタン一つで生徒アカウントをセキュアに(個人情報を入れずに)発行できる手軽さ 
   ③ 現場事例による改善されたUI(ユーザインタフェース)、UX(ユーザエクスペリエンス)と豊富な
    テンプレート機能

により、これらの懸念を払拭している。

 また、先生や生徒が安心して使えるように、

   ・  セキュリティ面に配慮した環境を実現する
   ・  入力データがAIの学習に使われないようにする
   ・  学校関係者が現時点での活用の適否を判断する際の参考資料として文部科学省が2023年7月4日に公表
    した「初等中等教育段階における生成 AI の利用に関する暫定的なガイドライン」を踏まえた設計にする
   ・  コンテンツ・フィルタリング機能の強化により教育的観点からの配慮を徹底する

などの対策を行っている。

 

 

取り扱うデータの概要とその活用法

 大量に生成される対話ログデータ:先生方の要望に基づき、さまざまな機能を開発している。例えば対話ログを生成AIで分析して生徒の学習の変化を確認する機能など。

 

事例の特徴・工夫点

生成AIによる価値創造

 スクールAIの導入は塾主導で進むと考えていたが、予想とは逆に学校で進んでいる。学校は、今までの画一的に教える教育から対話的な学びへの転換に挑戦しているが、この挑戦にスクールAIが向いているからではないかと考えている。

 また、生成AIの精度を確保するために、自社である程度のコンテンツを持っていることが必要ではないかと考えていたが、その必要はなかった。生成AI自体の精度の高まりが予想より早かったからである。さらに、画像の取り扱いが可能になるなど、扱えるデータの種類が拡大する速度も予想より早かった。

生成AI導入や事業化時に苦労した点、解決したハードル、解決に要した期間

 今でも苦労しているのが資金調達。公教育の場合、予算化に1年以上の時間がかかる。1年間のトライアルを実施して、予算化して、それからやっと導入という手順になる。その間の開発費をどうまかなうかが大きな課題。良いスポンサーがいるとありがたい。

重要成功要因

 研修会などを通して先生方の声を拾えていること。スクールAIはプロンプト作成を通じて先生方が開発者になる。自分でアプリを作成すると生成AIに対する理解が深まり、いろいろな要望が出てくる。要望の中には既存の機能では対応できないものがある。例えば授業の中でどのような対話が生徒と生成AIの間でなされたのか、その振り返りを授業の間に分析してフォローアップしたいなどの要望が出てくる。この要望を実現するために一緒に考えていく中でスクールAIの機能が拡充している。

技術開発を必要とした事項または利活用・参考としたもの

 スクールAIを開発する際に参考にしたのはサイボウズのキントーン注3。プログラミングの知識がなくても、自分が作成したいアプリが作れるようにしたかった。これをプロンプトの工夫で実現したのがスクールAIである。

注3:プログラミングの知識がなくてもノーコードで、業務のシステム化や効率化を実現するアプリがつくれるクラウドサービス。

 

今後の展開

現在抱えている課題、将来的に想定する課題、挑戦

 資金調達が大きな課題である。それ以外にも教育でAIを使うリスクを強調する人がいるので、より多くの人を巻き込み教育×AIを考える必要がある。このため、一般社団法人教育AI活用協会を設立し、教育×AIの課題解決に取り組んでいる。

技術革新や環境整備への期待

 法制度がAI活用に追いついていない。例えば、企業の方針によって、小学生が使える生成AIとそうでない生成AIがある。「これは大丈夫です」というコンセンサスが早く社会の中で生まれることを期待したい。また、技術面では生成AIの正確性が一層向上することを期待したい。

強化していきたいポイント、将来に向けて考えられる行動

 教材コンテンツを持っている企業との協力関係を深めていきたい。彼らの多くは、ウェブ教材への取り組みに苦労している。スクールAIを使えばウェブ教材を開発しなくても、さまざまな対話ログを通じて教材のデジタル化に貢献できる。例えば、紙媒体ではデータがとれないので、生徒の理解が不十分な問題が分からないが、スクールAIを使えばこれを可視化することができる。

また、これからは情報セキュリティがますます重要になるので、堅牢なシステムを構築する技術を持っている企業との連携も深めていきたい。

将来的に展開を検討したい分野、業種

 海外との連携を強化したい。教育×AIについては、韓国やシンガポールが進んでいるので、彼らと連携することでスクールAIを進化させたい。

 

本記事へのお問い合わせ先

株式会社みんがく

e-mail : info@mingaku.net

URL :   https://mingaku.net/