本メルマガは、IoT価値創造推進チームのリーダーである稲田修一が取材を行ったIoT導入事例の中から、特に参考となると感じた事業や取り組みを分かりやすくお伝えする見聞記です。

 2021年度紹介事例の統括、3回目の今回がラストとなります。

 

ここに注目!IoT先進企業訪問記 特別編(3)

人や社会にやさしい誰でも使えるIoT-2021年度のIoT導入事例の概要(その3)

1.    徐々に進展しているIoTやAIの活用

 IoTやAIの導入は徐々に進展しています。総務省の2020年通信利用動向調査注1によると、デジタルデータの収集・解析などのためにIoT・AIなどのシステムやサービスを導入している企業の割合は12.4%、導入予定がある企業を加えると22.2%です。

 導入しているシステムやサービスの構成機器をみると、「監視カメラ」が36.0%と最も多く、「物理セキュリティ機器」が27.9%、「非接触型ICカード」が23.1%、「センサー(温度センサー、圧力センサーなど)」が20.7%と続きます。導入効果については、導入した企業の19.5%は非常に効果があった、61.5%がある程度効果があったと回答しています。

 システムやサービスがある程度普及すると、提供者側、利用者側の双方にノウハウが蓄積され、使いやすいものが増えてきます。今回は2021年度のIoT導入事例の概要説明の最終回ですが、簡単に使えることをアピールしている、あるいはIoTの存在を感じさせないなど、人や社会にやさしい誰でも使える事例をコンパクトに紹介したいと思います。

注1:令和2年通信利用動向調査報告書(企業編)「第7章 データの収集・利活用」,2021年6月18日. https://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/statistics/statistics05b2.html

 

2.簡単に使える監視カメラ

 導入しているシステムやサービスの構成機器のトップは監視カメラです。IoT導入事例においても、工場の見える化のために監視カメラを使っている事例があります。テクノア社のA-Eyeカメラです。カメラで撮影された画像を元にAI(人工知能)が生産設備の稼働状況を判断し、クラウドに情報を蓄積する簡単に使えて安価なIoTシステムです。

 生産設備の操作画面をカメラで見て、「STRT」や「HOLD」という文字からAIが稼働状況を判別します。また、積層信号灯(パトライト)の場合は、点灯状態の画像からAIが稼働状況を判別します。非常に簡単な検出方法なので、機械や設備の新旧やメーカーを問わずに稼働状況を把握できるのが特徴です。(図1参照)

 このようなラフな稼働状況の「見える化」でも効果があるそうです。「稼働率の低い時間帯」や「機械が停止している時間帯」の存在などが明らかになると、問題がある工程の抽出やその改善方法、稼働率改善に関し社員が考え始め、意見や提案が上がるようになります。社員一人ひとりが稼働率を意識するようになった結果、機械稼働率があがり生産性が向上したとのことです。

 

図1:A-Eyeカメラのシステム構成と特徴
(出所:テクノアホームページ  https://www.techs-s.com/product/a-eye-camera

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3.簡単に使えるプラットフォーム

 簡単に使えるプラットフォームの例としては、GENECH DATA SOLUTIONS社のIoT Station V2があります。IoT活用には、データ収集用のデバイスに加えて、収集したデータを伝送するネットワークやデータを蓄積して可視化や分析を行うソフトウェアを準備する必要があります。デバイス開発には自信があるけれど、ソフトウェア開発やクラウド利用のための開発は苦手という企業も結構あります。

 IoT Station V2は、ソフトウェア開発やクラウド利用のための開発を省き、IoTを手軽に利用できるようにするIoTプラットフォームです。センサーなどのデバイスと柔軟に組み合わせて使うことができます。対応するデバイスは、水位・雨量監視システム、熱中症指標計、二酸化炭素センサーなど、さまざまなものが準備されています。

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4.簡単に使えることにこだわったIoTシステム

 スマートホンの操作が苦手な高齢者を前提に、簡単に使えることにこだわったIoTシステムを開発した事例もあります。リブト社の「健康まちなかウォークラリー」です。ウォークラリーに参加している高齢者では、スマートホンの利用率は3割程度、その中で、ウェブアクセスによりウォークラリーの記録を自分で確かめることができる人は、3分の1程度だそうです。

 このため、実に単純なシステムを開発しています。固有の識別データを発信するBLEデバイス注2やNFC機能注3付きの機器を事前に登録し、そのデバイスを目的地に置いてある到着記録レシーバーにかざすだけです。レシーバーが識別データを読み取り、その情報が専用のデータベースに外出の情報として記録され、閲覧サイトでそれを見ることができるというものです(図2参照)。いわばスタンプラリーの電子版です。
 

図2:「健康まちなかウォークラリー」システムの概要(リブト提供資料)

 到着記録レシーバーは、公園、スーパー・薬局・金融機関などの店舗、保険福祉センターなどの公共施設に設置してあります。外出回数などの記録は、サイトのマイページで閲覧できます。しかし、自力で自分のデータを見ることが困難な高齢者がいるので、ブックマークの登録を本人に代わって行ってあげたり、知り合いのスマートホンや地域包括支援センターで記録を見るようアドバイスしたりしています。

注2:BLEは、Bluetooth Low Energyの略。省電力かつ低コストで近距離の通信を行うことを目的に開発されたデバイスで、パソコン及びその周辺機器、スマホ、スマートウォッチなど多くのIT機器に搭載されている。
注3:NFC は、Near Field Communicationの略。10cm程度の近接距離で通信を行うことができる。ICカードなどに搭載され、電子マネーや入退室管理など多くの用途で使われている。

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5.社会にやさしいIoT

 人にやさしいだけでなく、社会にもやさしいIoTの事例があります。フォーステック社のスマートゴミ箱です。同社は、これを普及させることで、街の美化や海洋のプラスチックゴミの減少をめざしています。

 わが国は、街中にゴミ箱が少ない国です。地下鉄サリン事件を契機に、ゴミ箱がテロに使われる可能性があるとの理由で首都圏を中心に街中からゴミ箱が撤去されたことが一因ですが、それ以外にも設置することで負担が発生するからです。商店街などが公道などにゴミ箱を設置すると、ゴミ箱の設置コストだけでなくゴミ回収コストも負担しなければならないのです。

 同社はこのゴミ回収コスト負担を減らし、街中にゴミ箱を増やすために独自のビジネスモデルを考案しています。世界ではあまり例がない、ゴミ箱に広告を導入するアイデアです(写真参照)。ゴミは人の集まるところで発生します。人の集まるところは広告効果の高いところです。もちろん、広告導入は行政機関との調整を経て実現しています。
 

写真:広告付のゴミ箱の例(設置主:原宿表参道欅会、協賛:森永製菓)
(フォーステック提供)

 同社のゴミ箱は、ゴミ回収の効率化を実現するためにIoT機能を有しています。ゴミの堆積状況をリアルタイムに確認し、クラウドに蓄積したデータを活用し見える化することができるのです。そして、ゴミ箱が満杯になる前にアラートで知らせてくれます。その他にも、箱の上部に設置されているソーラーパネルで発電したエネルギーを使って溜まったゴミを自動圧縮し、通常のゴミ箱に比べおよそ5倍の容量を持たせるなど優れた機能を備えいます。

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6.おわりに
 今まで横断的にまとめるという切り口で、IoT導入事例紹介を眺めたことはありませんでした。2021年度の全部の事例をみて気付いたのは、まずはDXの事例が増えていること、それから共創が当たり前になっていることです。さらに、IoT利用の裾野を広げる誰でも使えるIoT、あるいは課題解決という本来の目的が主体となりIoTの存在を意識させない事例が増えています。

 今回とりあげたIoT事例、それから2021年度の他の事例の多くに共通しているのは、ユーザである製造業やサービス業、あるいは地域や社会の課題に向き合い、その解決のためのソリューションを開発・提供していることです。この「IoT導入事例紹介」の掲載を開始してしばらくの間は「こんなことができます」という技術主導のソリューションがままあったのですが、トレンドが課題解決の方向に変わってきています。

 その要因としては、社会システムの一翼を担うツールとしてさまざまな領域でIoT活用が進展する中で、必要とされる機能やデータが次第に明確になり、それらの有効活用という側面が重視されるようになったことがあげられます。また、SDGs注4やカーボンニュートラルなど、人類の存在に影響する社会価値を強く意識するように私達のマインドがリセットされたことも大きいでしょう。2022年度も引き続きトレンドを踏まえた、面白い、そして先進的なIoT導入事例の紹介を続けていきたいと思います。

注4:Sustainable Development Goals(持続可能な開発目標)の略語。
 

 

 
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