IoT導入のきっかけ、背景
当社は、情報技術【IT文明】の進歩を先取りして『人々がより人間らしい、ゆとりと生きがいがある生活』を実現するため、独創的なソフトウェアと付帯サービス【ソフト文化】の開発と提供を通じて社会貢献を目指している。本記事では、当社が開発したAI画像認識を利用した「工場の見える化」を実現するシステム、A-Eyeカメラを導入いただいたお客様の事例を紹介する。
冷間鍛造注部品などの金型製造を設計から制作まで一貫して行っている枚岡合金工具株式会社様は、全社員が参加する経営計画作成研修を行った際、社員から「機械稼働状況を可視化し、稼働率を把握することで生産性を向上したい。機械の停止時間を把握し、その時間に機械を動かせば、より多くの製品を生産でき、生産性が向上するのではないか」という提案を受けた。
会社としても機械の稼働状況が見えないことは好ましくない。そこで、情報の3S活動(整理・整頓・清掃)として工場の「見える化」に取り組むことを決定し、そのためのデータ収集・分析システムとしてA-Eyeカメラを採用いただいた。
注:冷間鍛造とは、金属材料に熱を加えず常温のまま金型を用いて変形させながら成形する加工方法のこと。
IoT事例の概要
サービス名等、関連URL、主な導入企業名
サービス名:A-Eyeカメラ
関連URL:https://www.techs-s.com/product/a-eye-camera
サービスやビジネスモデルの概要
サービス内容:
・AI画像認識を利用した「工場の見える化」を実現するシステム
・稼働データ分析によるボトルネック工程 の特定
提供形態:ソフトウェア
価格:初期費用75万円+カメラ1台当たり月額2,000円のサブスクリプション
導入状況:導入開始して約1年経過
内容詳細
□仕組み
A-Eyeカメラは、ネットワークカメラで撮影された画像を元にAI(人工知能)が生産設備の稼働状況を判断し、クラウドに情報を蓄積するIoTシステムである。A-Eyeカメラを導入することによって、例えば、生産設備の操作画面や積層信号灯(パトライト)の点灯状態を撮ったカメラ画像から稼働状況をAIで判別することが可能となる。画像による判別のため、初めに学習データを与えることで機械や設備のメーカーや年代に関係なく稼働状況を把握することができる。(図-1、図-2を参照)
カメラ画像の識別対象も柔軟に設定できる。枚岡合金工具様の事例においては、積層信号灯がない装置に対して、作業者の有無などから機械の稼働状況データを収集した。このように識別対象物を設定し、取得した画像からAIの学習を行うことによって、機械にあわせた柔軟な稼働状況の識別が実現できる。(写真-1を参照)
図-1 操作画面の画像認識による稼働状況の識別
図-2 積層信号灯の画像認識による稼働状況の識別
写真-1 作業者の有無をAIで認識することによる機械の稼働状況の識別
□提供価値
蓄積された情報をリアルタイムに集計・分析し、リアルタイム「あんどん」と呼んでいる表示や稼働状況のグラフによって、全社員で稼働状況を共有する。これによって「工場の見える化」を推進し、生産性向上に寄与する。また、これらの情報はクラウド上で管理されているため、どこにいてもパソコン・タブレット・スマートフォンから確認することができる。(図-3、図-4を参照)
図-3 リアルタイム「あんどん」による製造装置の稼働状況の表示
図-4 機械稼働率のグラフ表示
概要図
A-Eyeカメラの全体構成と特徴は以下の通りである。(図-5を参照)
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AIによる画像認識を使用することによって、機器の新旧・メーカーを問わず対応が可能。
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カメラは市販のWebカメラが使用できるため低コストで導入が可能。
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センサーによる稼働データの収集では、設置後に環境が変化することによってデータ収集に支障をきたす可能性があるが、A-Eyeカメラは設置後も学習し続けることで環境の変化にも柔軟に対応し、正確なデータを取り続けることが可能。
図-5 A-Eyeカメラのシステム構成と特徴
取り扱うデータの概要とその活用法
1. ネットワークカメラの撮影画像(積層灯、CNCの文字盤、人 等)
データ形式:画像
活用法:画像を基にAIが設備の稼働状況を判別
2. AIが判別した設備の稼働データ
データ形式:テキストファイル
データ内容:時間、稼働クラス(稼働・停止・エラー等)等
活用法:稼働データがリアルタイムに「あんどん」やグラフに表示される
3.生産管理システム内の仕掛データ
データ内容:生産計画、工程指示書
活用法:ボトルネック工程の分析
事業化への道のり
苦労した点、解決したハードル、導入にかかった期間
□苦労した点
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機械に積層信号灯が付いておらず、稼働状況を何で判別するかに苦労した。
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当初は稼働状況を機械の画面表示で判別しようとしたが、カメラの設置場所が難しく断念した。また、機械にマグネットを置き、その位置を人が動かすことで、稼働状況を取ろうとしたが、マグネットを動かすことを忘れることが多く、その方法も断念した。
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A-Eyeカメラのデータだけでは、どの工程がボトルネックとなっているのかが判別できなかった。
□解決方法
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稼働状況を判別する対象を変更することで解決した。具体的には、作業者の有無や回転するワイヤーリレーなどをA-Eyeカメラの識別対象物とした。(写真-1~3を参照)
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識別対象を見直すことによって、監視のために人がマグネットを操作する必要も無くなり、稼働実績データの自動収集が可能になった。
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A-Eyeカメラを設備の稼働率の収集だけでなく、生産管理システムの設備毎の仕掛数の分析にも使用した。稼働率と仕掛数の推移を可視化し、ボトルネックとなっている工程を分析した結果、放電加工機がボトルネックとなっていることが判明した。通常なら、放電加工機の追加購入を検討するところだが、より詳細に検討した結果、放電加工より旋盤で加工する方が短時間で済む工程が相当数あることが分かった。そのため、放電加工機でなく旋盤を一台新たに購入されることとなった。ボトルネックとなる工程を分析したことで、製造プロセスを一部変更し、新たに設備投資をするという経営戦略に及ぶレベルの改善を支援することが出来た。(図-6を参照)
写真-2 ワイヤーリレーの回転検知による稼働状況の識別(ワイヤーカット)
写真-3 液面の高さによる稼働状況の識別(放電加工機)
図-6 ボトルネック工程の分析資料
□導入にかかった期間
カメラの設置:1日
仮稼働開始:1週間
本稼働開始:1ヶ月
※開始時のカメラ台数:3台
技術開発を必要とした事項または利活用・参考としたもの
お客様における購入物
・ネットワークカメラ
・LANケーブル
・専用PC
ソフト
・エクセル(稼働データ分析に使用)
今後の展開
現在抱えている課題、将来的に想定する課題
製造現場ではカメラで機械の稼働率を取得しようという考えがなく、A-Eyeカメラの運用は難しいのではないかと思っていた。しかし、枚岡合金工具様では、導入後「あんどん」機能で機械の稼働状況が分かるようになり、現場の社員から稼働率改善に関する意見や提案が上がるようになった。社員が、それぞれの立場から機械の稼働率について考える、良いきっかけになったと感じている。
強化していきたいポイント、将来に向けて考えられる行動
今回、枚岡合金工具様では、稼働率を「見える化」したことで、社員の意識が変わり、「今まで協力会社へ依頼していた加工を社内で行うために、機械稼働率を上げていこう」という意識が芽生え、内製化率、利益率の向上につながっている。引き続き、稼働状況分析からの改善支援を続け、全社員のさらなる意識の変化・生産性向上を目指していきたい。
将来的に展開を検討したい分野、業種
枚岡合金工具様では、2021年7月に、型彫放電加工機を2台購入し、工場を増強する予定。この機械もA-Eyeカメラを設置して、機械稼働率を測定する予定である。設備導入による、さらなる内製化と増収増益を目指し、継続して「見える化」とデータの分析を行っていく予定である。
本記事へのお問い合わせ先
株式会社テクノアAI・IoT事業部 西村 恭範
e-mail : nishimura@technoa.co.jp