本メルマガは、IoT価値創造推進チームのリーダーである稲田修一が取材を行ったIoT導入事例の中から、特に参考となると感じた事業や取り組みを分かりやすくお伝えする見聞記です。

2021年度の紹介事例、統括記事の2回目です。

 

ここに注目!IoT先進企業訪問記 (65) 特別編(2)

日常的になった他社・他組織との共創-2021年度のIoT導入事例の概要(その2)

1.    日常的になった他社・他組織との共創

 今回は他社・他組織との共創事例を紹介します。ユーザ課題の解決のためのユーザとICT企業の共創、実用化に不可欠なデータや技術を求めた共創、アイデアを実証するための共創、大きな社会課題を解決するための戦略的共創など、さまざまなパターンがあります。これらの事例をコンパクトに紹介したいと思います。

2.ユーザとICT企業の共創

 雑談、それも他社の担当者との雑談は重要です。YEデジタルのスマートバス停開発のきっかけがそうでした。西鉄の担当者から「バス停の時刻表の張り替え作業が大変で困っているのだけれど、ICTを駆使してこれを解消できないか」という話が雑談の中で出たのです。西鉄グループは福岡県内で約1万基のバス停を管理しており、ダイヤ改正やイベントに伴うダイヤ変更の際に、深夜から早朝にかけて人海戦術でこれに対応していたのです。

 早速、西鉄、西鉄バス北九州、西鉄エム・テックとYEデジタルの4社でワーキングチームを結成し、検討が始まりました。その結果、バス停に掲載している紙の時刻表、路線図やお知らせをディスプレイ表示に置き換え、クラウドから一括配信するスマートバス停を実現しました(図1参照)。スマートバス停は乗客からも好評です。YEデジタルは、スマートバス停普及のボトルネックである導入費用の問題を緩和するため、さまざまな取り組みを行っています。景観条例の変更による広告導入、助成金活用、オープンイノベーションを活用したスマートバス停の有効利用策の検討などです。

図1:スマートバス停のディスプレイ表示の例
(現在時刻の時間帯のバス時刻を拡大表示することが可能)(YEデジタル提供)

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3.実用化に不可欠なデータや技術を求めた共創

 旭化成ホームズとその親会社の旭化成が協力相手に選んだのは、J-RISQ注1というシステムを持っている防災科学技術研究所でした。J-RISQでは250 m メッシュごと、あるいは市区町村ごとに地震でこわれた可能性がある建物の数をリアルタイムに推定できます。しかしながら、個々の建物の被害予測には踏み込んでいません。個々の建物の被害推定に必要なデータを持っていないからです。

ここにビジネス機会がありました。旭化成ホームズが持っている建物の種類別の地震動に対する応答のシミュレーションデータと同研究所のきめ細かな地震動観測網ときめ細かな地盤データを組み合わせれば、同社の建てた建物の地震被害が推定できるからです。地震発生時に個別の建物の被害状況を迅速に推定する同社のIoT防災情報システム「ロングライフイージス(LONGLIFE AEDGiS注2)」は、まさにこの気付きから生まれました。

 ロングライフイージスは、同社の建てた建物被害レベルや液状化発生状況を地震発生後10分から2時間程度の迅速さで推定し、地震被害にあった顧客支援などのために活用される予定です。

注1:J-RISQ:Japan Real-tome Information System for earthQuake(リアルタイム地震被害推定システム)の略。
注2:AEDGiS  : Asahikasei Earthquake and other disaster Damages Grasp information Systemの略。イージス(Aegis)は、ギリシア神話に登場する神の防具「アイギス」の英語読み。

 一方、地方自治体の中に、地元にない技術を利用するために共創を活用した事例があります。伊那市です。同市は、市街から離れた中山間地域の買い物困難者を支援するため、食料品などの日用品をケーブルテレビのリモコンなどで手軽に注文し、ドローンによって当日配送を実施する「ゆうあいマーケット」サービスを提供しています。

 サービスの実用化に必要な大部分のリソースは地元企業の持っている能力を上手に組み合わせていますが、最先端のドローン運行管理用のスマートドローンプラットフォームはKDDIのものを使っています。でも、KDDIのプラットフォームを使いこなす人材については、地元に一般社団法人を設立して育成し、地元のリソースを増やしています。

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4.アイデアを実証するための共創

 アイデアを求め、実証実験を推進するためにコンソーシアムを設立し、共創を促進した事例があります。東日本旅客鉄道株式会社(JR東日本)が設立した「モビリティ変革コンソーシアム」です。単独では解決が難しい社会課題の解決や次世代の公共交通のあり方については、オープンな場で議論し、参加者が得意領域を持ち寄って新たな価値創造につなげるオープンイノベーションの手法が有効であると考え、組織を立ち上げたのです。

 同コンソーシアムは、サイネージを含むロボットでこれまで人が行っていた案内を代替する「案内AIみんなで育てようプロジェクト」(図2、図3参照)など、活動の中で出されたアイデアをベースにさまざまな実証実験を行っています。実証すべきテーマと目標を設定し、実際に使用が想定される場での実証実験で課題を洗い出し、知見を共有します。そして、短いサイクルでより実際的なテーマと目標を再設定し、次の実証実験につなげています。イノベーションの王道を行くやり方を実行しているのです。

図2:案内AI(非接触タイプ)の実証実験(モビリティ変革コンソーシアム提供)

 

図3:案内AI(非対面タイプ)の実証実験(モビリティ変革コンソーシアム提供)

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5.大きな社会課題を解決するための戦略的共創

 群馬県前橋市は、多くの地方都市が抱えている課題を5Gの活用で解決し、その解決策を他でも活用するためにさまざまな取り組みを行っています。課題の一つである交通インフラの存続に関しては、管制室からの遠隔操縦・遠隔監視による遠隔型自動運転バスの社会実装に取り組んでいます。将来は管制室から一人で複数台のバスを運行し、ドライバー不足や赤字になりやすいバス路線の維持コストの問題を解決し、持続的な地域交通を実現することが狙いです。

 この遠隔型自動運転バスの公道実証を行うにあたっては、ICTまちづくり共通プラットフォーム推進機構、群馬大学、日本モビリティ、日本電気の産学地域の4者が連携した「前橋市自動運転バス公道実証コンソーシアム」が主体となりました。路側カメラ映像をその場で分析し危険な状況を自動検知・判定する、刻々と変化する電波状況の中で解像度が高い映像を安定的に送信する、といった自動運転バスの安心安全な運行の実現のために活用されたのが5GとAIです。より高精細な映像伝送で、識別限界距離を従来の45mから100mに拡大する、刻々と変化する電波状況の中で解像度が高い映像を安定送信するなどの成果をあげています。
 

写真:管制室における自動運転バスの遠隔監視の状況
(前橋市自動運転バス公道実証コンソーシアム提供)

 一方、遠隔地から手術支援ロボットを操作する「遠隔ロボット手術ソリューション」の開発に挑戦したのは、神戸大学、メディカロイド、NTTドコモの3者です。メディカロイドが2020年12月に発売した手術支援ロボット「hinotoriTM サージカルロボットシステム」を用い、遠隔で手術の支援や指導を行う遠隔医療の技術として活用されたのがNTTドコモの5G技術です。5Gの持つ高い伝送速度や低遅延性、高いセキュリティ性能にも着目してのことです。

 商用5Gを介した遠隔操作の実証実験は成功し、2021年4月にプレスリリースしています。この実験は、神戸市の「神戸未来医療構想」の枠組みの中で行われています。この構想のもと、医療機器関係の企業、ICT企業、それから専門病院群の関係者が近い距離に集積し、関係者の密なコミュニケーションの中で開発を進めています。開発のスピードアップが狙いで、有効に機能しています。今後は神戸市も交え、遠隔ロボット手術から遠隔医療全体に関わる法的な問題点の整理や認可に向けた活動を進めていく予定です。

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6.おわりに

 他社・他組織との共創という視点でIoT導入事例を見てみると、それぞれの組織が得意分野を持ち寄り、効率的に開発を行うケースが多いと感じます。共創相手として選ばれることがビジネスに結び付くので、得意分野に磨きをかけ、共創相手として選ばれるための実績づくりと世間へのアピールが重要な時代となっています。

 一方で、アイデアを求める段階では、コンソーシアムの設立などオープンな形で幅広く相手を探して共創するスタイルが有効でしょう。さらにはユーザ企業にとっては、付き合いの長いICT(情報通信技術)企業があることもDX時代の共創という観点では重要でしょう。西鉄グループとYEデジタル、前回DX実践事例として紹介したセコムとKDDIがその良い例です。

 結論となりますが、他社・他組織との共創が日常的になり、その成否が新規製品やサービスの開発に大きく影響する時代になりました。自社の技術やビジネスの枠組みにとらわれずに顧客や社会が求めているものを描き、その実現に向けて最適な共創相手を探すやり方こそが、イノベーションを促進する近道だと思います。
 

 
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