掲載日 2022年03月08日

国立大学法人神戸大学

株式会社メディカロイド

株式会社NTTドコモ

 

【提供目的】

  • 事業・業務プロセスの改善
  • 顧客へのサービス対応・サービス品質向上
  • その他(医療の地域格差解消)

【活用対象】

  • 自社の部門内で活用
  • 自社の複数部門あるいは全体で活用
  • 企業顧客を対象に活用
  • その他(若手医師の指導、新しい術式の開発など)

IoT導入のきっかけ、背景

 医療の世界では絶えずイノベーションが起きている。手術支援ロボットを使った外科手術もその一つである。外科医療は、病変部の切除などの繊細な処置を外科医の手で行う「手技」と呼ばれる技術に依存する部分が大きい。ロボット支援手術ではこの繊細な手技をロボットがサポートする。これによって、患者の負担が少なく、かつ根治性が高い手術ができることから、前立腺がんの切除手術を中心に中核病院で導入が進んでいる。

 その一方で、地方の外科医療が立ち行かなくなっている傾向にある。外科医を育成するためには、手術の現場で熟練医から最新の手技や術式(手術の方式)の指導を受ける必要があるが、こうした機会が地方の病院では少ないため、若い外科医の育成が困難になっている。これまでは、中核病院で経験を積んだ医師が地方の病院で手術を行うことで指導の機会を作っていたが、コロナ禍の影響などにより、病院間の往来が難しくなってしまった。このような要因で都市と地方の医療格差が広がっている。

 都市と地方との格差が拡大する中で、手術支援ロボットを導入している中核病院では手術待ちが3~6か月という場合もある。これらの病院では、医師やスタッフは常に繁忙状態にある。

 こうした医療の地域格差、さらには医療従事者の働き方の課題を解決するために、手術支援ロボットをさらに進化させて、遠隔地から手術支援ロボットを操作できる「遠隔ロボット手術ソリューション」が必須であると考えた。そのために、国立大学法人神戸大学(以下、神戸大学)、株式会社メディカロイド(以下、メディカロイド)、株式会社NTTドコモ(以下、NTTドコモ)が結集して、手術支援ロボットと5Gネットワークによる遠隔ロボット手術ソリューションの開発にチャレンジしている。
 

IoT事例の概要

サービス名等、関連URL、主な導入企業名

・取り組みの内容:5Gを活用する遠隔ロボット手術ソリューション

・関連URL(プレスリリース): https://www.nttdocomo.co.jp/binary/pdf/info/news_release/topics_210416_00.pdf

 本取り組みは、モバイルコンピューティング推進コンソーシアム(MCPC)主催の、モバイルコンピューティングの導入により高度なシステムを構築し、顕著な成果を上げている企業や団体を表彰する「MCPC award 2021」モバイルテクノロジー賞を受賞した。
 

遠隔ロボット手術ソリューションの概要

 ロボット支援手術では、図-1に示す通り、執刀医師が手術を行うロボット(オペレーションユニット)を操縦席(サージョンコックピット)から操作して手術を行う。内視鏡下手術において、ロボットによる手振れ補正や内視鏡の画像を3Dビューアで見ながら手術ができるため、精緻な手術が実現でき、患者の負担が少なくなった。

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図-1  ロボット支援手術
(出所:神戸大学医学部附属国際がん医療・研究センター提供資料)
 

 現状のロボット支援手術は、執刀医師が同じ手術室内にある手術支援ロボットを操作している。ここで、手術支援ロボットのサージョンコックピットとオペレーションユニットを、ネットワークを介して離れた場所に設置することによって「遠隔ロボット手術」が可能となるが、本ソリューションでは一気に遠隔ロボット手術を目指すのではなく、開発に段階を設けている。具体的には、遠隔ロボット手術に至る一つ前の段階として「遠隔ロボット手術支援」のステップを置いており現在はこの段階の開発を行っている(図-2を参照)

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図-2  5Gを活用した遠隔医療のロードマップ
(出所:神戸大学医学部附属国際がん医療・研究センター提供資料)
 

 遠隔ロボット手術支援では、地方の病院の執刀医師が遠隔地にいる指導医師の遠隔操作支援を受けながらロボットを操作して大部分の手術を行い、指導医師が高難易度部分の執刀を分担する。このように地方で先端医療を学ぶ機会を作ることで若手外科医の育成が可能となる。(図-3を参照)

 また、遠隔ロボット手術支援のステップを踏むことによって、最終ゴールである遠隔ロボット手術の技術や安全性を確立できる。こうした遠隔ロボット手術の実現に至る過程で、地方の外科医師不足や医療格差の課題が解決できる。

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図-3  遠隔ロボット手術支援
(出所:神戸大学医学部附属国際がん医療・研究センター提供資料)
 

内容詳細

(1)  手術支援ロボットの開発

 本ソリューションを実現するために欠かせない手術支援ロボットは、2000年に市場投入された米国インテュイティヴ・サージカル社のダヴィンチが市場を席捲している。本ソリューションを実現するためには、地方の病院にも手術支援ロボットの導入を進める必要があるが、現状の手術支援ロボットは導入に数億円を要する非常に高価な医療機器である。そのため、地方の病院が導入できるようにするため、機器コストの低減、加えて設置スペースのコンパクト化や保守性の向上が必用である。

 そこで、国産技術でこうした要件を満たす手術支援ロボットを実現するために、産業用ロボットのリーディングカンパニーである川崎重工業株式会社と臨床検査機器及び検査用試薬メーカーであるシスメックス株式会社の共同出資で株式会社メディカロイドを設立して、手術支援ロボット「hinotoriTM サージカルロボットシステム(以下、hinotoriTM)の開発を2015年から進めた。
 

(2)  産学官連携による開発スピードの加速

 インテュイティヴ・サージカル社が持つ手術支援ロボットの基本特許が2019年頃から徐々に期限切れとなったことにより、世界各国の企業もこの機会をとらえて参入を狙っている。そのため、手術支援ロボットの開発は世界中でしのぎを削る争いとなっており、開発には従来にないスピードが要求された。

 一方で、医療機器を開発する際は、基本技術の開発に加えて、安全性の実証などのために臨床試験という複雑なプロセスを経る必要があり、その過程で医療機関との連携が欠かせない。手術支援ロボットの開発に初めて挑むメディカロイドにとっては、医師からの要求や臨床試験のフィードバックをいち早く取り込むことが重要な課題であった。

 そこで、遠隔ロボット手術を実現するにあたっては、内閣府の「地方大学・地域産業創生交付金事業」として採択された神戸市の「神戸未来医療構想」のもとで産学官の連携を推進している。特に、通信ネットワークを提供するNTTドコモを加えた体制を構築することにより、hinotoriTMと5Gネットワークを使用した遠隔ロボット手術ソリューションの開発を進めている。(図-4を参照)

 神戸未来医療構想では、神戸市がポートアイランド内に医療産業都市(特区)を作り、360 を超える企業、研究機関や病院を誘致している。その一環として、メディカロイド、臨床試験などを行う統合型研究開発・創出拠点(以下、MeDIP)、神戸大学医学部附属病院 国際がん医療・研究センター(以下、ICCRC)を隣接した区画に設置し、開発と実証を行う環境を整えている。こうした取り組みによって、開発開始から5年間という短期間で国産初の手術支援ロボットの実用化に成功し、2020年8月に製造販売承認を取得した。

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図-4  産学官連携によるプロジェクト推進体制
(出所:NTTドコモ提供資料)
 

(3)    5Gネットワークの活用

 遠隔地からロボット支援手術を行うためには、高速で低遅延な通信回線が必要であることは言うまでもない。医療情報を扱うため高いセキュリティも求められる。光ファイバーを使用した専用線はこれらの要件を満足するが、本ソリューションには適していない。まず、地方の病院では院内のLAN環境がそれぞれ異なることが多いため、一定の品質を担保した有線ネットワークを病院間に張り巡らすことが難しい。さらに、指導を行う病院と受ける病院の関係は固定的ではないため都度病院間を柔軟に接続できること、見学を行う病院が加わるなどの接続先の柔軟性が必要となる。

 そこで商用5Gネットワークを使用することが、遠隔ロボット手術ソリューションの実現に最適と考えた。商用5Gネットワークを使用することによって、セキュリティ(守秘義務)、大量伝送、低遅延、同時多接続という本ソリューションに必要な要件を満足できる。(図-5を参照)

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図-5  商用5Gネットワークを使用した病院間のネットワーク化
(出所:神戸大学医学部附属国際がん医療・研究センター提供資料)
 

(4)    商用5Gを用いた手術支援ロボットの遠隔操作実証実験

 遠隔ロボット手術支援の実証実験として、商用5Gを用いた手術支援ロボットの遠隔操作の実証実験を行った。試験では、ICCRC側の執刀医がサージョンコックピットを操作し、MeDIPのオペレーションユニットを遠隔操作することによる模擬手術を実施した。こうした実証を継続して行っている。(写真-1を参照)

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写真-1  模擬手術の様子(左:ICCRC 側のサージョンコックピットの遠隔操作、右:MeDIP 側のオペレーションユニット)(出所:プレスリリースより抜粋)
 

 本実証実験では、ICCRCとMeDIPにNTTドコモの商用5G基地局を設置し「ドコモオープンイノベーションクラウド」と「クラウドダイレクト」を介して拠点間を接続している。ICCRCとMeDIPはポートアイランド内の隣接した区画にあるが、大分にあるクラウド基盤を介して中継を行い良好な結果を得た。(図-6を参照)
 同時多接続などを実現するためにはデータ処理を行うクラウド基盤が必要となるが、ネットワーク直結型のクラウドであるドコモオープンイノベーションクラウドでは、5Gの低遅延・高セキュリティ通信を生かしたMEC(Multi‐access Edge Computing)によるリアルタイム性が高いデータ処理を実現している。

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図-6  今回実施した実証実験の構成
(出所:神戸大学医学部附属国際がん医療・研究センター提供資料)
 

5Gを活用した遠隔医療の発展性

 手術支援ロボットの登場は、執刀医師の操作が電気信号に変換されロボットに伝わることによって、執刀医師の匠の技である手技をデータとして可視化できることが大きなイノベーションである。遠隔地の指導医師と現地の執刀医師が連携した遠隔ロボット手術支援による手術データの蓄積によって、AIを活用した手術ナビゲーションのような、より高度な手術支援の実現が期待されている。

 

取り扱うデータの概要とその活用法

  • 内視鏡などの画像
  • 手術支援ロボットの操作データ
  • 手術支援ロボットのアームの位置やスイッチなどのセンサーデータ
  • 手術中の音声、など

 

事業化への道のり

苦労した点、解決したハードル、導入にかかった期間

 産業用ロボットと医療用ロボットの設計思想には大きな違いがある。メディカロイドの出資会社である川崎重工業が手掛けている産業用ロボットでは、異常が発生した際は、作業員の安全を確保するためや設備の更なる故障を回避するために直ちにロボットを止めることが基本思想である。これに対し医療用ロボットでは、異常が発生しても手術が終わるまでは医師の指示に応答し続けることが求められる。こうした文化の違いがある中、メディカロイドでは、医療機器に求められる設計思想を吸収しながら開発を進めた。その際に、フィードバックをいただける医師がすぐ隣にいる本プロジェクトの枠組みに大変助けられた。
 

技術開発を必要とした事項または利活用・参考としたもの

 ロボットの技術は、メディカロイドの出資会社である川崎重工業の技術を活用することができた。保有していない技術に関しては、自社での開発に加えて、オープンプラットフォーム戦略をとった。オープンプラットフォーム戦略では、様々な企業やアカデミアから賛同いただける企業などを募り、Win-Winの関係を築いた上で技術の提供を受けた。内視鏡や3Dビューアはオープンプラットフォーム戦略により他社の技術を使っている。
 

今後の展開

現在抱えている課題、将来的に想定する課題

 最終ゴールである遠隔ロボット手術は、これまでに開発した技術を磨くことで実現できると考えている。一方で、法律面は様々な整備が必要である。そのため、学会での議論や統一的なガイドラインの制定、国や省庁への働きかけなどの多岐にわたる対応が必要となる。
 

強化していきたいポイント、将来に向けて考えられる行動

  • 昨今のコロナ禍で遠隔医療のニーズが高まっている。メディカロイドとしては、手術支援ロボットに加えて、遠隔診断のためのデバイスなども手掛けて医療全体に貢献していきたい。遠隔手術支援で必要となる機能を明確にして開発を行い、また万が一ネットワークにトラブルが発生しても安全に手術が継続できるようにするための手段を用意して、医師の方々に安全安心に使用いただける手術支援ロボットを開発していく。

  • 5Gネットワークを広く使っていただくためには、医療・産業などのクリティカルな用途にも無線通信を入れていく必要がある。そのためNTTドコモでは、安定した無線通信を提供する取り組みに加えて、ネットワークスライシング(*1)や優先制御の技術を活用した産業用途の通信品質を確保していきたい。

(*1) ネットワークスライシング:5Gネットワーク内に、スライスと呼ばれるサービスごとの仮想的なネットワークを作り、提供する機能。例えば、低遅延が必要なサービスに対して、スライスを割り当て、優先制御などを行うことで、より高品質なネットワークを提供するなど。

将来的に展開を検討したい分野、業種

 遠隔ロボット手術は、セキュリティや信頼性の面で一番ハードルが高い、最高の条件をクリアする必要がある医療機器の開発である。これができれば、他の様々な遠隔医療にこの技術を応用できる。神戸大学としても、こうした開発を通じて引き続き産業界との連携を強めていきたい。


関係省庁、スマートIoT推進フォーラムへの意見、要望等

 遠隔手術支援を実際に行うために必要なガイドライン策定、法整備などをご支援いただきたい。

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本記事へのお問い合わせ先

株式会社NTTドコモ 6G-IOWN推進部  堀瀬友貴

e-mail :  yuki.horise.hy@nttdocomo.com