本メルマガは、IoT価値創造推進チームのリーダーである稲田修一が取材を行ったIoT導入事例の中から、特に参考となると感じた事業や取り組みを分かりやすくお伝えする見聞記です。

 今回は2022年度のIoT導入事例の概要紹介の3回目です。

ここに注目!IoT先進企業訪問記 第76回

多様なIoT活用とその要素技術-2022年度のIoT導入事例の概要(その3)

1.    こだわりが感じられる事例が多いIoT活用

 2022年度のIoT導入事例の概要を紹介する3回目です。今回は、多様なIoT活用とその要素技術に関する事例を紹介します。こだわりが感じられる事例が多いのが特徴です。

2.ハピネス・マネジメントを実践するハピネスプラネットの「Happiness Planet Gym」

 日立製作所(以下、日立)中央研究所の中にある株式会社ハピネスプラネットが提供している「Happiness Planet Gym」という会員制サービスは、今までにないユニークなサービスです。組織の生産性や創造性向上には、まず前向きであたたかいつながりを広げることが必要だと考えています。そして、これを実現する鍵が「応援」であり、同僚や部下に応援を伝えることで、前向きであたたかいつながりを生み出すことができると考えているのです。この考え方は仮説ではありません。さまざまな事例で実証されています。

 このサービスでは、前向きであたたかいつながりを広げることを目的に、アプリがデータをもとに3人の組み合わせを毎週自動的に生成します。そして、この組み合わせが効果的なものとなるように、データを蓄積して分析します。組み合わされた3名は、それぞれ宣言(仕事への思い)を書き込み、他の2名は書き込まれた宣言に対して応援メッセージを書きこみます。ポイントとなるのは、アプリの中のハピアドバイザーからの日々の提案です。この提案に促される形で従来のコミュニケーションでは、表に出しにくいことを表に出し易くし、よりよい人間関係の構築を促進すると同時に前向きさを高めるのです。(図1参照)。

図1:「Happiness Planet Gym」のスマホアプリの仕組み
【出所】ハピネスプラネット社提供

 日立は幸福度を計測する技術を活用し、幸せで生産的な組織を作るためには、上下関係を越えた「横や斜めのつながり」が重要なことを検証しています。生産性の低い組織では、上下関係のつながりに偏る傾向があるのです。この「横や斜めのつながり」を組織内に作るため、「Happiness Planet Gym」のスマホアプリの仕組みを開発したのです。簡単な仕組みではありますが職場に前向きなつながりが生まれ、参加者からは「モチベーションが向上した」「部下の体調変化や悩みに気づきやすくなった」「上司に相談しやすくなった」などの声があがっているそうです。

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3.センサを工夫して屋外広告物安全管理サービスを開発した朝日エティック

 朝日エティック株式会社は、屋外広告物(看板)落下事故を防ぐため、IoTを用いた屋外広告物安全管理サービス 「Signit(サイニット) 」を提供しています。電池駆動の小型無線センサボックスを屋外広告物に設置し、搭載した複数の専用センサによって屋外広告物の傾斜や劣化・破損、照明機器の不点灯、内部鉄骨部の錆、面板の破損/色褪せ、意匠面の回転の状態を常時、遠隔監視します。そして、データを低電力ワイドエリア無線通信のsigfox経由でクラウド上に集約し、独自のアルゴリズムで解析・評価し、その劣化状況に応じて現場確認した後に点検や修理・交換の提案を行います。

 この事例のポイントは、10年間電池交換なしのサービスを提供するため、センサを工夫したことです。例えば、内部鉄骨の錆はカメラ画像ではなくLED反射光をデジタルカラーセンサで測定し、色成分から検知しています。面板の破損・色褪せは面板透過光をデジタルカラーセンサで測定し、色成分から検知しています。また、劣化を検知する振動に関しても、振動の生データを収集・送信するのではなく、振動の大きさと回数の傾向から劣化を判断するアルゴリズムを開発しています。

 屋外広告物については、全国の自治体が点検の強化や義務化を進めています。一方で、屋外広告物の設置者や、設計、製造、施工、メンテナンスを生業とする業者においては、「CO2削減」「人手不足の解消」「安心・安全な街づくり」などの社会的課題を解決する必要性が高まっています。従来の点検作業は、作業員の目視によるものでした。IoTで収集したデータによる点検で、この人手による作業の効率化や目視点検では確認できない構造物の劣化を監視できるようになります。屋外広告物もIoTで管理する時代になっているのです。

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4.使われるスマートホームサービスを実現したアクセルラボ

 提供者目線で開発し、使われないIoTサービスが沢山あります。これに対し、株式会社アクセルラボのスマートホームサービスSpaceCore(スペース・コア)は、利用者の視点から考えられており、住宅の入居者が実際に使うガス給湯器や床暖房、インターフォンなどの住宅設備、宅内・屋外カメラなどのセキュリティ関連機器、エネルギーマネジメントシステム、エアコンや照明などのスマート家電など、さまざまな機器や設備の操作をスマートホンでワンストップ・コントロールできるようにしています(図2参照)。また、アプリを提供するだけでなく、住宅の販売や賃貸に関わっている会社の社員が、住宅の入居者に丁寧に使い方を説明します。

図2:SpaceCoreがワンストップ操作を可能とする家電や住宅設備の例
(出所:アクセルラボ提供資料)

 アクセルラボは、これらの実現を戦略的に行っています。まず、さまざまな機器や設備をSpaceCoreのサービスに取り込むため、同社はIoTプラットフォームに専念し、住宅設備のメーカとの協力を推進しています。また、丁寧な説明の実現に向けては、住宅の販売や賃貸に関わっている会社の方々に対し分かりやすい説明資料の作成や映像資料の提供、勉強会の開催などの取り組みを行っています。

 入居者がサービスを活用することで、セキュリティの向上、暮らしの便利さや快適さ、住宅価値の向上などを実感できます。そして、これが賃貸住宅では家賃水準の向上や空室期間の減少などにつながっています。また、住宅販売の容易化にもつながっています。便利なサービスを開発するだけでなく、サービスを使ってもらえるように工夫すること、ビジネス的には当たり前のことですが、これを徹底したことがSpaceCoreの成功につながっています。

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5.IoTの要素技術を提供するコアとATTC

 IoTの要素技術を提供する事例が二つあります。株式会社コアの測位ソリューション「Cohac∞(コハクインフィニティ)」と株式会社ATTCのIoT機器向け組込みソフトウェア「ATTC Control Flow Integrity」です。

 「Cohac∞」は、日本の真上を8の字を描くように飛んでいる衛星「みちびき」を利用し、センチメータ精度で測位を可能とするソリューションです。ポイントとなる測位衛星の受信機に関しては、欧州版の測位衛星であるガリレオ衛星対応の受信機を開発していた海外メーカと共同開発し、市場規模拡大による小型化、低価格化をめざしています。コアは、組込みソフトウェア開発で培った技術とノウハウを活かし、センチメータ精度で測位可能な高精度測位ソリューションをベースに自動運転をはじめ建設工事や農作業の自動化、ドローンの自動運行など、高精度測位ソリューションの市場拡大を狙っています。

 一方、「ATTC Control Flow Integrity」は、IoT機器のセキュリティ上の問題であるBOF注1(バッファオーバーフロー)攻撃(特にROP攻撃注2)の対策に着目し、ラズベリーパイを使用したIoT機器のファームウェア向けにBOF 脆弱性を突いてリターンアドレスを改ざんする攻撃を根絶する製品を、セキュアバイナリを作成するビルドツールとして提供しています。ラズベリーパイに加え、監視カメラのコンセントレータ、インターネット接続される通信ソフトウェアなどでの利用を想定しています。

注1:バッファ(データの一時記憶領域)に、想定以上の長さのデータが入力されてしまう現象である。「バッファオーバーラン」
  ともいう。
注2:リターン指向プログラミング(ROP)を利用してメモリの脆弱性を突く攻撃

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6.おわりに

 IoT活用とその要素技術は多岐に渡っています。課題に合わせてシステムが開発され、多様で個性的なシステムが多々あります。多くの人が知恵を出し合い、競い合うマーケットです。しかし一つひとつのマーケットを見ていくと、規模が大きなものは少ないように思います。小さなマーケットを積み重ねることで市場規模を拡大する「範囲の経済性」の視点が必要な領域です。

 

 
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