株式会社ハピネスプラネット
- 人的資本向上
- エンゲージメント向上
【活用対象】
- 企業顧客
- 企業の部門内
IoT導入のきっかけ、背景
株式会社ハピネスプラネット(以下、当社)は、株式会社日立製作所(以下、日立)で独自開発してきた幸福度計測や幸福度の向上技術を事業化してwith/afterコロナ時代の企業のマネジメント支援などに活用するとともに、幸福に関わる基盤技術を多様な場面で活用して、新たなハピネス&ウェルビーイング産業を創生することを目的として2020年7月に設立された。
近年、従業員の仕事への熱意やエンゲージメント注1が低く、またコミュニケーションがうまくいかず、離職やメンタル不調となる事例が増えている。加えて、時代が求めるスピードや柔軟性に適応できない組織も多く、対策が急務となっている。
これらの対策として研修やサーベイ、さらに1on1ミーティング注2等の施策を実施しても、なかなか効果が現れないケースが多いのが実情である。例えば、従業員サーベイを実施したが、具体策は現場任せにしてしまいスコアが改善しなかった、施策が一時的なものにとどまってしまい、人の行動習慣が変わらず効果が得られなかったなどである。
こうした中、日立は、16年以上に渡り大量の人や組織のデータを収集し研究してきた。この成果を社会で展開するために、2022年5月より始めたのが「日本の組織に熱意とつながりを醸成する挑戦」を目的にした当社の会員制のサービス「Happiness Planet Gym」である。
Happiness Planet Gymでは、データと科学的な知見に基づくアプリやオンラインイベントを活用して、熱意とつながりを醸成する。特に、リモートワークで失われがちなチーム内の横や斜めのつながりを強化することが可能である。その結果、組織やプロジェクトメンバーのウェルビーイングやエンゲージメントの向上を実現することができる。
このような人間に関する科学的な発見とそのためのテクノロジーに関する功績で、2020年には、世界最大の学会であるIEEE(米国電気電子学会)よりIEEE Frederik Phillips Awardを授与された。
注1:ビジネスにおいては「職場(企業・団体)と従業員の関係性」や「自社と顧客との関係性」を表す際に用いられる。
注2:上司と部下が1対1で定期的に話し合うことで、人材育成につなげる手法のことをいう。
IoT事例の概要
サービス名等、関連URL、主な導入企業名
・サービス名:Happiness Planet Gym
・関連URL:https://happiness-planet.org/
・導入先:企業、団体
サービスやビジネスモデルの概要
会員制のサービスである“Happiness Planet Gym”を2022年5月から開始した。Happiness Planet Gymは、アプリとオンラインイベントによる学びや交流を通じて、幸せを実践し理解を深め続けることができる場である。職場などのチームでご参加頂くことで、集団に熱意とつながりを醸成することができる。その結果、日々の業務、仕事の中の熱意が組織やプロジェクトメンバーのウェルビーイングやエンゲージメントの向上につながる。
2022年6月現在で、会員数は約1,300名である。3名以上のチームで参加可能で、年会費はチーム数×3万円+人数×3万円となっている。
内容詳細
Happiness Planet Gymでは、アプリを活用して前向きさの醸成と互いを応援する関係の醸成を継続的に行う(図1参照)。ポイントとなるのは、ハピアドバイザーからの日々の提案である。この提案に促される形で従来のコミュニケーションでは、表に出しにくいことを表に出し易くし、よりよい関係の構築を促進すると同時に前向きさを高めることが可能になる。これ以外にも、アプリには様々な工夫が組み込まれている。
図1:アプリの利用のイメージ
(出所:ハピネスプラネット 社提供資料)
・アプリを活用した前向きさの醸成(毎日)
幸せで生産的な組織づくりのためには、「前向きに1日を始める」ことが重要である。このためにアプリは、次のような手順でユーザーが小さな決意表明で毎朝仕事を始めることを支援する。
① ハピアドバイザーのリタより毎日自動で提案
データをもとにハピアドバイザーのリタが、よりよい状態になるようなアドバイスを提案する。アドバイス
に関しては、体系化された16個の前向きな1日につながる構成要素をもとに行われる(図2のThe Matrixの
部分参照)。誰にでも当てはまるリコメンドのアルゴリズムをもちいて、アドバイスを受ける人の成長に寄
与する前向きさを引き出すアドバイスとなっている。このアドバイスは、16年間蓄積されたデータと心理学
研究に基づいている。
②今日の仕事への思いを書き込む
その日の業務や活動にどう前向きに、具体的に取り組むかを20文字程度で記す。
・アプリを活用した互いを応援する関係の醸成(毎日)
幸せで生産的な組織を作るためには、上下関係を越えた「横や斜めのつながり」が重要なことが検証されている(図2のThe Triangleの部分参照)。アプリが指定する相手と応援しあうことで、つながりが組織内に出来る。これにより、組織内のネットワークを、フラットで横や斜めにつながった幸せな構造に近づけることができる。
①アプリで3人組の応援団を毎週自動生成
組織がよりよい状態になるように、データをもとに3人の組み合わせを編成。この組み合わせが効果的なも
のになるようにデータを蓄積して、分析する。
②書き込まれた宣言に対して他2名は応援メッセージを書き込む
応援メッセージは、感謝、共感などを入れて20文字程度で記す。このような行動を継続的に繰り返すこと
で、縦・横・斜めのつながりが、業務を行う中で日々自然に生まれる。
図2:アプリによる「前向きさ」や「互いを応援する関係」の醸成イメージ
(出所:ハピネスプラネット社提供資料)
・オンライン・ワークショップ (毎月 約2時間)
ワークショップの中で講師から、変化の中でどのように幸せに働くかについて、様々な視点から体系的な知識を学ぶ。さらに、参加者同士や講師との対話や質疑を通して、その理解を深める。
・幸せのための活動の対抗戦(2ヶ月に1回)
学んだことを日々実行することにより、ポイント(コハピポイント)を獲得できる。この獲得ポイントを他社のチームと3週間に渡り競い合う。このように楽しく競い合う中で、自分ごととして幸せに関する理解が日々の実践の中で深まる。
取り扱うデータの概要とその活用法
・日々入力する20文字程度の宣言
宣言する表現、文字数、言葉、発信者、時刻、頻度など
・宣言に対する応援
応援する表現、文字数、言葉、発信者、応援先、時刻、頻度など
・組織、チームの構成するためのデータ
コミュニケーションが密な三角形(3人組)を構成するための情報
事業化への道のり
苦労した点、解決したハードル、導入にかかった期間
人と人との関係は三角形(3人組)が大事であり、横のつながりこそが大事であることはわかっていた。しかし、
①どうやって三角形を増やすか
②三角形にどういった意味があるか
③どうやったら三角形の必要性を納得いく形で訴えられるのか
こういった仕組みの中で三角形ができるか
これらを説明できるようになるまで14年もの年月がかかった。
企業の組織図では上司と部下という1対1のつながりはあるが、三角形つまり斜めのつながりがない。この三角形のつながりを作ることは、ネットワークでいうとバイパスを作るような作用をもたらす。例えば上司部下のつながりだけだと、上司がいないと仕事が進まない、上司に話しかけづらいと仕事が進まないような問題が起こる。そのようなときに三角形ができていると、横の人から情報をもらってすぐに解決するというのが三角形の効用である。
データを分析すると、この三角形を多く持っている人は幸せ度が高い。つまり、三角形の状態が組織の幸せ度や幸せ度と相関のある組織の活性化の指標になるのである。
技術開発を必要とした事項または利活用・参考としたもの
アプリは、長年の研究で実証されたデータをもとに開発されている。具体的には、日立で、10年近い年月を費やし、20ミリ秒単位という身体の微細な動きを検知し、身体運動と「幸福感」との間に強く相関する特徴的なパターンを発見した。ストラップで下げている加速度センサーを内蔵した赤いカード型のウエアラブルセンサーを使って、身体の詳細な3次元の動きを記録したのである。このウエアラブルセンサーは赤外線センサーも内蔵しており、「誰とどのくらい相対したか」といったデータも取得した。
身体運動パターンの特徴や取得したデータの分析方法、そして幸福感とひも付け方法の詳細は、日立が公開している「ウエアラブル技術による幸福感の計測(PDF)」を参照されたい。要約すると、7社、10組織、468人、延べ約5000人日、約50億点の加速度データを収集した上で、従業員への質問紙(米国国立精神保健研究所が開発したCES-D方式アンケート)によるハピネス値と加速度データとの関係を分析している。その結果、「身体運動~幸福感~生産性」という三位一体の関係が明らかになっている。
参照先:https://www.hitachihyoron.com/jp/pdf/2015/06_07/2015_06_07_13.pdf
今後の展開
現在抱えている課題、将来的に想定する課題
今は、サービスをしっかりと世の中に広めていくことが大切であると考えている。本サービスは誰もが必要とするサービスであり、他にはないサービスと自負している。
強化していきたいポイント、将来に向けて考えられる行動
Happiness Planet は、社会のさまざまな活動のベースになる可能性を秘めている。「幸福度」を見える化したうえで、それを高めるように改善を重ねれば、あらゆる社会活動が人々を幸福にする手段として有機的に機能するようになる。実証実験を通じて得た知見やノウハウを活用し、さまざまなパートナーと共に、幸せな職場、幸せな暮らし、そして幸せな街を実現したい。国内だけではなくグローバル展開も視野に取り組んでいきたい。