本メルマガは、IoT価値創造推進チームのリーダーである稲田修一が取材を行ったIoT導入事例の中から、特に参考となると感じた事業や取り組みを分かりやすくお伝えする見聞記です。

 今回は、総合リース会社の東京センチュリー株式会社(本社:東京都千代田区)、IoTプラットフォームサービスを提供している株式会社ソラコム(本社:東京都世田谷区)、サブスクリプション管理プラットフォームを提供するビープラッツ株式会社(本社:東京都千代田区)の3社が協業で提供している“IoT SELECTION connected with SORACOM”を取り上げます。

ここに注目!IoT先進企業訪問記(43)

ありそうでなかった「選ぶ」という課題解決法を開拓したIoT SELECTION connected with SORACOM

1.  はじめに

 欧米や韓国、中国に比べて遅れを取っていた日本のIoT導入ですが、現在は、コロナ禍にもかかわらず比較的順調に進展しているようです。生産性向上や省人化・自動化に向けたICT投資拡大の恩恵を受けているのかもしれません。

 しかし、現場では「IoT導入はハードルが高い」という声がまだ根強く残っています。その要因として次のような課題があげられています。

① アプリケーション、クラウド、ネットワーク、無線、センサーなどのデバイス、それにデータ分析と広範な技術を含んでおり、これらを理解し使いこなせる人材が不足

② いろいろな機器やサービスを利用するので導入時の初期コストが高くなりそうで不安

③ IoT導入の効果やメリットの見極めが困難

④ 既存の情報システムとの相互接続が可能か心配

⑤ 情報セキュリティ確保やプライバシー保護が大丈夫か懸念

 実際のビジネスにおいても、企画はしたものの具体的にどのようなシステムを導入すべきか判断できる人材がいない、初期コストが高額で導入をためらってしまう、KPI(Key Performance Indicator:重要業績評価指標)を設定できず社内の反対を説得できない、などの理由でIoT導入が頓挫したという話をしばしば耳にします。

2.  課題解決は発想の転換で

 IoT導入では、顧客要望に基づいてシステムを作ることが一般的です。導入効果やメリットが良く分からない顧客向けに実証用のシステムを開発し、体験してもらうなど提供者側は苦労しています。このようなIoT導入のハードルを下げるため、この「作る」という発想を転換するサービスを創出した会社があります。ソラコムです。

 世間を見渡すと、現在では幅広い領域でさまざまなIoTソリューションが導入されています。これらの多くは、顧客の要望を踏まえて開発されたものです。優れた効果を発揮し、顧客のビジネス拡大や効率化に大きく貢献しているソリューションも沢山あります。同社が創出したのは、顧客要望に応じたIoTソリューションを「作る」のではなく、沢山の優良事例の中から顧客が要望に合致する案件を「選ぶ」というビジネスモデルだったのです。

 この発想転換は、ソラコムのプラットフォームを活用してIoTソリューションを提供している同社のパートナー企業からの要望がきっかけでした。ソラコムは、顧客のIoT導入事例をホームページで公開しています。また、3ヶ月に1度の割合で既に600社を超えているパートナー企業を対象にしたセミナー兼ビジネスマッチング会を開催し、導入事例に関する知見を共有していますが、その場で導入事例のソリューションを横展開したいという要望が出されたのです。

3.  導入コストという課題はリース会社などとの協業で解決

 導入事例の横展開は、顧客とパートナー企業の双方にメリットがあります。顧客にとっては先行事例がありますので、導入効果やメリットが見極め易くなります。また、サービス開始までの時間を短縮することができます。新規開発ではないので、コストの点でも有利になる可能性があります。一方、パートナー企業にとっては、すでに開発したソリューションの新規顧客の拡大につながります。

 第一章で述べたIoT導入のハードルであった課題③がこれで解決するのです。課題①もアプリケーション、ネットワーク、デバイスなどをセットで提供し、パートナー企業が的確なサポートを実施することで解決可能ですし、④⑤もパートナー企業のサポートで解決することが期待できます。残る課題は②ですが、この解決のために東京センチュリーとの協業が始まったのです。

 導入時の初期コストを減らすために、パートナー企業が一部のコストを負担し、それをランニングコストに少しずつ上乗せして回収するサブスクリプション方式の採用が考えられます。しかし、この方式は資金負担が重く難しい、というパートナー企業が多かったのです。

 この点を解決したのが、サブスクリプション方式を代行する東京センチュリーのアイデアでした。すなわち、同社がパートナー企業のIoTソリューションを月額料金ベース、いつでも解約ができる形で顧客に提供します。この際、実際にIoTソリューションをサービス提供し、必要なデバイスを顧客に送付・設置・回収し、必要な在庫を持つのは、パートナー企業です。そして、同社のファイナンス機能を使って、パートナー企業やソラコムに初期費用を含めた業務委託費を一括で支払います。東京センチュリーは、顧客からの月々の利用料金で初期費用を回収します。(下図を参照)

注:製品やサービスを購入し自分の所有物として利用するのではなく、これらの利用権を一定期間確保し、利用料を支払いながら利用する方式。

 この際、協業企業であるビープラッツは、さまざまなIoTソリューションをサブスクリプション化して提供する際に必要となる顧客管理、契約管理、請求管理などを行う管理プラットフォームを提供し、東京センチュリーをサポートします。

 

図:IoT SELECTION connected with SORACOMのビジネスモデル
図:IoT SELECTION connected with SORACOMのビジネスモデル
【出所】東京センチュリー提供資料を筆者の方で微修正

 

4.  鍵となるのはビジネスリスクを回避する仕組み

 東京センチュリーが提供するファイナンス機能は、通常のリースと似た仕組みです。違うのは、建物や車、ロボットやICT機器などのモノをリースするのではなく、IoTソリューションというサービスをサブスクリプション形式で提供することです。

 この新しいビジネスの成否の鍵を握っているのは、IoTソリューションを導入した顧客が早期に解約するというビジネスリスクをできる限り小さくすることです。このため、顧客がIoTソリューションの効果を実感し、長期に渡り使ってくれることが望まれます。もちろん、一定数の顧客が見込めるソリューションであることも重要です。

 これを担保するため、IoT SELECTION connected with SORACOMで提供するソリューションは、ソラコムの顧客導入事例で公表された導入実績のあるもので、かつ、ソラコムの認定パートナーが提供し、ソリューションとしてパッケージ化されているものの中から選択しています。さらに選択にあたっては、幅広い顧客の課題解決につながるものかどうかをパートナーへのインタビューにより確認する、事例発表の際の反応や評判を見る、ソリューションの引き合い状況を調べるなど、念入りな調査を行っています。しかしながら、現時点では、ビジネスリスクを回避する仕組みは形式知化されておらず、人の力を頼りに試行錯誤が続いている状態です。したがって、サブスクリプション方式を採用した成否を判断する際の肝となるリスクの定量化もこれからの段階です。

5.  今後の課題と展開

 IoT SELECTION connected with SORACOMが普及するには、いくつかの条件があります。一つは知名度があがること、それから多種多様な顧客ニーズに対応できるよう提供するサービス数が増えることです。この二つは相関関係にあります。知名度があがれば、サービスを提供したいというパートナーが増えるでしょうし、サービス数が増えればパートナーによるマーケティング活動が活発化し知名度があがるでしょう。

 提供サービスの数は、2019年2月のサービス開始から1年半の期間で20個に増えていますが、まだまだ顧客の多様なニーズに対応するには不足しています。現在の提供サービスは比較的汎用的でシンプルなサービスが多いように感じますが、個々の顧客の要望に対応したきめ細かな対応が可能になるようそれぞれのサービスのオプションメニューを増やすと良いのかもしれません。また、提供サービスを人の力で選択するのではなく、一定の基準を満たしたものを提供メニューに組み込むなど選択方法の形式知化も欠かせないように感じます。

 これら以外にも重要なことがあります。それは顧客が自らの課題解決につながるソリューションやその提供パートナーを容易に発見できるようにすることです。

 ソラコムは「IoTテクノロジーの民主化」を掲げ、誰もが簡単に活用できるIoTプラットフォームサービスを開発しました。顧客やパートナーが自由にサービスを使い、さらに使い勝手を良くするために同社は技術を提供し、彼らがそれを活用して新しいサービスを生み出すことを推進しています。

 IoTソリューションの利用は簡単ではありません。設置・設定、トラブル対応、メンテナンス、データ利用などさまざまな局面でテクノロジーや知見が必要だからです。幸いなことにコロナ禍の影響でビデオ会議の利用が一般化しました。IoTソリューションの利用を簡単に行うには専門家のサポートが不可欠ですが、従来は、設置現場を訪問しての指導が基本だったので時間もコストもかかりました。しかし、ビデオ会議を利用すれば専門家が遠隔で映像を見ながらサポートすることが可能になります。使いこなす上でのハードルがさらに下がる可能性があるのです。

 このように最新の状況に対応した課題解決策を考案し、提供することでIoTソリューションの普及がさまざまな分野で加速するように感じます。3社の協業のさらなる進展により、IoTソリューションを「選ぶ」という流れが、今後、拡がっていくことを期待したいと思います。

 

今回紹介した事例

導入実績のあるIoTソリューションを サブスクリプションで提供する IoT SELECTION connected with SORACOM − IoTを作るから選ぶへ

IoTはシステムを「作る」ことができるユーザーは導入が進んでいるが、依然として多くの企業には導入のハードルが高い。一方でこれまでの導入事例を俯瞰すると、典型的なIoTの利用パターンが出来てきたことが分かる。そこで、こうした汎用性が高い事例をパッケージにし、サブスクリプションとして提供することができればIoT導入のハードルを下げることができると考えた。…続きを読む

 
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