本メルマガは、IoT価値創造推進チームのリーダーである稲田修一が取材を行ったIoT導入事例の中から、特に参考となると感じた事業や取り組みを分かりやすくお伝えする見聞記です。

 今回は、北國銀行(本社:石川県金沢市)の取り組みについてご紹介します。

ここに注目!IoT先進企業訪問記 第78回

自社の変革ノウハウをベースに地域の発展に貢献する北國銀行

1.   はじめに

 山中漆器連合協同組合の竹中理事長を取材した際に、二つ気になる点が残りました。一つは、山中漆器のDX化を支援した北國銀行(本社:石川県金沢市)がコンサル役を果たせた理由です。そしてもう一つは、同社が伝統工芸でのDXという困難な取り組みに果敢に挑戦した理由です。この解明のため、竹中理事長から当時北國銀行側で本件を担当されていた代表として大家氏をご紹介いただき、追加取材を行いました。この結果、同行の変革への挑戦とそのノウハウ還元の一環としての山中漆器支援の姿が浮かび上がりました。

2.   自社の変革ノウハウを山中漆器のDX化につなげる

2.1 北國銀行のビジネスモデル変革の概要

 北國銀行は、2000年からビジネスモデル変革に乗り出しています。「顧客本位の経営を行わなければ、永続した事業モデルは築けない」という大方針に基づき、「謙虚なメインバンク」という自社のあるべき姿を設定し試行錯誤で進めています。顧客に常に寄り添い、相談相手となり、課題解決に貢献する銀行、そして率直に意見が交わせる銀行を目指したのです。

 その一環として、あるべき姿を実現する余力を生み出すために、2008年頃から生産性2倍運動などに取り組んでいます。素晴らしいのは、組織のあり方と行員の意識を変えるための仕組みを作り直すことが変革の本質であり、その土台となり推進エンジンとなるのは「システム戦略」であるというDXの核心部分をしっかりと理解した上で変革に取り組んだことです。このため、システムについては「自前開発主義」を徹底し、行内に開発ノウハウを蓄積しています。

 また、組織のあり方や行員の意識を変えるにあたっても、課題を洗い出して解決するというイノベーションの基本となる手法を活用しています。改革が進展するにつれて行員達が課題を自分事として認識するようになり、自分の頭で深く考え、皆で議論するようになったのです。そして課題解決のツールとして活用したのがICTです。例えば、グループウェアの導入により仕事のやり方を変えることが可能になりました。これらの取り組みによって次第に組織が活性化し、生産性が向上したのです。しかし、結果が出始めるまでに、5年という期間を要しています。さらに、業績評価のやり方を見直し、個人の問題であったノルマについてみんなを巻き込んで議論しながら目標を立て、達成してもできなくても、またみんなが集まって議論する方式に変更し、コミュニケーションとコラボレーションを企業文化として定着させています。

​​​​2.2 山中漆器のDX化への支援

 このような挑戦の過程で蓄積した変革の手法やICT活用のノウハウを顧客に還元しようということで、2015年にコンサルティングを銀行業務の柱の一つに位置付けし、事業承継、ICT利活用、人事の分野で有償のコンサルティングを開始しています。山中漆器のDX化への支援は、2016年に開催した勉強会で、ある事業者から「漆器産地全体として効率化の取り組みをしなければ」とのコメントを聞いたのがきっかけでした。これを受け、すぐに山中漆器連合協同組合に「何か産地全体でお手伝いできることはありませんか?」との提案を行い、支援を開始しています。

 北國銀行の中で、個社のコンサルティングだけでなく、産地に対するコンサルティングにも挑戦しようということになったのです。そして窓口となったのが大家氏でした。彼女は、企業体力のある会社は個社で情報システムを開発するが、山中漆器は相応の産業規模を有するので個社では難しくても複数社で協力すれば情報システム開発が可能だろうと当たりをつけて始めましたが、構築に至るまで2年間も苦闘しています。

 苦闘の理由は、まずは関係者が多かったこと、それからその関係者が情報システムに不慣れだったことです。しかも中心となる漆器屋は、それぞれがライバル関係にあります。

 まずは有志の漆器屋7社が参加する勉強会からスタートし、課題と解決策を検討することとなりました。同時に、北國銀行とITサービス会社のBIPROGY(本社東京都江東区、旧日本ユニシス)注1が漆器屋各社の課題をヒアリングすることとなりました。しかし、参加した各社は、他社の前ではみな本音を言いません。そこで、個々の社、それから実際に漆器の製造を行う職人からも話しを聞き、名前を伏せてその結果をとりまとめる形で議論を進めました。

注1:BIPROGYは、北國銀行の基幹系システムを担当しているITサービス会社。

 そのヒアリング自体も難航しました。漆器屋からは「銀行がなぜ産地の課題に突っ込んでくるのか?」との疑問が出されました。また、職人の取引金融機関は信用金庫である場合が多く、彼らからは「なんで銀行さんがそんなこと聞くの?うちは信金やし・・・?」という否定的な反応が返ってきたのです。銀行が山中漆器産地の課題に関わることにアレルギーがあったのです。この解決策は繰り返し漆器屋や職人達を訪問し、話を聞きながら産地の課題を本気で解決するという姿勢を理解してもらうしかありません。多い時は月の半分くらいをヒアリングに費やしました。そして、信頼関係が構築されると議論が進むようになりました。

 このような議論の中で出てきたのが、受発注業務などを電話とファックスというアナログ手段で行っていることによる非効率性、それから漆器の生産には漆器屋、素地(きじ)屋、塗師(ぬし)、蒔絵(まきえ)師の分業となっており、各工程での進捗把握が困難という課題でした。そしてこの解決策として浮かび上がったのが「工程管理システム」です。さらに、バックオフィス系は共同で構築しても問題ないだろう、という意識合わせもできました。

注2:漆器の生産は分業制で行われています。漆器屋(問屋)がデザインを決めると、素地屋が木地を挽き、下地工程を経て、塗師屋が下塗り、中塗り、上塗りと漆を塗り重ね、蒔絵屋が蒔絵を加えて完成します。

2.3 システム開発は総務省の助成金を利用し、コンソーシアムで実施

 工程管理システムの構築は、スピード感と構築後の利用につながることを考慮し、規模がある程度大きくて若手後継者がいる13社で、2017年10月に一般社団法人山中漆器コンソーシアムを設立して行っています。この開発も苦労の連続でした。漆器関係者に情報システムに詳しい方がおらず、産地の方々がどのようなやり方で工程を進めているのかを観察して要件定義することが必要だったからです。また、実際にシステムを体験しないと改善ができませんし、工程管理システムの利用料も安価でなければなりません。

 選択したのはサイボウズ社のkintoneというクラウドサービスです。しかしながら、山中漆器の生産工程を管理、効率化するためには、追加機能の開発やカスタマイズが必要でした。開発したシステムをさらに扱いやすくするため、使ってもらいながら改善を繰り返しています。この改善に2年間を要しています。結果として「工程の見える化」と「受発注業務のデジタル化による支払・請求処理の効率化」が実現され、漆器屋1社当たり月平均で75時間の業務削減に成功しています。そして安価な利用料の実現に貢献したのは補助金でした。本システムは2017年12月に総務省の「地域ICT生産性向上支援事業」に採択され、初期投資費用の2/3を補助金でまかなったのです。

 構築したシステムは「色やデザインを商品マスターから選択して発注できるので注文の際に間違いが少ない」「過去の発注履歴を見て発注できるので便利」「本業に注力できて生産性があがる」などと好評で、利用者も徐々に増えています(図1参照)。また、この取り組みは山中漆器産地全体の一体化意識の醸成、協働・シェアリングの始まり、新しいアイディアを考える時間の確保など副次的な効果ももたらしています。そして、この余裕時間がブランディング強化などの取り組みを促進しています。

図1:工程管理システム導入前後の仕事場の変化

3.山中漆器のDX化で北國銀行が得たもの

 北國銀行が山中漆器のDX化で得たものがいくつかあります。一番大きなものは相互の信頼関係でしょう。竹中理事長からは「デジタル化の成功は北國銀行の努力のおかげと言っても過言ではない」との話があり、大家氏からは「山中がうまくいったのは、竹中理事長というライバル社と手を組むことができるリーダーがいたから」とのコメントがありました。このような信頼関係は何物にも代えがたいものです。

 また、これは山中漆器だけの話ではなく、さまざまなコンサル実績の積み重ねの結果ですが、銀行に相談すると的確な解決策を示してくれるという信用にもつながっています。変革に先立って2000年秋に顧客インタビューを実施した時には「足りない時にお金を貸してくれるけれど、それ以上の期待はしていない。だって、できないでしょう」「企業には課題が山積みだけど、銀行さんに何ができるの?」という辛辣な意見をもらっています。

 自行の変革に成功し、大家氏のように変革を支援できる人材が育ったことが、変革を実現できるという自信と信用につながっています。北國銀行などを子会社とし、グループ全体を統括する金融持株会社である北國フィナンシャルホールディングスのホームページ(2023年10月26日現在)を見ると、トップメッセージの中に「当社内のみならず地域社会の原動力となる経営人材を育成し、地域の更なる発展に貢献してまいります」という言葉があります。また、IR資料では重点ビジネスとして法人コンサルティングがあげられており、2022年度は、約100名の体制で約10億円の収益をあげたことが示されています。

 今は少し変化していますが、システムベンダーは開発に必要な要件が決まっていないと受注しません。また、DX成功のためにシステム構築よりも重要な組織や業務の変革を実現するための仕組みづくりや経営戦略の策定支援まで行える企業は多くはありません。自社の変革を成し遂げ、さらにさまざまな企業の変革支援を行うことで仕組みづくりや経営戦略策定のノウハウが蓄積している組織は、法人コンサルティングで有利な立場にあるのです。

4.5つのステップで改革を進める取り組みを支援

 北國銀行グループの法人コンサルは、現在、2021年に設立されたCCイノベーションという会社が担っています。取材した大家氏も現在はこの会社の所属となっています。北國フィナンシャルホールディングス「2023年3月期統合報告書」の法人向けコンサルティングの戦略を説明したページには「5ステップフレームワーク」というタイトルの図が掲載されています(図2参照)。この図は、北國銀行の全社改革を進めてきたステップを示す図でもあります。

 まず顧客の事業内容を理解し、目指す姿を共有します。そして変革と成長に向けた3つの要素として、「組織・システムの近代化」「マインドセットの進化」「リカレント教育」の必要性を指摘しています。その上で課題解決に向けた

①   コスト削減:目指す姿の実現に向けた投資費用の捻出
②   マネジメント(ガバナンス):環境の変化に対応できる組織風土へ変革
③   業務効率化(BPR、ICT):デジタルの利活用によるオペレーションの改革。人的・時間的制約を
    解消し付加価値の高い仕事に取り組める環境を整える
④   マーケティング:顧客主義やカスタマージャーニーの価値観を中心とした営業への転換
⑤   人材:継続的に成長できる制度と環境の構築

という5つのステップを示しています。

図2:CCイノベーションの5ステップフレームワーク
(出所:北國フィナンシャルホールディングス「2023年3月期統合報告書」38頁)

 CCイノベーションという社名には、お客さまとのコミュニケーション、コラボレーションを深め、お客さま・地域・社会のイノベーションに貢献するという想いが込められています。AIが急速に発展する時代に人に求められるのは、顧客とコミュニケーションしコラボレーションすることで新たな価値を創出することです。このためには、一人ひとりが自分の能力を高めると同時に他人と協働することが求められます。CCイノベーションのコンサルティングは、AI時代に生き残ることができる組織を作るための方法論でもあるのです。

 

【参考資料】

・    北國銀行コンサルティング部「コミュニケーション×コラボレーション×イノベーション」, 
​​​​​​​  2017年10月,北國新聞社.

・    北國フィナンシャルホールディングス「2023年3月期統合報告書」

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