掲載日 2023年11月28日

 

山中漆器連合組合

工程管理
【事例区分】
 工程管理
  • IoT等の自社内業務等での利活用

 ブランディング

  • IoT等を活用した一般消費者向け製品・サービス等の提供

【関連する技術、仕組み、概念】
 工程管理/ブランディング

  • DX

【IoT等の利活用分野】
 工程管理

  • 製造(その他)(食器製品)

 ブランディング

  • 流通・小売

【IoT等の利活用の主な目的・効果】
 工程管理

  • 生産性向上、業務改善

 ブランディング

  • サービス・業務等の品質向上・高付加価値化、顧客サービス向上
  • 新規事業開拓・経営判断の迅速化・精緻化

課題(注目した社会課題や事業課題、顧客課題等)I

 山中漆器は石川県加賀市の伝統産業であり、450年もの歴史を持つ。伝統漆器の特徴は木目模様を活かした自然な風合いである。山中漆器ではこれに加えて樹脂を用いた近代漆器の生産も盛んであり、日本有数の漆器産地である。しかし、漆器の生産額はピークであった1985年の約400億円から現在は4分の一の規模に縮小しており、職人の高齢化・後継者不足による生産力の低下にも悩まされている。この現状を打破することが大きな課題であった。

 様々な新しい取り組みの中の一つとして注視されるのは、伝統工芸という古い体質にありながら、工程管理クラウドシステムとブランディング事業というデジタル技術を活用した取り組みである。産地では受発注業務等は電話とファックスの利用が中心であった。漆器屋、素地(きじ)屋、塗師(ぬし)屋、蒔絵屋注1という分業制で生産を行っているのに、各工程の進捗確認もこれらに頼っていた。この課題を解決するために、工程管理クラウドシステムを導入した。

 一方、ブランディング事業においては、世界の消費者から高い評価を得るブランドの確立を目指している。「伝統」をもっと自由に、かつ、もっと身近に感じられるブランド・ストーリーを掲げ、HPをスマホ対応に一新。これに加え、デジタル展示場の開設、オンラインショップの開設、Instagramの開設によるデジタルマーケティングなどの取り組みを積極的に行っている。

注1:漆器の生産は分業制で行われる。漆器屋(問屋)がデザインを決めると、素地屋が木地を挽き、下地工程を経て、塗師屋が下塗り、中塗り、上塗りと漆を塗り重ね、蒔絵屋が蒔絵を加えて完成する。

 

IoT等利活用の経緯(課題解決の鍵となる技術・アイディアの発想やビジネスパートナーとの出会い等活用に至った経緯)

 これらの新たな取り組みは2016年に地元の地方銀行である北國銀行から、「何か産地全体でお手伝いできることはありませんか?」という提案がきっかけとなり始まった。北國銀行が取りまとめ役になり、ITサービス企業のBIPROGY社も加わり、山中漆器産地全体の課題解決を支援するため、有志7社で2か月に1回、テーマを決めて勉強会を開催することからスタートした。また、勉強会と並行して北國銀行とBIPROGY社が、漆器屋や職人を対象に個別ヒアリングにより課題を明らかにしていった。

 最初は、銀行がなぜ産地の課題に関わるのか、なぜそんなことまで聞くのかといった疑問が出され、本音を引き出すのに苦労した時期もあったと聞いている。しかし、繰り返し訪問することで心を開いてくれるようになり、「受発注業務等のアナログな運用」「漆器産地特有の分業制により、各工程の進捗がわかりにくい」という問題点をあぶり出すことができた。また、この解決策として工程管理クラウドシステムが有効であるという結論に至った。

 実際のシステム導入にあたっては、スモールスタートでできるところから共同化するとの方針で、産地の有志経営者によって2017年に一般社団法人山中漆器コンソーシアムを設立し、総務省の地域ICT生産性向上支援事業の補助金を活用し、工程管理クラウドシステムを開発した。

 一方、ブランディング事業に関しては産地全体の話なので山中漆器連合共同組合で進めており、2012年から海外の展示会への積極的に出展することでブランディングの重要性を認識し、プロジェクトの骨子(図1)を作成し、デジタルマーケティング勉強会を通じて様々な取り組みを進めている。

 

図1:ブランディング事業のプロジェクト骨子の内容(出所:山中漆器連合協同組合提供資料)

 

IoT事例の概要

サービス名等、関連URL、主な導入企業名

『石川県加賀市の山中漆器生産性向上プロジェクト』
 関連URL:https://www.soumu.go.jp/main_content/000519709.pdf

『山中塗(山中漆器)オフィシャルサイト』
 関連URL:https://www.yamanakashikki.com/

サービスやビジネスモデルの概要

 工程管理については図2に示すように、漆器屋、素地屋、塗師屋、蒔絵屋がそれぞれ工程管理クラウドシステム(ラ・クラウド)を利用して情報共有をしている。このシステムはサイボウズ社のkintoneというクラウドサービスを山中漆器向けにカスタマイズして開発されている。各漆器屋は自社が発注した商品が工程のどの段階にあるのかを把握することが可能になり、素地屋、塗師屋、蒔絵屋は各漆器屋からの受注、請求処理を一画面で管理できるというシステムとなっている。特に、こだわったのは手頃なコストで扱いやすいシステムとすること。図3に示す入力画面にある情報を入力することで利用することが可能となる。漆器屋1社あたりでは、月平均約75時間の作業時間削減を実現している。

図2:工程管理システム概要図
(出所:山中漆器連合協同組合提供資料)

 

 

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図3:スマホでの入力画面イメージ
(出所:山中漆器連合協同組合供資料)

 ブランディング事業においては、「山中漆器のファンを増やしていきましょう」という戦略に沿ってターゲットをこれまでリーチできていなかった30代~40代前半のミレニアル世代に設定し、デジタルマーケティングの勉強会を通じて、ウェブサイトの一新、デジタル展示場の開設、Instagramアカウントの立ち上げ、オンラインショップの開設など、継続的な改善を進めている。(図4参照)

 

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図4 ブランディング事業の取組み
(出所:山中漆器連合協同組合提供資料)

 

 

取り扱うデータの概要とその活用法

工程管理クラウドシステムでは、次のデータを取り扱っている。

 ・納品予定日/受け入れ可能日
 ・納品日
 ・納品数
 ・納品回答

 

事例の特徴・工夫点

IoT等による価値創造

 工程管理クラウドシステムに関しては、職人たちがデジタルツールの有効性を認識し使ってくれたことが価値創造につながった。最初は懐疑的だった反応が、「本業に注力できて生産性があがる」などの好意的な反応に変わった。また、この取り組みは産地全体の一体化意識の醸成、協働・シェアリングの始まり、新しいアイディアを考える時間の確保など副次的な効果ももたらしている。今の時代、デジタルから逃げていては事業を継続できない。

 ブランディング事業に関しては、ITリテラシー注2が産地の中で飛躍的にアップした。IT、DXに関する理解がない段階から、自分達一人ひとりがやらないといけないという認識やITをブランディングに活用する手法への理解が広がった。もちろん、各社のウェブサイト、オンラインショップ、Instagramなどの活用については、コンサルタントの担当者が各社ごとに個別のフォローを行ったことも理解増進に効果的であった。

 ブランディングについては、年2回、コンサルタントによる説明会を実施している。今年で5年計画の4年目だが、今どういった位置にいるかという現状を把握した上で来年の目標を明確にしている。また、毎月漆器屋11社が参加した組合のブランディング委員会も開催しており、常に生産者に寄り添った支援を受けながらITリテラシー向上につなげている。

注2:情報技術(IT /Information Technology)を利用し、使いこなすスキルのこと

IoT導入や事業化時に苦労した点、解決したハードル、解決に要した期間

 工程管理クラウドシステムの開発においては、最初の2年間は、使いにくい点があった。そのため、何回も改善を行った。例えばスクロール一に関し幅が広くて使いにくい、一覧画面で枠線を触って広げにくいといったことなどである。

 ブランディング事業においては、一般消費者からのを要望を取り入れ改善を行っている。この取り組みを通じて組合員の考え方も変わってきており、店舗での接客が改善されるという副次効果も見られる。

重要成功要因

 工程管理クラウドシステムの開発おいては、北國銀行が常に寄り添ってくれた。漆器屋や職人が何をしているかを観察し、要望を取り入れ、使いやすいシステムを開発してくれた。デジタル化の成功は北國銀行の努力のおかげと言っても過言ではない。

 一方、ブランディング事業おいては、意思決定の速度を迅速化するために組合の理事長に決定権を委ねることとした。これによってスピーディな判断が可能となり、デジタル活用のプロセスをスムーズに進めることができた。

技術開発を必要とした事項または利活用・参考としたもの

 工程管理クラウドシステムの開発においては、予算が限られておりkintoneを活用した。ブランディング事業においては、コンサルタントから常に欧米などの最新情報を入手できることが重要だと考えている。

 

今後の展開

現在抱えている課題、将来的に想定する課題、挑戦

 生産面においては、工程管理クラウドシステムによって効率化は実現されている。今後の課題は、商品管理におけるIT活用である。山中漆器は製品の種類が豊富で製造数量も変動するので、これはかなり挑戦的な課題であると認識している。また、現在、不良品の検査はすべて目視で行っているが、これをAI活用によって自動化できれば効率化が図れると考えている。今後、これらに挑戦していきたい。 

 一方、ブランディング事業においては、新しく登場するツールの活用が今後の課題である。

技術革新や環境整備への期待

 伝統産業への補助金の対象は展示会への出展など限定されており、40年間あまり変わっていない。サイバー世界での挑戦のために使える補助金が少なく、たとえば試験的なウェブ広告やウェブ販売などを実証したくても、対象となる補助金がない。DX時代に合致するよう、補助金の対象を見直してほしい。なお、ブランディング事業におけるデジタル活用に関しては、加賀市に支援を要請し対応してもらった。

 現在の補助金は、産業の保護という立場が強いように感じる。そうではなく、むしろ伝統産業を成長産業に転換させる補助金に変えてもらいたいと考えている。

強化していきたいポイント、将来に向けて考えられる行動

 マーケティングに関しては、将来的に国内市場が縮小すると予想されるため、海外向けの戦略を立てる必要がある。木製品である伝統漆器と樹脂で作られる近代漆器に関しては、それぞれ異なるマーケティングアプローチが必要である。高価な木製品についてはEC注3(電子商取引)を活用することで対応できるが、安価な近代漆器に関しては海外の地元流通網を活用する必要がある。海外展開においては、様々な側面でデジタル技術を活用しながら進めていきたいと考えている。 

注3:ネット販売(「EC」、「eコマース」または「電子商取引」とも呼ばれる)とは、インターネット上で行われる物やサービスの取引のこと。

最後に

 伝統産業で同じような課題に直面している方々や、手を差し伸べようとしている企業の方々に対して山中漆器連合共同組合の竹中理事長からのメッセージをお伝えします。

 「今回、工程管理クラウドシステムの導入においては北國銀行とBIPROGY社からのご支援を受け、ブランディングにおいてはBIPROGY社とコンサルティング会社からのご支援をいただきました。伝統産業においては、ITに関するサポーターが存在しなければ成功は不可能です。さらに、持続的なサポートをしながら共に歩んでくれるパートナーが必要です。良きパートナーを見極めるには長い時間がかかることもありますが、これは極めて重要なことであると確信しています。これからもITサポーターと共に協力し合いながら、伝統産業の振興と発展に努めていきたいと思います。」

 

 

本記事へのお問い合わせ先

山中漆器連合協同組合 担当:崎田明宏

e-mail : info@yamanakashikki.com

URL :   https://www.yamanakashikki.com/

TEL: 0761-78-0305​​​​​​​