ここに注目!IoT先進企業訪問記 第71回

顧客のさまざまな「みたい」を実現する
コニカミノルタの画像IoTプラットフォームFORXAI

1. はじめに

   売上の約8割が海外というグローバル企業であるコニカミノルタ株式会社(本社:東京都千代田区)は、「新しい価値の創造」という経営理念のもと、社会課題の解決に取り組んでいます。今回は同社の画像IoTプラットフォームFORXAI(フォーサイ)を紹介します。

2.スタートは社会課題の予想

 同社の事業開発は、2030年の社会課題を予想することから始めています。労働人口減少、医療費負担の増加、気候変動など、様々な社会課題の解決のために、同社ができることを考えたのです。その結果、「働きがい向上及び企業活性化」「健康で高い生活の質の実現」「社会における安全・安心確保」「気候変動への対応」「有限な資源の有効利用」の5つを、優先して対応すべきマテリアリティに選んでいます。

 マテリアリティはサステナビリティ関連用語で、組織や企業の活動において重要と考え、優先して取り組むべき課題を意味します。IoTやAIの発展で、2030年は人と機械が共存する世界に変わっています。FORXAIの開発に当たっては、同社の強みである光学デバイスと画像処理技術にIoT/AI技術を付加し、どのような価値を創造すればマテリアリティの実現に向けて貢献できるかを考えました。

 新しいプラットフォーム開発の背景にあったのは危機感です。同社の主な事業領域である複合機は紙のサービスだけでは先細りの懸念があり、ITやIoTを利用したソリューションサービスが不可欠になります。その他の事業でもさまざまな領域でDXを提供する同社にとって、新しい価値を創造する仕組みの開発が不可欠だったのです。

3.ビジョンを決める

 FORXAIの開発において、社会課題の検討の次に実施したのはビジョンの作成です。「Go Beyond Human Vision」というビジョンステートメントを考えだしています。この言葉には顧客の多様な「みたい」という要望に応え、「希望に満ちた社会を実現するために人類の視覚能力を超えていこう」という願いが込められています。顧客は疾病・がんの兆候を診たい、ガス漏れがないか視たい、美しい映像を観たいなど、さまざまな要望を持っています。それを得意の画像処理技術を活用して実現することを考えたのです。

 興味深いのは、これらのプロセスが当初は全社的に行われたものではなかったことです。トップダウンではなく、全社横断の技術開発部隊と製造プロセスに使われる機器・部品・コンポーネントやソリューションを提供しているインダストリー部門の事業開発部隊がリードしました。ビジョンの実現を考える中で、オフィス関連のサービスやソリューション、医療・ヘルスケアなど他の部門にも適用でき全社展開が可能ではないかという話となり、さまざまな分野に適用可能なプラットフォーム開発というアイデアにつながっています。

 考えてみると、同社の原点は150年の歴史を持つカメラ、写真事業です。その中核技術は画像処理技術です。この技術をベースに同社は複合機や医療診断機器などの領域にビジネスを拡大してきたのです。画像処理という原点に戻って新しい価値の創造を検討したら、全社のビジネスに関係することになったのは、自然な流れだと考えられます。

4.オープン戦略で臨む

 2020年11月から提供を開始したFORXAIは、セキュリティを確保しながらエッジデバイスとクラウドを容易に連携し、データ管理とAI処理を実行するための技術群です(図1参照)。クラウドを経由して遠隔地のエッジデバイスを操作・管理することができます。また、アプリケーションと接続して、容易にエッジデバイスのセンサーデータや画像情報などをリモートの環境から連携・活用することができます。

図1:FORXAIのCloud/Edgeの連携アーキテクチャーの概要
(出所:コニカミノルタ統合報告書2021)

 FORXAIの開発体制は他社とは大きく異なります。同社は、このプラットフォームやエッジデバイス、画像処理AI技術をオープンに提供し、初期投資を抑えながら顧客に素早くサービスを提供するため、他社との共創を促進するパートナープログラムに力を入れているのです。

 パートナーには、FORXAI技術を活用し、社会のDX化を加速させるソリューションを一緒に企画・開発・販売するパートナーである「ソリューションパートナー」、AI・デバイス・プラットフォームに関する技術をFORXAIに提供するパートナーである「技術パートナー」の2種類があります。ソリューションパートナーは、FORXAIが提供する「IoT Platform」「Imaging AI」「Edge Device」を利用し、ソリューションを開発することができます。一方、​技術パートナーが保有する技術や開発した技術は、ソリューションパートナーやコニカミノルタが開発するソリューションで活用されることとなります。

 パートナープログラムの大きな効用は、多様な画像処理AI技術を準備できることです。それから、ソリューションパートナーの持つさまざまな顧客を対象に画像処理AI技術を活用することができることです。技術を提供する者と活用する者との間で、win-winの関係を構築することができるのです。図2はFORXAIが提供している画像認識アルゴリズムを示すものです。同社の重点領域である「人行動」「先端医療」「検査」に加え、他社が提供しているさまざまな領域のアルゴリズムが準備されています。このアルゴリズムの対象領域が広がれば、それに応じてプラットフォームの価値が増大するのです。

図2:FORXAIで提供している画像認識アルゴリズム
(出所:コニカミノルタ提供資料)

 パートナープログラムを開始したのは2021年の4月ですが、2022年12月末の時点でパートナーは57社に達しています。当初は声がけをするなどしてパートナーを募集したそうですが、さまざまな情報を発信していることもあり、共創コミュニティが順調に拡大しています。

 この拡大の原動力となっているのは、同社の優れた画像IoT技術です。画像を中心とした高速・高精度なAI処理の技術群であるImaging AI、現場から高品質な画像データを収集するさまざまなEdge Deviceなどが、パートナー企業には魅力的なのです。同社は、この魅力をさらに高めるための取り組みも行っています。その一つは東京大学の高前田 伸也准教授と共同で開発し、オープンソースで一般公開しているFPGA向け高位合成コンパイラー「NNgen(エヌエヌジェン)」です。これは、計算量の多いAIアルゴリズムをEdge Device上で手軽に、そして省電力・高速・高精度で実装し、見えないものを見える化する技術です。

5.人財を育てる

 このようなプラットフォームを発展させるには、技術とビジネスの両方に通じた人財が不可欠です。FORXAIの開発に関わっている若手技術者が書いているEngineering Blogの記事を読むと、同社はこれにも力を入れていることが分かります。まず、若手技術者が開発の最前線で活き活きと働きながら、高度な技術に挑戦している様子が伝わってきます。ちなみに、このブログを見て入社した社員もいらっしゃるとか。パートナー企業や顧客との共創を通して、若手技術者がビジネスを理解し成長している様子も伺えます。

 同社のDX技術人財育成の取り組みは、会社が「モノ売りからコト売りへ」と変革を始めた2016年ごろから始まりました。最近では、「2020年には500名だった人財を3年で倍の1000名体制にしよう!」という目標が掲げられています。図3は、同社が必要と考えているDX技術人財のタイプです。これらの人財を育成するため、育成カリキュラムや社内認定制度が用意されています。技術者自身や組織が今後の業務やキャリアを考え、スキルアップを図ることができる体制が整えられているのです。
注:DXは、デジタルトランスフォーメーションの略語。

 

図3:コニカミノルタが2020年時点で必要と考えているDX技術人財のタイプ
(出所:コニカミノルタホームページFORXAI Engineering Blog「増殖中!
コニカミノルタの変革を加速するDX技術人財」,2022年11月9日)

6.FORXAIの開発拠点「Innovation Garden OSAKA Center」

 同社は、FORXAIの開発拠点、そしてパートナー企業との共創拠点として、2020年に大阪の高槻市に画像IoT/AI開発、事業創出のハブとなる「Innovation Garden OSAKA Center」を開設しています。この場で同社のDX技術人財は活躍しています。

 AIは個々の課題解決に特化しがちで、作り込んでようやく機能する側面があります。ヒト、モノ、カネを要するのです。これを、パートナー企業やさまざまな顧客が使える汎用的なものにするには、アルゴリズムや機能を迅速に拡張・改良することが不可欠です。AIでは学習に使うデータ集めが一苦労ですし、アルゴリズムや機能の拡張・改良には試行錯誤がつきものです。一人ひとりの技術者が力を付け、かつ、チームを組んで新しい価値を次々に創造すること、それに加えてパートナー企業や顧客と対話しながら、プラットフォームが進化を続ける仕組みを整えることが、今後のFORXAIの競争力向上には不可欠です。同社のオープン戦略とDX人財育成戦略がうまく機能し、FORXAIが世界の画像IoTプラットフォームに進化し、同社のグローバル戦略を支えることを期待したいと思います。

 

今回紹介した事例

人々の“みたい”に技術で応えるコニカミノルタのFORXAI Imaging AI

当社は創業以来、150年にわたりカメラ・写真事業で培った「イメージング」技術を活用し、世界中のお客様「見たい」という想いに応え、人々の生きがいを実現してきている。一方で、社会課題を解決するためには、単独の企業では顧客の課題を解決することが難しくなっている。そこで、イメージング技術とAI・IoT技術を掛け合わせた画像IoTプラットフォーム「FORXAI」を開発した。...続きを読む

 
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