本メルマガは、IoT価値創造推進チームのリーダーである稲田修一が取材を行ったIoT導入事例の中から、特に参考となると感じた事業や取り組みを分かりやすくお伝えする見聞記です。今回は、IoTシステムの設置・運用台数では大手IT企業に引けをとらない、ベンチャー企業のエコモット株式会社(本社:北海道札幌市中央区)の取り組みを紹介します。

ここに注目!IoT先進企業訪問記(33)

現場力を起点に多種多様なIoTソリューションを展開-エコモット

1.IoTソリューション専業ベンチャーのエコモット

 エコモットは、2007年2月に設立されたベンチャー企業です。ビジネスの主体となっているのは、建設、安全・防災分野のIoTソリューション事業。創業事業は、駐車場などの積雪状況を監視カメラでモニタリングし、融雪ボイラーの適正運転で融雪にかかるエネルギーコストを大幅に削減する「ゆりもっと」と呼ばれるソリューションです。この機器設置実績は、累計で2,186台(2019年3月時点)にのぼります。

 また、気象条件や河川水位などの自動計測・警報発出、コンクリート養生温度管理、入構車両の検知など、建設現場や災害現場のさまざまな省人化ニーズ、業務効率化や安心安全確保ニーズに対応する「現場ロイド」と呼ばれるパッケージソリューションも提供しています。約300 種類のバリエーションがあり、その設置実績は、累計で8,099件(2019年3月時点)に達しています。

 比較的新しいのは、「Pdrive」と呼ばれるパッケージソリューションです。2015年から提供しています。カメラとモバイル通信を搭載した高性能ドライブレコーダーを車両に取り付け、急ブレーキなどを検知した際にその前後10秒間の動画データが自動的に送信され、管理者はスマートフォンやパソコンでいつでもどこでも危険運転をチェックできるというものです。白ナンバーの営業車を中心に、31,153台(2019年3月時点)の設置実績となっています。

 同社の特長は、地に足のついたIoTソリューションを提供していることです。センサー、ゲートウェイデバイス、モバイルネットワーク、クラウド/アプリケーションを自在に組み合わせ、さまざまな現場ニーズに柔軟、かつ安価に対応しています。例えば、北海道ならではの重油タンクや灯油タンクの残量監視、飼料タンクの残量監視などのソリューション提供もその一環です。

 

2.ビジネスの基盤となるIoTプラットフォーム「FASTIO」

 エコモットのIoTソリューションの基盤となっているのは、「FASTIO」と呼ばれるIoTプラットフォーム注1です(下図参照)。FASTIOは「FAST(速い)」+「IoT」の合成語です。単価が低いソリューションやサービスを効率的に提供するため、ノウハウが溜まった時点でパッケージソリューションの共通部分をプラットフォーム化し、開発を効率化しているのです。

 

図:IoTプラットフォーム「FASTIO」の構成

 

 効率化のためのプラットフォーム化は、どのベンダーも実行する戦略です。でも、同社のプラットフォーム戦略は一味違います。それは、当初からデータ収集に力点を置いていることです。サービスやアプリケーション開発を効率化するために、クラウド部分をプラットフォーム化するベンダーは多いのですが、同社はゲートウェイデバイスとセンサーからなるデータ収集部分に力を入れ、他社と差別化したのです。

 このため、同社は、センサーやカメラなどが収集するデータ種別や収集頻度、電源に対する要求条件や設置環境の違い、モバイルネットワークの違いなどに対応したさまざまなゲートウェイデバイスを開発し、提供しています。

注1:IoT では、センサー部分で発生するデータを取得し、ゲートウェイデバイス、ネットワーク経由でデータをクラウドに集積し、そのデータを解析した結果を利用して価値を創出する。価値創出のためにアクチュエーターに制御指令を出すこともある。このような一連の処理を実現するハードウェアとソフトウェアの組み合わせが本来のIoT プラットフォームであるが、データの収集や蓄積に特化したもの、データ解析に特化したもの、IoTサービスやアプリケーションの集合体などを含めIoT プラットフォームと称することが一般的である。ここでは、一般的な呼び方に従う。

 

3.足で稼いで集めた2000種類のセンサー

 一方、センサーに関しては、「FASTIO」では2,000種類以上のセンサー(カメラを含む)を使うことができます。多種多様なセンサーに対応するゲートウェイデバイスとの組み合わせで、現場の多様なニーズに対応することを可能にしているのです。

 多くのセンサーを提供するのは、簡単ではありません。同社は、ホームページに「パートナープログラムを通じ、2,000種類以上もの接続実績のあるセンサーを用意」と書いていますが、実際には同社の入澤代表取締役がセンサーメーカーを一軒一軒訪問し、足で稼いで集めたのだそうです。

 クラウドベースのサービスやアプリケーション開発は、アイデア次第で簡単に参入できます。しかし、サービスやアプリケーションを広く普及させるのは簡単ではありません。現実には多くの社が類似サービスを提供し、レッドオーシャン注2化することが普通です。

 一方、ハードウェア分野では多種多様な製品が存在するので、これらを束ねることが重要です。IoTではデータを収集するセンサーの選択が肝の一つなので、さまざまなセンサーの提供をワンストップで行うことが価値となります。本来は大企業が得意な分野ですが、現場で使われるIoTは低コストが基本です。一般的に、大企業は単価の低い領域できめ細かなニーズに機動的に対応することが苦手です。一方、同社のライバルとなる中小企業やベンチャーには、足で稼ぐ体力はありません。これらの状況を考えた上でのデータ収集に力点を置いたIoTプラットフォーム構築という選択だったのです。

 

注2:血で血を洗うような激しい価格競争が行われている市場のことをいう。逆に、新しい商品やサービスを開発・投入することで創出される競合相手のいない未開拓市場は、ブルーオーシャンと呼ばれる。

写真:2,000種類のセンサー掲載カタログを示す入澤代表取締役

 

4.現場力を強みに転換する

 エコモットは、数多くのIoT設置実績を積み重ねています。電波が届きにくい場所でのセンサー設置、電源確保、発電機からのノイズを防ぐ工夫、ケーブルが動物に噛まれて断線することへの対応など、現場で工夫が必要なことは多々あります。事例を積み重ねることで、現場力が磨かれるのです。

 また、データの異常値の原因を知ることも重要です。ダンプカーが通る、あるいは強い風が吹くことでセンサーを設置した支柱が揺れ、異常値が発生する場合があります。河川の水位を超音波センサーで計測していた時には、川岸ではえている雑草が強風で揺れてそれが誤計測の原因だったそうです。顧客からは誤計測のない機器を設置してほしいとの要望があり、機器提供者であるセンサーメーカーからは誤計測の原因は分からないということなので、入澤代表取締役自らが何回も現場に足を運びついに原因を突き止めたのだそうです。

 多くの人はデータ解析が大変だと考えています。サイバーの世界ならばそうかもしれませんが、リアルの世界は違います。正確なデータを収集すること、とったデータが何を意味するかを理解すること、これがデータ解析よりもはるかに重要で時間を要します。現場というリアルな世界での実践の積み重ねが、センシングに適した場所の選定や現場に合った機器や設置法の開発、センシングデータの異常値の発生原因の理解など、同社の強みになっているのです。

 

5.今後の展開はAI活用が課題に

 エコモットの強みはデータ収集の現場力ですが、この現場力をベースとしてデータ収集のみで企業を大きくするには、人手と資本力が必要となります。また、利益率を高めることは難しいかもしれません。この課題を解決し、同社のビジネスの付加価値を高める可能性のある領域がデータ活用で、そのためのツールがAIです。同社の入澤代表取締役は「IoTは神経、AIは脳。わが社は神経系には強いので、次の展開は集めたデータをAIに提供すること」と述べ、AI活用を進めています。

 同社のIoTソリューションの主力である建設、災害現場は、人手確保が大きな課題となっています。一般社団法人日本建設業連合会が2015年3月に発表した「再生と進化に向けて-建設業の長期ビジョン」によると、2014年度の建設技能労働者数は343万人ですが、高齢化などで2025年度までに約1/3の109万人が離職すると見込まれています。

 若手を中心とする新規入職者の増加のための対策は展開しているものの、必要な数の技能労働者数は確保できない可能性が高いので、ビジョンでは生産性向上による省人化が不可欠と結論付けています。このため、AI活用による省人化・自動化には、業界全体で強いニーズがあります。これに加え、国土交通省による後押しもあり、建設業界では収集データを使ったAI活用に挑戦する企業が増えています。

 同社は、手始めに融雪モニタリングソリューションの「ゆりもっと」で、融雪の状況をAIの目で監視し、融雪ボイラーの運転判断情報を自動的に提供する予定です。一方、同社のユーザーは、同社とは別にさまざまなAI活用を進めています。FASTIOは、収集データをAPI注3経由で外部サービスと連携できるように構築しているので、独自のAI活用を進めやすいのです。

注3:Application Programming Interfaceの略語。あるサービスやアプリケーションが持っている機能や管理するデータなどを外部のサービスやアプリケーションから呼び出して利用するための手順やデータ形式などを定めた規約のこと。

 

6.AI活用のポイントは業界でデータを束ねること

 では、同社のAI活用戦略はどうしたら良いのでしょうか。同社のさらなる発展の鍵となるのは、異なるユーザーから収集したデータを集約し、解析することです。建設業界には沢山の企業があります。一つひとつの企業が収集するデータでは量的に不十分なケースが多く、AI活用で十分な価値を創出することは難しいでしょう。このため、沢山の企業が収集するデータを束ねて価値を創出できれば、大きな可能性が拡がるのです。

 これに成功しているのは、宿泊サイトがデータを束ねる役割を果たしているホテル業界です。個々のホテルのデータは当該ホテルにしか提供されませんが、全体動向や大量の収集データを解析して作成したアルゴリズムは宿泊サイトに登録したホテルで共有可能になっています。これらの情報やアルゴリズムがホテル業界全体のビジネスに有用だからです。

 同社のビジネス領域で業界全体の価値創出につながるAI活用を実現すること、これがこれからの課題です。建設現場、災害対策の現場などで省人化・自動化を進める上では、さまざまな場面において人による判断から画像データをベースとしたAIを活用した判断に切り替えることがポイントとなります。AIに置き換えることができる作業を割り出すこと、データを収集してその効果を実証すること、それと並行してデータ共有のため業界に根回しを行うこと、業界との協働でAI活用のための教師データを作成すること等など、エコモットと入澤代表取締役にとっては、当分の間、忙しい日々が続きそうです。

 

今回紹介した事例

Pickup_ecomott.png

現実世界のセンシングとクラウドでのデータ活用をSensing as a Serviceとして提供する - エコモット「FASTIO」

 IoTによる業務改善を実現するためには、現実世界のセンシングを行い、専用システムの構築が必要など、多くの企業にはハードルが高い。そこで当社のノウハウを生かし、共通機能をプラットフォーム化することによって、迅速かつ柔軟なサービス提供を可能とする「FASTIO」をリリースした。...続きを読む

 
 
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