IoT導入のきっかけ、背景
当社は2007年の創業以来、IoTによるセンシングや遠隔制御を活用した、融雪システム遠隔監視ソリューション「ゆりもっと」や建設情報化施工支援ソリューション「現場ロイド」などの特定の業種に対応したユニークなサービスを提供してきた。
IoTが注目されるようになり、様々な業種で業務の見える化やプロセスの改善を行うことが期待されている。そのためには現実世界のセンシングを行い、収集データを活用する必要があるが、このセンシングとデータ活用の実現は、多くの企業にとってハードルがある。例えば、目的に応じたセンサーの選定、安定した無線通信を行うためのハードウェアや設置環境の最適化、収集データを分析し活用するためのシステム構築など、広い範囲の知識やノウハウが必要となるためである。
そこで当社は、創業以来蓄積したセンシングとデータ活用のノウハウを生かし、これらの共通機能をプラットフォーム化することによって、迅速かつ柔軟なサービス提供を可能とする「FASTIO」を2014年にリリースした。FASTIOでは、2,000種類ものセンサーをラインナップし、お客様の様々な課題を解決するセンサーとアプリケーションのパッケージをワンストップで提供することによってIoT導入のハードルをなくしている。こうしたサービスの展開によって、本稿執筆時点で累計7,000以上の現場設置、常時18,000アイテムの運用を実現している。
IoT事例の概要
サービス名等、関連URL、主な導入企業名
サービス名 : FASTIO
URL : https://www.fastio.jp/
サービスやビジネスモデルの概要
FASTIO(FAST + IoT)は、収集したデータを、簡単かつスピーディーにビジネスで利用するための、IoTデータの収集・管理に必要な要素を組み込んだプラットフォームサービスである。
本サービスでは、データの収集と蓄積をクラウドサービスとして提供することによって、お客様は迅速にシステムを構築できるとともに、データ発生量の季節変動などにも柔軟に対応することができる。また、工事現場など期間限定のシステム構築・撤去を容易に行うことができる。FASTIOを利用することによって、センサーの選定や取り扱いが簡単になり、また、現地での設置などについても支援しているので、これら専門知識が必要な部分を意識することなく、収集したデータを利用していかにビジネスを行うかという最も重要な点にフォーカスすることが可能となる。
内容詳細
FASTIOの特徴を以下に示す。
(1) 豊富なセンサーとゲートウェイのラインナップ
数多くのセンサーベンダーと協力関係を構築し、2,000種類ものセンサーをラインナップ。これらのセンサーは特別な開発を必要とせずにFASTIOへ接続することが可能である(図-1を参照)。加えてセンサーをFASTIOのクラウドサービスに接続するための自社開発のゲートウェイ(通信デバイス)を取り揃えている(図-2を参照)。
図-1 豊富なセンサーのラインナップ
図-2 自社開発のゲートウェイ
(2) センシングのノウハウ(つなぐ力)
センサーを設置しただけでは、意図した精度や安定度でデータを収集できないことが多い。物理量を微弱な電気信号(*1)に変換するセンサーを安定動作させるための電源の確保や、センサーを屋外に設置する際の外来ノイズへの対処など、安定したセンシングを行うためには多くのノウハウを要するためである。当社は創業以来10年以上に渡って蓄積したこれらのノウハウを生かし、お客様が必要とするセンシング環境の構築支援が可能である。
また、リモートセンシングに欠かせない無線通信(4G/LPWAなど)では、電波の伝搬条件や基地局との位置関係によって通信状態が変わるが、当社はデバイスのアンテナ形状の最適化を含め、安定した無線通信の実現に関しても多くのノウハウを保有している。
(*1): 例えば、半導体に光が照射されると電圧・電流が生じる光起電力を用いた照度センサーでは、センサー内でμA単位の電流変化を読み取って照度に変換する。
(3) APIを使用した外部サービスとの連携
FASTIOのデータベースに格納したデータを、APIを介して外部サービスに渡すことによって、salesforce.comなどのサービスを使用した分析や可視化が可能である。(図-3を参照)
図-3 外部サービスとのAPI連携
(4) すぐに使えるアプリケーション
代表的なユースケースを、センサーとアプリケーションを組み合わせてすぐに使えるパッケージに仕立てて提供している。一例として、ドライブレコーダーを使用した交通事故削減ソリューション(図-4を参照)、AIカメラを使用したエッジAI監視パッケージ(図-5を参照)などがある。
図-4 ドライブレコーダーを使用した交通事故削減ソリューション
図-5 AIカメラ(MRM-900)を使用したエッジAI監視パッケージ
概要図
FASTIOの概要図を図-6に示す。
図-6 FASTIOの概要図
取り扱うデータの概要とその活用法
- 多様なソリューションに必要な各種データを扱うことが可能。
- FASTIOアプリケーションによるデータの可視化と分析。加えて、APIによる外部サービスとのデータ連携機能を提供。
事業化への道のり
苦労した点、解決したハードル、導入にかかった期間
FASTIOは、IoT向けのクラウドサービスがまだ世の中に存在しない時期から開発を始めた。そのため、当初はクラウドにデータを預けるという考え方がまだ浸透しておらず、お客様への説明に苦労した。最近はお客様の考え方も変わってきたため、クラウド利用のハードルは下がっている。
センシングしたデータへのノイズ混入の原因を突き止めるために、現場に何回も通った。例えば、橋の床版に超音波センサーを取り付けて水位を測定する事例では、スパイク的に測定誤差(ノイズ)が発生する現象に悩まされた。現場に何度も通い、ノイズが発生するタイミングと現場の状態を観察した結果、川岸に繁茂した雑草が風で揺れる瞬間や大型トラックが通過したタイミングでデータが揺らぐことが分かり対策を行った。
このように現実世界のセンシングは、実際に行ってみると予期しなかった問題が発生することが多い。これらの対処には多くの時間を要し、本来の業務を抱えるお客様にとっては簡単でない。当社は、現場でのセンシング経験の積み重ねから、問題への迅速な対応が可能である。
技術開発を必要とした事項または利活用・参考としたもの
ゲートウェイなどのハードウェア、プラットフォームのソフトウェア共に自社内で開発している。ハード開発者、ソフト開発者とインテグレーションを行えるエンジニアを擁していることが当社の強みである。
今後の展開
現在抱えている課題、将来的に想定する課題
LPWAの出現によって通信コストが下がったことなどから、お客様のIoT導入に関するコスト意識が変化する中、ビジネスとしての収益性をより高める必要がある。そのために、ソリューションやサービスにより高い付加価値をつけて適正なリターンを得られるようにしたい。例えば、IoTやAIによって、従来は人手に依存した作業を自動化し、削減できた人件費の一部を対価として頂けるような新たな価値を提供していきたい。
強化していきたいポイント、将来に向けて考えられる行動
不動産、建設、運輸業は当社が強みとしている業種である。今後は、流通、小売、製造、介護事業での実績を作っていきたい。
こうした幅広い業種の課題には、当社一社では対応ができない。そのため、例えば人手不足で困っている課題を持ち、かつ現場の業務を熟知しているお客様と協業する形で新しいソリューションを作りたい。
将来的に展開を検討したい分野、業種
人手不足の解消という点では、介護や観光業に注目している。当社の地盤である北海道にも年間250万人規模のインバウンド観光客が訪れており、こうした業界のプレーヤーと協業することによって新たなサービスを生み出したい。