本メルマガは、IoT価値創造推進チームの稲田修一リーダーが取材を行ったIoT導入事例の中から、特に参考となると感じた事業や取り組みを分かりやすくお伝えする見聞記です。 

 今回は、ブリヂストンのタイヤセンシング技術を取り上げます。同社から話しを聞いている時に思い浮かんだのは、ホンダの創業者である本田宗一郎の「やってみもせんで、何がわかる」という言葉。本事例では、困難な技術開発に果敢に挑戦し、価値創出につなげた取り組みを紹介します。

【ここに注目!IoT先進企業訪問記(8)】

価値創出の根源はタイヤメーカとしての技術力―ブリヂストンのタイヤセンシング

 ブリヂストンは、タイヤの内面部に取り付けたセンサーから取得したタイヤのトレッド(路面との接地面)の振動や温度、圧力のデータを機械学習により解析し、路面状態をリアルタイムで判別する技術を開発しています(写真参照)。また、同技術を発展させ、タイヤ踏面部の挙動変化のデータを取得・解析することにより、タイヤの摩耗状態を推定し、適切なタイミングでのタイヤ交換や偏った摩耗を防止するための最適ローテーション時期を把握する技術も開発しています。

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タイヤに取り付けたセンサーとバッテリー(写真提供:ブリヂストン)


 タイヤは高速に回転し、常に振動を受けています。時折大きな衝撃を受けることもあります。デバイスにとっては過酷な環境です。技術開発をスタートさせ、学会に論文を出したのは10年ほど前のことですが、当時は研究もあまり進んでおらず、得られるデータからどのような価値が創出できるか良く分かっていませんでした。でも、同社は開発を諦めませんでした。「何事もやってみないとわからない」というスタンスで開発を進めたのです。

1.泥まみれのデータ取得作業とその成果

 データ取得作業は簡単ではありません。担当者は、泥まみれになりながらデータ取得作業を実施したそうです。過酷な環境やさまざまな条件で、実験の繰り返しでデータを積み上げ、それがデータ活用において強みになったのです。

 思った以上に時間はかかりましたが、シミュレーションや実験を重ねて「乾燥路面から湿潤路面に変わる時は、タイヤは路面に接する前に水膜と接するので、それを示す大きな加速振動が得られる」「凍結路面を走行している場合は、タイヤが微妙に滑りながら回転しているので、その滑りによって生じる加速度が波形の特徴として現れる」など、データ活用に直結する知見が得られたそうです。まさに、タイヤの物理に詳しいことが「タイヤセンシング」という新しい価値創出につながったのです。

 出来上がってみれば一見簡単なことのように感じられる方がおられるかもしれませんが、このような波形の特徴抽出を可能とするにはデータの下処理作業が必要で、この部分が非常に苦労するところです。測定した加速度波形のどの部分に特徴が現れるのかを見つけ、また、その特徴をノイズから分離して抽出するために必要なフィルターの特性を決めるなど、何回もの試行錯誤が必要だからです。

 また、同社はマイクロ発電機も自社開発しています。車の走行中に、タイヤの中に設置したデバイスを機能させ、さらに取得したデータを車両に搭載したモニタリング装置までリアルタイム無線伝送するために電力が必要だからです。

2.タイヤセンシングの高度化に向けて

 同社は、株式会社ネクスコ・エンジニアリング北海道と協力し、タイヤセンシングのデータを用いて雪道の路面状態を詳しく判別するアルゴリズムを開発しました。そして、東日本高速道路株式会社は、この技術を使って凍結防止剤を散布する区間や路面状態に応じた最適散布量を決めるために使っています。

 タイヤからのセンシングデータは、運転の安全性を高めるために必須です。すでに欧米や韓国では、タイヤの空気圧を監視し、その低下を警告するシステムをタイヤに装着することを義務付けています。空気圧が低下したまま高速運転すると、タイヤがバーストし、車に乗っている人の生命に関わる可能性があるからです。将来の自動運転の実用化を考えると、路面状況を自動的に認識し路面状態に応じた運転に変える技術の必要性は極めて高いと考えられます。

 ただし、この実現には、さらに技術を磨くことが求められます。例えば、センシングデバイスを一般車両のタイヤに取り付けるためには、運転時に遭遇する可能性のあるさまざまな路面状態を判別するアルゴリズムを開発・検証し、さらに何よりも実環境で使ってみて技術をブラッシュアップすることも不可欠です。

 同社は2017年1月にデジタルソリューションセンターを設置し、社内の技術課題を解決するとともに、お客さまの困りごとを解決するソリューションプロバイダーになるべく、デジタルトランスフォーメーションを推進しています。推進に当たっては多くの関係者と協力し、技術開発のスピードアップを図ることが必要です。困難なことに果敢に挑戦するバイタリティとIoT時代の開発手法を上手に組み合わせ、同社がタイヤセンシング技術とその応用技術の高度化に成功することを期待したいと思います。

 

今回紹介した事例

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タイヤセンシング技術「CAIS」による
ソリューションビジネスの提供

 タイヤは路面と直接接している唯一の部品であることを活かして、接地面やタイヤの情報を収集、解析し、路面情報やタイヤの状態を把握することで、お客様に新たな価値を提供できると考え、技術開発を進めた。…続きはこちら

 
 
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