IoT導入のきっかけ、背景
当社では以前より車両部品としてのタイヤの製造だけでなく、当社のタイヤを装着した車両を安心・安全にお使い頂くため、自動車の電子化の進展のタイミングに合わせ10年程前からタイヤのセンシング技術の開発を行っていた。さらに数年前よりは、情報化による安心・安全を提供するソリューション提供という観点からも技術開発を進めてきた。
タイヤは路面と直接接している唯一の部品であることを活かして、接地面やタイヤの情報を収集、解析し、路面情報やタイヤの状態を把握することで、お客様に新たな価値を提供できると考え、技術開発を進めた。一例として、タイヤの内面部に取り付けたセンサによって得た情報を機械学習により解析し路面状態をリアルタイムに判別する技術を開発した。
また、タイヤ踏面部の挙動変化を取得し、その挙動変化の情報を解析することにより、タイヤ踏面部の摩耗状態を推定し、適切なタイミングでのタイヤ交換やローテーション推奨時期を把握できる技術を開発した。
路面状態のリアルタイム判別については、株式会社ネクスコ・エンジニアリング北海道と共同で当社の路面センシング技術の試験・評価を行い、路面状態を7つの区分注に判別するアルゴリズムを開発した。この技術を活用し、東日本高速道路株式会社は、路面判別データを基に凍結防止剤の散布量を把握し、散布区間・散布量を路面状態に応じた最適な散布を実施している。
注:「乾燥」「半湿」「湿潤」「シャーベット」「積雪」「圧雪」「凍結」という区分
IoT事例の概要
サービス名等、関連URL、主な導入企業名
当社技術名称:「CAIS」(Contact Area Information Sensing)
導入企業名:ネクスコ・エンジニアリング北海道
サービスやビジネスモデルの概要
積雪寒冷地域の高速道路では、冬季の円滑な交通の確保は重要な課題である。このため、路面凍結を回避する目的で塩化ナトリウム等を主材料とする凍結防止剤を散布しているが、この塩化ナトリウムによる道路構造物や周辺環境への影響を最小限とするため、必要量以上の散布を行わず散布量を最適化する必要があった。
凍結防止剤散布量の最適化には、路面状況の把握・判別が重要だが、従来は主に人が道路巡回により目視で判断しており、より正確な情報を得るためには、経験豊富な熟練者が必要不可欠な状況となっていた。
タイヤセンシングと機械学習による解析を行うCAISから得られた路面判別データを基に路面状況の的確な判断を実現することによって、凍結防止剤の散布作業の自動制御を実現したものである。
内容詳細
(1)路面状態判別
- タイヤのトレッド(路面と接地する部分)内側に装着した加速度センサ(周方向)によりタイヤのトレッドの振動を検出し、その情報を無線で車載解析装置へ送信する。また、このシステムは同じくタイヤ内に装着された独自の発電装置を用いて駆動している。
- 車載解析装置に送信された振動をリアルタイムに解析し、7つの路面状態(乾燥、半湿、湿潤、シャーベット、積雪、圧雪、凍結)に判別する
- 路面状態の判別結果を車内ディスプレイに表示できる。
(2)雪氷対策への適用
CAISの路面判別結果は、リアルタイムにインターネット経由でWEBサーバに送信され、データベースが構築される。そのデータベースにアクセスすることで、100mごとの路面状態に合わせた最適散布量を計算できる。自動散布装置を搭載した凍結防止剤散布車は、自動でサーバにアクセスし路面データをダウンロードし、凍結防止剤散布車は走行するだけで自動的に散布作業を実施する。
概要図
取り扱うデータの概要とその活用法
- 加速度、歪、圧力、温度など
事業化への道のり
苦労した点、解決したハードル、導入にかかった期間
- 厳しい環境条件、使用条件に耐え得る、耐久性のあるセンサ、発電機、通信モジュールの開発
- データの解析法については、さまざまな条件の実験を長期間に亘り実施し、試行錯誤で確立した。また、路面状態を7つの区分に判別する教師データの作成にあたっては、実際に路面状態を判別している実務に携わる方々に協力してもらった。
技術開発を必要とした事項または利活用・参考としたもの
- センサの駆動電力を得るため、タイヤの回転運動を利用した発電機を自社開発。
- 同じく、センサデータを車載解析装置に送信する通信モジュールを自社開発。
今後の展開
現在抱えている課題、将来的に想定する課題
将来的な一般車両への適用については、より簡素で軽量なシステムにすることが必要。また、多様な使用条件においても判別するアルゴリズムを検証し、ブラッシュアップすることが必要。
強化していきたいポイント、将来に向けて考えられる行動
以下の2つのサイクルを回し、安心・安全なクルマ社会に寄与する企業を目指す。
- お客様へのサービス提供を拡大すること、例えば、一般車両への適用に向けた技術開発
- 収集したデータをタイヤの開発・製造にフィードバックし活用する
デジタル技術によって社内の技術課題を解決するとともに、お客さまの困りごとを解決するソリューションプロバイダーになるべく、デジタルトランスフォーメーションを推進するデジタルソリューションセンターを2017年1月に設置した。
将来的に展開を検討したい分野、業種
- 今後、海外へのサービス展開を視野に入れる。
- (タイヤを持つ)あらゆる車両に関連する業種へのサービス提供を検討したい。