本メルマガは、IoT価値創造推進チームの稲田修一リーダーが取材を行ったIoT導入事例の中から、特に参考となると感じた事業や取り組みを分かりやすくお伝えする見聞記です。 

 第6回目はNTTドコモ様の事例です。この事例では、技術優位性の確保とそれを発揮できる領域の発見が新しいサービスに結びついています。この点が大変参考になりました。

【ここに注目!IoT先進企業訪問記(6)】

AIエージェントを使った新たなコンテンツ基盤の創造に向けて(NTTドコモのエージェントサービス)

 ヨーロッパの美術館やお城には、歴代の国王や貴族の当主の肖像画を並べた部屋があることがあります。彼らの顔立ちをじっくり見ていると、DNA(遺伝子)のなせる技に感動します。数世代後に容貌がそっくりな人物が出現している、突き出た下唇などの特徴が数世代に渡り受け継がれている、などの発見があるからです。NTTドコモのエージェントサービス(※注)「iコンシェル」の取材をした時に感じたのは、このDNAの作用です。
 かつて同社は、「iモード」で一世を風靡しました。1999年に開始されたこのサービスは、携帯電話でウェブ閲覧を可能にするなど大きなイノベーションを実現しました。我が国では提供直後から爆発的に普及し、2010年3月末には契約数が4,899万に達しました。iPhoneのプラットフォーム開発にも大きな影響を与えたとも言われています。
 このiモードのDNAが、現在、同社が提供しているエージェントサービスに引き継がれています。技術を意識せずに気軽に使えるサービス、生活に身近で便利なサービスという特徴です。

※注:定型的な質問に対する答えの探索、雨雲アラーム・終電アラームなどの今いる場所に合わせたお知らせ、スケジュールに合わせたコンテンツの提供など、利用者の行動サポートをコンピュータで自動的に行うサービス。

1.エージェントサービス高度化の切り札は独自の日本語音声認識とAIの活用
 現在、NTTドコモは二つのエージェントサービスを提供しています。その一つ、2008年にサービスを開始した「iコンシェル」は、モバイル利用者の生活エリアやライフスタイルに合わせた情報提供を行っています。もう一つの「しゃべってコンシェル」は2012年から、音声によるさまざまな操作や情報検索などを実現しています。そして、これらの高度化に向けて期待されているのが、音声とAIの活用です。
 同じ分野での音声活用に関しては、米国企業が先行しています。2014年頃からAmazon、Apple、 Googleが、自宅内で利用する音声対話型エージェント端末を発売しています。これに対抗するため、NTTドコモも2016年から音声対話をエージェントサービスに取り入れました。音声対話には言葉の認識が必要不可欠です。同社には、しゃべってコンシェルで培った日本語認識技術があり、この優位性を活かせる分野と判断したのです。
 音声対話型エージェントでは、対話のやり方が「しゃべってコンシェル」のようにスマートフォン近傍で話すのではなく、少し離れた場所から話しかける形態に変わります。すると、いやおうなく他人の声やTVの音声が混入します。電子レンジや洗濯機の音など生活雑音の影響も受けます。NTTドコモはこれらの影響を考慮し、音声認識率を高め実用化したのです。また、対話意図がうまく認識できなかったケースを膨大なデータから割り出し、認識ロジックを継続的に改善し対話精度を高めています。対話型エージェントはまさに対話に関する専門知識とノウハウの塊であり、一度優位性を確立すると追いつくのが難しいエリアなのです。
 もう一つのAI活用では、雨で通勤・通学に時間がかかりそうな時に、天気や交通機関の運行情報などを考慮した上で早めの出発を提案する、旅行の予約だけではなく旅先の天気や周辺情報を提供するなどのサービスが考えられています。これらのサービスも実は専門知識とノウハウの塊です。
膨大なデータを分析することにより、利用者一人ひとりの嗜好や行動パターンを理解し、しかも適切なタイミングで役に立つと考えられる情報を提供することが求められるからです。これも一度優位性を確立すると、追いつくのが難しいエリアです。

2.イノベーションの鍵は非常識を常識に変えるDNA
 NTTドコモのエージェントサービスでは、自治体情報、地域ニュース、スーパーの安売り情報などさまざまな分野で他社と積極的に連携し、暮らしに身近で有用なサービスを提供しています。でも、残念ながらiモードの時のように「こんなサービスが欲しかった」というワクワク感が十分ではありません。同社は、外部ファシリテータを招請したアイデアソンやプロトタイプを用いた市場調査など、イノベーションに向けた取り組みはしっかりと行っていますが、やり方がどことなく教科書的、優等生的なのです。
 イノベーションには、意外なアイデアの組み合わせが求められます。そして、それを実現する鍵は、異なる経験や意見を持つ人たちの葛藤です。この葛藤の中で非常識と思われる思いつきが面白いアイデアとして浮かび上がり、そのアイデアをベースにプロトタイプを作成し、その有用性を検証する中で新しい価値として認識されるのです。
 iモードは、そのような葛藤が生み出したサービスでした。同社はコンテンツビジネスに必要なエコシステム構築で世界に先駆け、成功を収めた経験があります。自由闊達でやんちゃな雰囲気の中で自分たちが持っているDNAパワーを最大限発揮させるとともに、世界有数の技術開発力とパートナー戦略を上手に掛け合わせることができたら、米国企業を凌駕するコンテンツビジネス基盤への進化につながるのではと感じました。AIエージェントの活用など、同社の今後の挑戦に期待したいと思います。
 

今回紹介した事例

PickUP_docomo.png

高度な音声認識・AIを駆使したホームエージェント
ドコモ「iコンシェルホーム」

 当社は、音声対話型のエージェントサービスとして「しゃべってコンシェル」を2012年からサービスしている。また、モバイル利用者のライフスタイルや居住地域に合わせた情報提供を行うエージェントサービス「iコンシェル」を2008年からサービスしている。...続きを読む

 
 
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