ヤマハ発動機株式会社
- 農林水産業
- コスト削減
- 事業・業務プロセスの改善
- 収集情報を活用した新規事業の発掘
- 森林の状況を詳細に把握
【活用対象】
- 一般顧客
- 社会全般
IoT導入のきっかけ、背景
ヤマハ発動機株式会社 (以下、当社)は、CO2の吸着機能が森林の新たな価値として注目されるなか、環境保全や資源の循環に役立つべく森林計測事業をビジネスとして立ち上げた。同事業では、30年以上の飛行実績がある産業用無人ヘリコプター(以下、無人ヘリ)に高性能レーザスキャナー(LiDAR)を搭載し、森林の立木情報(位置、高さ、幹の直径、材積)を計測する。
従来の人による地上計測の場合、人手や手間、時間がかかるのがネックとなっていた。人が歩いて入る場合、1日あたりの計測面積は3haから5haである。電動ドローン(無人航空機)を使う場合だと多少範囲が広がり、1日あたり約20haとなる。そして計測密度は1平方メールあたり100点/m程度、また、1回あたりの平均航続時間は約10~15分である。
これに対して無人ヘリは、1日あたりの最大計測面積が100ha、1平方メートルあたりの計測密度は3,000点以上にもなる。当社の無人ヘリの航続時間は1回あたり最大約100分であり、広範囲にわたり高精度な計測ができるとともに、離発地点から離れたエリアへのアプローチも可能にしている。
また、無人ヘリに搭載したLiDARは、1秒間に75万回のレーザを照射する。点群データを基に、一般的なGIS(地理情報システム)ソフトで利用できる等高線図、傾斜分布図、CS立体図注1、立木マップ、オルソ画像注2など、必要に応じてデータ解析・可視化を行っている。
なお、当社の無人ヘリによる森林計測事業は、一般社団法人 日本UAS産業振興協議会(JUIDA)主催のJapan Drone 2021 |第6回(2021年6月14日~16日に千葉県幕張メッセで開催)の最終日に実施された表彰式で、ニュービジネス部門の最優秀アワードおよびベストオブオーディエンス部門の最優秀アワードをダブル受賞している。
注1:長野県林業総合センターが考案した地形表現図で、曲率(Curvature)と傾斜(Slope)の組み合わせにより視覚的・直感的な地形判読を可能にした地図。
注2:撮影した空中写真では、レンズの中心から対象物までの距離の違いによって写真上の像に位置ずれが生じる。この位置ずれを修正することをオルソ補正といい、この補正をかけた空中写真のことをオルソ画像と呼ぶ。
IoT事例の概要
サービス名等、関連URL、主な導入企業名
・サービス名:森林計測サービス
・関連URL:https://www.yamaha-motor.co.jp/ums/forest/
・導入先:自治体、企業、団体
サービスやビジネスモデルの概要
森林計測サービスは、自社で開発・製造を手掛け、自動航行機能など高い航続性能を備える無人ヘリを活用している。空からの森林計測に最適なスペックである高解像度LiDARを無人ヘリに搭載し、樹頂点から30~50mの上空より1秒間に75万回のレーザを照射し、高密度・高精度な点群データを計測範囲すべてにわたり取得する。その結果、短期間かつ精緻な3次元デジタルデータ化により「森林の見える化」「森林のデジタルツイン」を実現している。
図1:産業用無人ヘリコプター(出所:ヤマハ発動機提供資料)
なお、林野庁より「令和3年度UAV注3レーザを活用した人工林の林分内容解析手法等検討委託事業」を受託し、本事業の報告書が林野庁ホームページにて公開されている。
注3:UAV= unmanned aerial vehicle、無人航空機。
林野庁「UAVレーザを活用した人工林の林分内容解析手法等 検討委託事業報告書」 https://www.rinya.maff.go.jp/j/gyoumu/gijutu/attach/pdf/syuukaku_kourituka-59.pdf
また、森林計測サービスは、林野庁、森林整備センターをはじめ24道府県、約1万haの実績がある(2021年末の時点)。
無人ヘリの特徴である「ゆっくり、長く、低く 」飛ぶ事を活用することで、レーザ照射を真下向きだけでなく斜めに照射することが可能となる。これにより点群データを獲得できる範囲が広がり、より詳細に森林計測することが可能となった。(図2:左側)
斜めにレーザ光を照射することでレーザ光の透過性がよくなり、葉に照射されるだけでなく、幹、地表面まで多くのレーザ光を届かせることが可能となったのである。(図2:右側)
図2:森林計測のイメージ
(出所:ヤマハ発動機提供資料)
従来の有人機やUAVで取得した点群データでは、立木の位置や本数は、樹頂点で把握していた(図3:左側)ため本数の精度誤差が20%程度あった。これに対し、より高密度な点群データを取得できる(約3,000点/m²)無人ヘリによる森林計測では、これらを幹で把握することが可能(図3:右側)となり本数の精度誤差は5%以内となっている。
立木の直径に関してもほぼ1:1で計測できることが確認されており、胸高直径に関しても信頼性の高いデータを取得できる。また、25cmメッシュサイズでCS立体図を作図することも可能となり、細い林道や作業道、尾根のラインもしっかりと把握できるようになっている。
図3:計測・解析手法による精度の違い
(出所:ヤマハ発動機提供資料)
森林計測サービスの提供価値として大きく以下の4つがある。(図4)
・森林経営の意向確認
提供先:市町村
提供データ:点群データ、立木データ
用途:森林経営管理法に基づいて経営委託の際に意向確認時の証拠として使用
・伐採計画作成・実績管理
提供先:森林組合、企業
提供データ:立木データ、林相図、地形図
用途:施業計画策定、施業管理のデータとして使用
・境界の確認
提供先:市町村
提供データ:地形図、林相図
用途:山林所有者の境界確認用として使用
・危険地の把握
提供先:都道府県、市町村
提供データ:地形図、相対幹距比
用途:山崩れ、地滑り、土石流など危険地把握のデータとして使用
図4:森林計測サービスでの提供価値
(出所:ヤマハ発動機提供資料)
取り扱うデータの概要とその活用法
・GIS(地理情報システム)ソフトで確認できるデータ形式(顧客に提供)
GeoTIFF:位置情報付きの地図上に表示できる画像ファイルデータ
Shape File:XY座標情報を持った地図データファイル(拡張子:shp)
・無人ヘリ制御データ(内部で使用)
事前に地形データを考慮してプログラミング。
現地で状況に合わせてオーバーライド。
事業化への道のり
苦労した点、解決したハードル、導入にかかった期間
仮説を出して、検証して事業化に至るまでには約3年を要している。上空からのレーザ計測で幹まで十分に見えることを証明したのは、当社の森林計測によってである。
現在の森林計測は樹種によるところがあり、木がまっすぐに生えている森林であることを前提として計測している。広葉樹などそうでない森林の計測はこれからである。クラス1注4のレーザを使用しており、透過ができず光の陰になるところは計測が難しい。針葉樹林であっても、枝打ちされていない木、手入れがされていない森林の測定には課題がある。
注4:レーザ製品の安全基準のクラスを示す。クラス1は、直接レーザビーム内で観察を長時間行っても、またそのとき、観察用光学器具(ルーペ又は双眼鏡)を用いても安全であるレーザ製品であることを示す。
技術開発を必要とした事項または利活用・参考としたもの
当社が持つ計測・解析技術を活かして得られた結果を、多くの顧客が簡便かつ直感的に活用可能にすることを目指した森林経営支援システム(YFMS:Yamaha motor Forest Management System)を展開している。直感的な操作で森林情報を利活用できる当社独自のアプリとなっている。主な機能は下記の通りである
a. 森林状況俯瞰:林地の状況をオルソ画像、等高線、立木位置など様々な方法で表示
b. デジタル標準地調査:丸、四角形で林地を囲み、指定した林地に関しPC画面上で樹高、幹直径などの
標準値を調査
c. 立木検索:条件を満足する立木検索
d. 林内状況把握:下層植生、地形を把握
今後の展開
現在抱えている課題、将来的に想定する課題
無人ヘリを操縦するための通信手段が課題と考えている。森林では、GPSデータが取得できず、また、携帯電話にも用いられ、今後UAVでの利用が想定されているLTE電波も圏外になる場合が多い。衛星通信を使用することができるが、遅延や画質の問題があり、安全に低空飛行することは難しいと感じている。地上での電波中継も検討したが、電波法で認められている機材が市場にはほとんど出回っておらず、通信面では非常に苦労している。
データ処理に関しても、データ量が非常に多いため処理時間がかかる。セキュリティを確保したデータのやり取りにも苦労しており、こうしたところが技術的な課題となっている。
強化していきたいポイント、将来に向けて考えられる行動
ビジネス的に、林業、森林の活性化によって計測にかかる費用以上の価値を創出することが必要である。森林計測は、森林整備の最初の部分である。これを取っ掛かりとして森林を把握し、里山の文化を復活させ、人と森とのかかわりを深めることを最終的な目標として実現したい。
将来的に展開を検討したい分野、業種
森の価値をより高めるアプローチを一緒にやっていくことができるパートナーといろんな形で連携できればと考えている。例えば新たな森の価値を生むビジネスモデルを提供しようとしている方とは、機会があれば一緒にチャレンジしたい。
当社の環境ファンド(Yamaha Motor Sustainability Fund)を使った技術提供など、様々な連携が可能であると考えている。
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