本メルマガは、IoT価値創造推進チームのリーダーである稲田修一が取材を行ったIoT導入事例の中から、特に参考となると感じた事業や取り組みを分かりやすくお伝えする見聞記です。

 今回は、スマート化したゴミ箱の普及による街の美化を促進しているベンチャー企業のフォーステック社(本社:東京都港区)の取り組みを紹介します。

 

ここに注目!IoT先進企業訪問記(59)

スマートゴミ箱に広告の力を加えてSDGsを実践-フォーステック社の取り組み

1.  街中にゴミ箱が少ない日本

 日本は街中にゴミ箱が少ない国です。1995年3月20日に起こった地下鉄サリン事件を契機に、ゴミ箱がテロに使われる可能性があるとの理由で首都圏を中心に街中からゴミ箱が撤去されたからです。ゴミは自分で持ち帰ることが奨励され、駅や公共施設でもゴミ箱がないことが普通です。

 この弊害は、街中のゴミという形で現れています。数少ないゴミ箱の周りはゴミが散乱しているケースが多々あります。最近では、ドリンク用のプラスティック容器やテイクアウト用の容器ゴミが増えており、街中でのゴミ問題がさらに深刻化しています。

 この街中のゴミ問題が海洋ゴミの原因になっていることは、あまり知られていません。人々が捨てたペットボトルやポリ袋などが河川を伝って海に流出し、海洋の生態系を破壊しているのです。海洋ゴミの7~8割は陸由来と推定されており、投棄やポイ捨て行為が深刻な環境問題につながっているのです。
 

2.  世界で使われているスマートゴミ箱に着目したフォーステック社

 フォーステック社は、SmaGOという名称でIoT機能付きのゴミ箱を提供しています。米国のBigBelly Solor社が開発した製品を輸入し、日本で活用しているのです。世界ではBigBellyと呼ばれている製品です。既に海外では15年くらいの運用実績があり、世界50か国以上で75,000台以上導入されています。(写真1参照)

mail-forcetec-photo-01.png

写真1:世界各地に設置されているBigBellyの例(フォーステック社提供)

 このスマートゴミ箱に付けられたSmaGOという名称は、“Smart action on the GO”、つまり環境に良いことを続けていこう、このために街のゴミを回収する仕組みを日本でも作ろう、というフォーステック社の考え方から来ています。

 このゴミ箱は優れものです。ゴミが溜まってくると自動で圧縮し、通常のゴミ箱と比べおよそ5倍の容量を持っています。圧縮に必要なエネルギーは、箱の上部に設置されているソーラーパネルからの発電でまかないます。また、IoT機能を有しており、ゴミの堆積状況をリアルタイムに確認し、クラウドに蓄積したデータを活用し見える化することができます。そして、ゴミ箱が満杯になる前にアラートで知らせてくれます。

 これらのスマートな機能により、ゴミ回収の効率化を実現することができます。そもそもゴミ箱の容量が増えていますし、ゴミの溜まり具合を予測することができるので、ゴミが溜まった段階で計画的にゴミを回収できるようになるのです。例えば、米国のフィラデルフィア市では、市内のゴミ箱700個を500個のBigBellyに置き換えています。これにより、33人のスタッフで週17回実施していたゴミ回収作業が、9名のスタッフで週3回の作業に削減されています。これによって、年間230万ドルかかっていたゴミ回収のコストが、72万ドルへと約7割削減されています。

 さらに、このゴミ箱は、感染症対策に有効なペダル開閉機能、テロなどのセキュリティ対策に使われるリモートロック機能(テロ対策などのため、遠隔操作でゴミ箱の蓋をロックし、使えないようにする機能)、火災対策のための防炎フィルムの貼付などのオプション機能も用意されています(図1参照)。

mail-forcetec-fig01.png

図1:SmaGOのオプション機能(フォーステック社提供)
 

3.  独自のビジネスモデルが必要だったBigBellyの日本での導入

 BigBellyの日本導入は、すんなりと実現したのではありません。もともと街中に設置されているゴミ箱が少ないうえに、ゴミ回収コストの問題があったからです。公道などにゴミ箱を設置すると、設置者が回収コストを負担しなければならないのです。この費用は年々増加傾向にあり、課題となっています。

 この負担を減らすためにフォーステック社が考え付いたのは、世界ではあまり例がない広告の導入です。ゴミ箱が必要なのは人通りが多い場所です。しかもこのような場所は、景観を守るために屋外広告物が制限されているケースが多々あります。そのため潜在的な広告需要があり、ゴミ箱をラッピングして広告媒体として運用することができると考えたのです。ちなみに、日本で最初にこのSmaGOゴミ箱を導入した商店街振興組合原宿表参道欅(ケヤキ)会の場合は、広告収入でゴミ箱の設置・運用費用をまかなっており、同会の財政負担はゼロとなっているそうです。

 もちろん、広告導入には行政機関との調整が必要になります。原宿表参道でも屋外広告物の制限があり、このハードルを越えなければならなかったのです。東京都との交渉は、議会での手続きを含め1年半ほどかかったそうです。幸いなことにこのハードルをクリアすることができ、広告付きのSmaGO設置が実現しています(写真2参照)。行政機関では、ゴミの散乱よりも街並みに溶け込む広告を選ぶという判断がなされたものと考えられます。

mail-forcetec-photo02.png

写真2:広告付のゴミ箱の例(設置主:原宿表参道欅会、協賛:森永製菓)
(フォーステック社提供)
 

4.  広告媒体としての適格性を保つための取り組み

 行政機関との交渉以外にもハードルがありました。それは広告媒体としての適格性です。これをクリアするため、同社は「ゴミ箱は汚い」というイメージを覆すよう、徹底的にゴミ箱をきれいにしています。このため、同社がゴミ箱を設置するのは管理が行き届く場所に限っており、しかも毎日ゴミ箱を清掃しています。ゴミ箱がきれいでゴミがあふれていないとゴミ捨てマナーも改善されるそうで、ゴミ箱はきれいでおしゃれに見えます。広告媒体としての機能を発揮できるのです。しかも、ゴミの分別もしっかりと守られているそうです。

 同社は広告を出すインセンティブにも着目しています。同社が目を付けたのはSDGs(Sustainable Development Goals:持続可能な開発目標)です。この目標は、2015年9月の国連サミットで加盟国の全会一致で採択された「持続可能な開発のための2030アジェンダ」に記載されており、17のゴール、169のターゲットから構成されています。そして最近では、国内外を問わずSDGsへの取り組みを重要視している企業が増えています。

 ゴミ回収は、図2に示すようにいろいろな側面でSDGsに関係しています。同社が取り組んでいるゴミ箱の設置が、どのような形でSDGsに関与するかを示すことで、SDGsに取り組みたいと考えている企業の広告掲載を後押しすることができると考えたのです。

mail-forcetec-fig02.png

図2:SmaGOの設置とSDGsの関係
(フォーステック社提供)
 

5.  SmaGOの今後の展開

 SmaGOには、現在、追い風が吹いています。原宿表参道に導入したことがいろいろなメディアを通して伝わり、多くの問い合わせを受け、これがビジネス機会につながっているそうです。

 観光庁も令和3年度から、ICTを活用したゴミ箱整備を『観光地の「まちあるき」の満足度向上整備支援事業』の対象としています。支援対象になると設置費用の半分が助成されることになります。コロナ禍で人々の意識が変わり、環境や衛生に配慮していることが観光地の選択に影響する時代となってきていることから、これもSmaGOの普及にとって追い風になると考えられます。

 街中にゴミ箱が少ない日本でゴミ箱の設置を促進し、社会課題となっている海洋ゴミ問題解決の一助となる仕組みを構築したフォーステック社の竹村陽平代表取締役社長の新ビジネス創出能力と、既存の規制の壁を突き破る行動力は素晴らしいと思います。また、従来のゴミ箱の概念を変える「きれいなゴミ箱」という発想は、イノベーションそのものです。同社のビジネスが順調に発展し、街や観光地がきれいになること、そして何よりも海洋ゴミ問題の緩和につながることを心から期待したいと思います。
 

今回紹介した事例

シャープ

街と企業と人々が一体となって参加する環境活動 - フォーステックのIoTスマートゴミ箱SmaGO

海外の主要都市では、街中にゴミ箱が設置されていることが多いが、設置されていない日本は街中でゴミを捨てることができない世界的に珍しい国と言える。それでも日本人の国民性のおかげで、街の美化は保たれていたが、ライフスタイルの変化、海外からの観光客の増加などによって、街中で発生するゴミの量が増えている。そこで当社は、海外で設置が進んでいたスマートゴミ箱を日本に導入し、持続可能な街の美化を実現した。…続きを読む

 

 

 
スマートIoT推進フォーラムでは、 会員の皆様からIoT導入事例を募集しております
詳細は以下を御覧ください。
IoT導入事例の募集について
 
IoT導入事例紹介