IoT導入のきっかけ、背景
本記事では、当社が2016年5月から販売している人型コミュニケーションロボット「ロボホン」のホテル向けソリューションをご紹介する。
現在ホテル業界は、コロナ禍による訪日外国人の急減などによって大きな打撃を受けているが、スタッフの負担軽減や人手不足への対応が今後の大きな課題であることに変わりはない。加えてコロナ禍によって、「非接触」という新たな課題が生まれている。
ホテル向けのソリューションでは、問い合わせへの応答速度を上げるなどの業務効率の改善はもちろんのこと、お客様の満足度を上げるため、楽しさや驚きといった新たな宿泊体験の演出が重要となる。そこで、ロボホンが持つ音声会話の機能と愛らしい仕種を組み合わせることによって、これらの課題を解決できると考えた。
このコンセプトをホテル業界に提案し、興味を持っていただいたH.I.S.ホテルホールディングス株式会社様が展開する「変なホテル」と共同でコンセプトの実証を進めた。変なホテルは世界初のロボットホテルとしてロボットの活用に取り組まれており、実効性を見極めながら機能をブラッシュアップしていく協働での開発によって短期間でソリューションを完成することができた。
IoT事例の概要
サービス名等、関連URL、主な導入企業名
(*1) 2020年9月時点の導入先
サービスやビジネスモデルの概要
ロボホンは体長約20cm、重さが395gという小さな体に13個のサーボモーターを内蔵(*2)し、自立歩行やダンス、身振り手振りを交えた会話ができるコミュニケーションロボットである。また、ロボホンはスマートフォンのようにシャープのクラウドからプログラムをダウンロードすることによって様々な用途に用いることができる。
ロボホンは2016年5月の発売当初は個人ユーザーを主なターゲットとしていたが、企業のお客様からも多くの引き合いをいただいたため、発売から約半年後に法人向けビジネスを開始し、今回紹介するホテル向けソリューションに加えて、英会話・プログラミングなどの教育向け、観光案内などのソリューションを提供している。
ホテル向けソリューションでは以下のユースケースに対応している。
-
受付にタブレットとロボホンを設置し、タブレットを操作するとロボホンが主にホテル内の施設や周辺の観光案内を行う。
-
ロビーにロボホンを多数設置して、ダンスでおもてなしするエンターテイメントを提供する。(動画はこちら)
-
客室にロボホンを設置して宿泊客が入室するとおもてなしの挨拶をし、施設や食事・チェックアウト時間などの案内を行う。
上記の案内を行う際に、ロボホン専用の声優を起用して作成した音声や身振り手振りを交えた動作(図-1を参照)によってロボットに親近感を持っていただき、一緒に生活する疑似体験を提供している。
ロボホンは大きさ約20cmの小型ロボットであるため、ホテルの客室内に設置する際に場所をとらない。また小さいことはスペース以外のメリットを生む。初めてロボットに接する人の受容性がそれである。ロボホンが小さな体で身振り手振りを交えて話す姿は、見る人に「小さいのにすごく頑張ってる!」という驚きや感動を与える。この効果によって、ロボットとの滞在経験をより印象的なものにすることができるのである。
(*2):着座専用モデルのモーター数は7個となる
図-1 ロボホンの動作イメージ(シャープのロボホンYouTubeチャンネルより)(動画はこちら)
内容詳細
(1) 具体的な利用シーン
変なホテル大阪なんば(旧大阪西心斎橋)では、1Fに設置したロボホンとタブレット端末が連携して館内や周辺の案内を行う(写真-1)。加えて、着座型のロボホンを設置した客室が提供されており、そこではロボホンが宿泊者専属のコンシェルジュとなる。宿泊客が入室すると、ロボホンが「大阪の街はどうだったかな、今日はゆっくり休んでね。Wi-Fiの情報はテレビの下やルームキーに書いてあるよ。ホテルのことでボクに聞きたいことがあったら頭のボタンを押してドライヤーはどこにある?みたいにボクに声をかけてみてね。」などと案内をしてくれる(写真-2)。
このようにロボットを活用することによって、チェックインからチェックアウトまでをホテルスタッフと非接触で行いながら、その一方で人間味があるサービスを提供して満足度を高めることが可能となるため、with/afterコロナソリューションとしても期待されている。
(2) 誰もが気軽に利用できるための工夫
客室にロボホンを設置したケースでは、宿泊客からの問いかけがない場合でも1時間に1回程度ロボホンが自発的に発話し、各種の案内を行うようにしている。これによって、音声を使用したインタフェースに不慣れな方でもロボットとの時間を楽しんでいただけるようにしている。
ロボットは与えられた対話シナリオに従って、24時間いつでも、間違えることなく正確な応答を返すことができる。多言語対応も可能である(現在は日本語、英語、中国語、韓国語に対応)。これは生身の人間ではできないロボットのメリットである。一方で、対話シナリオにない日常会話にはまだ対応できない。お客様の体験を損なわないために、本ソリューションではホテル内で想定される問い合わせシナリオを充実させることによってより的確な応答ができるようにしている。
(3) クラウドを使用したデータの活用
ロボホンの動作ログは当社のクラウド上に蓄積される。本事例では、宿泊者がロボホンをいつどのように使っているか、何を話しかけているかなどをログデータとして保存し、これらの情報を分析することができる。これによって、意図通りの使い方がされているか、対話がうまくできているか、などを明らかにし、サービスの改善につなげることができる。
また、クラウドを介することによって、気象やニュースなどの外部情報との連携も容易に行うことができる。
(4) その他の法人向け事例
ホテル向け以外の代表的なソリューションは以下の通りである。
-
教育分野:ロボットプログラミングの教材として、プログラミング言語を必要としないビジュアルプログラミングを使用した学習教材から、SDK(ソフトウェア開発キット)を使用した本格的な開発まで様々な使い方を提供。
-
観光分野:観光案内所や空港ターミナルでの案内に活用。また、小型で持ち歩けるというロボホンの利点を生かし、貸し出されたロボホンと一緒に観光地を巡り、その際にロボホンから案内を受けるという「ロボ旅」サービスの実証も株式会社JTB様と行っている。
-
店舗での案内:店舗での商品紹介や購入方法の説明、施設の案内などに活用。
概要図
ロボホンとクラウドとの連携を図-2に示す。クラウド上で管理されるロボホンの発話内容は、時間帯や季節などに応じて出し分けが可能である。将来的には、例えばホテルからの情報を、タイムリーにロボホンに喋らせるよう、ロボホンの発話シナリオをメールで遠隔更新する機能の開発も進めている。
図-2 ロボホンとクラウドの連携
(出所:シャープ提供資料)
取り扱うデータの概要とその活用法
- カメラが検知した人感情報(データは、ロボホン内で人がいる・いないという情報に変換し、個人や具体的な動作の特定ができないようにしている)
- 発動した対話シナリオ情報
- タイムスタンプ(各種のイベント発生時刻)
事業化への道のり
苦労した点、解決したハードル、導入にかかった期間
- お客様がおられる場所にあわせて対話シナリオを設計するなど、お客様の満足度を高めるために最適な仕組みを提供することに注力した。
- 本ソリューションの提供に際して、変なホテル様のようにロボホンを大量に導入していただくお客様の管理を効率的化するために、ロボホンの管理システムを構築してご提供した。
- ロボホンは関節に多数のモーターを使用しているため、製品間のばらつきをおさえて、全ての機構が確実に動作するための量産技術の確立に苦労した。この苦労の甲斐があって、導入したお客様から、ロボホンは壊れない信頼性が高いロボットという評価をいただいている。
技術開発を必要とした事項または利活用・参考としたもの
- 今回の事例では管理システムを新規開発した。
- また、ロボホンの開発全般では、発話とモーションの緻密な同期などでお客様に驚きを与えられるよう、納得がいくまで細部の作り込みを行っている。
今後の展開
現在抱えている課題、将来的に想定する課題
- ホテルをはじめとして様々な業種に導入先を広げたい。そのために他社とのアライアンスを進めたい。
- ホテルに関しては、ロボット単体の活用から、宿泊管理などの基幹システムとの連携にまでソリューションの枠を広げることによって、業務全体の改善に寄与したい。
強化していきたいポイント、将来に向けて考えられる行動
他システムとのAPI連携をより効率的に行うための仕組みを検討していきたい。
将来的に展開を検討したい分野、業種
教育、観光の分野ではソリューションが充実してきた。今後は、介護・医療向けソリューションをさらに開拓したい。
本記事へのお問い合わせ先
シャープ株式会社 ロボホン法人受付事務局
e-mail : biz-robohon@sharp.co.jp
関連記事
【ここに注目!IOT先進企業訪問記】第45回 他者との共創で新しい価値を開拓-シャープのコミュニケーションロボット「ロボホン」