掲載日 2020年04月10日

株式会社オプティム

【提供目的】
  • 事業・業務の見える化
  • コスト削減
  • 事業・業務プロセスの改善
  • 新たな顧客層の開拓、マーケティング
  • 故障や異常の予兆の検知、予防
  • 故障や異常への迅速な措置
  • 故障や異常発生後の最適かつスムースな事業継続
  • その他(新たなビジネスモデルの創出)

【活用対象】

  • その他(農業法人)

IoT導入のきっかけ、背景

 当社は、各産業とIT(AI・IoT・Roboticsなど)を組み合わせる「○○×IT」と呼んでいる取り組みを行っており、全ての産業を第4次産業革命型産業へと再発明することをビジョンとしている。その中で、「農業×IT」の取り組みにも注力しており、「楽しく、かっこよく、稼げる農業」の実現を目指している。

 日本の大きな産業課題は、人口減少とそれに伴う労働人口の減少である。農業においても従事者の減少に加えて、平均年齢が65歳を超える高齢化が大きな課題となっている。一方で近年の農業の総生産額は、食品安全性に対する意識の向上などから国内生産品が見直されたことによって上昇傾向となり、2018年の総生産額は9.1兆円にのぼっている。(*1)

 こうした中、AIで農業における労働人口減少の課題を解決・緩和すると共に、生産性や収益の向上ができると考えた。農業はAIの活用によって最も変わる産業なのである。

 当社の「農業×IT」の取り組みでは、従来の常識にとらわれない新しいチャレンジを行ってきた。その一つがIT投資に関するチャレンジである。従来は、IT投資を収量増加や業務効率化などによって回収していただく必要があった。ここで、技術的なメリットはご理解いただけても、ユーザである農業法人において、こうしたITへの投資判断が難しい場合もある。

 そこで、初期投資を必要とせず、かつサブスクリプションとも異なる、レベニューシェアという新たなビジネスモデルに基づく「スマートアグリフードプロジェクト」を立ち上げ、多くの利用実績を得ている。

(*1):農林水産省統計 - 平成30年農業総産出額及び生産農業所得より

 

IoT事例の概要

サービス名等、関連URL、主な導入企業名

サービス名:スマートアグリフードプロジェクト

URL:https://smartagri-jp.com/smartagrifood

サービスやビジネスモデルの概要

 スマートアグリフードプロジェクトでは、当社のAIとドローンを活用したピンポイント農薬散布テクノロジーを無償で提供し、農薬の使用量を極力抑えた農産物(*2)を契約農家に栽培していただく。この農産物を当社が全量生産者価格で買い取り、残留農薬不検出の安心安全な高付加価値商品として市場流通することによって得られた利益を還元する(図-1を参照)。

 このように、スマートアグリフードは、生産者がIT投資の負担や流通のリスクなしに高い収益をあげることを目的とした新たなビジネスモデルである。

図-1 スマートアグリフードプロジェクトのレベニューシェアモデル
(出展:OPTiM INNOVATION 2019講演資料)

(*2): 本稿執筆時点では米と大豆(枝豆を含む)が対象である。

 

内容詳細

 スマートアグリフードプロジェクトで使用している技術やビジネスモデルおよび当社における技術開発の一例を以下に示す。

(1)  ピンポイント農薬散布テクノロジー

 従来の農業では、農薬は圃場全体への全面散布が常識であった。農薬散布が必要となる病害虫は圃場内の特定の箇所から発生・広がることも多い。そこで、ドローンとAIを活用することによってこの常識を覆すことができると考えた。

 ピンポイント農薬散布では、ドローンで空撮した画像から、AI(ディープラーニング)によって病害虫が発生している位置を特定する(写真-1を参照)。次に、圃場内の病害虫発生箇所をデータ化し、農薬散布用ドローンへデータ連携することで、必要な箇所にのみ農薬を自動散布するピンポイントの農薬散布を実現した(特許取得済)。

写真-1 ピンポイント農薬散布テクノロジー

(出展:OPTiM INNOVATION 2019講演資料)

 

(2)  ドローンによるもう一つの効果 ― 楽しくかっこよく

 ピンポイント農薬散布に必要な空撮ドローンと農薬散布ドローンは当社が無償で貸し出す。ドローンの操縦は、トレーニングを無償で提供して、生産者の方に行っていただくことを基本としている。これによって、農家自らが操縦するドローンが圃場を飛行する光景が日常的になることで農業に対する若者の見方が変化し、ひいては農業や地方の活性化につながることが期待できる(写真-2を参照)。

 また、自らドローンを飛ばすことが難しい場合は、当社が運営している「DRONE CONNECT」プラットフォームを利用し、登録している熟練のドローンパイロットに作業の依頼ができる。

写真-2 ドローンの飛行風景

(出展:OPTiM INNOVATION 2019講演資料)

 

(3)  レベニューシェアモデル ― 稼げる農業

 ピンポイント農薬散布テクノロジーを使用して栽培した米や大豆は、残留農薬を「不検出」なレベルにまで低減することができる。これらを「スマートアグリフード」としてブランド化し、健康志向が高い消費者などに販売することによって、より大きな収益を得ることができる。

 このビジネスモデルでは、図-2に示す通り、当社が全量を生産者価格で買い取った時点で生産者は従来通りの「生産者利益」を得られる。加えて、当社がスマートアグリフードとして付加価値(実勢売価の1.5〜3倍)をつけて流通することによって、「生産者売り上げレベニュー」を得ることができる。

図-2 付加価値分のレベニューシェアモデル

(出展:OPTiM INNOVATION 2019講演資料)

 

(4)  自らマーケットを開拓

 このビジネスモデルが機能するためには、スマートアグリフードを高付加価値商品として訴求し販売するマーケットが必用である。当社は、このマーケットの開拓も自ら行い、首都圏のデパート・スパーマーケットなどでの店舗販売に加えて、スマートアグリフードのECサイトを立ち上げている(写真-3を参照)。ECサイト経由の流通では、Amazonにスマートアグリフード専用のサイトを設けて流通量を大きく拡大した。

写真-3 スマートアグリフードの販売

 

(5)  社会実装を意識して地域と共に取り組む技術開発

 スマート農業を持続的なビジネスにするためには、新しい技術の開発に加えて、その技術の社会実装をあわせて考える必要がある。農業技術の普及においては、国の研究機関である農研機構、地方自治体ごとの農業試験場とそこで働く研究員、普及指導員の役割が大きい。

 そこで、農研機構と石川県農林総合研究センター(試験場)のコンソーシアムに参加し、ドローンによる種もみの点播(てんぱ)の実現に向けた共同実証を行っている。点播とは、直接水田に種もみを播く栽培方式で、多くの労力を要する苗づくりや田植えを不要とすることにより稲作のトータルコストを大きく削減できる農法である(図-3を参照)。

 このような従来の農法を大きく変える技術が広く受け入れられるために、開発段階からユーザに近い農業試験場や研究員、普及指導員のフィードバックを得て、実証実験から社会実装への谷をいち早く乗り越えることを目指している。

図-3 ドローンによる点播

(出展:OPTiM INNOVATION 2019講演資料)

 

取り扱うデータの概要とその活用法

  • ドローンの画像データ
  • 圃場の温度、湿度、日照時間(圃場管理サービスとして提供)

 

事業化への道のり

苦労した点、解決したハードル、導入にかかった期間

  • 2015年から「楽しく、かっこよく、稼げる農業」を実現するため、佐賀県生産振興部、佐賀大学農学部とオプティムは、IoT・ドローン・ネットワークカメラ・ウェアラブルデバイスなどを利用した農業IT分野での三者連携協定を行い、スマート農業の取り組みを開始しました。新しいスマート農業ソリューションの開発、契約農家や販路の開拓を一から行いながら、実証実験を重ね、2020年現在では、ピンポイント農薬散布テクノロジーやスマートアグリフードプロジェクトを事業運用している。
  • ユーザの隠れたニーズを掘り起こすために、仮説と検証をPDCAベースで繰り返し、うまくいくビジネスモデルを残していった。その結果の一つが、レベニューシェアモデルである。

技術開発を必要とした事項または利活用・参考としたもの

  • AIについては当社保有のコア技術を活用し、農業向けのブラッシュアップを行っている。

 

今後の展開

現在抱えている課題、将来的に想定する課題

  • ピンポイント農薬散布テクノロジーの適用対象農作物を拡大したい。
  • 例えば、エッジコンピューティングを活用して画像解析やドローン連携の速度を上げることによって、米や大豆に比べて病虫害が広がる速度が格段に早い葉物野菜にピンポイント農薬散布テクノロジーを適用することが考えられる。

強化していきたいポイント、将来に向けて考えられる行動

  • 農業でのAI活用に関して、農林水産省や内閣府の指針作りに参画している。生産者が不利にならず、フェアにデータの所有や活用ができるようにしたい。
  • その一つとして、農林水産省の「農業分野におけるAIの利用に関する契約ガイドライン」作成に審議会委員として参加している。

将来的に展開を検討したい分野、業種

  • 日本におけるスマートアグリフード(有機農産物)の市場はまだまだ拡大すると考えている。そのために、販路や契約農家の拡大を進めたい。
  • 東アジアも有機農産物の市場として有望と考えている。日本での実績を武器に海外市場も開拓し、日本の農業の拡大発展に寄与したい。

 

関係省庁、スマートIoT推進フォーラムへの意見、要望等

  • ドローンからの散布に適切な農薬や肥料の開発や登録。
  • 葉物野菜に適したダウンウォッシュ(*3)が可能な散布ドローンの開発。

  (*3)ダウンウォッシュ:ドローンのプロペラの回転によって吹き降ろされる風。

 

 

本記事へのお問い合わせ先

株式会社オプティム ビジネス統括本部 農業事業部

e-mail : info-it-agriculture@optim.co.jp

URL : https://www.optim.co.jp

 

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