株式会社NJS
- コスト削減
- 事業・業務プロセスの改善
- 顧客へのサービス対応・サービス品質向上
- 故障や異常への迅速な措置
- 経営判断の迅速化・精密化
- その他(自治体業務の効率化)
【活用対象】
- 企業顧客
- その他(地方自治体)
IoT導入のきっかけ、背景
当社は、1951年に日本で最初の「水と環境」のコンサルタントとして設立され、上下水道事業者向けのコンサルティングに加えて、本記事で紹介するSkyScraperなどのソフトウェアサービスを開発、提供している。
2018年の時点で国内の下水道管きょ(*1)の総延長は48万km(地球約12周分)に達し、都市に張り巡らされた巨大なインフラとなっている。下水処理場についても2018年度末現在、全国の処理場約2,200箇所のうち機械・電気設備が概ね耐用年数である設置後15年を経過したものが約1,900箇所ある。そのため、下水道インフラの維持管理業務では、管きょや処理場・ポンプなどの膨大な施設の情報管理が課題となっている。例えば、施設の図面、修繕履歴、点検結果や修繕予算などの情報を作業者が必要な時に容易に活用できないと修繕計画を効率的に立てることができない。情報を散在させることなく一元管理することが重要なのである。
下水道には汚水の処理に加えて、都市の浸水対策という役割がある。都市部に降った雨水は道路脇の側溝等から雨水用管きょに集められ、雨水調整池、ポンプ場を経て河川に排出される。
自治体では、豪雨が発生した際に浸水危険地区に対して避難情報の発信を行うが、近年被害が拡大しているゲリラ豪雨では事前の予測が難しく、避難情報の発信が間に合わない事態が生じている。ゲリラ豪雨への対応を行うためには、雨量の監視に加えて、管きょ内の水位、ポンプ場の稼働状況などのデータをリアルタイムに収集し、あらゆる情報を駆使した上で迅速な判断を行う必要がある。そのため、ここでも情報の一元化が重要である。
そこで当社は、コンサルティングで培ったノウハウを活用して、こうした事業者の課題やニーズに対応したSkyScraperのソフトウェアサービス群をクラウドサービス・IoTプラットフォームとして提供し、多くのお客様にご利用いただいている。
(*1):管きょとは地中に埋設された下水管を示す。管きょとメンテナンスのために人が出入りするためのマンホール、雨水調整池、ポンプ場を合わせて管路施設と呼ぶ。
IoT事例の概要
サービス名:SkyScraper(スカイスクレイパー)
URL:https://www.njs.co.jp/software/skyscraper.html
サービスやビジネスモデルの概要
SkyScraperは、上下水道の経営から施設管理・災害対策までをクラウドサービスとして提供する統合型ソフトウェアである。
SkyScraperは各種の業務に対応したソフトウェアサービス群として構成されており、全体構成は図-1の通りである。例えば、管路情報(PL:Pipe Line)の管理、固定資産(FA:Fixed Assets)の管理、雨量情報(RM:Rain Management)の収集などの機能があり、お客様の業務に応じて柔軟に組み合わせて利用できる。
システムに入力した図面や帳票データ、設備運転情報や管路内水位などIoT基盤によって収集したデータは一元管理され、標準化された業務フローとデータ連携によって、上下水道の経営・施設管理の業務全般を効率的に行うことができる。
図-1 SkyScraper の全体構成
(出所:NJS提供資料)
内容詳細
SkyScraperが持つ豊富な機能の一例を以下に示す。
(1) インフラのライフサイクルを通した管理と運営の支援
水道の運営では、管路施設(*1)の管理に加えて、料金の徴収や出納業務などの財務会計管理、加えて災害対策までの幅広い業務を行う必要がある。また、管路施設には土木構造物の管きょに加えてポンプなどの機械・電気設備も存在し、耐用年数や点検保守の方法が異なる。
こうした複雑に入り組んだ業務を効率的に行うために、SkyScraperではインフラのライフサイクルを、点検調査、解析診断、修繕改築、運転管理、災害対策、運営管理の6つのステージで捉え、それぞれに対応したソフトウェアを提供している(図-2を参照)。
図-2 SkyScraperが提供するインフラのライフサイクル管理
(出所:NJS提供資料)
(2) 業務間の連携による効率化
SkyScraperでは、情報の一元管理によって、各サービスのデータの転記や重複した入力を行うことなく、関連した業務のデータを連動して更新することができる。例えば、管路情報(PL)では管路の点検結果によって修繕計画の立案を自動的に更新する等の業務間の連動が可能となっている。加えて、更新されたデータに基づく修繕工事の収支予測やスケジュール管理を実施できる。処理場・ポンプ場については施設情報(FC:Facility)で一連の業務を同様に管理できる。さらに、工事完了のデータを登録した時点で、固定資産FAの台帳を更新し企業会計(EA:Enterprise Accounting)との連携によって最新の資産に基づく減価償却費を計上することができる。
こうした連携を実現するためには、業務フローを細かく分析し、業務全体が最も効率よくまわる形に最適化する必要がある。SkyScraperでは、全国のお客様から寄せられた声と、当社のコンサルタントとしての経験・ノウハウを駆使して業務フローの全体最適化を実現している。
(3) IoTクラウド基盤を使用した浸水対策
冒頭に示した通り、ゲリラ豪雨発生時の浸水情報の発信には、リアルタイムのデータ収集・分析に加えて運用との連携が必要となる。そのためSkyScraperでは、マンホールに設置したセンサーによる管きょ内の水位観測(RI:Rain Management Indicator)、外部からの雨量情報(RM)の収集、ポンプ場の運転監視(EM:Easy Monitor)との連携を実現している(図-3を参照)。
具体的には、雨量や管きょ内の水位情報を基にポンプの運転操作の判断に役立てる。加えて、収集情報からリアルタイムに浸水発生のシミュレーションを行う機能によって迅速な情報発信を支援している。
RIでは、写真-1に示すマンホールの鉄蓋と一体化した水位センサー(SkyManhole)を用いて管きょ内の水位データを収集する。RMで収集する雨量情報は、国土交通省が運用する高性能気象レーダを用いたリアルタイム雨量観測システムからのデータを利用している。
図-3 IoTを活用した浸水対策
(出所:NJS提供資料)
写真-1 SkyManhole(IoT型マンホールセンサーシステム)
(出所:NJS提供資料)
(4) 機械学習を使用した予測と設備の診断
SkyScraper ML(Machine Learning)(図-4を参照)では、雨量情報(RM)と水位観測(RI)で収集した情報、管路情報(PL)で管理している管きょの情報、加えて管きょ内を移動できるドローンで撮影した画像情報を元に機械学習を用いた画像解析(CV:Computer Vision)を行い、ポンプ場への雨水の流入水量を予測し、ポンプの運転管理に活用することができる。
また、豪雨が発生した際に、雨水が下水の処理区間に浸入してしまうと下水処理場の処理能力を超える危険があるため、機械学習を用いて浸入水の発生箇所を絞り込むことが可能である。
図-4 SkyScraperML
(出所:NJS提供資料)
概要図
SkyScraperは図5に示すように、当社のクラウドサービスとして提供されており、お客様はサーバインフラへの投資や維持管理を行う必要がない。また、各ソフトウェアはWebアプリケーションとして構築されており、PCに加えて、スマートフォン・タブレット端末のブラウザからも利用できる。そのため、モバイル端末を利用して、点検を行った現場でデータ入力を行うことが可能である。
図-5 SkyScraperの利用形態(クラウドサービスとしての利用)
(出所:NJS提供資料)
取り扱うデータの概要とその活用法
SkyScraperで使用するIoT関連の主要データを以下に示す。
- 管きょやマンホールの敷設情報、図面類、修繕履歴など
- 上下水道の処理場やポンプ場の機器の設置情報、保守情報、運転情報など
- マンホール内の水位情報
- 雨量情報(外部データ)
- 管きょ内の画像情報
事業化への道のり
苦労した点、解決したハードル、導入にかかった期間
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下水道法の改正により施設管理の厳密化が求められ、コンサルタントとして特定の設備に依存せず広く業務を俯瞰できる能力を有する当社へさまざまなご要望をいただく中でシステムの開発をスタートした。
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当初はお客様の需要が多い、管路管理、施設情報から提供を行い、固定資産、企業会計などの財務管理やIoTを活用したデータ連携への機能拡張を進めた。
- 業務フローの定義に関しては、当社のノウハウに加えて、業務の詳細をフローに落とし込む作業をお客様と相談しながら行った。その中で、多くのお客様の要望を取り込みながらフローの最適化を実現することに苦労した。
技術開発を必要とした事項または利活用・参考としたもの
当社は管路の設計支援システム開発などの経験を有していたが、SkyScraperの開発当初はソフト開発の経験が豊富なエンジニアが十分な人数おらず、詳細な業務フローを使いやすいソフトウェアに落とし込むことに苦労した。5年間くらい開発に苦労する中で、結果としてソフトウェア開発力が強化され、初期から参加したメンバーが核となり、協力会社を含めた開発チームをけん引することができた。
今後の展開
現在抱えている課題、将来的に想定する課題
デジタルトランスフォーメーション(DX)の重要性が注目される中、統合ソフトウェア・汎用クラウドサービスとしてのSkyScraperのメリットを、お客様によりご理解いただければと考えている。そのために、お客様への説明力を強化していきたい。
強化していきたいポイント、将来に向けて考えられる行動
上下水道に加えて、水と環境を支える仕事をされている事業者の課題を解決できるようになりたい。そのために、お客様をよく知っているパートナーとの連携を考えたい。
将来的に展開を検討したい分野、業種
他の分野で活躍している企業の先進的は技術を取り込みたい。現在AI・機械学習の開発を自社で行っているが、AIで浸水被害の予測を行う場合、AIが行った判断理由の説明が求められる可能性もある。そのため、説明可能なAIに関する技術を持った企業とパートナーシップを結び、AIの活用領域を広げることが考えられる。
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