掲載日 2021年01月29日

京都機械工具株式会社

【提供目的】
  • 事業・業務の見える化
  • コスト削減
  • 事業・業務プロセスの改善
  • 顧客へのサービス対応・サービス品質向上

【活用対象】

  • 自社の部門内
  • パートナー企業含めたグループ内
  • 企業顧客

IoT導入のきっかけ、背景

 当社は、日本を代表するハンドツールメーカーとしてあらゆる業界向けの工具を製造販売している。加えて、工具だけでなく、工具を使う現場の運用面での改善策やソフトウェアを組み込んだシステムなど、「工具・運用・ソフトウェア」の3つの発想を自由自在に組み合わせたソリューションの提案・開発を行っている。

 航空機、鉄道車両、産業機械などの組立製造および稼働後の点検保守は、その大部分がヒトの手作業で実施されている。自動化された製造ラインでも、設備保全や工作機械の保守・修理はヒトによる作業が大半である。これらの製造・保守現場においては、IT化の遅れから、目視確認による測定値の読み取り・転記ミス、作業者と確認者という複数人による作業の無駄、熟練作業者への依存、作業者の多様化への対応、作業データや顧客情報などの信頼度の担保という課題が未だに解決されていない。(図-1を参照)

 加えて、近年ではユーザの安全意識の高まりから、点検作業が指示通りに行われているか、作業者の技量の差によるばらつきがないかなどを記録することによるトレーサビリティ(追跡可能性)の実現が求められている。例えば、自動車の整備においてタイヤ交換におけるホイールナットの締結が万が一正しく行われていないと、事故につながる危険がある。そのため、これらの作業が確実に行われたことをトレーサビリティの担保で証明し、ユーザに安心感を与えることが必要なのである。

 そこで、IoTを活用した「つながる工具」とソフトウェアによるデータ管理、作業エビデンスの発行や分析によってこれらの課題を解決するTRASAS(トレサス)を開発し2020年2月から販売を行っている。

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図-1 製造・保守現場の課題

IoT事例の概要

サービス名等、関連URL、主な導入企業名

サービス名:製造・保守の現場に求められる“ヒト作業のIoT”と“トレーサビリティシステム” 
      TRASAS (トレサス:TRAceable Sensing and Analysis System)

関連URL:https://ktc.jp/trasas/info/

導入企業:https://ktc.jp/trasas/info/casestudy.html
 株式会社イエローハット、ダイハツ工業株式会社、株式会社日立製作所、山科精器株式会社、横浜ゴム株式会社ほか。
 

サービスやビジネスモデルの概要

 TRASASは、さまざまな業界での安全に対する社会的な要求の高まりから、経験や勘に頼っていた曖昧な作業からの脱却を実現するために開発された次世代作業トレーサビリティシステムである。TRASASでは、工具や測定具にセンシング技術を実装し、測定データを現場のエッジコンピュータデバイス(作業者用ソフトウェア)に送信する。さらに、現場ごとに取得したデータをクラウドもしくはオンプレに設置した作業データ統合管理システム(統合管理ソフトウェア)に集約し、作業履歴(データ)の記録・管理・分析を行うことによって、最終製品の使用者や現場作業者の安全、作業品質、顧客満足度の向上を実現する。(図-2を参照)

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図-2 TRASASシステムの全体像

内容詳細

 TRASASの各構成要素の詳細を以下に記載する。

(1) TRASAS対応工具・計測機器

 トルクル(TORQULE)は、既存の工具に装着するだけで、TRASASに対応したデジタルトルクレンチを実現するアダプタ型のデバイスである。(図-3、図-4を参照)
 

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 図-3 TRASAS対応スマートセンシングデバイス トルクル

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図-4 トルクルを使用したネジ締め付けトルクの測定例

 トルクル以外にも、ブレーキパッドの残量を測定するブレーキパッドゲージ、タイヤ溝を測定するタイヤデプスゲージなどのスマートセンシングデバイスを提供している。(図5を参照)

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図-5 タイヤデプスゲージ、ブレーキパッドゲージ

(2) 測定・記録ソフトウェア TRASAS Admin PRO

 TRASAS対応工具・計測機器と連携し、以下に示す作業記録の自動化と作業者へのリアルタイムフィードバックによる適正な作業の補助を行う。

  • 通信機能を持つIoT工具(スマートセンシングデバイス)で収集したネジの締め付けトルク値などを作業者のスマートフォン・タブレットに送信。

  • ネジの締め付けトルクなどの目標値を設定し、正しい作業ができているかを確認・記録する。基準値だけでなく、上限/下限値もあわせて設定し、設定範囲による合否判定が可能。

  • 測定状況をリアルタイムに表示、かつ適正値を音・振動で知らせることによって、作業者の勘やコツに頼る作業から脱却。精度の「見える化」で品質を確保。

  • 作業日時、測定結果を自動保存。管理者によるダブルチェックを行わなくても、信頼性の高いエビデンスをしっかりと残せる。

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図-6 TRASAS Admin PROによる測定結果の記録

(3) 測定数値出力オプション TRASAS Admin PRO/Active Output

  • Excelなどの手持ちの帳票に測定値を自動的に記録することによって、記録のたびに作業が中断する非効率を改善し、信頼性と生産性を向上する。

  • 既存帳票やアプリケーションとの連携によって、導入費用の低減と短期間での導入を実現。

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図-7 TRASAS Admin PRO/Active Output

(4) 統合管理ソフトウェア(TRASAS IM)、作業者用ソフトウェア(TRASAS EM)

  • 統合管理ソフトウェア(TRASAS IM)で手順書を作成し、各現場の作業者用ソフトウェア(TRASAS EM)に配信することによって作業を標準化。これによって勘と経験に頼った作業から脱却できる。

  • 手順書に従って行った作業の結果を、作業者用ソフトウェア(TRASAS EM)を使って記録することによって正確な作業エビデンスを残す。記録を、目視・転記を省き自動化するために、スマートセンシングデバイスとの連携を実現。

  • TRASAS EMで現場ごとに収集したデータをTRASAS IMに送信し作業管理の一元化を実現。

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図-8 TRASAS IM/EM

(5) システム構成例と参考金額

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表-1 システム構成例と参考金額
 

概要図

 TRASAS IM(統合管理ソフトウェア)/EM(作業者用ソフトウェア)が相互に連携することによって、手順書の作成・配信~手順に従った作業の実施~作業実績・進捗の管理というワークフローをシステム化。冒頭に示した、転記ミス、重複した作業による無駄、熟練者の経験に依存した作業、データの信頼性という課題を解決した。(図-9を参照)

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図-9 TRASAS導入の目的・効果

 

取り扱うデータの概要とその活用法

  • ねじ締結時の締め付けトルク
  • 自動車、二輪車ブレーキパッド残量(厚み)
  • 自動車タイヤ溝測定(深さ)
  • 長さ、重量、圧力、抵抗、電圧など
  • 温度、角度などの環境測定データ

 

事業化への道のり

苦労した点、解決したハードル、導入にかかった期間

 従来の工具・測定具にセンサ、マイコン、通信機能を付与、現場のエッジコンピュータと接続することで情報を収集し、作業支援ソフトウェアによってモノとヒトの作業状況をリアルタイムに取得するためにデバイス・ソフトウェアをまたがる統合システムの開発を行った。その際に、作業者に情報に基づいた即時フィードバックを出すことによって、熟練者でなくとも正確な作業を実現できることを目指した。

 「工具・測定機器」、「作業支援ソフトウェア」、「システム基盤」の三層を、モノシリックな密結合を避け、独立した構成要素間のAPI連携で構成した。これによって、柔軟な構成変更、高可搬性、高可用性を実現した。さらに、工具だけ・ソフトウェアだけでは解決できない、作業の安全と高品質をもたらす統合システム実現のために、工具・測定機器製造企業、組込・制御系システム開発企業、広域システム基盤開発企業による互いの強みを組み合わせる体制を構築することでシステムの開発を成し遂げた。

 開発着手より初期製品投入までに3年、システム全体像の構築には5年の期間を要した。
 

技術開発を必要とした事項または利活用・参考としたもの

(1) 工具・測定機器

 トルクレンチやノギスなどの測定機器に付与する通信機能、電源などは、極力汎用技術を採用することでコストを削減した。作業性を損なわない高精度な作業のセンシングと記録は作業工具メーカである当社のノウハウを生かした独自の技術によって実現している。

(2) 作業支援ソフトウェア

 多様化するコンピュータデバイスを強く意識し、汎用性重視のWindows Universal Platform準拠の技術を採用した。作業者インターフェースは、安全性、確実な操作性を重視したオリジナルデザインで特許も取得した。

(3) サービスプラットフォーム

 API連携による異機種接続・多様な設置環境に適応したコンテナ型のアプリケーションとすることによって、クラウド・オンプレミスの双方にシステムを構築できる柔軟な構成を実現した。

 

今後の展開

現在抱えている課題、将来的に想定する課題

  • 工具・測定機器を用いた人の手作業による製造、保守業務は、さまざまな産業、業種に存在し、安全を担保する上での重要性と課題解決策の未踏領域であることの実感を深めた。

  • 工具だけでは取得できない情報、例えば、作業者の姿勢、動作などの情報は、ウェアラブルデバイスなどにより補完することに取り組んでいるが、現時点では開発途上である。

  • データの見える化、気づかせる化は、作業現場での即時フィードバックと集積したデータからのナレッジの抽出が重要である。即時フィードバックに加えて、データインテリジェンス(分析)も機械学習やディープラーニングなどのAI技術の活用を課題として設定している。
     

強化していきたいポイント、将来に向けて考えられる行動

 当社単体での課題解決策に留めず、技術提携企業とのオープンイノベーションの創出とともに、導入障壁となっている通信技術の課題対応、サブスクリプションモデルの実現など、多岐にわたるサービス内容の充実、仕組み作りに取り組んでいる。
 

将来的に展開を検討したい分野、業種

  • 事業展開を協力頂けるシステムインテグレーターなど、当社が従来関係を築けていない業界の企業との連携を模索している。

  • 同時に、海外でのシステム販売、導入をサポート頂けるパートナー開拓が課題と考えている。

 

本記事へのお問い合わせ先

TRASASサポートチーム

e-mail : appsupport@kyototool.co.jp

TEL : 0774-46-4159