掲載日 2020年06月30日

Global Mobility Service株式会社

【提供目的】
  • 収集情報を活用した付加顧客サービス提供
  • 顧客へのサービス対応・サービス品質向上
  • 故障や異常への迅速な措置
  • 収集情報を活用した新規事業の発掘
  • その他(新たな信用の創造、利用者の生活レベルの向上)

【活用対象】

  • 企業顧客
  • 一般顧客

IoT導入のきっかけ、背景

 世界には、自動車購入などのローンを受けることができない人々が17億人も存在する。この中には、真面目に働く意思のある者も多い。当社は、こうした人々にIoTを活用したFinTechサービスでローンやリースなどのファイナンスの機会を提供し、就業機会の獲得、所得向上やそれによる教育等の機会を創出することを通じて、多くの人を幸せにするためのビジネスを展開するベンチャー企業である。

 当社が事業を展開する国の一つであるフィリピンでは、国民の平均所得は年間5千ドル(日本円:約50万円)で、77%は銀行口座を保有していない。フィリピンでは、トライシクル(*1)のドライバーとして生計を立てる方が多いが、彼らは自身で車両を購入することができない。このため、オーナーから借りた車両を使って働かざるを得ないが、この賃貸料が高いため早朝から夜遅くまで働いても収入が増えない。そのため、トライシクルドライバーの90%はいわゆる貧困者層や低所得者層となっている。

 当社は、ローンがこうした貧困から脱出するための手段になると考えた。トライシクルドライバーがローンを活用する機会を得て自身の車両を購入できれば、収入を増やして生活の質を向上することができる。しかしながら十分にローン返済ができるにも関わらず、資産も信用もない彼らは、従来のローン(融資)を受けるための与信審査を通過できなかった。融資を行う金融機関は、与信枠を広げることが貸出金残高を増やし、経営に寄与することは理解しつつも、銀行口座を持たず過去の記録がない貧困層・低所得者層はそもそも審査の対象から外されてしまっていたからである。

 こうした悪循環から、多くの人々が、貧困を抜け出すための第一歩を踏み出せないでいる。当社はこの社会問題を解決するために、IoTとFinTechの力で、これまでローンを受けることができなかった人々の信用を創造する仕組みを展開している。

(*1):バイクにサイドカーをつけた三輪タクシーで庶民の足として利用されている。
 

IoT事例の概要

名称:Global Mobility Service (GMS)

URL:https://www.global-mobility-service.com

サービスやビジネスモデルの概要

 Global Mobility Service (GMS)はモビリティ、IoTとFinTechを組み合わせ、これまでは金融サービスを受けられなかった方々への金融包摂(ファイナンシャル・インクルージョン)を実現する従来にないサービスである。

 図-1にGMSのビジネスモデルを示す。本サービスでは、例えばトライシクルのドライバーが利用を申し込むと、当社の車載IoTデバイスMCCS(Mobility-Cloud Connecting System)を装着した車両が提供される。MCCS(写真-1)は、遠隔でエンジンを起動制御することができる。また、MCCSのセンシングにより取得したモビリティデータの可視化・分析や、金融機関・決済システムとの連携を可能にするのがMSPF(Mobility Service Platform)である。

 また、これらのシステムを使用することによって、万一、ローン返済の支払いが滞った場合、MSPFからMCCS(デバイス)への指示によって、車両が安全に停止した際にエンジンの起動を停止する。即ち車両が使えなくなるのであるが、MSPFは金融決済システムと連携しているため支払うことにより直ぐにエンジンの再起動が可能になり車両が使えるようになる。この仕組みによって、この種のローンとして画期的なデフォルト率0.9%を達成しており、真面目に働き、きちんと返済能力がある人を金融機関が評価し、ローンを提供することが可能になったのである。

 なお、当社の収益は、金融機関とレベニューシェアすることで得ている。

図-1 GMSのビジネスモデル
(出所:GMS社提供資料)

写真-1 当社IoTデバイスMCCSの外観
(出所:GMS社提供資料)

内容詳細

 図-2にGMSが提供する価値を示す。本サービスを使用することによって、金融機関や車両販売店が抱えていた、低所得者向けには「ローンを貸したくても貸せない」「車両を売りたくても売れない」というジレンマを解決し、貸高を増やす、車両の販売台数を増やすことができ、また、利用者とその家族の生活を豊かにすることができた。

 上記に加えて国や地域への価値も提供している。低所得者を豊かにするという格差の是正だけではなく、環境問題の改善にもつながっているのだ。冒頭に示した、従来のトライシクルオーナーから車両を借りる形態では、2ストロークエンジンの古い車両が使われ、騒音や排ガスの環境問題を引き起こしていた。本サービスでは環境負荷が低い最新型の車両を提供することが可能になり、これが大気汚染を改善している。

 GMSを利用してオートローンを完済したドライバーは、完済することで得た信用によって、教育ローンなどの新たなファイナンスの機会を得ることができる。実際に、オートローンを完済したトライシクルドライバーが、教育ローンを利用して子供を大学に入れ卒業させたケースが数多く存在する。彼らはもはや貧困層・低所得者層ではなく、中間層の仲間入りを果たしたことになり、国の経済成長を牽引する力になることが期待できる。

 このように、本サービスは、ローンやリースの契約者の信用を創造し彼らとその家族の生活を豊かにすることに加えて、金融機関、車両販売店、国・地域にもメリットを与え、さらにGMSが目指す持続可能な豊かな社会の実現にもつながる、「五方良し」の新たな市場と新たな社会を創造している。

図-2 GMSが提供する価値
(出所:GMS社提供資料)

概要図

 MSPFの概要を図-3に、MSPFと金融機関とのAPI連携を図-4に示す。ローン利用者は当社が提携している金融機関やコンビニの支払い機から返済を行う。支払いが滞って停止を行った車両に対して、金融機関からの支払い通知を受けると直ちにエンジンの再始動が可能となっている。このため、車のドライバーからすると支払いをするインセンティブが働く仕組みとなっている。

図-3 MSPFの概要
(出所:GMS社提供資料)

図-4 MSPFと金融機関とのAPI連携
(出所:GMS社提供資料)

取り扱うデータの概要とその活用法

 GMSが使用する主なデータは以下の通りである。

  • 速度、加速度などの車両情報
  • 位置情報、支払い状況などの利用者の働きぶりを可視化するためのデータ

 収集情報は、利用者のプライバシーを保護するために、当社が個々の利用者の情報にはアクセスできない形で管理している。
 

事業化への道のり

苦労した点、解決したハードル、導入にかかった期間

 2013年11月に会社を設立し、GMSのサービスモデルを金融機関にご説明し提携をお願いした。加えて、システム開発などの資金を得るために投資家へのご説明も行った。金融機関・投資家の皆様には、GMSの理念やその意義をご理解頂けたが、なにぶん全く新しいサービスであったため、提携や出資をいただくことに大変苦労した。

 最終的には、GMSの仕組みによってデフォルト率が下がることを実証するために、創業期にSBIインベストメント株式会社からの出資金を活用することでビジネスモデルの検証を行った。その結果、目論見通りの数値を達成し、それを実証結果として提示することで金融機関との提携に漕ぎ着けることができた。

 GMSを利用した車両の総走行距離は本稿執筆時点で1.5億kmに達し、GMSのサービスが認知されてきた。そのため、最近は金融機関との連携・資金調達も進むようになったが、創業間もない苦しい時は「真面目に働く人が正しく評価される仕組み」を創造し、彼らが中間層へ登っていくための伴走者でありたいという思いで乗り越えてきた。

技術開発を必要とした事項または利活用・参考としたもの

 会社設立から開発をスタートし、2015年2月に実現したフィリピンのマニラ首都圏の最大都市であるケソン市との覚書締結までに、ハード・ソフト開発、市場開拓を並行して行った。

 GMSの過去に類を見ない新しいサービスを実現するためには、FinTech、IoTなどの多くの要素を融合させる必要があった。創業者の中島徳至は、かつて起業した日本国内で17番目の自動車メーカー(当時)で、電気自動車の開発をしており、そのときのソフトウェア開発の技術や知見を活用しながら、GMSのビジョンに共感してくれた各方面の優秀なエンジニアを得て、システムの開発を短期間で行うことができた。
 

今後の展開

現在抱えている課題、将来的に想定する課題

 この事業をさらに進めるためには、提携する金融機関の貸出金残高(ローンの利用数)を増やし、これによって金融機関の理解を広めながら提携を拡大する必要がある。そのためには、これまでもIoTを活用したデータ収集や、APIによる金融機関との連携を行ってきたが、今後もこうしたデジタルの仕組みを最大限活用し、ユーザーと提携先の利便性を高め続ける必要がある。

強化していきたいポイント、将来に向けて考えられる行動

 コロナ禍によってモビリティを取り巻く環境が大きく変わるのではないかと考えている。例えば、既存事業の継続が難しくなり小口配送を始めたい方は、配送用の車両を購入する必要があるが、日本においてもこうした方が与信審査に通過しないことが多い。

 当社は日本においても、GMSの仕組みを使った自動車ローンを全国の提携販売店を通じて提供しており、物流の仕事にチャレンジする方を支援したいと考えている。

将来的に展開を検討したい分野、業種

 現在は、様々な大企業とオープンイノベーションに取り組み、国内外において物流モデルの確立を進めている。日本国内においては、アマゾンフレックスなどの物流のドライバーが軽バンを利用できるようにリースやレンタルも提供している。加えて、インドネシアにおいて、当社への出資者でもある株式会社デンソーと共同で、新型コロナウイルスのPCR検査キットやその原材料をインドネシア国内の医療機関、検査機関、製薬会社などへ、-20℃以下という厳格な低温輸送環境で配送する流通活動を無償支援している。他にもフィリピンにおいて大日本印刷株式会社とともに、荷主とドライバーとの物流マッチングモデルの事業開発も進めている。

 加えてGMSの仕組みを利用して、モビリティ以外の業種と金融を結びつける領域へ、また、インドやアフリカなど他の国や地域への事業展開も行っていきたい。
 

 

本記事へのお問い合わせ先

Global Mobility Service株式会社

e-mail :  press@global-mobility-service.com

URL :  https://www.global-mobility-service.com

 

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