富士通株式会社
- 事業・業務の見える化
- コスト削減
- 事業・業務プロセスの改善
- 収集情報を活用した付加顧客サービス提供
- 最適経路・プロセスの選択
- 収集情報を活用した新規事業の発掘
【活用対象】
- その他(漁業協同組合、養殖事業者、陸上養殖への新規参入企業など)
IoT導入のきっかけ、背景
私たち富士通は、IT企業の枠を超えてテクノロジーによって新しい価値を創造するデジタルトランスフォーメーション(以下DX)を牽引し、豊かな未来の実現を目指している。
我々は、水産業におけるDX活動として、北海道神恵内(かもえない)村に最新技術を用いた陸上養殖システムを導入する事で、神恵内村の課題解決/地方創生に貢献させて頂いた。
神恵内村は、北海道積丹半島西側中央部に位置し、古くから漁業を中心に繁栄してきた人口840人の道内で一番小さな漁村である。昨今では、ニシン・サケ・マスなどの汽船漁業の衰退に加え、ウニ・ナマコ・アワビなどの浅海漁業も厳しい経営環境にある。また、乱獲や海の貧栄養化等によって資源が減少しているだけでなく、高齢化に伴う担い手不足も課題となっている。
一方で、ニセコエリアにおける海産物のインバウンド需要や、中国をはじめとするアジア需要が拡大している為、安定供給が実現できる養殖技術の確立が求められている。こうした課題を解決するため、ウニ・ナマコの陸上養殖(*1)という新たなチャレンジに、当社のスマート養殖を実現する『Fishtech養殖管理』が活用されることとなった。
(*1)陸上養殖: 水槽などを用いて、陸上に人工的に創設した環境下で実施する養殖。
IoT事例の概要
サービス名等、関連URL、主な導入企業名
サービス名:Fishtech養殖管理
導入先 :北海道神恵内村
<関連URL>
https://pr.fujitsu.com/jp/news/2019/04/16-1.html
https://www.fujitsu.com/jp/solutions/industry/public-sector/fishtech/
サービスやビジネスモデルの概要
Fishtech養殖管理は、今後の陸上養殖業の大規模化(スケール)を見据えた生産の高度化を支援する養殖管理システムである。具体的にはシステムがセンサー/ネットワークカメラと連携し、生け簀の水質や状態を常時モニタリングする。また、現場作業員が、給餌量などの日々の作業データをシステムに簡易入力することで作業を効率化させるだけでなく、データによる経験や勘に頼らないスマートな養殖を支援する。更に、上記情報をクラウドで管理することにより 「いつでも、どこでも、誰でも」 あらゆる記録を参照/登録することが可能である。
本システムの提供形態は個別システムインテグレーションとなっている。
内容詳細
以下の機能により(図-1を参照)、生簀の中をリアルタイムに見える化し、作業員の作業効率化を実現すると同時にトレーサビリティを実現する。(以下は機能の一部となる)
- 成育・生簀環境のモニタリング:
水槽の情報をリアルタイムで可視化。(生体数・生簀の溶存酸素等) - カメラによる遠隔監視:
カメラ(水陸両用)とIoTを連携する事によって、細かく連続した画像をリアルタイムに表示。 - マルチデバイスによる作業記録・管理:
あらゆるデバイスで現場作業員が作業入力でき、それらの情報を共有クラウドで管理する事が可能。 - 高精度トレーサビリティ:
国際的なトレーサビリティ規格(TraceFish 標準)をベースとした機能をシステムに実装する事により、育成した生体の高精度トレーサビリティ管理を実現。
図-1 Fishtech養殖管理の画面の一部
参考URL: https://youtu.be/OcAmz1B1dhs
概要図
図-2 サービスの効果/概要図
【本システムの特徴とメリット】
- システムにより管理された陸上養殖により、季節を問わず安定出荷が可能。(安定出荷)
- 煩雑な業務をICTの技術で効率化。例えばセンサーの見回りや現場作業員の作業日誌の入力/閲覧を強力にサポート。(作業効率化)
- ノウハウのない人への詳細な作業指示が可能。(雇用拡大)
- 通年出荷が可能になる事で、通年出荷ブランドの確立が可能となる。(ブランド化)
本取り組みによる神恵内村への地方創生アクションが評価され、総務省が主催するICT地域活性化大賞2020で奨励賞を受賞した。
参考URL
HP :https://www.soumu.go.jp/menu_news/s-news/01ryutsu06_02000240.html
動画:https://www.youtube.com/watch?v=9QBqH13KnV4
写真-1 神恵内村村長(中央)とプロジェクト関係者
取り扱うデータの概要とその活用法
<取り扱うデータ>
下記はご要望によって柔軟にご対応検討。
- 水温
- 溶存酸素
- Ph値
- 塩分濃度
- 濁度(水の濁りを示す値)
- 水位
- 湿度
- 気圧
- 照度
- 現地映像データ
- 作業員作業入力データ:魚種・初期サイズ・給餌量・給餌時間、等
<データの活用方法>
自社開発UIに上記のセンサーデータ/作業員の業務データをリアルタイムで見える化する。
センサーデータの見える化により、作業員が現場に赴き水温/溶存酸素等のデータを取得する手間が削減される。また、作業入力機能により作業員が簡易的にデバイスに作業情報を入力できるので、従来の作業である「現場でメモに記載」「事務所に帰ってデータをExcel入力」「報告資料の作成」等の3重の手間を削減する事が可能となった。
※Fishtech養殖管理:「グッドデザイン賞」を受賞。「IAUD国際デザイン賞2019(銅賞)」を受賞
事業化への道のり
苦労した点、解決したハードル、導入にかかった期間
一次産業(陸上養殖)に対してのスキーム作りに苦労した。一次産業では、比較的ビジネスライクな会話が出来る人が少なく、現場の方にICTの必要性を認識してもらう事が課題であった。
そんな中、ビジネスと現場の両側面での対話が可能な現地キーマンを見つけICTの必要性などを訴求し納得して頂く事で、ビジネスと現場の価値を表裏一体で提供できるスキーム作りを実現する事ができた。その結果、地元企業/地域商社/金融機関/メディア等を巻き込んだスキーム作りに成功し、費用/技術面をクリアできた。
技術開発を必要とした事項または利活用・参考としたもの
- 高精度トレーサビリティ:
国際的なトレーサビリティ規格をベースとした機能をシステムに実装した。これにより、育成した生体の高精度な管理をすることが可能。 - 分養・統合(*2):
システム では煩雑になりがちな、分養/統合後も生体を管理することが出来る。生体の移設前と移設後の情報を紐づけることによるトレースが可能。 - 独自開発UI:
老若男女問わず使いやすく、美しいデザインを備えている。「グッドデザイン賞」を受賞。「IAUD国際デザイン賞2019(銅賞)」受賞。
(*2)分養・統合: 水槽に入っている一部の生体群の移動や別水槽から統合
今後の展開
現在抱えている課題、将来的に想定する課題
- 養殖事業者にとっては、本システム導入への投資対効果が課題となる。但し、本システムの「水槽の見える化」及び「作業入力機能」等により業務が効率化する為、長期的には費用回収が見込めるものと考えている。
- 当社にとっては、日本ではまだ普及しきっていない陸上養殖業者へのICT導入によるビジネス性が課題となる。ただし、HPやSNS等のメディア露出や、水産展示会での広報活動等により商談(ビジネス性)が増加している。
強化していきたいポイント、将来に向けて考えられる行動
今後、様々な実証を通して機能拡充を検討する予定である。例えば、AI分析による匠のノウハウの明文化や、来るべき人口爆発に伴う食糧枯渇に備えた、ローカル5G・ロボティクス技術なども活用した「フルオートメーション型陸上養殖プラント」の実現を目指したい。更に、陸上養殖を超えた水産バリューチェーンに貢献するプラットフォーム構築へも挑戦したいと考えている。
将来的に展開を検討したい分野、業種
今後、北海道神恵内村を含め連携強化してきた、センシング企業/ガス企業/施設企業/餌企業/水処理企業などと連携を行い、全国の養殖検討企業への水平展開を検討している。展開手法は、弊社の全国パートナーなどと連携した推進を予定している。
関係省庁、スマートIoT推進フォーラムへの意見、要望等
- ICT&AIを使った省力化に加え、外国人労働者等が簡単に習得する為にもノウハウの明文化&標準化を推進して頂きたい。
- AI&IoTをフル活用する次世代養殖人材「スマート養殖業者」の育成に向けた育成カリキュラムの作成及び教育機関への展開について推進頂きたい。
- ローカル5G等を使った「スマート水産業」の促進に向けた実証実験を行う等の支援をして頂きたい。
- 現在オープンデータとなっていない、養殖に関する情報のオープンデータ化をして頂きたい。
- 水産業全体(川上~川下まで)のプラットフォームの構築支援をして頂きたい。
本記事へのお問い合わせ先
富士通株式会社
JAPANビジネスグループ
ビジネスクリエーション統括部
政策連動ビジネス推進部
武野 竜也
e-mail : takeno.tatsuya@fujitsu.com
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