大和ハウス工業株式会社
- コスト削減
- 事業・業務プロセスの改善
- 収集情報を活用した付加顧客サービス提供
- 顧客へのサービス対応・サービス品質向上
- 故障や異常の予兆の検知、予防
【活用対象】
- 一般顧客を対象に活用
- その他(パートナーとの連携)
IoT導入のきっかけ、背景
IoTを活用したスマートハウスの取り組みに関する当社の歴史は古く、研究開発の始まりはインターネットが家庭に普及し始めた1996年に遡ることができる。
これまでのスマートハウスは、戸建住宅をインターネットに接続することによって、家族が集う癒しの場である家での暮らしをより「快適で楽しく」することを主眼に置いてきた。当社は、2011年にホームエネルギーマネジメントシステム「D-HEMS」を搭載したスマートハウス第一弾を発売し、2018年にはAIスピーカーなどの最新IoT機器に対応したコネクテッドホームのコンセプトに基づく「Daiwa Connect」を販売している。
昨今、住宅の役割が変化している。その背景には、高齢者世帯の増加による遠隔医療へのニーズ、増大する自然災害への備え、核家族化する家庭環境における家族間のコミュニケーションという、これからの暮らしに対する社会課題がある。こうした社会の変化に伴い、スマートホームに求められる要件も変化している。
コネクテッドホームのコンセプトでは、前出の快適で楽しい暮らしの実現に加えて、「住宅を社会にコネクトする」姿も構想した。住宅が社会とつながる拠点になるのである。その例が、テレワークや遠隔医療で、住宅が職場や病院の一部になる。このコンセプトは、次世代の住宅の姿として、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が猛威を振るう前から検討を進めてきた。この流れが、コロナ禍によって一気に加速した。
そこで上記をふまえたニューノーマル時代の暮らしの提案として、神奈川県藤沢市の戸建分譲住宅地「セキュレアシティ藤沢 翼の丘」に、2020年6月6日から9月末までコンセプトハウスを開設し実証実験を行った。
IoT事例の概要
サービス名等、関連URL、主な導入企業名
名称:“ニューノーマル時代”に対応した暮らしの提案 ~IoTを活用した大和ハウス工業の最新コンセプトハウス~
URL(ニュースリリース):
https://www.daiwahouse.com/about/release/house/20200603105828.html
サービスやビジネスモデルの概要
ニューノーマル時代は、住宅が「家族の生活拠点」としてだけでなく、「様々な社会活動の拠点」としての役割を果たすようになる(図-1を参照)。
そこで、住宅を拠点とした社会活動を支える3つのポイントとして、「家族の健康」「建物の健康」「コミュニケーション」に着目して実証実験を行った。
加えて、本実証を通じて先進的なIoT機器やIoTサービスを提供する事業者とのオープンイノベーションによる協業を推進するためのディスカッションを行った。
図-1 ニューノーマル時代の住宅
(出所:大和ハウス工業提供資料)
内容詳細
コンセプトハウスで展示を行った各種のプロトタイプから主要なものを以下に示す。
(1) IoT 空間「(仮称) α‐rium (アルファリウム)」― 社会とつながる
「(仮称)α‐rium(アルファリウム)」は壁面のプロジェクター2台を使用したIoT空間で、テレワークや遠隔医療、遠隔授業、バーチャルトラベル、フィットネス、スポーツ観戦、ショッピングなどの様々な社会活動と臨場感溢れる大画面を通してつながることができる(写真-1を参照)。
写真-1 「(仮称)α-rium(アルファリウム)」
(出所:大和ハウス工業提供資料)
(2) IoT ディスプレイ「(仮称) α‐board (アルファボード)」― 家族のコミュニケーション
「(仮称)α‐board(アルファボード)」は、家族間の情報を共有しコミュニケーションを促進するためのIoTディスプレイである(写真-2を参照)。「(仮称)α‐board」では、家族のスケジュールの表示や写真の共有、手書きメッセージの書き込みなどができる。
昨今、個人のスマートフォンを使ったSNSなどのコミュニケーションが増える一方で、家族間で同じ興味やトピックスを共有して会話する機会が減っている。「(仮称)α‐board」では、同じ画面を見ながら家族が会話することによって、コミュニケーションの活性化が実現できる。コンセプトハウスの来場者からもこの点に関して多くの賛同をいただいた。
「(仮称)α‐board」は上記に加えて、家電の制御や「D-HEMS(ホームエネルギーマネジメントシステム)」による電力使用状況の表示もできる。
写真-2 「(仮称)α‐board (アルファボード)」
(出所:大和ハウス工業提供資料)
(3) 家族と建物の健康
ウェアラブルデバイスや健康機器のヘルスケアデータを日々蓄積し、将来的にはホームドクター(掛かりつけ医)にデータを提供して遠隔診療や健康のアドバイスを受けられる仕組みづくりを目指している。コンセプトハウスではそのためのIoT機器として、IoTミラーを展示した(写真-3を参照)。IoTミラーは、顔認証で家族を認識し、個人ごとの健康情報を表示することを想定している。
住宅メーカーならではの取り組みとして、建物の健康に関する展示も行った。本展示では、自然災害による被害が想定される事態になると、自治体の避難情報や必要な行動を知らせる機能を展示した。また、災害発生時に「D-HEMS」を介して蓄電池やエネファーム(家庭用燃料電池)が電気やお湯の備蓄を行い、シャッターも自動で閉めるなどの機能連携の実現を目指している。
写真-3 IoTミラー
(出所:大和ハウス工業提供資料)
概要図
コンセプトハウスの構成を図-2に示す。コネクテッドホームを構成する機器は多岐に渡る。その中で、多様な機器を一元管理し、災害発生時の電力制御とシャッターの連動のように、機器間が連携することによってサービスの利便性を高めることができる。
このような連携サービスを実現するためには、「サービスプラットフォーム」が欠かせない。当社は、IoT機器や各種サービスを提供するパートナーとオープンイノベーションベースで協業して、こうしたサービスを当社のプラットフォームに乗せていくことを目指している。
図-2 コンセプトハウスの構成要素
(出所:大和ハウス工業提供資料)
取り扱うデータの概要とその活用法
- 家電の制御データ
- エネルギー管理(HEMS)関連データ
- 家族のスケジュール情報、写真など(「α‐board」)
- Lアラート(災害情報共有システム)などの災害情報
事業化への道のり
苦労した点、解決したハードル、導入にかかった期間
住宅が社会活動の拠点となった際に、どのようなコミュニケーションサービスがフィットするかのコンセプト作りは従来にない新たなチャレンジであった。そのため、コンセプトをまとめ上げるために、デザイン思考のフレームワークも活用しながらブレインストーミングを数多く重ねた。
技術開発を必要とした事項または利活用・参考としたもの
コンセプトハウスでは様々なIoT機器やサービスの展示を行っており、コンセプトに従って全体を統合、コーディネートする必要があった。そのために、幅広くIoT機器の情報を収集した。
今後の展開
現在抱えている課題、将来的に想定する課題
今回の実証実験の成果を生かしてサービスの商用化を進めていきたい。事業化のためには利用料金の設定も必要となるが、お客様から見て費用対効果に見合ったサービスとなるよう、より利便性を高めていきたい。
強化していきたいポイント、将来に向けて考えられる行動
コンセプトハウスの開設期間中には、一般来場者に加えて、機器やサービスを提供する企業にも多数来場いただき意見交換などを行った。コネクテッドホームを実現するためには、IoT機器、家電、通信事業者やクラウドサービス事業者はもちろんのこと、多くの企業パートナーとの共創が欠かせないと考えている。そのため、今回の実証実験で得られたコネクションを広げ、オープンイノベーションベースの共創を進めていきたい。
将来的に展開を検討したい分野、業種
冒頭に示した3つのポイント、「家族の健康」「建物の健康」「コミュニケーション」の実現に引き続き注力したい。その際に、家族の健康の観点では、医療分野との連携が重要になると考えている。建物の健康という点では、浸水センサーなどの関連するセンシング技術などを持つ企業との連携が考えられる。