本メルマガは、IoT価値創造推進チームのリーダーである稲田修一が取材を行ったIoT導入事例の中から、特に参考となると感じた事業や取り組みを分かりやすくお伝えする見聞記です。
【ここに注目!IoT先進企業訪問記 第100回】
9年間の活動を振り返って~IoT導入事例紹介への想い~
1. はじめに
2026年3月13日に公開したNTTドコモ様「いつの間にか健康になれるヘルスケアAIの社会実装~ HealthTech基盤 ~」をもって「IoT導入事例紹介」は一区切りとなり、本メルマガ「ここに注目!IoT先進企業訪問記」も今回で最終回となります。長きにわたりご愛読いただき、心より御礼申し上げます。
スマートIoT推進フォーラム(以下、「フォーラム」)が事例紹介を開始した2017年当時は、IoTは期待が先行し、社会実装の姿はまだ見えにくい状況でした。そこでフォーラムは、IoTの本質は技術だけでなく、ビジネスモデルという「仕組み」の構築にあるという考えのもと、その実践知を事例として発信することにしました。
2.苦労した取材先探し
この事例紹介の開始当初は、
- 投稿数が伸びない
- 取材先の確保が難しい
という二つの課題に直面しました。
そこで総務省 地方総合通信局様に取材先をご推薦いただくなど、地道な工夫を重ねました。コロナ禍前は対面取材が基本で、東京での取材に加え、北海道から九州まで全国を飛び回るには大変でしたが、現場を自分の目で確かめたことは、何よりの財産となりました。
取材先の確保が難しいという状況が変わり始めたのは2021年頃です。
- 掲載事例が100件を超え、閲覧者が増えたこと
- 事例公開がビジネスにつながるという認識が広がったこと
- コロナ禍でウェブが重要なコミュニケーション媒体に変わったこと
これらが追い風となり、取材はむしろ歓迎されるようになりました。
さらに、モバイルコンピューティング推進コンソーシアム様、日本クラウド産業協会様のご協力により、アワード受賞者への取材も実現しました。
3. 取材では価値創造プロセスに焦点
取材先の姿勢が変化する中で、2022年から取材方針も見直しました。技術詳細を語れないケースが多いので、価値創造プロセスに焦点を当てたのです。
具体的には、取材で次の点を中心に伺うことにしました。
- システムやサービスを開発するにあたって、どのような社会課題・事業課題・顧客課題に着目したのか
- 課題解決の鍵となったアイデアや技術は何か
- ビジネスパートナーとはどのように出会い、協働したのか
- 導入時や事業化の際にどんな苦労があったのか
- 重要成功要因や得られた価値は何か
こうした「課題から価値へ」のプロセスを丁寧に伺うことで、IoTはビジネスモデルの構築が要であるというフォーラムのメッセージをより明確に示すことができました。また、この方針転換によって、他組織の事例集とは異なる独自価値を生み出せたと感じています。
4. IoT導入事例紹介の価値
図に示すように、これまでの掲載数を振り返ると、よくも飽きずに続けてこられたものだと自分でも驚きます。その原動力は、取材で出会うイノベーターの存在でした。大企業にも、中小・ベンチャー企業にも、驚くほど多様で魅力的な挑戦者がいます。取材は、そうした方々に出会える貴重な機会でした。

9年間で蓄積した事例は、単なる紹介を超え、日本の産業・社会がどのように変化してきたかを映す鏡となりました。当初は効率化・モニタリング・予兆検知が中心。これが、次第にプロセス全体の最適化へ拡大しました。
業種は製造・農業・交通から、教育・医療・林業・水産・伝統工芸まで広がりました。また、ドローン、ロボット、LPWA、5G、Wi-Fi HaLow、スターリンクなど、技術の進化も反映されています。近年は生成AIを含むAI活用が急速に拡大しています。
フォーラムの事例集は、先進事例や異業種連携の知見を共有するナレッジプラットフォームとして機能してきたと考えています。その補完として、私は2017年度から「ここに注目!IoT先進企業訪問記」を執筆し、第三者視点で成功要因や価値創出のポイントを解説してきました。
なお、掲載事例は東京都立産業技術研究センターの「IoT事例検索」でもご活用いただいています。
5. 9年間の活動を振り返って
フォーラムは2026年3月末で活動を休止し、それに伴いIoT導入事例紹介の活動も終了します。幸いにも、事例紹介ページは今後3年間ほど公開が継続される予定です。
2017年の開始から今日まで、事例を投稿いただいた皆様、取材にご協力くださった皆様、そして多くの関係団体の皆様に深く感謝申し上げます。
また、共に取材・執筆を行った情報通信技術委員会の斧原晃一様、神谷健司様、金子麻衣様、吉野絵美様、角方重明様、情報通信研究機構の青木利和様、長谷川英昭様には、格別のご支援を賜りました。心より御礼申し上げます。
IoTは技術ではなく、人・組織・社会をつなぐ「仕組み」です。その構築に挑む営みは、これからも続いていきます。フォーラムの精神が次の担い手へと受け継がれ、日本の未来を支える新たな挑戦へとつながっていくことを願っています。これからも、現場から生まれる新しい挑戦が、社会を静かに、そして確かに変えていきます。次のページを開くのは、皆さま一人ひとりです。

