本メルマガは、IoT価値創造推進チームのリーダーである稲田修一が取材を行ったIoT導入事例の中から、特に参考となると感じた事業や取り組みを分かりやすくお伝えする見聞記です。
今回は
【ここに注目!IoT先進企業訪問記 第99回】
当たり前になったさまざまな関係者との共創 2025年度のIoT等導入事例の概要(その2)
1. はじめに
前回(その1)は、地域と共創しながら課題解決に挑む4件の事例を紹介しました。今回は視点を広げ、輸送、医療・製造・データ連携・ヘルスケアといった、地域以外の社会課題・現場課題に挑む6件の事例を取り上げます。
2025年度のIoT導入事例には、①社会課題への対応、②画像・映像データの活用、③多様な関係者との共創という三つの潮流が明確に表れています。これらは、地域活性化や人手不足といった社会課題の深刻化、そしてAIを含む情報通信技術が特別なものではなく「現場の道具」として浸透してきたことを背景に生まれた変化です。
それでは、残りの2025年度のIoT導入事例の概要を順に紹介いたしましょう。
2.2025年度のIoT等導入事例の概要(その2)
2.1 IoT活用で輸送に関わる不安を解消したヤマトシステム開発
ヤマトシステム開発は、試験問題・医薬品など高セキュリティ輸送の顧客ニーズ増大という課題に対応し、IoTを活用した「セキュリティmoduleサービス」を開発しました。従来の大型のセキュリティBOXの課題を解消し、南京錠型デバイスに通信機能を搭載。リアルタイム位置情報、インターネット経由の鍵管理、開錠履歴の保存などにより、紛失・盗難リスクを大幅に低減しました(図1参照)。
位置精度向上や機内モード自動切替など技術的ハードルは顧客との対話とパートナー協力で克服。重要物品輸送の高度化と効率化を実現し、変化するセキュリティ需要に応えるソリューションとして高く評価されています。

図1:セキュリティBOXとセキュリティmodule
(出所:ヤマトシステム開発提供資料、ホームページ写真から筆者作成)
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2.2 眼科医療革命に挑戦するOUI Inc.
OUIは、眼科医不足や高額機器が障壁となる世界の失明問題という大きな社会課題の解決をめざし、スマートフォンを眼科診療機器へ変える革新的デバイス「スマートアイカメラ(SEC)」を開発しました(図2参照)。眼科医と工学、ビジネスの専門家が連携し、スマートフォンのカメラ・光源に3Dプリンタ製アタッチメントを組み合わせ、前眼部(眼の前面)から眼底(眼の奥)までの撮影を低コストで実現しています。
また、白内障・ドライアイ・緑内障リスクなどのSECのAI診断補助機能は、専門医の診断を補完する高精度な支援ツールとして活用されています。実用化に当たり、制度面の壁はグレーゾーン解消制度を活用して突破。高精細な画像撮影機能を有するスマートフォンを医療機器へ転換する新たな活用法として、注目されます。
SECは途上国など医療アクセスが乏しい地域で活用が進んでおり、既に、アジア・アフリカ・南米など60カ国以上で導入実績があります。医療アクセスの地域格差や専門医不足を補う社会的インフラとしての役割を果たしています。まさに、日本発の医療DXが世界の社会課題を解決しているのです。

図2:既存の細隙灯顕微鏡(左の写真)とSECスリットモデル(右の写真)
(出所:OUI提供資料)
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2.3 生成AIの活用で製造業の予知保全を高度化するSAS
SASは、熟練者不足が深刻化する製造現場の課題解決のため、IoTデータと生成AIを組み合わせて現場判断を支援する「SAS Retrieval Agent Management」を開発しています。設備のセンサーデータをAIモデルで解析し、異常兆候をリアルタイムに抽出。さらに、マニュアルや過去の不具合記録など企業固有の文書をRAGで参照し、生成AIが「理由付きの対応指示」を自動生成する点が特徴です。これにより、熟練者が常駐しなくても現場担当者が適切な判断を下せるようになり、チョコ停・ドカ停などの突発停止を未然に防止。ノーコード・ローコードのインタフェースや独自のベクトル埋め込み表現を量子化・圧縮する技術により導入しやすさと高速処理を両立し、製造業の予知保全を大きく前進させるソリューションとなっています。
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2.4 プライバシーを守りながら異業種間のデータの掛け合わせを実現したNTTドコモ
NTTドコモは、異業種間データ連携の最大の障壁であるプライバシー保護と情報漏洩リスクを克服するため、秘匿クロス統計技術を開発しています。セキュアマッチングプロトコル(PSI-CA注1)、差分プライバシー、隔離実行環境(TEE)という異なる先端技術を組み合わせ、データを互いに開示せずに安全に掛け合わせられる点が特徴です。これにより、従来は不可能だった企業間データ連携が実用レベルで実現しました。また、技術の社会的受容性を高めるため、日本航空・ジャルカードと共創し、航空機の定時出発率の改善や地域活性化をテーマに実証実験を実施。実データを用いた検証により有用性を示し、社会課題解決に向けた新たなデータ活用の可能性を拓いています。
注1:PSI-CA:Private Set Intersection Cardinality
かつては「理論的には可能だが実用には重い」と言われた秘匿計算が、いまや実用レベルのデータ量でも十分に処理できる段階になっていることに驚きました。そして、この技術が異業種間のデータ連携を推進する基盤に成長してほしいと感じました。
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2.5 スマートフォン・データを健康リスクの推定に活用したNTTドコモ
NTTドコモは、60兆円を超える医療費・介護費の抑制と健康寿命の延伸という喫緊の社会課題に対応し、スマートフォンの利用ログという日常的に得られるデータに着目し、睡眠・運動・外出などの行動から健康リスクを推定する「HealthTech基盤」を開発しています(図3参照)。
特に、従来はアンケートでしか把握できなかったフレイルをスマホログだけで推定するフレイル推定AI技術は、ヘルスケアの新たなソリューションとして大きな意義を持っています。利用者にとっては、負担なく継続的に健康状態を把握でき、行動変容にもつながるからです。また、このフレイル推定AI 以外にもHealthTech基盤上に脳の健康チェックAI、血圧上昇習慣推定AI、免疫力推定AIを搭載し、API注2経由で自治体・保険・医療・民間企業など社外パートナーに開放し、共創による価値創造を進めています。多様な分野での社会実装を通じ、健康寿命延伸への貢献を目指す取り組みです。
注2:API:Application Programming Interface。ソフトウェアやプログラム間の接点や窓口として機能し、異なるシステム同士が通信やデータ交換を行うための仕組みを提供します。
スマートフォンから取得する行動ログが健康管理に幅広く活用できるという着眼点に感心すると同時に、ヘルスケアにおけるAI活用の可能性を認識した事例でした。

図3:スマートフォンで取得できる生活関連データ
(出所:NTTドコモ提供資料)
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