本メルマガは、IoT価値創造推進チームのリーダーである稲田修一が取材を行ったIoT導入事例の中から、特に参考となると感じた事業や取り組みを分かりやすくお伝えする見聞記です。

ここに注目!IoT先進企業訪問記 第93回

オープンデータと大学生・高校生の力で地域社会を変える~高山市のまちづくりDX

1. はじめに

 「高校生がデータ分析でまちづくりに貢献している」――そんな話を聞いて、岐阜県高山市でまちづくりDXを推進されている名古屋大学の浦田真由准教授と高山市を取材しました。大学生の地域参画の話はしばしば聞きますが、高校生が関わる事例はまだ少数派。しかも、通行量データをオープンデータとして公開・活用している点もユニークです。本稿では、高山市のまちづくりが、若者の力をどのように活かしているのかについてご紹介します。

2.データの地産地消とオープンデータの活用

 取り組みの発端は、ある市職員の「新設する橋の効果をデータで検証したい」という思いでした。NECソリューションイノベータ(NES)がAIカメラを提供し、浦田准教授が分析支援に加わることで、2019年に三者連携がスタート。その後、コロナ禍を契機に「効率的な観光支援」や「地域全体での情報共有」を目指し、2020年には産学官連携協定を締結。AIカメラで収集した人流・交通量データをオープンデータとして公開し、地域の事業者と連携した施策検討が始まりました。

 商店街での通行量データの活用例(一部のみ、2025年6月現在)は、次のとおり。
 ①   土曜日は少し遅くまで通行量が多いことを踏まえ、土曜日の営業時間を30分延長(飲食店)
   ⇒売上7%増
 ②   通行量に応じて営業時間を調整(文具店)
 ③   バス区間廃止後の通行量変化を検証(行政) ⇒交通施策の改善に貢献

 これらの活用が進んだ背景には、データをオープンにしたことがあります。当初は「市の予算で収集したデータを無償で公開してよいのか」という議論もありましたが、公開したことで誰でも確認なしで使えるようになり、地域内での利活用が加速しました。

 こうした実績が評価され、浦田准教授を中心とする名古屋大学の研究室は、2023年3月に内閣官房の「冬のDigi田(デジデン)甲子園」で総合ベスト8に入賞するなど、複数の賞を受賞しています。

3.若者が主役のワークショップとデジタルサロン

 2021年から毎年開催されている「ICTを活用したまちづくりワークショップ」では、名古屋大学の学生(大学院生を含む、以下同じ)が中心となって成果発表を行ってきました。2024年からは飛騨高山高校の生徒も加わり、地元事業者と一緒に分析結果を見ながら議論するなど、実践的な活動に参加しています。さらに2024年には「高校生デジタルサロン」が開始され、高校生が地元事業者からのデジタル相談(データ利活用、SNS活用など)に応える取り組みも始まりました。(表参照)

表:まちづくりワークショップなどの開催状況

日時

内容

2021年11月22日(月)
第1回ワークショップ

名古屋大学学生からのデータ収集・分析などの報告
グループディスカッション

2022年10月29日(土)
第2回ワークショップ

名古屋大学学生からのプロジェクトの進捗報告
パネルディスカッション

2023年12月1日(金)
第3回ワークショップ

名古屋大学学生からの研究成果の報告
データ分析のワークショップ(Excelでデータ分析をしながら議論)

2024年10月 飛騨高山DX推進官民
連携プラットフォーム設立

地域DX推進に関わる多様な主体(商工関係団体、観光関係団体、大学、市内高校、連携協定組織、市など)が参加した組織の設立

2024年11月15日(金)
第4回ワークショップ

名古屋大学学生・飛騨高山高校生徒からの研究成果の報告
飛騨高山高校の生徒と一緒に分析結果を見ながらまちづくりについて議論(写真参照)

2024年11月29日(金)~
2025年10月3日(金)

高校生デジタルサロンを開始し、期間中に4回開催

2025年11月17日(月)
第5回ワークショップ

飛騨高山DX推進官民連携プラットフォームの分科会から取組成果を紹介
AIカメラのデータをもとにした予測結果を見ながらまちづくりについて議論

 

写真:第4回ICTを活用したまちづくりワークショップの模様

4.高校との連携が生む実践力

 飛騨高山高校では、2023年から名古屋大学の学生によるデータ分析&利活用勉強会を授業に導入しています(図1参照)。また、高校生は大学生と一緒に市職員や地元事業者のデジタル活用を支援し、実践的なスキルを身につけています(図2参照)。

 高校生からは「データが地域の方々の生活に直接つながっていると実感できる貴重な体験でした」という声があがっています。また、市職員からは「(高校生は)仮説から検証までのプロセスが身についていて、非常にスキルが高い」とのお褒めの声がありました。2025年からは斐太高校との連携もスタートし、地域全体で若者の力を活かす動きが広がっています。

図1:名古屋大学の学生による飛騨高山高校でのデータ分析&利活用勉強会の概要

図2:名古屋大学研究室主催の市職員・商工観光事業者向け勉強会&ワークショップの概要

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5.Win-Win-Winの関係構築の秘訣

 これらの取り組みは、大学生・高校生・地元事業者・行政の間で次のような「Win-Win-Win」の関係を築いています。

  • 大学生:高校での授業や市職員・商工観光事業者との交流を通じて、指導力やコミュニケーション力が磨かれる
  • 高校生:データサイエンスを学び、その実践を通して、学びの意欲が向上(楽しくなって友達を誘ってきた子もいます)。進学・就職にも好影響
  • 地元事業者:若者の力でDXが進展
  • 行政:今まで縁がなかった高校生の地域参加の実現とデジタル人材育成の進展

 浦田准教授は「学が加わることで住民目線のDXが進む」と語ります。また、大学生の参加は地域の創造力を高め多くの課題解決につながる、自治体が共同研究や実証実験に加わることで地域社会DXが進む、とも述べておられます。

 この事例は、自治体や地元事業者が「若者とともにDXを進める」上でのヒントに満ちています。地域の課題を大学生・高校生と共有し、若者のアイデアやICTスキルを活かして実践する。まちづくりの新しい手法として、今後さらに注目される取り組みではないでしょうか。

 

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