掲載日 2026年01月07日

 

名古屋大学

【事例区分】
  • 社会課題解決の取り組み
  • 実証実験等の取り組み

【関連する技術、仕組み、概念】

  • IoT
  • ビッグデータ
  • AI
  • DX

【利活用分野】

  • 流通・小売
  • 公共
  • その他(観光・まちづくり)

【利活用の主な目的・効果】

  • サービス・業務等の品質向上・高付加価値化、顧客サービス向上
  • 事業継続性向上

事例の背景

課題(注目した社会課題や事業課題、顧客課題等)

 岐阜県高山市は、人口約8万人に対し年間400万人超が訪れる観光都市である。しかし、観光ニーズの変化に伴い、地域が主体的・戦略的に集客や開発を行う地域主導型の観光に転換することが求められていた。また、少子高齢化などに伴う人手不足や店舗運営の負担増も顕著であり、「限られた人員でどう地域全体の活気を維持するか」という現実的な課題もあった。このため、高山市は、持続可能な地域づくりのために観光を活かすための施策を検討していた。
 こうした中、2019年に総務省地域情報化アドバイザーとして名古屋大学大学院情報学研究科の浦田真由准教授が高山市へ派遣され、AIカメラによる人流計測を通じて「データでまちの今を見える化する」実証実験が始まった。

IoT等利活用の経緯

 2019年12月の実証開始を経て、翌2020年10月には高山市・名古屋大学・NECソリューションイノベータの三者連携協定を締結。NEC製の人流分析AIカメラ「FieldAnalyst(FA)」を設置し、名古屋大学がデータ分析を担当する形で産学官の協働体制が整った。この協働によりニーズや課題の発見、データに基づくまちづくりの推進、効率的なサービス環境の整備をめざしたのである。
 2021年以降、名古屋大学で開発したAIカメラの設置数を徐々に拡大。市や大学、地元事業者が一体となり、AIカメラで得たデータをオープンデータとして公開し、地元の人たちでデータ分析に基づいた施策を展開するという“地産地消型データ活用”が本格化した。

図1 高山市DXプロジェクト年表(出所:名古屋大学提供資料)

 

事例の概要

サービス名等、関連URL、主な導入企業名

サービス名:産学官民連携による観光DX〜高山市におけるデータの地産地消〜

関連URL:https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/digitaldenen/menubook/2022_winter/00005.html
     https://www.soumu.go.jp/main_content/000902765.pdf

サービスやビジネスモデルの概要

 本プロジェクトは、AIカメラによって人流や車両の通行量を自動計測し、地域全体で共有・分析することで、観光・商業・行政施策を効率化するものである。カメラで得たデータをオープンデータとして公開する点が最大の特徴で、市民・企業・教育機関など多様な主体が自由にデータを利活用できる仕組みを構築している。

 現在、高山市内ではNEC製AIカメラ4台と名古屋大学が開発したAIカメラ9台の計13台が稼働している。人や車両の通行量・通過方向・時刻を記録し、個人情報を特定できる画像は保存していない。

 これらのデータは市公式サイトで一般公開され、店舗の営業時間調整やイベント効果測定など、現場の意思決定に役立てられている。飲食店では、通行量分析から「夕方の通行人数が減少する時刻が土曜日は遅くなる」ことを発見し、閉店時間を30分延長。平均7%、最大27%の売上向上を実現した事例がある。

 高山市のバス施策に関する実証実験では、商工会議所や観光協会と連携し、AIカメラデータを活用した施策効果検証を、地元高校生が分析を担うワークショップ形式で実施している。市民が補助金申請書類に根拠として通行量データを引用するなど、行政・民間の垣根を越えたデータ利活用が進んでいる(図2参照)。

 

図2:高山市 産学官民連携プロジェクトの概要(出所:名古屋大学提供資料)

 

 

取り扱うデータの概要とその活用法

 本プロジェクトで扱うデータは、AIカメラによる「まちの動き」に関する定点観測データを基礎とし、商店街や事業者の協力により提供される店舗データなど、現場の経営情報と連携させて分析している。

【主な取得データ項目】

  • 歩行者通行量:カメラ設置地点ごとに通行人数を計測
  • 通行方向:通過方向を自動分類
  • 車両通行量:車種別に台数を記録
  • 時間情報:時間帯別・曜日別のピーク動向を分析
  • 環境データ:天候、気温、祝祭日、イベント開催情報などを付与
  • 店舗データ(協力事業者提供):売上高、入店者数などを統計化して相関分析に使用

 

事例の特徴・工夫点

価値創造

 IoTを活用した「共創型オープンデータ運用」が本事例の中核にある。データを行政が囲い込まず、取得から利活用まで地域全体で共有する仕組みにより、住民・事業者・学生が同じデータを“共通言語”として使えるようになっている。

 名古屋大学が主催する「ICTを活用したまちづくりワークショップ」では、市職員・学生・商工業者等が同席し、AIカメラのデータを分析しながら施策を議論している。2023年からは飛騨高山高校も参加し、高校生がInstagram活用支援やデータ解析を担うだけでなく、地元事業者からのデジタル相談に応える「高校生デジタルサロン」を開始するなど、地域のデジタル人材育成・活用の場にも発展している。

導入時に苦労した点、解決したハードル、導入にかかった期間

 AIカメラの設置にあたっては、電源・通信環境・景観保全・住民理解など多くの調整が必要だった。特に初期段階では「市の予算で取得したデータを無償公開してよいのか」という議論も生じたが、公開による利活用促進の効果を示すことで合意形成を図った。

 運用面では停電・故障・掲出物による視界遮蔽といった問題も発生したが、大学側が遠隔監視・自動再起動システムを導入した。月1回のオンライン定例会で課題を共有し、持続的な運用体制を確立している。また、交通データの分析では、渋滞の影響と実数変化を見分けにくい課題がある。現在、市と大学がETC2.0の速度データとAIカメラ通行量データの比較検証を進めている段階である。

重要成功要因

 オープンデータ方針の徹底により、利活用の手続きが簡素化され、高校・大学・事業者・行政が同じデータを扱える環境が整備されたことである。人材と関係性の連鎖により、関係者間の信頼が蓄積され、協働の文化が根づいた。また、継続的な発信と対話を通じて「続けることが成果」という認識が共有されている。

 また、名古屋大学の学生がそれぞれテーマと熱意を持って関わっており、毎年、小さな成功が生まれることも良い結果を生んでいる。また、地元の高校生が実践的な活動に参加し、貢献している点も成功要因となっている。

技術開発を必要とした事項または利活用・参考としたもの

 名古屋大学では、NEC製AIカメラと連携可能な独自AIカメラを開発した。歩行者・車両・方向を高頻度で検出し、安価で広範囲に配置できる構成としている。また、利用者が「目的・期間・地点」を選ぶだけで自動的に最適なデータを表示できる目的別ダッシュボードを開発。事業者・市職員の意見を取り入れ、“現場が見たい視点”を軸にUI設計を行っている。

 

今後の展開

現在抱えている課題、将来的に想定する課題、挑戦

 今後の課題は、オープンデータの利活用層をさらに広げ、教育・商業・交通など多分野での応用を深めることにある。また、AIカメラによる交通データ分析・予測の精度を高めるため、外的要因(渋滞・イベント)補正の自動化を検討している。

技術革新や環境整備への期待

 データの利活用を推進するには「データ連携を円滑にする社会環境の整備」が鍵である。プライバシーを保護したままデータを連携できる仕組み(プライバシーテック)を検討してきたが、制度よりも「そんなことをしてよいのか」という社会的理解の不足が導入の壁となった。今後は、企業や行政、市民がデータ活用の意義を共有し、安心して連携できる文化づくりが必要である。また、ホテルの売上などのデータ更新が1か月ごとと遅い分野があり、これがデータの掛け合わせ分析を難しくしている。データの利活用を社会で当たり前にすることも必要である。

 技術面では、AIカメラの認識精度の向上やシームレスで自動的なデータ収集技術の進化に期待している。今後は多種多様なデータをAIが統合して分析し、人に示唆を与えてくれるような仕組みの実現を期待している。

強化していきたいポイント、将来に向けて考えられる行動

 今後は高校・大学の教育と地域実践を接続する仕組みを強化し、若者が地域課題を自ら分析・発信する循環型の人材育成を目指したい。「データで考え、地域で動く」文化を根づかせることが、次のDXステージへの鍵となる。

将来的に展開を検討したい分野、業種

 2023年9月には飛騨高山高校、2025年4月からは斐太高校との連携も始まり、総合学習や探究学習として、地域課題解決のためのデータ分析・利活用を実践している。

 今後は観光・交通・防災・環境など多分野への横展開を視野に入れ、IoT機器メーカーや教育機関との連携を深化させたい。2025年11月17日に第5回「ICTを活用したまちづくりワークショップ」を開催したが、官民連携プラットフォームの成果報告と、AI予測を用いた歩行者数分析ワークショップを実施した。学生・市民・行政がデータを軸に共創する仕組みを強化していきたい。

 

本記事へのお問い合わせ先

名古屋大学 大学院情報学研究科 浦田真由

e-mail :  mayu :: i.nagoya-u.ac.jp(※ :: を@に置き換えてください。)

TEL:052-789-4892

URL :   https://mdg.si.i.nagoya-u.ac.jp/