本メルマガは、IoT価値創造推進チームのリーダーである稲田修一が取材を行ったIoT導入事例の中から、特に参考となると感じた事業や取り組みを分かりやすくお伝えする見聞記です。

 今回は、ugo株式会社の取材を通じてセオリーに沿った新規事業の立ち上げについてお伝えします。

ここに注目!IoT先進企業訪問記 第81回


新規事業立ち上げのセオリーを実践したugo

1.はじめに    

 2018年に設立されたugo株式会社(本社:東京都千代田区)は、携帯電話や無線LANでワイヤレス接続された業務DXロボット「ugo(ユーゴ―)」と定型作業を自動化するロボット統合管理プラットフォーム「ugo Platform」の2つの商品を開発し、社会インフラサービス分野の人手不足解消に貢献しようとしています。

 同社の取材を行った時に感銘を受けたのは、社会課題解決をめざしセオリーに則った形で新規事業を立ち上げている点です。同社の取り組みを紹介すると同時に、どのような点が多くの伝統的企業の取り組みと異なるのかを明らかにします。​​​​​

2.「ugo」と「ugo Platform」の特徴

 ugoは走行型のロボットです。ロボットに取り付けたカメラで、画像や映像を撮影し、送信することが可能です。また、さまざまなセンサーを取り付けることで、点群データ(LiDAR)、表面温度(サーモメータ)、温度・湿度、CO2濃度、揮発性有機化合物濃度、PM2.5濃度(大気中に浮遊している直径2.5μm以下の微粒子の濃度)など、さまざまなデータを収集・送信することが可能です。

 ロボットに実施させる業務を、簡単に設定できるようにすることにも注力しています。実際にロボットを移動させながら実施してほしい作業を登録することで、誰でも簡単にロボットに依頼したい作業を設定できます。そして、あとはロボットが設定した作業を自動的に実施してくれます。ugo Platformは、顧客が自分でロボットの使い方を簡単にハンドリングできることを目的として構築しています。

3.顧客要望に必要最小限の機能で対応

 ロボット開発で多いのは、より高機能なロボットを目指す技術主導型のアプローチです。これに対してugo社は、社会実装ファーストの考え方で商品開発を行っています。顧客業務をしっかりと観察し、顧客要望を必要最小限の機能で実現する商品を開発しています。スタートアップでは良く知られている考え方ですが、このような商品をミニマム・バイアブル・プロダクト(MVP:Minimum Viable Product)と呼びます。

 MVPの利点は、商品を迅速に市場に投入することが可能で、顧客からのフィードバックを素早く収集できることです。商品を使った顧客の反応や意見から市場性や使い勝手、必要とされる機能などを判断し、商品性の見直しや改良に活かします。また、機能が必要最小限なので、商品の市場開拓を容易化するコスト低廉化にもつながります。

 同社が、最初に社会実装をめざしたのは警備分野です。業務を観察し、立哨業務と巡回業務に絞ってロボットへの置き換えを考えています。用途を絞るとロボットでの対応が容易になるからです。同社では、この引き算の考え方を徹底しています。現時点では、ロボットが対応するのは屋内のみです。段差や階段の存在をはじめ走行路の状態が多種多様な屋外と異なり、建物内はバリアフリーで作られていることが多く走行時対応が容易です。

 屋内でも段差がある、あるいはカーペットが敷いてある場合があります。カーペット上の移動は何とかなりました。しかしながら、段差対応はじゅうたんを敷いてもらうなどの対応を顧客にお願いすることで乗り切っています。このような工夫で価格を抑えたのです。

4.他社との差別化要素には注力

 一方、他社が苦労している部分で、開発に注力した事項があります。それはエレベータのボタン押しです。階をまたいでの警備には、ロボットがエレベータを利用して移動する必要があります。今までは、ロボットとエレベータ間のシステム連携で対応することが一般的でした。このため、エレベータにこの機能がない場合は、エレベータを改修する必要がありました。これに対して同社は、ロボットが人と同じようにエレベータのボタン位置を認識して押し、エレベータを乗り降りできるようにしたのです。この新しい機能が、他社ロボットに対する優位性となりました。エレベータ改修費用の上乗せがないために、価格競争力が高まったのです。顧客は警備員の人件費の半分以下のコストで、立哨業務や巡回業務を実施できるのです。

 もちろん同社は、この省人効果の実証にも力を入れています。業務をパターン化して、どのくらい警備員の仕事を減らすことができるのかを検証したのです。その結果、遠隔監視による効果、警備日誌作成の自動化などを含め、図1に示すように2台のロボット導入で4人分の省人効果があることを明らかにしています。屋内でしか使えないなどの制約はあっても、省人化・コスト削減につながるソリューションは顧客にとって魅力的です。まさにMVPというセオリーに則った新商品の立ち上げで新規市場の開拓を行ったのです。

図1:ugo社の警備DXソリューションの概要
(出所:ugo社提供資料)

5.  パートナーとの協働

 新商品の開発・立ち上げ時には、他にはない利点を有する新商品を強く欲する顧客を見つける必要があります。マーケティング用語でアーリーアダプターと呼ばれる、新しい商品を比較的初期の段階で使ってくれる顧客層の開拓です。アーリーアダプターは、他の多くの顧客に新商品の評価を広める役割を果たします。彼らに気に入ってもらえる商品でなければ、売り上げの伸びが期待できません。

 この開拓にあたっては幸運がありました。開発から利用まで伴走してくれるビジネスパートナーと出会えたのです。開発していたロボットを見た設備管理会社の方が、エレベータのボタンを押せるロボット開発を打診してくれたのです。大丈夫ですと答えたところ、出資し実証実験にも協力してくれました。この実証実験で警備ロボットの欠点であるエレベータのボタン押しが克服でき、アーリーアダプターに訴求できる商品になったことが、市場展開に向けての武器となりました。

6. 横展開への注力

 新商品の市場を広げるには、異なる市場へと横展開を考えることが不可欠です。ugo社は、図2に示すように初期アプローチ市場として警備市場を開拓した後、点検市場(データセンター、プラント発電所、工場、物流・倉庫など)、介護市場へとロボットを横展開しています。

図2:ugo社が開発した業務DXロボット群
(出所:ugo社提供資料)

 新しい分野への進出にあたっては、その分野に詳しいパートナーと協働しています。また、警備分野に進出した際と同様にMVPを開発しています。そして、顧客が導入メリットを感じる価格設定を行っています(図3参照)。

図3:ugo社の業務DXロボットのラインアップと価格
(出所:ugo提供資料)

 新規事業では、プロダクト・マーケット・フィット(PMF:Product Market Fit)が重要だと言われます。PMFとは商品が市場に適合し、顧客に受け入れられている状態のことを指します。ugo社は、市場が受け入れる機能と価格で商品を開発し、その販路を拡大しています。これも新規事業立ち上げのセオリーに則った取組です。

5. 新規事業のさらなる発展に向けて

 ugo社のビジネスをさらに発展させるには、ロボットの効用をさらに高めるエコシステム構築が課題となります。各種業務をロボットで実施する際に必要な機能開発、ロボットを活用するコンテンツ開発、各種センサーや情報システムとの連携など、さまざまな組織と共創し、ロボット活用の効用を高める必要があります。

 同社は、ロボット統合管理プラットフォーム「ugo Platform」を持っていますが、エコシステム構築にはこの機能をさらに拡充し、顧客がさまざまな機能を自由に組み合わせ、より簡単に、より効果的にロボットを活用可能とする仕組みとする必要があります。情報通信分野では、専門家に限られていた利用を誰にでも使えるようにすることで市場が発展してきました。ロボットにおいても、このような考え方で市場が発展すること、その発展においてugo社が主導的な役割を果たせることを期待したいと思います。

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