ここに注目!IoT先進企業訪問記 第72回


先進性の高い企業の道を実践する日本ソフト開発のSOFINET CLOUD

1.   はじめに

 今回は、日本ソフト開発株式会社(本社:滋賀県米原市)のIoTクラウドプラットフォームSOFINET CLOUD(ソフィネットクラウド)を紹介します。この会社に興味を持ったきっかけは社名の英訳です。「Nippon Software Knowledge corp.」です。会社のロゴマークに使われているNSKのKがKaihatsuではなくKnowledge(知識・知恵)となっています。同社はソフトウェア開発の会社ですが、コンピュータを使って創造的価値を生み出すことを目標としており「コンピュータの創造」を基本哲学に掲げています。

2.   スタートは卒業生の受け皿づくり

 同社の藤田義嗣代表取締役会長が1970年に最初に設立したのは、「滋賀コンピュータ学院」という滋賀県初のコンピュータの専門学校でした。「これからの滋賀県には、情報化社会を担う人材が必要とされる。コンピュータは大いに役立つはずだ」ということで地域の人材育成が目的でした。しかしながら、当時、滋賀県内にはプログラマやシステムエンジニアを受け入れる企業が存在せず、卒業生が県外に流出する可能性がありました。そのため「受け入れ先がないなら、彼らが働けるところをつくればいい」ということで、1972年に日本ソフト開発を設立したのです。

 地元の中小企業から販売管理の電算化を請け負うところからスタートし、日銭を稼ぐ苦しい開発作業から脱却する戦略として考えついたのが、規模で大きくなるのではなく、オンリーワンで光ることによって先進性の高い企業をめざす、そして特徴を活かし市場展開の中で強みを発揮するという道でした。

3.飛躍のきっかけとなった水環境分野のシステム開発

 同社の代表的なサービスは、上下水道、農業用水、アンダーパスの雨水排水、工場排水などのために、全国6,500施設以上(2023年3月現在)で導入されているIoTクラウドプラットフォームSOFINET CLOUDです。国内トップクラスの導入実績を持つサービスです。このシステムの元となったのは、1977年に琵琶湖で淡水赤潮が異常発生したことを契機に関発した水環境監視システムでした。地域で排出された生活排水などの汚染水を浄化し、自然界に戻す水処理プラントの運転状況のリアルタイム監視を行います。環境がビジネスにならない時代に開発し、水環境分野のパイオニアとなったシステムでした。

 この先進性の高いシステム開発は、同社飛躍のきっかけとなりました。システムをホームページで紹介したところ、ドイツにある水処理の広域管理を専門とする会社であるキスタース社から声がかかり、連携につながったのです。水文学(すいもんがく)注1の知見を取り入れたキスタース社の解析システム活用によって、水環境監視システムは複雑な専門性を要する問題の解析が可能なシステムに進化したのです。

 注1:地球上の水循環を対象とする地球科学の一分野で、水の循環過程から地域的な水のあり方・分布・移動・水収支などを研究する学問です。

 さらに、東京大学や国土交通省などが実施した千葉県柏市にある手賀沼の水の見える化を実現する共同プロジェクトにも誘われ、そこでの経験値によってもシステムは進化しました。同社はこの後、このシステムをオンプレミス型注2・オンライン型のSOFINET WATERシリーズに発展させています。ちなみに、SOFINETはSOFTとNETWORKの造語で、ソフトがネットワーク(関係者と通信ネットワーク)でFITすることを意味します。

 注2:システムを運用する上で必要なソフトウェアやハードウェアを自社で保有・管理する運用形態のことを指します。自社でハードウェアやソフトウェアを保有せず、外部事業者のハードウェアやソフトウェアを通信回線経由で利用するクラウド型と良く対比されます。

4.SOFINET CLOUDの概要と特徴

 このSOFINET WATERを、2013年にクラウド化したものがSOFINET CLOUDです。図のようにさまざまな施設における水関係のデータをLTE注3/LPWA注4/光回線でクラウドに収集・蓄積し、ポンプやゲートの状況監視や遠隔操作などさまざまな施設の監視・制御・通報機能を提供するものです。分析・診断・活用機能も持っており、J-ALERTと連携してゲートの自動閉鎖を行うなど他のデータと連携して価値創造することも可能です。

図1:SOFINET CLOUDのサービス概要(出所:日本ソフト開発提供資料)

 注3:Long Term Evolutionの略。携帯電話の技術規格の一つで、第3世代携帯電話(3G)の技術を高度化し、音声通話のデータへの統合やデータ通信の高速化を図ったものです。当初は3Gと4G(第4世代携帯電話)の中間の世代とされていましたが、現在ではLTE-Advancedと共に4Gの一つとなっています。

 注4:Low Power Wide Areaの略。低消費電力で広域に通信可能な無線通信技術を指します。

 SOFINET CLOUDは、技術情報が開示されている汎用機器で構築することが特徴です。顧客が既存資産を活用しながら自由にシステムを高度化できるよう、ベンダーロックイン注5を排除しているのです。先進性を実現するには、さまざまな機器を自由に組み合わせることが可能な柔軟な開発環境を確保すること、自社ですべての顧客ニーズに対応できないので、オープンイノベーションが可能なエコシステムを構築すること、この二つが必須であり、そのための戦略なのです。図の下部のAPI連携のところに「API連携を通じて各社が提供されるクラウドサービスとの連携を求めています。」というフレーズがありますが、これはまさにエコシステム化の戦略に沿ったものなのです。

 注5:システムの中核部分に独自仕様のサービスや製品などを使ったシステムとしたことにより、それを他社のものに切り替えたいと希望しても、切り替えるためには技術面、費用面や開発に要する時間などで大きなハードルが生じ、それが実質的に困難な状態になることを指します。

5.良いものはどんどん使う

 オンプレミス型の水環境監視システムをクラウド型に転換するきっかけとなったのは、NECプラットフォームズ社の遠隔監視制御システムである「コルソス CSDJ」との出会いです。ちょうどオンプレミス型からクラウド型への転換が、大きな課題となっていた時期でした。このシステムは、設備の稼働状況や故障状況、水位・流量などの計測情報を、各種通信インフラを用いて監視・通報・制御する機能がワンパッケージ化されており、手軽に低コストで導入できたのです。しかも、スタンドアロン運用、オンプレミス運用、それにクラウド運用に対応する拡張性を備えたシステムでした。

 同社は、まず、このシステムをIoT端末として使って、手馴れているオンプレミス型でウェブ監視が可能なシステムを構築しました。そして、次に、このシステムをクラウド型に切り替えたのです。この切り替えの際に、顧客に負担をかけずに転換できたのは、コルソスCSDJが有するオンプレミス型にもクラウド型にも対応できるという柔軟性のおかげでした。

 この同社の良いものはどんどん使う戦略は、コルソスCSDJの採用に限りません。業務自動化の分野ではNTTアドバンステクノロジーが開発した「WinActor」の販売代理店になっています。このシステムを利用すれば、多くのアプリケーション操作をシナリオの形で記録することで自動化してくれます。例えば、商品受注業務において、今まで8時間かかっていた受注リストを作成し、システムに入力し、発送手続きを終える業務が、シナリオを覚えさせることにより10分で完了します。あらためて自前のシステムを開発するのではなく、良いものはどんどん使い、自らは別の領域で良いものを開発し勝負するという考え方なのです。

 この考え方が、独自性があり先進性の高いシステム開発につながっているように思います。同社は、早くから社会課題の解決をめざしたシステム開発に力を入れていますが、水環境監視システムだけでなく、子ども園・幼稚園・保育園のDXを実現する総合保育業務支援システム「Kid’s View」、ビッグデータを高速に結合・加工・検索・集計処理が可能な「SOFIT Super REALISM」、ケーブルテレビ自主放送向けのコンテンツマネジメントシステム「Channel-i」など、トップクラスのシェアを持つシステムがいくつかあります。まさに先進性が高いという特徴を活かして市場展開の中で強みを発揮する、という道をこれらのシステムで実現しているのです。

 先進性の高いシステムは、時代が追いつくまでマーケット展開で苦労することがあります。「Kid’s View」がそうでした。保育士の業務改善による負担軽減がその機能の中心であったこのシステムは、2009年に開発しています。しかし当初は、「子どもをデジタルで管理するのか」と導入をためらう園が多かったのです。転機が訪れたのは、厚生労働省が保育現場の業務効率化を図るため補助金による支援を開始した2016年でした。マーケットが本格的に動くまで7年かかっています。

 同社の戦略は、地域創生モデルとして見習うべき点が多々あります。忘れてはいけないのは、戦略を立てるのは比較的簡単ですが、その戦略を実現するのは簡単ではないことです。ましてやその戦略を継続するのは至難の技です。約50年の会社の歴史の中でこのような戦略を思いつき、社内に定着させた日本ソフト開発のさらなる挑戦に期待したいと思います。

 

今回紹介した事例

最小の資源で最大の効果を発揮、水の見える化を実現する 日本ソフト開発のクラウド型遠隔監視制御サービス「 SOFINET CLOUD 」

 1977年に琵琶湖で赤潮が異常発生し、地方自治体から提案要請を受け、下水道の水質やプラントの稼働状態の監視をオンプレミス型の水環境監視システムとして立ち上げた。この水環境監視システムを発展させ、さらに2012年にクラウド化を行いクラウド型遠隔監視制御サービスとして提供しているのが「SOFINET CLOUD」である。現在では、312事業体の6,500以上の施設で稼働している。...続きを読む

 
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