本メルマガは、IoT価値創造推進チームのリーダーである稲田修一が取材を行ったIoT導入事例の中から、特に参考となると感じた事業や取り組みを分かりやすくお伝えする見聞記です。今回は、水処理装置・水処理薬品の製造・販売大手の栗田工業株式会社(本社:東京都中野区)のサービス化に向けた取り組みを取り上げます。

【ここに注目!IoT先進企業訪問記(23)】

「モノ売り」から「コト売り」にビジネスを変える-製造業のサービス化に向けた栗田工業の取り組み

1.製造業のサービス化とは

 製造業のサービス化は1990年代後半に盛んに議論されたアイデアです。製造業のビジネスの基本は「モノを製造し、それを購入した顧客から対価を得る」というものです。これに対し「顧客価値はモノが提供する機能やサービスから生まれるものなので、モノが提供する機能やサービスによって対価を得る」というのが製造業のサービス化の考え方です。

 この製造業のサービス化の議論は、2000年以降のモノづくり回帰の流れに押されて一時期下火になっていたのですが、稼働管理などIoT活用の進展、カーシェアや洋服のレンタルなどシェアリングエコノミーの発展で、最近、再びクローズアップされています。

 

2.着々とサービス化を進めた栗田工業

 栗田工業は、製造業のサービス化議論が下火になってからも、サービス化への手綱を緩めませんでした。1990年代にテレメトリーの技術が発展し、それにライバルメーカが取り組んでいたこと、2000年頃に欧米で専門知識が必要な水処理を自社から専業メーカにアウトソースする流れが始まったことなどの追い風を受け、「モノ売り」から、モノが提供するサービスや価値を売る「コト売り」にビジネスを変える、という強い経営の意思でサービス化を推進しています。

 

3.サービス事業の売上高は着実に増加

 この取り組みは成功でした。図1に示すように、水処理装置事業(ハード)の売上高はピークであった2006年度から減少しているのに対し、サービス事業である水処理装置事業(サービス)と水処理薬品事業の売上高合計は着実に増加し、2017年度には2002年度の約2倍になっています。何よりも売上高が景気に大きく左右されるハード事業と異なり、サービス事業の売上高は安定していることが経営上のメリットです。同社のIoTやデータ活用は、サービス事業の拡大、進化とともに進展しています。それでは、その主な取り組みをご紹介しましょう。

図1:栗田工業の事業別売上高の推移
【出所】データは、栗田工業株式会社決算説明会資料による

 

3.1 超純水供給サービスなどの開​始

 同社は2002年に超純水注1供給サービスを開始しています。同社が所有する装置を顧客の工場内に設置して、運転管理を行い、精製した水を販売したのです。まさに、超純水装置というモノを売るのではなく、装置が作り出す超純水の供給というサービスを売ったのです。

 幸いなことにサービス開始当初からニーズはあり好評でした。顧客サイドでは、専門知識と経験が必要な装置の運転・維持管理とその人材育成に苦労していたからです。この他、同社は水処理に関するコンサルティング事業の強化、分析部門や精密洗浄部門の子会社化など、サービス事業へのシフトを進める取り組みを行っています。

注1:金属イオン類、有機物、生菌、微粒子などの不純物をほとんど含まない高純度の純水のこと。半導体製造工程のシリコンウェハ洗浄や医薬品製造などに用いられる。

 

3.2 センシング技術の開発で水処理管理サービスを提供

 同社は、2013年には水処理管理サービス「S.sensing」を開始しています。センシング技術を活用し、水質変動に応じて最適な水処理薬品の注入制御をリアルタイムで自動的に行うサービスです(図2参照)。IoTとデータ活用によるサービス事業の進化を本格化したのです。

 水処理薬品は、空調、排水処理、製紙生産などで使われています。超高層ビル、地下街、病院、クリーンルームなどにある空調設備では、冷却用の水が循環しています。これらの冷却水系で水に起因するスケール注2やスライム注3、あるいは腐食トラブルが発生すると、空調の運転停止や設備寿命の短縮、エネルギーロスなどの問題を引き起こします。この問題に対応するために、薬品注入が必要なのです。また、排水処理設備においても、有機物を含む沈殿物の処理、重金属イオンの除去、臭いの処理などに薬品注入が必要です。

 薬品注入制御の最適化には、薬品の有効濃度や水処理効果を計測・解析することが必要です。このため、同社はレーザー散乱光や超音波によってこれらを計測する技術を新たに開発しています。

 新たなセンサーの開発によって、水処理状況の見える化が可能になります。そして、水処理管理の状況や効果、その時系列変化に関するデータを蓄積すると、設備トラブルの事前予測、より効率的な水処理、環境負荷低減などにつなげることが可能になります。また、何よりもデータを顧客と共有することで、エビデンスに基づく客観的な判断が可能になります。これは、顧客の納得感醸成や満足度向上につながります。

注2:水中に溶けているカルシウムやシリカなどが析出し、固まったもの。
注3:水中の細菌や藻類など微生物により形成された汚濁物。
 
図2:S.sensingの仕組み
【出所】栗田工業プレスリリース「水処理管理サービス「S.sensing®」の機能を刷新、
グローバル展開を本格化」(2016年9月27日)
 

3.3 水処理装置にセンサーを設置し、運転状況を「見える化

 同社は、2014年から「K-ecoメンテナンスサービス」を開始しています。水処理装置に水質・水量などのセンサーを設置し、リアルタイムに収集したデータと定期的にサンプリングした水の精密な分析結果をあわせて解析します。水処理装置の運転状況を見える化し、適正なメンテナンスにつなげようというサービスです(図3参照)。これによって、水処理装置の運転状況に合わせメンテナンス頻度を適正化する、あるいは装置運転を最適化することで、コスト削減が可能になります。

図3:K-ecoメンテンナスサービスの水処理装置管理手法
【出所】栗田工業ホームページより https://kcr.kurita.co.jp/k-eco/service1.html

 

3.4 純水供給サービスKWSSの開始

 同社は2016年から純水供給サービスKWSS(Kurita Water Supply Service)を開始しています。大規模なプラントを使用する超純水供給サービスだけでなく、中小型純水装置を使用している顧客も装置の提供ではなく、純水供給というサービスの提供を求めていると考えたからです。

 同社はKWSSの開発の際に、それまでに蓄積していたデータを有効に活用しています。例えば、装置の動作パラメータを最適化することで純水を安定的に供給できるようにしています。また、コストがかかるRO膜やKCDI(電気式脱塩装置)等の水処理機能材を同社が運転監視し、これまで蓄積してきたデータを基に解析し最適な運用を目指しています。この運用の最適化と予防保全によって、顧客のトータルコストを最大30%削減可能としているのです。

 現在、KWSSの需要は堅調で、今後も拡大を見込んでいます。

注4:ろ過用の膜の一種で、逆浸透膜(reverse osmosis membrane)の略称。不純物が溶け込んだ水に圧力をかけて膜を通過させると、純水を取り出すことができる。

 

4.3つの「見る」で変革

 同社のビジネスは、元となる水(原水)から顧客のニーズに応じた品質の超純水や純水を作ったり、排水や汚水をきれいな水に戻したりする水処理技術が基本になっています。その要素技術は、膜分離・ろ過、脱イオン、吸着、生物処理、殺菌・制菌、凝縮・凝結、防食、分散、表面処理など多岐にわたります。また、個々の要素技術の効果を把握するために、水処理を行う装置やその機能部品の状態監視を行うためにも、センサーや分析技術が必要です。まさに幅広い「見える化」が求められるのです。

 同社は2018年に作成した新中期経営計画で5年後のありたい姿を描いています。そこでは、確固たる収益基盤を持ったグローバル・バリュークリエーターになるため「顧客から見る」「価値から見る」「外から見る」という3つの「見る」による変革という決意が述べられています。

 見る「視点」に力点を置いているところが大きなポイントです。人は得てして技術の効果を見るためにデータを収集しがちです。その結果、価値創造に結び付かないことが多々あります。それを回避する上で有効な方策が視点の提示なのです。

図3:5年後のありたい姿
【出所】栗田工業「新中期経営計画MVP-22」より

 

5.これからが正念場のデータ活用

 同社のデータ活用は、これから正念場を迎えます。今までのデータ取集・活用は、人が見ていたものをセンサーに代替したものが中心です。もちろん、純水供給サービスの提供のように、顧客のトータルコストを削減可能とするためにデータ活用したケースもありますが、どちらかと言えば要素技術起点の発想でデータ活用を進めています。

 しかし、これからは「顧客価値」「ビジネス価値」、それに外から見る「社会価値」が今まで以上に求められます。水処理を通じた持続的社会の実現などより大きな視点でビジネスの仕組みやそれに資するデータ活用を考え、かつ、要素技術の擦り合わせを最適化することで実際に価値創造することが必要なのです。前者の実現に向けては、外部を交えたオープンイノベーションが不可欠です。後者の実現に向けては、多数のパラメータを有する複雑系の最適化が課題になるので、機械学習などのAI技術の活用がポイントになります。

 「"水"を究め、自然と人間が調和した豊かな環境を創造する」という企業理念を掲げる同社が、IoT、データ、AIなどの新しいツールと水処理の要素技術を上手に融合し、「モノ売り」から「コト売り」へのビジネス転換をさらに進め、同時にその企業理念を実現することを期待したいと思います。

 

今回紹介した事例

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IoTを駆使した純水供給サービス「KWSS」 ~導入から維持管理までをお任せ~

当社は水処理事業においていち早くサービス化に注力し、2002年に、当社が保有する超純水装置をお客様工場内に設置・運転管理まで行い、精製・供給した水を使用いただくという、超純水供給サービスを開始した。...続きを読む

 

 
 
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