掲載日 2019年03月20日
西松建設株式会社

栗田工業株式会社

【提供目的】
  • 生産性向上、業務改善
  • 顧客サービス向上
  • 事業継続性
  • 事業の全体最適化
  • その他

【活用対象】

  • 企業顧客

IoT導入のきっかけ、背景

 IoTを活用したライドシェアなどの新たな「コト売り」サービスが増え続ける中、製造業においても、水・電気・ガスなどのユーティリティ設備を自社で保有せず、サービスとして利用する動きが加速している。当社は水処理事業においていち早くサービス化に注力し、2002年に、当社が保有する超純水装置をお客様工場内に設置・運転管理まで行い、精製・供給した水を使用いただくという、超純水供給サービスを開始した。

 超純水供給サービスは、処理水量毎時100m3(処理水質18MΩ・cm)クラスの大規模プラントを使用するが、処理水量が毎時2~15m3の中小型純水装置を使用するお客様も、運転管理担当者の離職に伴う後継者の育成、安定した水質を得るための日々の維持管理などに多くの課題を抱えていた。純水装置の運転管理には、高度な専門スキルと経験が求められるためである。そこで、中小型純水装置にもこのサービス化が適用できないかと考え、IoTを活用した純水供給サービス「KWSS:Kurita Water Supply Service」を開発した。

 KWSSでは、長年の経験に基づく予防保全などによって、遠隔監視と当社サービス拠点が連携した純水供給の安定化を実現しただけでなく、お客様のトータルコストを最大30%削減可能とした。現在、採用実績は堅調に推移しており、今後も大幅な拡大を見込んでいる。

 

IoT事例の概要

サービス名等、関連URL、主な導入企業名

サービス名:KWSS:Kurita Water Supply Service

関連URL:http://www.kurita.co.jp/aboutus/press160829.html

サービスやビジネスモデルの概要

 KWSSでは、お客様の敷地内に本サービス専用の純水装置(図1を参照)を当社資産として設置し、日常の監視からメンテナンスまでをトータルに請け負う。契約期間は5年を基本とし、装置の購入に関わる初期投資が不要で、月額一定料金で純水を安定供給する。

 また、オンラインで遠隔監視と運転データ収集を行い、傾向管理・アラーム解析を行うことによって、リアルタイムな装置運転状況に基づくメンテナンスサービスを実施する。これにより、お客様の初期投資と維持管理のトータルコスト(水、電気、蒸気などユーティリティコスト含む)を最大30%削減することが可能となる。

図-1 KWSS専用純水装置の外観

 

ビジネスやサービスの内容詳細

 本サービスの特徴を以下に示す。お客様の投資コストを削減し、かつ安心して選んでいただけるサービスとすることに注力した。

(1)  傾向監視による予防保全

 当社の監視センターから遠隔監視し、データの推移から異常の発生を予測する。異常の予兆を発見した際は、全国の保守拠点と連携し、生産に影響がない最適なメンテナンスを実施する。

 例えば図-2に示すように、RO膜(逆浸透膜)(*1)の閉塞を圧力の変化から予測し、水質が劣化する異常を事前に検出する。水質と監視データの相関性に関する長年の蓄積から予兆検出を実現した。

(*1):逆浸透現象を応用し水中に溶解しているイオン類などの不純物を除去するための膜。

図-2 遠隔監視のイメージ

 

(2)  新規ハード開発によるランニングコストの削減

 RO膜は水温が下がると、処理水量が低下する。このため、従来のRO膜を使った純水製造システムは一定温度に加温する必要があったが、蒸気加温が不要な純水製造システムを新規開発した。これによって蒸気発生装置を不要とし、装置の省エネルギー化を実現した。また、データ分析による各種装置の動作パラメータを最適化することによって、処理水量の低下を防止している。

 

(3)  コンディションベース・メンテナンスの実現による保守コストの削減

 RO膜(逆浸透膜)やKCDI(電気式脱塩装置)等の水処理機能材(以下、機能材と呼ぶ)の管理は水質を維持するために重要であるが、機能材の性能低下は、経年変化に加えて、純水の原料である水道水・地下水(以下、原水と呼ぶ)の水質変化に起因する場合もある。従来は経年変化と原水由来による性能低下の識別が難しかったため、機能材を定期交換せざるを得ず、ランニングコストを押し上げていた。そこで、水質と機能材状態の連続モニタリング結果から、機能材の性能低下原因を特定する技術を開発した。

 これによって、お客様と協力し、必要に応じて性能低下原因を改善することによって交換頻度を下げることが可能となった。従来の、一定期間毎に部品の交換を行うタイムベース・メンテナンスに対して、装置の状態に応じて必要なタイミングで交換を行うコンディションベース・メンテナンスを実現することによってコストを削減できた。

概要図

 KWSSの仕組みを図-3に示す。前述したとおり、データの活用によって、従来の運用管理に比べ、よりきめ細かで正確な管理を実現し、お客様が安心して当社のサービスを使っていただけるようにした。

図-3 KWSSの仕組み

 

取り扱うデータの概要とその活用法

以下のデータを用いて装置監視や異常の予兆検出を行う。

  • 複数のセンサーを使用し、圧力・水量・水質などを時系列で収集
  • ポンプなど機器のON/OFF状態
  • 運転時間・動作回数の積算値

 

事業化への道のり

苦労した点、解決したハードル、導入にかかった期間

  • 安定稼働し止まりづらい装置の開発、長寿命な機能材の要素技術開発、監視システムの開発、現場で最終対応を行うメンテナンス体制など、社内の多くの部署が連携して動くためのチーム作りには3年程度の期間が必要であった。
  • 導入にあたり、従来の「純水装置を購入する」という考え方から「安定供給される純水を利用できるサービスに対価を支払う」という選択肢を理解していただく必要があった。

技術開発を必要とした事項または利活用・参考としたもの

  • 純水製造システムは、温度が変化しても安定した水質を得ることが求められるため、今回、蒸気加温が不要でも純水を供給できるシステムとした。
  • サービス化の実現に向けて、異常発生時に現場を訪れなければわからない事象を極力なくし、センサーによる監視に代替えする必要があった。そのため、従来はイニシャルコスト面から搭載していなかったセンサー類を設置し、サービスのトータルコストを低減させた。

 

今後の展開

現在抱えている課題、将来的に想定する課題

 より多くのお客様にKWSSを利用していただくため、従来は本サービスの対象外であったお客様にも使っていただけるようにする必要がある。例えば、より幅広い処理水量の要求に対応するために機器のラインナップを増やすこと、幅広い原水の条件に対応するためのオプション機器(水質改善機器など)の開発が必要である。

強化していきたいポイント、将来に向けて考えられる行動

  • 現状は故障の予兆検出が難しい機械部品や電気部品の予兆検出技術を確立する必要がある。
  • サービスが拡大した際に監視センターや保守拠点の人員を極力増やさずに対応できるようにしたい。そのために、ワークフローの改善や人の判断を自動化するための、機械学習・AIの活用を進めている。

 

本記事へのお問い合わせ先

栗田工業株式会社

第一営業本部 事業管理部門 事業変革部 推進二課 喜田 俊昭

e-mail : toshiaki.kida@kurita.co.jp

URL : http://www.kurita.co.jp/