本メルマガは、IoT価値創造推進チームのリーダーである稲田修一が取材を行ったIoT導入事例の中から、特に参考となると感じた事業や取り組みを分かりやすくお伝えする見聞記です。今回は、ベンチャー企業の株式会社アクアビットスパイラルズ(本社:東京都品川区)のスマートプレートを取り上げます。

【ここに注目!IoT先進企業訪問記(22)】

スマホをかざせばリアル世界とサイバー世界が瞬時につながる-アクアビットスパイラルズの「スマートプレート」

1.CEOは根っからのイノベータ

 アクアビットスパイラルズの萩原 智啓CEOを取材した際に感じたのは、根っからのイノベータであること。彼は、リアル世界とサイバー世界の接点としてNFC(近距離無線通信)機能付きの電子タグをどう活用するかを常に考え、さまざまな利用シーンを創出しています。アイデアがひらめくのは夢の中が多いので、枕元に常にメモを用意し、アイデアが浮かんだらすぐにその場で書き留めるとのこと。「夢の中では何回もノーベル賞をとっています」と嬉しそうに話される萩原CEOのアイデアと同社の取り組みをご紹介しましょう

 

2.アクアビットスパイラルズのスマートプレートとは

 スマートプレートというサービスは、同サービスシンボルの表示(図1及び写真参照)がある箇所にスマートフォンをかざすと自動的にブラウザーなどのアプリが起動し、関連情報を表示する、という極めてシンプルなものです。これを可能にするため、スマートプレートにはNFC機能付きの電子タグが埋め込まれています。この電子タグの中にはWeb空間へのアクセスを可能とするユニークID付きのハイパーリンクが書き込まれているので、電子タグに反応したスマートフォンに、当該IDと関連づけられた情報やサービスを瞬時に、動的に配信することができます。

 またNFC機能を持たないスマートフォンでもアクセスできるよう、QRコードも併用できる設計となっています。

図1 スマートプレート
【出所】アクアビットスパイラルズ社提供資料
 
写真 スマートプレートが埋め込まれた掲示板の例(観光案内)
【出所】アクアビットスパイラルズ社提供資料

 

3.最大のメリットは誰でも簡単に情報入手できること

 スマートプレートの最大のメリットは、検索することなく目的の情報に瞬間的にアクセスできることです。アドレスやキーワードを入力する手間をかけずに、スマートフォンをかざすだけで誰でも簡単に情報やサービスが得られるのです。NFC機能を備えたスマートフォンでは電子タグに近づけるだけでブラウザーが自動的に起動し、情報を表示します。つまり特別なアプリケーションをインストールすることも起動することもなく情報が開きます。さらに、このスマートプレートに埋め込まれている電子タグは電池なしで動作します。スマートフォンからの電波を受け、その電波を電子タグの中で電力に変えてハイパーリンクの情報をスマートフォンに返すのです。したがって、電源がない場所でも使うことができ、かつ電池交換といったメンテナンスコストを必要とせずに長期間使い続けることができます。

 

4.市場創出に向けた挑戦

4.1   あえなく失敗した最初の挑戦

 今でこそ成長が期待される同社の取り組みですが、2013年から始めた最初の挑戦はあえなく失敗したそうです。これは、ポスターなどに電子タグを埋め込み、顧客がスマートフォンをポスターにかざして情報を入手するというサービスで、NFC機能付きの電子タグをマーケティングツールとして売り込もうとしたのですが、うまく行かなかったのです。その原因は、そこに市場がなかったからでした。

 

4.2   再挑戦はコンセプト作りから

 この最初の失敗で学んだことは、市場をゼロから創出するには「コンセプト作りから始める必要がある」ということでした。そして、2015年に「誰もが簡単にモノと情報を紐づけられるモノのハイパーリンク=Hyperlink of Things®=HoT」というコンセプトを創出し、このHoTをどのような利用シーンでどう使えばユーザの利便性が向上し、結果として顧客のどんな問題を解決できるのか、ということを必死に考え始めました。ユーザが場所やモノに紐づく情報が欲しいと感じるのはどんな場面か、アプリ型サービスが浸透しにくいのはどんな利用シーンか、を見つけるのに悪戦苦闘したのです。

 

4.3   苦しんだ末に開拓したいくつかの利用シーン

① 観光での利用シーン

 例えば、ホテルの客室に設置してある掲示板にスマートフォンをかざすと館内情報、タクシー配車、ローカルツアーなどの情報を多言語で配信するサービス、観光案内所の掲示板にスマートフォンをかざすと観光情報を多言語で配信するサービスなどです。スマートフォンには使用言語の情報が入っているので、顧客の使用言語を検知し、その言語で情報配信することができるのです。

 ホテルの宿泊客や観光客の多くは、自分が使う言語で情報を見たいはずです。また、ホテル案内や観光、ショッピングに必要な情報に自分のスマートフォンで手軽にアクセスし、必要な情報や地図などをダウンロードすることは当たり前になっていますが、一時的な滞在場所である観光地の情報配信サービスを専用アプリで提供したとしても、ダウンロード→インストール→起動という面倒なプロセスから多くのユーザが離脱していくことは明らかです。ユーザにとって理想的な体験は、ホテルの館内情報や観光情報など「今欲しい情報」に「瞬時に」アクセスでき、それが「自国語で」配信されていることなのです。

 一方、ホテルや観光地側にも大きなメリットがあります。多言語の情報を紙で用意する必要がなくなるのです。また、宿泊客や観光客のさまざまな情報ニーズに人手で対応する労力を減らすことが可能になります。しかも、宿泊客や観光客はどのような情報がほしいのか、国や季節、曜日、時間帯などによる情報ニーズの違いなどについてもデータ収集することができます。そして、これらのデータを分析することで、ホテルや観光地の発展に活かすことができるのです。

② マーケティングでの利用シーン

 マーケティングでも、同社はいくつかの利用シーンを開拓しています。野球場の座席に埋め込まれたスマートプレートにスマートフォンをかざすだけで、座席位置を伝えたり大声で呼んだりすることなくビールの売り子を呼べるサービスや、小さな店舗で気に入った商品の棚にスマートフォンをかざしてオンラインのお気に入りボックスに登録するサービス(後からネットでショッピング可能)などです。このようなサービスを提供することにより、顧客の利便性が向上するのはもちろん、情報にアクセスした場所や時間、顧客が店頭で手にとって反応したデザインやサイズといったデータを収集し分析することが可能になり、マーケティング戦略策定に活かすことが可能になります。

③ イベントでの利用シーン

 イベントでも、彼らはいくつかの利用シーンを開拓しています。観光地の土産物屋や飲食店などが参加するスタンプラリーをスマートプレート付きの航空機の機内誌で紹介し、参加店舗の店頭でスタンプを集めることで航空会社のポイントや宿泊券があたるスタンプラリー型の集客促進・送客可視化サービス、イベント会場や展示会の出展ブースにスマートプレートを設置し、スマートフォンをかざして回ることでまとめて資料請求ができるサービスなどです。これらの場合も、季節や曜日、時間ごとのアクセス状況や各店舗・ブースへの訪問状況、顧客の回遊パターンなどのデータを収集してダッシュボードで可視化することが可能で、これを分析することによってより効果的な次回施策につなげることが可能になります。

 

5.さらなる発展に向けた挑戦

5.1 マーケットの扉は開いた

 最近、スマートプレートの利用者数が急増しています(図2参照)。アンドロイドOSを使うスマートフォンは、2011年にリリースされたAndroid OS 4.0からNFCのサポートを開始していたのですが、これに続き、AppleのiPhoneも2017年のiOS 11からNFCのサポートを開始しているからです。同社のスマートプレートは、世界各地でさまざまな賞を受けていますが、いよいよ実際のマーケットにおいても同サービスのメリットが理解され、マーケットの扉が開いたのです。

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図2 スマートプレートの出荷数と利用者数の推移(2014年7月~2018年11月)
【出所】アクアビットスパイラルズ社提供資料

 

5.2 激しくなる競争を見越した次の挑戦

 スマートプレートのようなサービスが発展すると、同様なサービスが他社から提供され、競争が激しくなる可能性があります。これに打ち勝つには、他社に先駆けて多くのユーザと連携し新しい利用シーンの開拓を進めると同時に、ユーザにとってより便利で使いやすいサービスに進化させる必要があります。

 同社は既に観光を始め金融、物流、交通、小売、不動産、教育、飲食など様々な業種業界に属する企業との連携を活発に行っています。リアルな顧客接点を多く持つ大手企業を中心に評判が確立しつつあり、数多くのオープンイノベーションプログラムにも選出されています。また、最新技術の研究開発にも力を入れており、例えば、電子タグの中に入っている識別番号のコピーを防止する高度な認証機能を持つスマートプレートを開発しています(図3参照)。高価なワインのラベルに埋め込み、偽物の流通を防止する、あるいは特定の識別番号を有するスマートプレートが貼ってあるモノを持っている顧客限定で情報を配信するなどの利用シーンが想定されます。

 一方、ユーザの利便性向上に向けては、収集するデータを有効に活用することが一層重要になります。スマートプレートの利用シーン開拓に加え、データの利用シーンの開拓が必要になるでしょう。

 同社の社名は、アナログ・リアルの象徴である「アクア(水)」とデジタル・テクノロジー・バーチャルの象徴である「ビット」が融合して「スパイラル(らせん状に絡まる)」構造を創り、昇華していくことで新しい価値を創造するという思いを込めて命名したものです。萩原CEOのアイデアと同社によるそのサービス化の実現により、リアル世界とサイバー世界の接点がさらに拡がることを期待したいと思います。

図3 コピーを防止する新機能を持つスマートプレートの利用イメージ
【出所】アクアビットスパイラルズ社提供資料
 
 

今回紹介した事例

アクアビットスパイラルズ事例

かざすだけの瞬間コミュニケーションで「ググらせない」世界を実現する - スマートプレート

当社は、NFCタグの技術を活用して「モノ」にWeb空間への入り口となるハイパーリンクを埋め込み、スマートフォンをかざすだけで検索しなくても簡単に目的の情報にアクセスできる「スマートプレート」サービスを開発した。...続きを読む

 
 
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