本メルマガは、IoT価値創造推進チームのリーダーである稲田修一が取材を行ったIoT導入事例の中から、特に参考となると感じた事業や取り組みを分かりやすくお伝えする見聞記です。

 今回は、ベンチャー企業のボクシーズ(本社:東京都千代田区)が開発している飲食店向けオーダリングシステム「Putmenu(プットメニュー)」を取り上げます。

【ここに注目!IoT先進企業訪問記(16)】

「注文0分、会計0分」で来店者の手間を省く-IoT活用で飲食店を変える「Putmenu」

 最近、PoC(Proof of Concept:概念実証)の失敗に関する話をしばしば耳にします。PoCは、想定していた価値が本当に顧客にとっての価値となるのかどうかを検証する手段の一つで、製品やサービスの簡単なプロトタイプを制作し、顧客の反応を見ながら製品やサービスの開発を継続する、あるいは大幅な見直しが必要であるなどの判断を行うものです。三次元プリンターの登場やクラウド、オープンソース・ソフトウェアなどの普及により、プロトタイプ制作が迅速、かつ安価にできるようになったことから、最近、急速に拡がっています。

 PoCは、顧客価値の予想が難しいイノベーティブな領域で行われることが多いので、そもそも失敗は織り込み済みのはずです。しかし、失敗に至った経緯をよくよく聞いてみると、これを実施すれば新しい価値が見つかるのではないかと期待し、十分な検討を行うことなく思い付きのアイデアをベースに実施されるケースがあるようです。これでは、無駄な失敗を積み重ねる確率が高く、そもそも何を検証したいのかが不明確なので、PoCから有用な知見を得る可能性も低くなってしまいます。新しいプロジェクトが本当にビジネス革新に結び付くかどうか、その効果や効用をPoCを実施するまでにきちんと検討し、価値創出に至る仮説を立てることが必須なのです。

 このPoCを上手に活用し、協業を加速させることに成功したのがボクシーズです。実際に動くプロトタイプを見せることで、協業相手に新たな価値を理解してもらったのです。PoCのメリットを最大限に活用した同社の挑戦について紹介します。

1.  日常の不便をなくすところに価値がある

 ボクシーズの鳥居代表取締役が発見した課題は、飲食店での待ち時間でした。例えば、ファーストフード店では、注文のためにカウンターに並ぶ必要がある店舗があります。個人情報満載のパソコンが入っているので鞄を置いて席を確保することができず、重い鞄と受け取ったトレイを持ったまま席を探さなくてはならない場合があります。あるいは、午後一番に会議の予定が入っているため、ファミリーレストランなどでは支払をさっと済ませオフィスに戻りたいのに、会計の列ができていて支払のために足止めされるケースもあります。

 これらの課題を解決するために鳥居氏が使ったのは、ビーコンとスマートフォンアプリです。これらを用いて店舗とその中にあるテーブル、これから来店する顧客をつなぐことにより「注文0分、会計0分」という新しい価値を創出したのです。

 代表的なプロセスを具体的に説明すると、

  • 顧客がスマートフォンのPutmenuアプリを起動すると、近隣の対応店舗が表示されます。行きたいお店を選び、メニューを閲覧します。ちなみに、メニューは12ヵ国語で表示可能です。
  • メニューから注文したい飲み物や食べ物を選びます。但し、この時点では注文は確定しておらず、2時間以内に来店しない場合は自動的にキャンセルされます。
  • 顧客が来店すると、店舗のビーコンがスマートフォンと通信し顧客を認証します。
  • 顧客がテーブルに着席し、テーブルのPutmenuマークにスマートフォンをかざすことで注文が確定し、店舗側は注文内容と顧客が着席したテーブル番号を把握できます。
  • 注文の確定と同時に、クレジットカード決済や携帯決済などで支払いが行われます。
テーブルに描かれたPutmenuマークとテーブルの下に取り付け られるPaperBeacon
 

 このようなサービスがあると、重い鞄とトレイを持って席を探す必要がなくなり、テーブルについてすぐにスマートフォンで注文することができます。また、支払いについても、注文確定と同時に終了しているので、食べ終わったらすぐにオフィスに戻ることが可能です。一方、店舗側では、注文受付けや会計処理を行うスタッフの省人化が可能となります。しかも、メニューは12ヵ国語対応なので、訪日外国人客にも対応可能です。

 一見、顧客側にも店舗側にも価値を生む素晴らしいアイデアのように見えますが、実際にはPutmenuの事業化を複数の会社に提案したものの、当初は相手企業の理解は得られなかったそうです。そこで自社でシステム開発を行い、さらに自社で事業化することになったのです。

2.協業を加速したプロトタイプの提示

 ボクシーズはPutmenuの自社開発と自社での事業化を決断し、システム開発を進めていました。しかし、事業化に当たっては、同社だけではカバーできない部分もありました。実際、事業化に当たっては、POSレジはシャープ、決済はソフトバンクペイメント、クラウドサービスはマイクロソフトの協力を得てその実現にこぎつけています。

 これら外部企業との協業を加速する際に大いに役立ったのが、自社開発の成果である実際に動くプロトタイプでした。実際に動くものを見せることでPutmenuが提供する新しい価値に対する理解が進み、同時にマスコミにも取り上げられ世間の注目を集めることで外部企業の認識を高めることになったのです。例えば、シャープはその価値を認め、既存のPOSにクラウド連携機能を追加し事業化に協力しています。

 ボクシーズの強みは、何と言っても帝人と共同開発したPaperBeaconという独自技術でしょう。これは、ビーコンの表面上数cmの範囲に強い電波を発信することによってテーブルや限られた場所の特定を可能とするものです。それと同時に、モバイルアプリケーション開発で養ったアイデアを素早く具現化するデザイン・開発チームを有することも同社の武器になっています。新しい価値が世間に受け入れられるためには、ユーザインタフェースのデザインやアプリの操作感などが決め手の一つとなります。この価値創造のコアとなる部分を自社開発できることが、PoCのメリットの最大限活用、協業の加速につながったのです。

 同社は「日常の不便を変えていく」「顧客の体験を変えていく」ことで飲食店の未来を変えることができると考えています。この実現のためには、さらなる外部企業との連携が必須です。このため、同社はシャープ以外のPOS会社との連携、予約やクーポンなどのポータルサイトやSNSとの連携など飲食店をめぐるバリューチェーン全体との連携に挑戦中です。

 また、同社は海外展開にも挑戦する予定です。Putmenuでは、専用タブレットを使ってメニューを現地の言語で登録すると、システムが12言語に自動で翻訳します。このような機能があるため、海外展開が容易なのです。これに加え、音声認識機能の導入やAIによる来店者の分析など、世界的なサービスにするための仕掛けも検討しています。新しいサービスの価値が幅広く理解され、省人化やインバウンド対応という飲食店経営の課題解決につながること、それから飲食店での注文と支払いをより便利に、より手軽にすることで顧客満足度向上に貢献することを期待したいと思います。

 

今回紹介した事例

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ビーコンを用いた空間・テーブルIoTによって
飲食体験を変える-Putmenu

 飲食店舗経営者は、深刻化する人手不足や増え続ける訪日外国人対応のため、経営を効率化するという課題を抱えている。当社はこれらの課題を解決するため、独自のビーコン技術を活用し、「注文・会計0分」を実現する「Putmenu」を開発した ...続きを読む

 

 
 
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