本メルマガは、IoT価値創造推進チームの稲田修一リーダーが取材を行ったIoT導入事例の中から、特に参考となると感じた事業や取り組みを分かりやすくお伝えする見聞記です。 

 今回は、NTTファシリティーズの高層ビル向けアクティブ制振技術を取り上げます。

【ここに注目!IoT先進企業訪問記(11)】

蓄積した地震データを活用した高層ビル向け制振技術の開発-NTTファシリティーズ

 高層ビルでは、地震の際にゆっくりした大きな揺れが長時間続く危険性があります。長周期地震動と呼ばれる揺れです。同社の制振技術は地震の際の建物の揺れデータを活用し、その揺れを低減する技術です。

 同社が価値創出に成功した要因としては、建物の揺れを計測する技術とノウハウの蓄積、人工知能でビルの揺れを制振できるのではという研究者の「ひらめき」、巨大地震時における超高層建物内部の揺れを忠実にシミュレートする世界最高性能を誇る3次元振動台の存在などいくつかあげられますが、私が取材時に感じたのは「希少事象のデータを蓄積する」ことで大きな価値が生まれること。蓄積したデータからどのような価値が生まれたのか、ご紹介します。

 めったに起こらない事象のデータには高い価値があります。①工作機械、発電機、通信機器などの機械が故障に至るまでの稼働データの中で、頻度の少ないイレギュラーに起こった事象のデータ、②橋梁、トンネル、堤防などの公共インフラが劣化し、崩落などの事故に至るまでのモニタリングデータ、③農作物の病害虫が発生し、拡がるまでの環境データや観測データなどです。NTTファシリティーズが収集した地震の揺れデータもその一つです。このようなデータは、その分析でコンピュータが異常値を発見した際に、その原因やその結果何が起こるのかを判断するのに使うことができます。シミュレーションでモデルの完成度を高めるなどの使い方をすることもあります。

 日本気象協会のホームページによると、2008年9月11日から2018年3月1日までの約10年間に発生した震度5弱以上の地震は163件。同時期に発生した震度6弱以上の地震は24件です。震度5弱以上の地震の約半数は東日本大震災と熊本地震に関連するものなので、これを除くと年間地震件数は約10件。しかも、場所は日本全国に散らばっており、揺れデータの収集には全国に観測拠点を持っている必要があります。

1.    地震の揺れデータから生まれる価値

 NTTファシリティーズは全国各地にあるNTTグループの施設に地震計などを設置し、長年にわたり地震の揺れデータを収集していました。同社はこのデータを高層ビル向けアクティブ制振技術の開発に活用したのです。

 超高層ビルでは、長周期地震動による揺れを低減するため建物に油圧式ダンバーを設置することがあります。地震時に生ずる建物の変形を利用してダンパーでエネルギーを吸収し、揺れを抑える仕組みです。この方法では、建物の揺れによる変形がエネルギー吸収の度合いに影響を与えるため、吸収度合いを制御できないパッシブ(受動的)な制振方法です。これに対し、同社はこのダンパーに電動アクチュエータを連結し、ダンパーに外部から揺れを抑える力(制御力)を加え、アクティブ(能動的)に動かすことにより揺れを抑えることを考えたのです。

 しかしながら、揺れを効果的に抑える制御力をどのタイミングでどのくらいの強さで加えたらいいのかを見つけることは簡単ではありません。そこで同社が採用したのは、明確な答えがない中で試行錯誤により最適な答えを見つける手法である強化学習というAI(人工知能)技術に、同じくAI技術であるディープラーニング(コンピュータがデータの特徴を学習して事象の認識や分類を行う機械学習の一手法)を組み合わせた深層強化学習という手法です。

 具体的には、設計情報などに基づき建物構造をモデル化し、蓄積した地震の揺れデータを建物地震応答シミュレータ(モデル化した建物に地震の揺れを加え、その応答をコンピュータ上で数値解析するソフトウェア)に入力し、建物をできる限り揺らさない制御力の加え方を繰り返し解析し、最適と考えられる制御力の加え方を人工知能に見つけさせたのです。

 その後、AIが見つけた制御力の加え方が実際の地震の際の建物の揺れを抑えるのに有効かどうかを、同社が有する大型模型試験体を用いた振動試験で検証しています。リアルな装置による振動試験結果を使い、建物構造モデルを改善する。その構造モデルを使って建物地震応答シミュレータを動かし、揺れを抑える制御力の加え方をより良いものに改善する。これをまた振動試験で検証するというプロセスを繰り返し、本当に最適な制御力の加え方を見つけているのです。

 ポイントとなるのは、多くの地震の揺れデータを持っていることです。このデータがあるからこそ、さまざまな揺れパターンに対して有効な制御力の加え方を見つけることができるのです。

 実際の地震の際には、建物の複数個所に取り付けたセンサが建物の揺れを検出し、その揺れに応じてAIを搭載した制御装置がダンパーの揺れを抑えるのに最適な制御力を加えるという制御を自動的に行います。この自律的な制御によって、建物の揺れを抑えるのです。(下図参照)

ntt-f01.gif

 
【出所】NTTファシリティーズ ニュースリリース「AI(人工知能)を活用する超高層建物向けアクティブ制振技術を開発~長周期地震動に対し従来制振技術よりも大幅に揺れを低減~」(2017年8月30日)より

図:NTTファシリティーズの制振システムのイメージ

2.    建物の安全性確保に向けたNTTファシリティーズの取り組み

 NTTファシリティーズの振動試験設備での振動実験の結果、開発した高層ビル向けのアクティブ制振技術を活用すれば、現在のパッシブ制振技術に比べ建物の揺れを50%以上低減できることが分かりました。つまり、従来技術で実現していたのと同じ制振性能を概ね半数のダンパーで実現でき、工事量の削減や工期の短縮が見込めるのです。今後、同社は電源供給などの信頼性確保や提供方法を検討した上で、2018年内の本格提供を目指しています。

 同社のアクティブ制振技術を活用するには、高層ビル内の複数個所にセンサを取り付け、ビルの揺れを計測する必要があります。この計測データに基づき、AI付きの制御装置がダンパーを最適制御し、建物の揺れを抑えるのです。この計測結果を使えば、同時に地震後のビルの安全度を即時かつ高精度に解析することもできます。

 同社は「揺れモニ」という建物安全判断度サポートシステムも提供しており、このシステムを使えば外からは判断が難しい建物の構造躯体の安全度を判断できるのです。地震の直後には建物の安全調査の要望が殺到し、安全確認に時間を要しますが、揺れモニの導入により「建物にひびが入ったけれど安全」などの診断がすぐに可能になるのです。入居者の不安感を解消し、同時に、速やかな事業継続が可能になるので、ビルの所有者や入居者には好評だそうです。

 ビルの揺れを計測し地震時の長周期地震動を抑える、地震後の建物の安全性を速やかに診断するなど、建物のインテリジェント化もIoTやAI技術の活用で新しい次元に入っているのです。
 

今回紹介した事例

PickUP_ntt-f.jpg

AIを活用した超高層建物向けアクティブ制振技術の開発

 当社の事業の柱のひとつである建築事業では、ICTを活用しながら、建物の価値向上を目指した研究開発を行っており、地震対策もその一つである。東日本大震災以降も、超高層建物の長周期地震動対策は、十分に進んでいるとは言えない状況である。 ...続きを読む

 

 
 
スマートIoT推進フォーラムでは、 会員の皆様からIoT導入事例を募集しております
詳細は以下を御覧ください。
IoT導入事例の募集について
 
IoT導入事例紹介