掲載日 2024年04月12日


株式会社リブル

【事例区分】
  • IoT等を活用した企業・自治体等向け製品・サービス等の提供
  • IoT等を活用した一般消費者向け製品・サービス等の提供
  • IoT等を活用した社会課題解決の取り組み

【関連する技術、仕組み、概念】

  • IoT
  • ビッグデータ
  • 4G

【利活用分野】

  • 農林水産業

【利活用の主な目的・効果】

  • 生産性向上、業務改善
  • サービス・業務等の品質向上・高付加価値化、顧客サービス向上

課題(注目した社会課題や事業課題、顧客課題等)

 株式会社リブル(以下、当社)は、徳島県海部(かいふ)郡に本社を構えている2018年に設立された会社である。「世界一面白い水産業へ」というコンセプトを掲げて創業して以来、養殖事業に取り組んでいる。牡蠣の種苗生産から成品生産販売・技術の見える化(スマート養殖)まで、一気通貫で取り組む国内でも数少ない企業である。徳島県海部郡海陽町那佐湾で漁業権を持って牡蠣の養殖を行っている他、他社への種苗やスマート養殖システムの提供などを行っている。

 近年、水産業では資源枯渇、海水温度上昇などの急激な環境変化が起きている。また、世界を見ると需要が増加している。このような変化に、従来の漁獲型水産業や養殖技法などでは対応できなくなっている。さらに日本においては、急激に高齢化が進む中で若手の就業者が少なく、漁業従事者数が急速に減少している。そうした中、当社は環境変化に対応した、未経験者でもチャレンジできる新しい形の水産業を創るという考え方で、勘や経験に依存しない養殖手法の確立を目指しており、餌代が不要で市場性が高い牡蠣養殖からその実践を開始している。
 当社のスマート牡蠣養殖システムでは、図1に示すように安定供給、高効率、高歩留を実現している。
 なお、当社のIoTスマート牡蠣養殖プロジェクトは、モバイルコンピューティング推進コンソーシアムの「MCPC award 2023」のユーザ部門でグランプリ、総務大臣賞を受賞している。

 関連URL:https://www.mcpc-jp.org/news/award.html#tab02

注:三倍体牡蠣は、生殖機能を抑制して育成された卵を産まない牡蠣のこと。大きく育ち、年間をとおして身入りが良くなる。

図1:牡蠣の生産実績
(出所:リブル提供資料)

IoT等利活用の経緯(課題解決の鍵となる技術・アイディアの発想やビジネスパートナーとの出会い等活用に至った経緯)

 当社は牡蠣養殖で2年連続の失敗を経験した。那佐湾は牡蠣の餌となる植物プランクトンが少ない。このような環境では、強く健康的な牡蠣が育ちにくい。環境ストレスで耐性が低下し、少しの環境変化でも牡蠣が死滅してしまう。しかしながら天然の牡蠣が育っている場所があるので、種苗の段階からIoTの活用でデータを収集し、水温などの生育環境を踏まえた管理を行うことで、これが乗り越えられると考えた。

 本事業は、徳島大学、KDDI、自治体である海陽町との産官学連携で進めている。徳島大学との出会いは、データを分析するにあたってどういったデータを取得すべきかについて専門家の知見がほしく門をたたいたことから始まった。KDDIとは、企業のマッチングイベントで知り合ったのがきっかけである。その後、地方創生部門の方と通信を使って新たな価値創造ができないかということで連携し、事業の立ち上げを進めた。

 

事例の概要

サービス名等、関連URL、主な導入企業名

『IoTスマート牡蠣養殖プロジェクト』

 関連URL:https://biz.kddi.com/beconnected/feature/2022/220525/

サービスやビジネスモデルの概要

 当社のスマート牡蠣養殖システムでは、我が国で一般的な筏などから牡蠣を吊り下げて養殖する吊り下げ方式ではなく、海外で行われている専用のバスケットを揺らしながら生産するシングルシード方式1を採用している。(図1左側写真)プランクトンが少ない海で牡蠣を養殖するには、牡蠣の生育状況に合わせてカゴの大きさや入れる個数を変える選別作業が可能なシングルシード方式が適している。

 しかしながら、どのような選別を行えば牡蠣が斃死せずに身入りが良く質の高いものになるのかは、漁業者の勘と経験に頼っていた。また、カゴが波の影響で適度に揺れることが生育に影響を与えるので、カゴの浮力を変えることで揺れを調整している。しかし、そのタイミングや揺れの強度も漁業者の勘と経験に頼っていた。

 このため、海洋環境データ、生育データを収集し、分析できるようにした。また、養殖管理アプリを開発し、データをクラウドに上げて関係者が共有できるようにした。蓄積されたデータを分析し、適切な作業指示・提案を行えるようにした。また、牡蠣の生育状況の把握・共有による、適切な出荷計画の策定を可能とした。

 今後は、データ量を拡大しAI、機械学習を取り入れることで漁師の勘のデータ化、生育/出荷予測の見える化を目指している。

注1:牡蠣をカゴに入れて、1個ずつバラバラで養殖する方法。プランクトンがむらなく牡蠣に回るため、牡蠣の生育が安定し歩留まりが良いといわれている。しかしながら、牡蠣を入れたカゴのメンテナンスなどで一般的にカルチ養殖よりも手間がかかるため、コストがかかる可能性もあると言われている。

図2:スマート養殖イメージ
(出所:リブル提供資料)

 図3にあるように、官民事業を中心としてスマート養殖システムの実装を香川県、愛媛県、佐賀県をはじめ環境的、経済的にも持続可能な産業として展開をしている。

図3:事業展開の実績
(出所:リブル提供資料)

 

取り扱うデータの概要とその活用法

 本システムにおいては、次のデータを取得している。

・環境データ
   水温・気温、濁度、クロロフィル、塩分濃度、カゴの揺れ

・育成データ
   バスケットごとの牡蠣の個数と大きさ

・漁師の作業データ
   人の動きのデータ(作業データ)を取得している。

事業化への道のり

IoT活用等による価値創造

 IoT活用によるデータ収集・分析によって、プランクトンが少ない海でも牡蠣の養殖を実現することができた。データ活用によって漁師の勘や経験に依存しない養殖が可能になることで、未経験者でも養殖システムに参入することが可能となった。

 また、牡蠣養殖を担当するチームでリーダーは、どこにどのような牡蠣がどれくらいあるかが頭に入っている。一方、例えば営業サイドの担当には、今出荷できる牡蠣がどれくらいあるのかというのが見えてなかった。養殖記録データがあり、それを共有することで、出荷の際の意思決定を速くすることができる。今では、出荷可能な牡蠣の在庫量、 もう少しで成品になるものがどの程度あるのかなどが定量的に把握できており、これが営業の意思決定の速さにつながっている。

IoT活用や事業化時に苦労した点、解決したハードル、導入にかかった期間

 量産の初期段階において2年連続で養殖に失敗を経験した。当社も量産以前に実証実験を行っていたが、小規模であったためうまく進んでいた。量産で失敗したのは、漁場設計の考え方や種苗の投入タイミングの情報が不足していたことが要因であった。漁場設計や種苗を入れるタイミングの重要性を再認識し、関連する環境データの収集、収集したデータの分析・見える化について検討し、これが現在のスマート養殖システム構築につながった。
 また、タブレットやスマートフォンの操作性や画面の見やすさなどについても苦労した。

重要成功要因

 徳島大学やKDDIとの連携、そして行政との協力が初期段階からしっかりと機能したことが大きな成功要因と考えている。もう一つの成功要因は、当社の特徴であるソフトウェアやソリューションの提供だけでなく、実際に漁業権を取得し、養殖を行っている点である。事業を成り立たせるために、実際に養殖という実践にも取り組んでいることが成功要因となっている。

技術開発を必要とした事項または利活用・参考としたもの

 農業や養豚は先行してデバイス、ツールなどがあったので、ベンチマークをして水産業に活用できないか調査した。苦労したのは、センサーの選定である。いろいろなものを実際に試し、価格と性能のバランスを考え適切と考えるものを選定した。

 

今後の展開

現在抱えている課題、将来的に想定する課題、挑戦

 技術的な課題として、基本的にはデータの収集とそのデータを用いたアウトプットとの相関性を高める流れが確立されているが、精度を向上させるために、データを多く集めることが重要となる。そのためには、養殖を行っている方々と交渉し、データ提供に同意してくれるパートナーシップの拡大が喫緊の課題となっている。

 もう一つはビジネスモデルとしての成功である。現在は、自治体の予算や委託事業を通じて、スマート牡蠣養殖のインフラ整備やコンサルティングなどの事業を行っている。今後、実際に養殖業者が多くの牡蠣を生産する段階では、その収益の一部を我々に還元してもらうことを想定している。海外に比べると日本は小規模な事業者が多いが、彼らを大きく成長させるための取り組みが必要であると考えている。また、売上課金型にしないと、漁師の負担が大きくなり牡蠣養殖に挑戦する人が増えないので、当社の投資負担能力も考えていく必要がある。これらの事項を考慮しつつ、海外展開も含め養殖事業の変革に挑戦していきたい。

技術革新や環境整備への期待

 数年前に漁業権の付与対象が拡大され、民間企業も対象となった。しかしながら、国が法改正を行ったものの、実際には漁協やその組合員に限られる形で海の利用権が与えられる慣行がまだ存在している。法整備が進んでいるが、実際の現場での浸透が課題となっている。当社だけでなく大手企業が日本の海域で漁業ビジネスを展開したいと希望した場合、海の利用権をしっかり購入できるようになり、さらに当社がスマート養殖サービスを提供することで、ビジネス的に好循環が生まれることを期待している。

強化していきたいポイント、将来に向けて考えられる行動

 ポイントとしては大きく二つある。一つ目は、当社のサービスやインフラを活用することで、一つでも多くの牡蠣養殖事業を事業として成り立たせたいと考えている。二つ目は、国内だけに固執せず、海外にも進出し、当社が大規模な漁場を所有し、大規模な漁場を希望する企業と連携して、事業を大きく成長させるというように、水産業が面白くかつ儲かるビジネスであることを体現できるようにしていきたい。

将来的に展開を検討したい分野、業種

 現在、海に関係する事業を行っている企業や組織との連携を考えている。エネルギー産業の分野である、洋上風力発電を行っている企業も含まれる。こうした企業と連携することは、当社のスコープに当てはまる可能性がある。また、当社も経済的にも、環境的にも持続可能であることを示していきたい。そのためには必要とされるデータを見える化できる技術を持つ企業との連携や、開発に積極的な企業との協力を今後進めていきたい。

 

本記事へのお問い合わせ先

株式会社リブル  代表取締役 早川 尚吾

e-mail : s-hayakawa@reblue-k.com

TEL: 080-9545-8554

URL :  https://reblue-k.com/