掲載日 2025年08月04日

株式会社OUI (OUI Inc.)

【事例区分】
  • 企業・自治体等向け製品・サービス等の提供
  • その他 (医療機関向けのサービス)

【関連する技術、仕組み、概念】

  • IoT
  • ビッグデータ
  • AI
  • DX
  • 4G
  • 5G

【利活用分野】

  • ヘルスケア・医療・介護

【利活用の主な目的・効果】

  • 生産性向上、業務改善
  • サービス・業務等の品質向上・高付加価値化、顧客サービス向上

課題(注目した社会課題や事業課題、顧客課題等)

 OUI Inc.(以下「当社」)は、「世界の失明を50%減らす」「眼から人々の健康を守る」というミッションを掲げ、慶應義塾大学の眼科医が中心となって設立された大学発ベンチャー企業である。CEOの清水映輔氏をはじめ、眼科医、視能訓練士、AIエンジニア、ハードウェア技術者、海外展開担当など多様な専門人材が集まり、医療・工学・ビジネスの融合による革新的なソリューション開発に取り組んでいる。

 世界には約22億人の視覚障害者と約4,330万人の失明者が存在する。その多くは、本来であれば予防・治療が可能なケースである。しかし、医師不足や高額な医療機器という壁により、適切な眼科診療を受けられない人々が数多く存在している。特に、アフリカやアジアの途上国、あるいは日本国内でも離島や高齢化が進む地域では眼科医の絶対数が不足しており、早期発見や治療が困難な状況である。

 高齢化の進行に加え、パソコンやスマートフォンの長時間使用によるVDT症候群(Visual Display Terminal症候群)の増加により、眼科診療のニーズは年々高まっている。にもかかわらず、地域によっては眼科医が常駐しておらず、患者が都市部の病院まで長距離を移動しなければならないケースも少なくない。

 こうした課題の解決に向け、当社はスマートフォンを活用した新たな診療ソリューションを開発した。スマートフォンに内蔵されたカメラと光源、そして3Dプリンターで作成したアタッチメントを組み合わせることで、従来の高額な眼科機器に匹敵する診断性能を持つ「スマートアイカメラ(Smart Eye Camera:SEC)」(以下SEC)をより低コストで実現したのである。(図1参照)

図1:既存の細隙灯顕微鏡(左の写真)とSECスリットモデル(右の写真)
(出所:OUI提供資料)

 このような機器を開発するきっかけは、清水氏が途上国で白内障手術の支援活動を行った際の体験である。現地ではペンライト一本での簡易診療しかできず、診断の限界を痛感した。『スマートフォンで眼科診療ができるのでは』、この時の素朴な疑問が開発の出発点となった。

 

IoT事例の概要

サービス名等、関連URL、主な導入企業名

サービス名:スマートアイカメラ

関連URL:https://ainote.worksmobile.com

サービスやビジネスモデルの概要

 当社が提供するSEC(図2参照)は、スマートフォンに装着することで眼科診療を可能にする医療機器である。従来は数百万円する専門機器でしか行えなかった眼の詳細検査を、専用の3Dプリンター製アタッチメントを用いてスマートフォンで可能にした。前眼部(眼の前面)から眼底(眼の奥)まで、眼科診療に必要な撮影機能を一台で実現している。

 SECは、医療機関だけでなく、企業健診、在宅医療、離島診療など多様な現場で導入されており、国内外で300台以上が稼働している。価格帯は数万円程度と、従来の眼科機器に比べて圧倒的に安価で、導入のハードルが低いのが特徴である。

 「Mobile Eye Scan(MES)」は、SECを含むモバイル眼科機器と検査員を企業オフィスに派遣し、視力・眼圧・眼底などの検査を短時間で実施する出張型眼科健診サービスである。検査結果はクラウドにアップロードされ、眼科専門医が遠隔で読影する。個別レポートや企業向けのプレゼンティズム分析レポートも提供され、必要に応じてオンライン診療にもつながっている。(図3参照)

 ビジネスモデルとしては、以下の要素を組み合わせている:
 ・機器販売:SEC本体およびアタッチメントの販売

 ・クラウドサービス:撮影画像の保存・共有・遠隔診断機能を提供

 ・AI診断支援:白内障・ドライアイ・緑内障リスクなどの診断補助機能

 ・健診パッケージ:企業向けに出張健診・レポート作成・勉強会・オンライン診療までを一括提供
          教育・啓発:医療従事者向けのトレーニングコンテンツや啓発資料の提供

 このように、単なる機器販売にとどまらず、診療支援・健診・教育までを包括するサービス体系を構築している。

図2:「スマートアイカメラ(Smart Eye Camera:SEC)」の外観
(出所:OUI提供資料)

 

図3:「Mobile Eye Scan(MES)」の概要
(出所:OUI提供資料)

また、SECは以下のような特徴を持っている:

 ・ユーザビリティ:非眼科医を含めた眼科に馴染みのない医療従事者でも、短時間のトレーニングで使用可能

 ・制度対応:経済産業省・厚生労働省のグレーゾーン解消制度(現行規制の適用範囲が不明確な場合において
       事業者が安心して新事業活動を行い得るように、具体的な事業計画に即してあらかじめ規制の適用
       の有無を確認できる制度)を活用し、医師以外の医療従事者でも使用可能なことを確認

 ・拡張性:AI診断機能は継続的にアップデートされており、疾患の種類も拡大中

 ・国際展開:アジア・アフリカ・南米など60カ国以上で導入実績あり

 このように、SECは単なる診断機器ではなく、医療アクセスの地域格差や専門医不足を補う社会的インフラとしての役割を果たしている。

 

取り扱うデータの概要とその活用法

 SECは、次のデータを活用している。

 ·   撮影画像(静止画・動画)

 ·   眼底画像、前眼部画像

 ·   AIによる診断補助データ

 ·   健診結果レポート(PDF)

 

 

事例の特徴・工夫点

価値創造

 SECの価値は、高額な眼科機器をスマートフォンで代替し、診療ハードルを大幅に引き下げたことである。離島や途上国でも眼科診療が可能となり、失明予防に貢献している。また、AIによる診断補助で非専門医でも対応可能にしている。

 AI診断機能は、白内障において感度94.2%、特異度96.2%(AUC=0.934)を達成しており、専門医の診断を補完する高精度な支援ツールとして活用されている。

苦労した点、解決したハードル、解決に要した期間

 SECの開発・事業化にあたっては、技術面・制度面の両方で多くの課題があった。スマートフォンのOSバージョンによる動作の違いや、光源の調整、ユーザーインターフェースの改善など、医療現場での使いやすさを追求するために試行錯誤を続けながら開発した。

 また、医療機器としての認証取得や、医師以外の使用を可能にするための制度対応も大きな壁であった。これらの課題に対しては、先に述べたように「グレーゾーン解消制度」を活用することで運用を可能にし、現場での柔軟な導入を実現している。

重要成功要因

 SECの成功には、現場の声を反映した設計と改良が大きく貢献している。眼科医との密な連携により、診断に必要な「光の形」や「拡大率」などを細かく調整し、3Dプリンターによる迅速な試作・改良を繰り返した。

 また、AI診断機能の開発においては、少数症例から高精度なモデルを構築する技術力が評価され、学術的にも注目されている。これらの技術と制度の両面での工夫が、SECの普及と信頼性向上につながっている。

技術開発を必要とした事項または利活用・参考としたもの

 SECの実用化にあたっては、スマートフォンのカメラと光源を眼科診療に適した形で活用するための光学設計や、診断に必要な画像を安定して取得するためのアタッチメント設計が求められた。また、クラウドを介した画像共有・管理システムの構築、AIによる白内障やドライアイなどの診断補助アルゴリズムの開発も重要な技術課題であった。これらの要素を自社開発で実現している。

 

今後の展開

現在抱えている課題、将来的に想定する課題、挑戦

 SECのさらなる普及に向けては、医療従事者の人材不足や、眼科医との連携体制の構築が課題となっている。また、AI診断の精度向上と、診断結果の医療的信頼性の確保も重要なテーマである。

 将来的には、WHOなど国際機関との連携を視野に入れ、世界規模での失明予防に貢献する体制づくりが求められている。

技術革新や環境整備への期待

 AI診断の保険点数化や、医療機器認証の迅速化、クラウド診療に関する法整備など、制度面での支援を期待している。特に、遠隔診療の法的枠組みが整備されることで、SECの活用範囲は大きく広がる可能性がある。

 また、企業健診や在宅医療における眼科診療の標準化に向けた取り組みも進められており、医療DXの一環としての役割が期待されている。

強化していきたいポイント、将来に向けて考えられる行動

 スマートアイカメラの企業健診への導入拡大、海外展開、AI診断の精度向上を重点的に進めている。特に、出張健診やオンライン診療を組み合わせた「Mobile Eye Scan」の普及に力を入れており、医療従事者向けの教育コンテンツ整備も並行して進めている。

将来的に展開を検討したい分野、業種

 今後は、在宅医療や介護現場、職域健診、獣医領域、教育機関などへの展開を視野に入れている。SECの技術を活かし、医療アクセスが限られた環境でも診療を可能にすることで、社会的な医療格差の解消に貢献していくことを目指している。

 

本記事へのお問い合わせ先

株式会社OUI (OUI Inc.) Medical Associate/西村裕樹

e-mail : hiroki@ouiinc.jp

URL :  https://ouiinc.jp/