掲載日 2023年09月14日

西日本電信電話株式会社

【事例区分】
  • ローカル5Gを活用した社会課題解決の取り組み
  • ローカル5Gを活用した実証実験等の取り組み

【関連する技術、仕組み、概念】

  • DX
  • 5G

【利活用分野】

  • 流通・小売
  • 公共

【利活用の主な目的・効果】

  • 生産性向上、業務改善
  • サービス・業務等の品質向上・高付加価値化、顧客サービス向上
  • 事業継続性向上

課題(注目した社会課題や事業課題、顧客課題等)

 西日本電信電話株式会社(以下、当社)は、新しいローカル5Gの技術を使用したサービスを創出して地域課題を解決していきたいと考えており、ローカル5Gによってどのようなことが可能かを模索していた。そうした中、良好な労働環境と世界最高水準の生産性を確保するため、国土交通省によってAIターミナル構想が推進されている港湾分野に着目した。

 港湾事業はサプライチェーンのグローバル化により益々重要性が増している状況にある。しかしながら、大型コンテナ船の寄港増加による荷役時間の長期化、コンテナターミナルのゲート前や周辺道路における混雑の深刻化、現場作業員の高齢化が進んでおり、近い将来を見据えると人手不足が懸念されている。このため、港湾業務の効率化への対応が喫緊の課題となっている。

 現在、港湾コンテナターミナルでは、有線LAN、無線Wi-Fi等による複数のネットワークを利用して業務を実施しているが、有線LANではエリア拡大のための対応が困難であり投資額が膨らむこと、無線Wi-Fi等では伝送容量や電波干渉が発生しやすいこと等の問題を抱えている。港湾業務のデジタル・トランスフォーメーション(DX)を実現するには、これらの問題を解決する大容量で高品質のネットワーク整備が必須であり、それらの要件を満たしたローカル5Gに注目した。
 

実証を行なった経緯(課題解決の鍵となる技術・アイディアの発想やビジネスパートナーとの出会い等活用に至った経緯)

 今回の実証においては、コンテナターミナルの所有者や運営者、港湾業務に関するシステムの提供企業、ローカル5Gの技術を持った企業などに参加してもらい、港湾業務が抱える課題解決にアプローチすべくコンソーシアムを立ち上げた。コンソーシアムメンバーは当社のほか、夢洲コンテナターミナル株式会社、三菱ロジスネクスト株式会社、大阪市、阪神国際港湾株式会社、京セラコミュニケーションズシステム株式会社、NTTビジネスソリューションズ株式会社である。

コンソーシアムメンバーにより、港湾DXに繋がる実証実験内容を検討したところ、
①    コンテナターミナルにおける業務用ネットワークの高品質化による更なるDX推進に関する実証
②    プランニングデータの電子データ化によるコンテナターミナルの保管工程業務の効率化
③    トレーラー待機場の混雑状況の可視化
の3つが港湾業務のDX化に有効だということを示すことができるのではないかと考えた。

 なお、本実証は総務省の「令和4年度課題解決型ローカル5G等の実現に向けた開発実証」に採択され、行ったものである。

​​​​​​​

実証事例の概要

実証テーマ

実証検証名:『ローカル5Gを活用したコンテナプランニングデータのリアルタイム伝送等による港湾・コンテナ  
      ターミナルのDXの実現』

関連URL:https://www.ntt-west.co.jp/news/2301/230130a.html

実証の内容

 今回の実証では、3つの課題実証を行っている。
一つ目は、夢洲コンテナターミナル内にローカル5Gの基地局を11局設置し、コンテナターミナルにおける業務ネットワークの高品質化による更なるDXの推進に関する実証である。図1にあるように従来は、有線LAN、無線Wi-Fi等と各種システムにより異なっていた通信手段をローカル5Gに一本化することで本船・RTG*1等車載端末からのコンテナ蔵置及びプランニングデータの送信、リーファーコンテナ温度管理データなどの業務通信を実証により確認した。コンテナターミナル内全域でスループットを測定し、80ポイントにおいての平均スループットは167Mbps(アップリンク)、353Mbps(ダウンリンク)を実測した。従来のシステムと比較すると、5倍~10倍の性能向上となっている。アンテナが見えない場所、狭小エリアにおいても通信が可能であること、港湾業務に関する既存システムとの接続性についても問題ないことを確認した。

 *1:RTGとは、“Rubber Tired Gantry crane”の略であり、タイヤ式門型クレーンを表す。RTGはコンテナターミナルにおける荷役機械の一つである。

図1:業務ネットワークの高品質化実証概要図
(出所:NTT西日本提供資料)

 

 二つ目は、プランニングデータの電子データ化によるコンテナターミナルの保管工程業務の効率化に関する実証である。図2にあるように港湾システムのプランニングデータを印刷した作業指示書を作業員に手渡し、変更があった場合はトランシーバーで変更指示を出しているため、言い間違い、聞き間違い等のリスクが高かった。

  実証では、ローカル5Gを使用してRTGの操作室内に設置したタブレットにプランニングデータを配信することで、印刷、事前準備などの作業量を大幅に削減できること、また、作業の変更時にリアルタイムの情報更新によって作業効率が向上することを確認した。なお、オペレーションの生産性向上により、机上では年560万円の稼動削減効果が算出できた。

図2:コンテナターミナルの保管工程業務の効率化実証概要図
(出所:NTT西日本提供資料)

 

 三つ目は、トレーラー待機場の混雑状況の可視化に関する実証である。図3にあるようにトレーラー待機場に高精細カメラを設置し、ナンバー情報の映像をリアルタイムに伝送してその情報を解析することで待機時間を予測した。そして、予測待機時間の情報をポータルサイトに表示しドライバーや配車担当者が行動変容を起こすことで、混雑の平準化がはかられるかの検証を行った。カメラ映像を広帯域でアップロードすることで、ナンバープレート情報は94%程度の精度で認識できた。また、混雑状況の可視化により、約30%のトレーラーが入場タイミングを調整することを確認した。行動変容による待ち時間短縮による生産性向上の価値については年間で1億2000万円程度と推計している。

図3:待機場に入場するトレーラーの様子とポータルサイトでの表示例
(出所:NTT西日本提供資料)

 

 

取り扱うデータの概要とその活用法

・コンテナ取扱データ
・トラックのナンバープレートの映像データ
(待機場の入場ゲート、退場ゲートにカメラを設置しているので、これでトレーラーの待機時間を算出することが可能)

 

事例の特徴・工夫点

実証で明らかになった価値

 日本最大級のコンテナターミナル(1350m×500m)全域で、高速通信が可能であることを確認した。これにより、冷蔵コンテナの温度管理など人が巡回して確認していた多くの作業を自動化できることが確認できた。また、保管工程業務の効率化やトレーラー待機場の混雑緩和も可能であることが実証できた。

 トレーラー待機場の緩和に関しては、1日の待機場の流れを把握することができたことで、到着時間の調整だけでなく、到着後に次の業務の計画にも使用されるような副次効果も期待できる。

実証の際に苦労した点、解決したハードル、解決に要した期間

 ステークホルダが非常に多岐にわたるため、その調整に非常に苦労した。課題抽出においては、夢洲コンテナターミナルを形成している各社にヒアリングを実施し、真に困っていることを確認した。その結果、プランニングデータの紙でのやり取りをやめたいという声が多かった。これらについて仮説を立てて三菱ロジスネクストに実現方法について相談して解決策を検討した。また、RTGのオペレータやそれを管理する人達に集まってもらい検討会を開催し、匠の技であった部分を形式知化してアプリの中に織り込んだ。そしてデモを行ない、使い勝手を事前にも確認してもらい実際の検証時に実物を使用してもらい検証を行った。

 さらに、マニュアル整備による理解促進、パソコンの使い方の指導など丁寧な対応を徹底し、新しいシステムを使ってもらえるようにした。

重要成功要因

 実際に業務に使用できるのか試してほしいという要望があり、プランニングデータのリアルタイム伝送による保管工程業務の効率化では、実際の端末にアプリ入れて現場の作業者にも検証してもらった。ローカル5Gは途切れないなど、その良さを体感してもらうことができた。こうした丁寧なプロセスで現場の方々に納得していただけたことが、今回の実証の成功要因の一つとなっている。

技術開発を必要とした事項または利活用・参考としたもの

 国交省が進めているAIターミナル、清水港で実施されているRTGオペレーションの効率化事例を事前に調査し、開発する事項を明確化した。

 

今後の展開

現在抱えている課題、将来的に想定する課題、挑戦

 実証結果に満足頂いたので、現在は実運用に向かって詳細設計を進めている。当社としては、まず夢洲コンテナターミナルに実運用システムを提供し、その実績をもとに他のコンテナターミナルにビジネスを広げていきたい。

 トレーラー待機場の混雑状況可視化ソリューションについては、解決策としては良いものだと考えている。しかし、トレーラーの会社から対価の徴収などビジネスモデル構築の測面では難しい課題があり、引き続きこの解決に取り組んでいく必要がある。現在、大阪港湾局、阪神国際港湾にも協力いただき、総務省の計画策定支援でも採択されており、コンサルの会社にも入って検討を進めているところである。

技術革新や環境整備への期待

 周辺道路の混雑緩和を実現しようとすると、ローカル5Gの電波を広域に発射することが必要となってくる。これについては、総務省でも検討されているが、今後、当社としてもしっかりと考えていきたい。

 また、ユーザ目線で見ると、ローカル5Gの端末がまだ少ない。国内メーカの動向を注視している。

強化していきたいポイント、将来に向けて考えられる行動

 当社のローカル5Gサービスは従来の1/5の価格で提供しているが、まだ高いと感じられているお客様が多いと認識している。サービス面も踏まえて低価格化を目指す必要がある。今回の実証で、港湾に展開する道筋は確立できたので、この展開をしっかり行いながらさらなるソリューションを開発していきたい。

 ローカル5Gの技術的な部分では、スライシング、低遅延の実装など開発がこれからの部分もある。これらについても、低価格で高品質なサービスとして提供していきたい。

将来的に展開を検討したい分野、業種

 地上系の作業と船の着港のところの連携は必要だと考えられるので今後、課題を確認して新たなパートナーシップを構築していきたい。

 

本記事へのお問い合わせ先

西日本電信電話株式会社 関西支店 ビジネス営業部

e-mail : dreamisland-l5g@west.ntt.co.jp

URL :https://www.ntt-west.co.jp/