掲載日 2024年04月17日

株式会社
南紀白浜エアポート

【事例区分】
  • AI等を活用した企業・自治体等向け製品・サービス等の提供
  • AI等を活用した社会課題解決の取り組み
  • AI等を活用した実証実験等の取り組み

【関連する技術、仕組み、概念】

  • IoT
  • ビッグデータ
  • AI
  • DX

【利活用分野】

  • 運輸・交通
  • 公共

【利活用の主な目的・効果】

  • 生産性向上、業務改善
  • サービス・業務等の品質向上・高付加価値化、顧客サービス向上
  • 事業継続性向上

 課題(注目した社会課題や事業課題、顧客課題等)

 株式会社南紀白浜エアポート(以下、当社)は、和歌山県西牟婁郡(にしむろぐん)にある南紀白浜空港内に本社を構えている。当社は、「空港型地方創生」というコンセプトを掲げて2019年4月より南紀白浜空港の運営を開始し、地域活性化にも積極的に取り組んでいる。

 近年、生産年齢人口が減少する中、労働力、技術力の継続的な確保は空港のインフラ維持管理においても大きな課題となっている。図1に示すように上位8空港で約8割の乗降客を受け入れており、地方空港の乗降客は多くない。そのため、資金的に余裕のない地方空港では、空港業務の生産性向上は急務となっている。そうした中で当社は、安全・安心かつ生産性の高い空港運営を行うため、ドライブレコーダーを活用して滑走路の日常点検を行っている。従来は一日2回、職員が滑走路をパトロール車で走行し目視点検していた。現在は、パトロール車にドライブレコーダーを搭載し、AIを活用して滑走路のき裂・損傷個所を自動検知している。この取り組みによって、限られた時間の中で見落としが許されない点検業務に携わる空港職員のストレスを大幅に軽減することが可能となった。当社では、この他にもハード面(施設の維持管理)及びソフト面(運用・保安業務)の両面において、空港業務のDXを積極的に進めている。

 また、他空港(特に同じ境遇にある地方空港)にも当社で実証した技術を導入し、情報・課題を各空港間で共有・助言しあえる仕組みを構築することを目指している。

 なお、当社の「ドライブレコーダー×AI」を活用した空港滑走路診断は、モバイルコンピューティング推進コンソーシアムの「MCPC award 2023」のユーザ部門でモバイルビジネス賞を受賞している。

 関連URL:https://www.mcpc-jp.org/news/award.html#tab02

図1:空港別乗降客数
(出所:南紀白浜エアポート提供資料)

 

利活用の経緯(課題解決の鍵となる技術・アイディアの発想やビジネスパートナーとの出会い等活用に至った経緯)

 当社の強みは、空港というリアルなアセットを持っていることである。このアセットを実証フィールド、ショールームとして活用することにより、実証を行う民間企業と一緒に新しい技術の完成度を高めていくことが可能となる。実証に当たっては、当社が航空会社や国、地方自治体、警察・消防などとの調整を行うので、実証したい民間企業は実証作業に集中することができる。今回のドライブレコーダーを活用した取り組みは、NECと連携して実施している。また、自動運転の実証部分は、マクニカが参画している。

 

実証事例の概要

サービス名等、関連URL、主な導入企業名

・ドライブレコーダーを活用した滑走路の調査及び点検

『南紀白浜空港の滑走路において、自動運転技術やAIを活用した滑走路点検自動化に向けた実証実験を開始』
 関連URL:https://jpn.nec.com/press/202310/20231017_01.html

『「2022 年度インフラメンテナンス プロジェクト賞」受賞(土木学会)~「ドライブレコーダー×AI」を活用した空港滑走路の調査及び点検~』
 関連URL:http://shirahama-airport.jp/application/files/2616/7754/7734/2022.pdf

 

サービスやビジネスモデルの概要

 空港業務では、安心安全を守るため日常点検を行っている。図3の左側に示すパトロール車に職員が乗って、滑走路(2000m×45m)の路面状況を1日2回目視点検していた。現在は、運転は職員が行っているが、点検については図2に示すようにドライブレコーダーで撮影・記録し、き裂、損傷個所をAIで自動検知している。気象条件によるが、2~4㎜程度までのひび検知が可能となっている。

 コストを意識して、ドライブレコーダーは高画質のものではなく2K程度の汎用品で実現している。ドライブレコーダーによる路面調査の精度は、路面性状調査1と8割程度が一致している。現在、ひびの幅を検地するロジックを開発しており、例えば幅3mmと6mmのひびを見分けることで、劣化進行を把握し予防保全に繋げる予定である。

 また、昨年から、図3の右側に示す自動運転車両を使用した実証実験を行っており、滑走路の日常点検の完全自動化を目指している。

注1:路面性状調査とは、路面性状自動測定装置の性能確認(一般財団法人土木研究センターにて実施)に合格した測定機器により、舗装のひび割れ・わだち堀れ・平坦性及びパッチング箇所数を調査し、そのデータを基に道路の現状を把握する調査

図2:ドライブレコーダーでの画像データ認証イメージ
(出所:南紀白浜エアポート提供資料)

図3:パトロール車のイメージ
(出所:南紀白浜エアポート提供資料)

 

取り扱うデータの概要とその活用法

 本システムにおいては、次のデータを取得している。

・滑走路の路面情報データ
   ドライブレコーダーの映像データ

・GPSによる位置情報

 

事業化への道のり

AI活用等による価値創造

 本実証を含め空港というインフラを活用して実証を行い、技術の完成度を高める仕組みを構築したことが一番の価値だと考えている。実証の成果をPRすると、さまざまな企業が関心を持ってくれ、新たな実証提案をしてくれることが分かった。本実証についても、当初は自動運転車両を活用するという発想はなかったが、マクニカからの提案によりこれについても実証を行った。

 なお、今回の取り組みでは、2Kカメラのドライブレコーダーを選択している。その理由は、人の目視点検と同じレベルの点検を実現できると判断したからである。4Kカメラも比較検証したが、コストを考えると2Kカメラで十分だと判断した。

 滑走路は10年に一回、大きな費用を要する大工事が必要である。予防保全をきめ細かく実施すると、この期間が延びると考えている。10年以上に延びるのは間違いないが、どのくらいの期間延びるのかは現時点では分からない。長期的には、この予防保全が大きな価値になるだろうと考えている。

苦労した点、解決したハードル、導入にかかった期間

 一番苦労したのは、ドライブレコーダーの取り付け位置である。最初は車のフロントに取り付けていたが、斜めからの映像になり細かい亀裂を検出することができなかった。カメラを高解像度にするとコストが高くなるために解決までに時間を要した。最終的には図3の左側に示すように、車のリアに取り付けることで垂直に路面を撮影できるようになり、㎜単位のひびまで検知できるようになった。

重要成功要因

 本技術は複数空港で導入済みであるが、その成功要因の一つは実証結果を公開し、その価値を広く認知してもらったことである。PRにより他者の目に触れることで技術の普及が促進される。また、いろいろな賞を受賞することも、効果的なPR活動であると考えている。

 

今後の展開

現在抱えている課題、将来的に想定する課題、挑戦

 本システムについては、検討は行ったものの実導入に至らなかった空港がある。その主な要因は、新たな技術導入が短期的にはコスト増になるからである。短期的なコスト削減しか考えないケースが多い。多くの空港で導入されると空港事業全体で生産性が向上し、さらに規模の経済性による導入コスト低減にもつながるが、残念ながらそのような視点で考える経営者は少ない。

技術革新や環境整備への期待

 空港インフラの維持管理に対し新しい技術を想定した規制を整備すれば、技術革新が促進される可能性がある。しかし、現状は規制が技術革新に追いついていない。技術革新を想定した規制に変わることを期待したい。

強化していきたいポイント、将来に向けて考えられる行動

 本技術は複数空港で導入されているが、さらなる導入規模の拡大を目指している。また、空港業務全体を自動化する取り組みについても強化していきたい。空港の警備や清掃などの業務は賃金も高くなく人気がないが、それらをデジタル技術活用により“かっこいい業務”に変えていきたい。

将来的に展開を検討したい分野、業種

 開発した技術の横展開は簡単ではないが、道路への適用を推進したいと考えている。

 

本記事へのお問い合わせ先

株式会社南紀白浜エアポート オペレーションユニット 池田直隆

e-mail : n.ikeda@nsap.co.jp

TEL:0739-43-0095

URL :  http://shirahama-airport.jp/