九州電力株式会社
- ローカル5Gを活用した社会課題解決の取り組み
- ローカル5Gを活用した実証実験等の取り組み
- ローカル5Gの自社内業務等での利活用
【関連する技術、仕組み、概念】
- IoT
- AI
- DX
- 5G
【利活用分野】
- エネルギー・鉱業
- 公共
【利活用の主な目的・効果】
- 生産性向上、業務改善
- サービス・業務等の品質向上・高付加価値化、顧客サービス向上
課題(注目した社会課題や事業課題、顧客課題等)
九州電力株式会社(以下、当社)は、九電グループ経営ビジョン2030において、「保守・運用業務の効率化・高度化」によって「安定供給とコスト低減の両立」を図るという目標を掲げている。こうした中、火力発電所では、設備の老朽化、技術者の高齢化に伴う人材不足という課題がある。この課題を解決するために、経産省が公表している電気保安分野のスマート保安アクションプランも踏まえて、スマート保安の実現に向けたDX(デジタル・トランスフォーメーション)を推進している。このDX推進のためのネットワーク基盤として、ローカル5Gが活用できるのではないかと考えた。
調べてみると、ネットワーク基盤をWi-Fiベースで構築すると、投資額が膨らんでしまう(試算では、Wi-Fiだと数百のアクセスポイントが必要となり、この接続のためにコストが高いケーブル敷設が必要)。火力発電所内のDX推進には、少ない基地局で広範なエリアをカバーでき、かつ、大容量で高品質なネットワーク整備を手軽に行うことが必須であり、その点からローカル5Gを選択し火力発電所内のネットワークを構築した。
今回の開発実証では、このネットワークを活用して①AI画像認証による車両の入退管理、②自動走行ロボットによる車両誘導、③ドローンによる巡視点検、④高精細カメラによる不審船の監視の4つの課題解決をめざした。
実証を行なった経緯(課題解決の鍵となる技術・アイディアの発想やビジネスパートナーとの出会い等活用に至った経緯)
今回の開発実証においては、熊本県天草地区にある当社の苓北火力発電所をフィールドとして、火力発電所の建設、保全を行う企業、ネットワークを構築している企業、点検ロボットの技術を持った企業、ローカル5Gの技術を持った企業などに参加してもらい、火力発電所のDX推進にアプローチすべくコンソーシアムを立ち上げた。コンソーシアムメンバーは当社のほか、日本電気株式会社、ニシム電子工業株式会社、西日本プラント工業株式会社、株式会社正興電機製作所である。また、当該発電所は、熊本県と災害時における港湾等施設の使用に関する協定を締結しており、熊本県が災害時に行う物資輸送においても今回の実証が有効であるとの考えから本実証は熊本県とも連携して行った。
苓北火力発電所は、発電所特有の広範囲な敷地に特殊な構造物が密集している。ここでの実証で成果があがると、これがローカル5Gの有用性の確認となり同類の施設への横展開につながるのではないかと考えた。なお、本実証は総務省の「令和4年度課題解決型ローカル5G等の実現に向けた開発実証」に採択され、行ったものである。
実証事例の概要
実証テーマ
実証名:『地方公共団体と連携したローカル5Gの活用による火力発電所のスマート保安の実現』
関連URL:https://www.kyuden.co.jp/press_h221107b-1.html
実証の内容
今回の実証では、火力発電所内にローカル5Gの基地局を4台、中継器を4台設置し、4つの課題実証を行っている。
一つ目は、AI画像認証による車両の入退管理に関する実証である。図1に示すように、車両の入場用、退場用にAIカメラを設置し、車両ナンバープレートの4要素(地域名、分類番号、ひらがな、一連指定番号)を自動認識し、事前に登録された情報と照合判定し、許可、未登録、期限切れを問題なく確認できることを検証した。大規模災害時には、港湾に入港する物資運搬船から出入りする支援物資運搬車両の入退管理にも活用を考えている。実証では、入退手続き時間の削減、手続きのペーパーレス化を実現できた。そして、車両認識率は目標値の100%を達成することができた。この検証結果から、年間で約13百万円分の人件費削減効果があると試算している。
図1:車両入退管理の実証概要図
(出所:九州電力提供資料)
二つ目は、大規模災害時を想定した自動走行ロボットによる物資輸送運搬車両誘導に関する実証である。従来の計画では、案内板、バリケードの設置に加え、誘導員の配置を想定していた。図2に示すように、実証ではあらかじめ物資輸送運搬車両の移動ルートを設定し、ロボットが自動走行して入退ゲートまでの約1.5kmの区間を車両誘導することが可能であることを確認した。ロボットから伝送される映像をローカル5Gで伝送し、遠隔監視することで、常時、状況を把握することが可能となる。設定経路逸脱率、障害物の回避失敗率、遠隔操作の失敗率は、いずれも目標値の0%を達成することができた。この検証結果から、大規模災害時の対応費として、約4百万円分の人件費削減効果があると試算している。
図2:大規模災害時を想定した自動走行ロボットの物資輸送運搬車両誘導ルート
(出所:九州電力提供資料)
三つ目は、ドローンによる巡視・点検に関する実証である。図3に示すように2つのエリアで障害物回避機能を搭載した自律飛行ドローンを使用して、発電所設備のメータの読み取りが可能なこと、港湾部の岸壁や貯炭場に異常がないか映像で確認できることなどの検証を行った。設定経路逸脱率、障害物の回避失敗率、遠隔操作の失敗率は、いずれも目標値の0%を達成することができた。この検証結果から、年間で約2百万円分の人件費削減効果があると試算している。
図3:ドローンによる巡視点検の実証概要図
(出所:九州電力提供資料)
四つ目は、高精細カメラによる不審船の監視に関する実証である。図4に示すように港湾部に高精細カメラを設置し、高精細カメラで撮影した映像データをローカル5G経由で伝送する。目標である映像の解像度3,840×2,160、プレームレート30 fpsの伝送を実現できた。また、従来は難しかった不審船の船舶の名称、不審者の顔も映像で確認可能であった。監視時間を年間で約1250時間削減する効果があると考えられ、年間で約4百万円分の人件費削減効果があると試算している。
また、4つの課題実証を同時に実施する動作検証を行い、問題ないことを確認した。
図4港湾部からのカメラ撮影イメージ
(出所:九州電力提供資料)
取り扱うデータの概要とその活用法
・車両入退管理:画像、映像データ
・自動走行ロボットによる車両誘導:映像データ
・ドローンによる巡視点検:映像データ
・不審船の監視:映像データ
事例の特徴・工夫点
実証で明らかになった価値
今回の実証によって、ローカル5Gのエリア構築に関するノウハウが得られた。経済性の観点から少ない基地局数で広大なエリアをカバーするには、煙突や建屋の屋上にアンテナを取り付け、高い位置から電波を出しエリア設計を行うことが有効であると認識した。また、効率的な基地局の配置は、敷地内に敷設するケーブル類(光、電源)の建設費削減につながり全体としてコスト削減の大きな要因になるなどの知見が得られた。
ローカル5Gの端末については、真冬の屋外や50~60度となる高温のタービン建屋など厳しい環境で使用する場面もあり、検証中に動作が不安定になることがあった。設置環境に合致した端末を選ぶことの重要性を認識した。
実証の際に苦労した点、解決したハードル、解決に要した期間
自動走行ロボットに1.5kmある走行ルートを認識させるのにかなり苦労した。もともと限られたエリアでの点検用に開発されたロボットであり、長距離を自動走行するロボットとして設計をされていないものであった。また、最高速度も7km/sであり車両誘導に適しているのかについても議論となったが、安全性などを考慮するとこれくらいの速度が現在のレベルという結論となり、このロボットを使用して検証を行った。なお、自動走行ロボットの走行速度の向上策については、今後も検討を継続し、改善を図る予定である。
重要成功要因
社内でDX推進への意思決定がなされていたこと、関係部署に丁寧な説明を行い実証の意義を理解してもらった上で進めたことが成功要因であろう。本実証は情報通信本部がソリューションを提供するという役割を担っていたが、課題抽出にあたっては、火力発電所を担当している火力発電本部の業務基盤グループと繰り返しディスカッションを行い、イシューツリーなどを利用して課題とその解決策、実証内容を明確化した。
また、火力発電所への対応は、情報通信本部と火力発電本部が協力して実施した。抽出された課題や解決策を現場に持ち込んでさらに議論を行い、実証内容を改善した。現場からは、カメラの設置場所に関する意見、不審船の船の名前や人の顔が分かるようにしてほしい、夜間も監視できるようにしてほしいとの要望など、いろいろな提案が出され、それらに対応できる実証とすることを心がけた。業務フローの見直しが必要になったので、これにも協力した。実証後もゲートの形状変更、監視カメラの夜間の追尾機能追加などの提案が出されており、今後、対応を考える予定である。
今後の展開
現在抱えている課題、将来的に想定する課題、挑戦
当社が保有している、火力発電所、原子力発電所では、広範な敷地に複雑な構造の建物がある。こうした環境で、スマート保安の実現に必要なネットワーク基盤を有線で構築することは難しく、無線でのエリア構築が必須となる。現在、低コストで不感エリアを最小限に抑えるために、ローカル5Gの特性を生かしたネットワーク構築に挑戦している。このようなネットワーク構築に関してはまだモデルがないので、知見を積み重ねこのような環境でのネットワーク構築のモデルになるようにしていきたい。
強化していきたいポイント、将来に向けて考えられる行動
昨年度の実証がローカル5Gに対する最初の取り組みであったが、今年度はPoC(概念実証)ではなく、実装段階として取り組みを進めている。また今回の経験を社外にも共有できるよう発信していきたい。さらには、今回実証した4つの課題以外にも発電所のスマート保安実現に向けて新たなソリューションの開発を進めていきたい。
将来的に展開を検討したい分野、業種
今回、実証事業の成果を早くモデルとして確立したい。このモデルを情報共有してほしいという企業もあるので、他の電力会社や同じような施設を持つプラント事業会社へ展開していきたい。
本記事へのお問い合わせ先
九州電力株式会社 情報通信本部 通信ソリューショングループ
e-mail : Ryota_higashi@kyuden.co.jp
TEL:092-726-2120