愛媛県久万高原町
- IoT等を活用した企業・自治体等向け製品・サービス等の提供
- IoT等を活用した社会課題解決の取り組み
【関連する技術、仕組み、概念】
- IoT
- LPWA
【利活用分野】
- 農林水産業
- 公共
- 建設・設備
【利活用の主な目的・効果】
- 生産性向上、業務改善
- サービス・業務等の品質向上・高付加価値化、顧客サービス向上
- その他(安全性確保)
課題(注目した社会課題や事業課題、顧客課題等)
久万高原町は、愛媛県の中央部に位置し、面積(584平方キロメートル)は県内で最も広く、周辺を標高1,000メートル級の山々に囲まれた自然豊かな町である。面積の約90%が山林で、豊かな森林資源を活用した林業や比較的冷涼な気候を生かしたトマトやピーマンの栽培を中心とする農業を基幹産業としている。また、町内各地に広がる棚田や小川のせせらぎに始まり、石鎚山、四国カルスト、面河渓といった観光名所がある。
このような地形特性から、町内には携帯電話が通じないエリアが点在しており、山林での作業中には緊急時の救急要請や業務連絡が取れないといった課題があった。このため、事故発生時には、携帯電話が通じる場所まで移動して救急要請する必要があり、迅速な対応ができず重大な結果につながるリスクが高くなっている。
こうした中、当町では携帯電話がつながりにくい地域の代替通信手段として、LPWA(Low Power Wide Area)通信に着目した。当初は、大手キャリアのソリューションを検討したが、距離的な制約があり携帯電話がつながりにくい地域で代替通信手段を提供するという要件を満たさなかった。さらなる調査の結果、フォレストシー社が提供するオリワナシステムが、長距離通信が可能なLPWAであることを知った。実証実験により町全域をカバーできそうなことを確認できたため、導入を決定した。このLPWAのネットワークの整備には総務省の地域IoT実装推進事業を活用し、2019年度(令和元年度)に整備を実施している。
I実証事例の概要
サービス名等、関連URL、主な導入企業名
『全国初となるLPWA通信網の森林を含む町内全域整備について 』
関連URL:https://www.kumakogen.jp/soshiki/2/9598.html
システムやビジネスモデルの概要
久万高原町のLPWAシステムは、主に林業従事者の安全確保と効率的な作業支援に活用されている。また、除雪作業や鳥獣被害対策にも活用されており、作業効率化に役立っている。本システムの概要は図1のようになっており、町内20カ所に中継機を設置している。中継機の設置場所は、標高が高く見通しが良く、かつ、車でアクセスしやすい場所を選択している。これにより、広範囲にわたる通信エリアを実現し、林業従事者が持つジオチャット端末注1(図2)から確実に通信できるようにしている。
林業従事者の安全確保に関しては、ジオチャット端末を使用して緊急時に消防本部へ直接救助要請ができるようになっている。これにより、山林での作業中に事故が発生した場合に、迅速に救助を要請することが可能である。携帯電話の電波が届かない地域でも安定した通信が確保されているため、林業従事者の安心感が大きく向上している。
システムの維持管理費用は、町の予算から捻出されている。2020年(令和2年)4月から運用を開始し、現在は主に林業従事者が利用しているが、今後はさらに防災や高齢者の見守りなど、他の分野への展開も考えている。
注1:フォレストシー社の製品でスマートフォンの専用アプリと連動し、携帯圏外でもテキスト・位置情報・SOS信号を送受信できる端末(音声通話不可)。携帯圏外から携帯圏内の相手と双方向のやりとりができ、屋外活動におけるコミュニケーションや遠隔での見守りに貢献。
LPWAの中継機を経由して親機に通信が届けられる。親機からはインターネット接続。
図1 久万高原町のLPWA通信網の概要
(出所:久万高原町提供資料)
図2 ジオチャット端末(出所:久万高原町提供資料)
取り扱うデータの概要とその活用法
本システムで収集するデータは以下の通りとなっている。
位置情報: 林業従事者の位置を追跡し移動経路を確認可能とし、緊急時の救助や作業範囲の確認に活用。
SOS信号: 緊急時に救助を要請するための信号。
事例の特徴・工夫点
価値創造
LPWAシステムによって、通信が困難な山林地域でも安定した通信を実現した。これにより、林業従事者の安全性と生産性が向上している。具体的には、林業従事者が持つジオチャット端末から直接消防本部に救助要請ができるようになり、緊急時の対応が迅速化された。また、業務に必要な連絡も可能となり、業務効率化に貢献している。林業以外の分野では、除雪作業員がジオチャットを使用することで作業範囲が確認できるようになるなど、除雪作業の効率化に貢献している。さらに、鳥獣被害対策として、イノシシの捕獲用罠にマグネットセンサーを設置し、見回り負担の軽減を図っている。
事業化時に苦労した点、解決したハードル、解決に要した期間
LPWAシステムの導入に際しては、中継機の設置場所の選定が大きな課題であった。標高が高く見通しが良く、車でアクセスしやすい場所に設置する必要があり、この作業に約1年を要した。
また、救助を効率化するためにはSOS信号の発信位置だけでなく、発信者がどのようなルートで山に入ったかが分かることが重要である。このため移動経路が確認できるよう、利用者に対して常に電源を入れているようにと啓発活動を行っている。さらに、システムの運用開始後も、通信が届かないエリアが発見されることがあり、その都度中継機の位置変更を行っている。
重要成功要因
成功要因は、LPWAの電波特性を最大限に活用できる中継機の設置場所の選定である。町有地や県有林、国有林などの公有地を活用し、管理しやすい場所に設置している。また、フォレストシー社の技術とノウハウを活用し、効率的なネットワークが構築できた。さらに、林道網が整備されていることも中継機の設置に有利に働いた。地域IoT実装推進事業の補助金を活用し、初期導入費用を抑えることができたことも有効であった。
技術開発を必要とした事項または利活用・参考としたもの
フォレストシー社のオリワナシステムは、長寿命のバッテリーと広範囲にわたる通信を可能にする技術を備えており、林業従事者の安全対策に適している。また、クラウドサービスを利用してデータ管理を行い、効率的な運用を実現している。
今後の展開
現在抱えている課題、将来的に想定する課題、挑戦
現在の課題は、システムの普及促進と利用者の増加である。特に、林業以外の分野でLPWAシステムを活用し、例えば防災や高齢者の見守りなどに役立てたいと考えている。もちろん、林業分野でさらにシステムを普及させたい。また、利用者が電源を入れて使用することを徹底するために、啓発活動もしっかりやりたい。
技術革新や環境整備への期待
技術革新に期待したい。より低コストで高性能な通信機器の開発によって、より多くの地域で導入が可能になる。
強化していきたいポイント、将来に向けて考えられる行動
より多くの利用者にシステムを活用してもらうために、システムの利用促進と啓発活動を強化したい。
将来的に展開を検討したい分野、業種
将来的には、他の自治体や企業との連携を強化し、技術的な改善やビジネスモデルの改善を図っていきたい。具体的には、福祉分野での活用や、災害時の迅速な対応を可能にするシステムの構築を検討している。さらに、実験フィールドとしての活用を通じて、新たな技術やサービスの開発を支援していきたい。具体的には、スマートメーターや環境センサーとの連携による新たなデータ収集と活用を期待している。
本記事へのお問い合わせ先
久万高原町 総務課デジタル戦略係
e-mail : digital@kumakogen.jp
URL : https://www.kumakogen.jp/
TEL:0892-21-1111