掲載日 2023年07月13日


国際航業株式会社
 


日本電気株式会社
 


西尾レントオール株式会社
 


電気興業株式会社
 

【事例区分】

  • ローカル5Gを活用した社会課題解決の取り組み
  • ローカル5Gを活用した実証実験等の取り組み

【関連する技術、仕組み、概念】

  • 5G
  • DX
  • IoT

【利活用分野】

  • 建設・設備
  • 公共
  • その他(防災)

【利活用の主な目的・効果】

  • 生産性向上、業務改善
  • サービス・業務等の品質向上・高付加価値化、顧客サービス向上

課題(注目した社会課題や事業課題、顧客課題等)

 近年、豪雨による大きな被害が発生する回数が増えている。特に、河川堤防が決壊した場合は破壊力が強い水が怒涛のように流れだし、広範な地域が浸水する可能性が高くなる。このような大規模災害時に必要なのは、現場情報をいち早く収集し、関係者で共有することである。これによって迅速な対応が可能となり、二次的な災害を低減することが可能になる。

 被災現場の状況を安全かつリアルタイムに把握するには、人が被災現場で活動する代わりにカメラを取り付けたドローンによって河川氾濫や堤防決壊などの状況を撮影し、映像をリアルタイムに関係者で共有することが効果的である。また、水位低下後に迅速で効率的な応急復旧工事を実施するには、被災箇所の地形変化を計測したデータをもとに復旧工事を設計し、その設計に基づき無人化施工の建機で工事を実施することが有効である。しかし、これらの実現には河川エリアで大容量データを遅延なく扱えるネットワーク環境が不可欠である。

 このようなネットワーク環境構築の手段として考えられるのは、携帯電話や衛星通信の利用である。しかしながら、携帯電話は利用できないエリアがある。特に、高速の5G携帯電話の利用エリアは限られている。また、幅広いエリアで利用可能な4G携帯電話や衛星通信は、伝送速度や遅延の問題を有する。そこで、この問題を解決し河川エリアをカバーする大容量、低遅延で災害時にも平時にも安定して使えるネットワーク手段として注目したのが、ローカル5Gである。可搬型ローカル5G基地局によって被災現場をカバーすることで、ドローンからの映像情報や地形変化を把握するための画像情報を容易に収集・伝送することができ、無人化施工も可能となるだけでなく、復旧作業に必要なデータをクラウドに蓄積することで、関係者が容易に共有することができると考えた。

 

 実証実験実施の経緯

 この考えを実証するために国際航業、日本電気、西尾レントオール、電気興業の4社でコンソーシアムを結成し、総務省の「令和4年度課題解決型ローカル5G等の実現に向けた開発実証」に応募し採択された。実証は2023年1月下旬から2月中旬まで荒川下流域(東京都帰宅岩淵地区、足立区新田地区)で行った。実証における各社の役割は以下の通りである。

コンソーシアム参加者 役割
国際航業株式会社 ・プロジェクトの推進・管理   
・課題実証の総括、検証
・ローカル5G端末搭載ドローン、3次元空間解析技術提供
日本電気株式会社 ・技術実証の総括、検証 
・ローカル5Gの機器の調達、設計
西尾レントオール株式会社 ・課題実証(無人化施工建機)の検証
電気興業株式会社 ・ローカル5Gを搭載した可搬型機器の調達、設計
・中継器(レピータ)の調達、設計

 コンソーシアムの代表機関である国際航業は、建設コンサルタントとして常日頃から河川事務所のニーズを把握しており、この解決のために常に新しい取り組みを模索している。日本電気からローカル5Gのことを聞き、有用であると感じてプロジェクトを提案した。

 

実証事例の概要

実証テーマ

実証テーマ名:ローカル5Gを活用した河川災害におけるリアルタイムな状況把握と
       安全かつ迅速な応急復旧の実現

関連URL:https://www.kkc.co.jp/news/release/2023/01/24_3987/

実証の内容

 河川災害の発生直後に被害範囲や規模を速やかに把握し、関係機関で共有するため、河道内に可搬型ローカル5G基地局を持ち込んだ。使用した周波数は4.8-4.9GHz帯(100MHz)である。ドローンにカメラとローカル5G端末を搭載し、被災箇所の高精細映像をリアルタイムに河川事務所に伝送することが可能なことを実証するために、ローカル5G基地局を搭載した車両内を事務所と見立てて、国土交通省等の職員に映像を確認してもらった。映像については現場でも確認した。(図1左図)

 水位低下後の迅速な復旧工事実施に必要な3次元地形データの収集・伝送に関する実証も実施した。ドローンで収集した3次元地形データから復旧設計データを作成し、このデータをもとに施工の準備を行い、建機の無人化施工で復旧工事を実施した。施工準備の所要時間を従来の復旧工事と比べて50%以上短縮することを目標とした。なお、建機の制御データはローカル5G経由で伝送し、無人化施工の状況は建機からの映像をローカル5G経由でリアルタイムに伝送して監視した。作成した復旧設計データはクラウドシステムからキャリアの携帯電話(LTE)経由でローカル5G基地局に送信し、さらにローカル5G経由で建機に送信した。(図1右図)

図1:ローカル5Gを活用した実証の概要図
(出所:国際航業提供資料)

 

取り扱うデータの概要とその活用法

・映像データ:被災状況の把握
・画像データ:点群データ(3次元地形データ)の作成
・建機の制御データ及び建機からの映像データ:無人化施工の実施と監視

 

事例の特徴・工夫点

実証で明らかになった価値

 ドローンからの高精細映像の伝送に関しては、概ね400mのローカル5Gのカバーエリア内で、良好なリアルタイム伝送を実現でき、国土交通省の河川関係の職員から高い評価を受けた。ただし、カバーエリアについてはもう少し広いエリアのカバーが必要なケースもあり、暴風雨下におけるドローンの耐水性、安定飛行の実現なども課題として残っている。エリア拡大に関しては、概ね100m程度の不感地帯解消にはレピータが有効であるが、より広域なエリアカバーが必要な場合は、複数の基地局利用が必要になる。

 また、ドローンからの高精細画像の伝送については、映像伝送同様、問題なく可能であることを確認した。従来は、ドローンの着陸後に映像データや画像データをSDカードからパソコンにダウンロードし、キャリアの携帯電話(LTE)で送信していた(携帯電話が使えない場所では事務所に持ち帰り)。このため、画像データに関しては、撮影開始時からクラウドサーバに格納するまで1時間を要していたが、これを従来の約50%の30分に短縮することができた。

 一方、復旧設計データに関しては、従来は現地で実測し、そのデータに基づきCAD製図で設計用の図面を作成し、さらに図面を見ながら施工していた。この手順をドローンで収集した画像から3次元地形モデルを作り上げ、さらに施工用設計データを生成し、そのデータを蓄積したクラウドから無人化施工建機に送信することで、無人で施工するように変えた。これによって、施工の準備に要する所要時間を従来の約11時間から約30%の3時間に短縮できることを確認した。ただし、建機からの映像データの送信に関しては、5G端末と機体のアームが重なると画像の乱れが生じる。この解消のためには、ダイバーシティアンテナが必要となる。

 

実証の際に苦労した点、解決したハードル、解決に要した期間

 実証では、可搬型基地局などの無線局の免許申請等の手続きや、機器の調達等で時間を要した。5Gの端末に関してはモバイルルータタイプであったため、それをドローンに取り付けて利用したが、その取り付けにも苦労した。カバーしたいエリアは川に沿った線状エリアなので、1台のローカル5G基地局では対応できずレピータや複数の基地局が必要になる。線状エリアの効果的なカバーの実現に向けて、今後ともノウハウを積み重ねる必要がある。

重要成功要因

コンソーシアム参加各社の知見やノウハウを結集した上での、課題解決ソリューションの考案と実証。

技術開発を必要とした事項または利活用・参考としたもの

 技術開発の概要は次のとおりである。(図2参照)

 ・可搬型ローカル5G基地局の小型一体型(A4サイズ)と伸縮ポールアンテナ
 ・ドローンに5G端末を取り付け、映像データ・画像データを伝送する技術
 ・建機に5G端末を取り付け、制御データを送受信、映像データを送信する技術

図2:開発した各種ソリューションの概要
(出所:国際航業提供資料)

 

今後の展開

現在抱えている課題、将来的に想定する課題、挑戦

 総務省の支援を受けた実証事業は終了したが、本実証については2023年度も継続し、運用マニュアルの作成、研修プログラムの立案、メンテナンス・サポート体制の整備など、実用化に向けた準備を進めたい。これと並行して河川に堆積した土砂量の測定など平常時の河川関連業務や、港湾・砂防といった河川以外での活用など、開発したソリューションの利活用について用途開発を進めたい。

技術革新や環境整備への期待

 端末に対しては、雨に強いだけでなく野ざらし状態でも問題が生じない耐久性を有すること、振動に強いこと、防塵対策ができていることなどいくつか要望がある。また、機器のコストに関してもさらなる低廉化を期待する。さらに、本ソリューションは、可搬型基地局により通信が必要な場所で迅速に通信環境を整えることができる。河川区域内での可搬型基地局の利用を可能とするような柔軟な電波免許の可能性について検討をお願いしたい。

強化していきたいポイント、将来に向けて考えられる行動

 基地局を設置したい場所まで車では入れないことが少なくないので、可搬型基地局のさらなる小型化・軽量化に取組み、ハンドキャリー可能としたい。また、機器の性能向上に合わせて、活用範囲の拡大について検討を進めたい。

将来的に展開を検討したい分野、業種

 建機の無人化施工を遠隔から実施できるようにしたい。また、プラントや一次産業での活用など防災以外の分野でのソリューション活用に挑戦したい。

 

本記事へのお問い合わせ先

国際航業株式会社東京支店 担当:東 澄人

e-mail : info-tokyo@kk-grp.jp

TEL:03-5656-8688

URL :   https://www.kkc.co.jp/