掲載日 2024年12月12日

 

北海道岩見沢市

【事例区分】
  • IoT等を活用した社会課題解決の取り組み
  • IoT等を活用した実証実験等の取り組み
  • その他 (農家向け・市民向け情報通信サービスの提供)

【関連する技術、仕組み、概念】

  • IoT
  • ビッグデータ
  • AI
  • DX
  • LPWA
  • 4G
  • 5G

【利活用分野】

  • 農林水産業

【利活用の主な目的・効果】

  • 生産性向上、業務改善
  • サービス・業務等の品質向上・高付加価値化、顧客サービス向上
  • 事業継続性向上
  • 事業の全体最適化

課題(注目した社会課題や事業課題、顧客課題等)

 岩見沢市(以下、「当市」という。)は、北海道の中西部、札幌市や新千歳空港から約40㎞に位置し、道内を結ぶ国道や鉄道網を背景に、周辺産炭地にて産出される石炭や農産物に関する物流結節点として発展した。現在は、水稲や小麦、大豆、玉葱等、広い面積の土地を大型農業機械などで耕作する、いわゆる土地利用型農業を中心とした国内有数の食料供給基地となっている。

 しかしながら、農家の戸数は2005年の1,580戸から2023年には786戸と半減している。また、一時よりやや状況は改善しているものの高齢化が進展している中、1戸当たりの経営耕地面積は、2005年の11.3haから2023年には22.8haへと倍増している。このような状況の中、786戸の農家のうち約6割で後継者がいないなど、後継者不足や労働力不足が大きな課題となっている。

 

IoT等利活用の経緯

 当市では、地域の労働力減少を土地基盤の強化やAIなどのICT及びロボティクスで補い、持続可能な農業を目指している。このため、これらを利用する基盤となる自営光ファイバや地域BWAを整備し、スマート農業の進展に伴う農地でのブロードバンド利用ニーズの高まりに対応している。

 スマート農業への取り組みは、2013年1月29日にJAいわみざわ農業協同組合を事務局に「いわみざわ地域ICT’(GNSS等)農業利活用研究会」を設立したことが契機となっている。生産者から農作業の効率化のため、岩見沢市として位置情報配信サービス等を提供したら良いのではないかとの声があった。そして生産者の声に応えて、RTK-GNSS注1基地局(市内4か所)を設置し同年4月から農業機械などに対して高精度な「位置情報配信サービス」を、気象観測装置(市内13か所)で取得するデータを基に同年5月から50mメッシュ単位で出穂期や収穫期、病害虫等の予測情報を提供する「農業気象配信サービス」を開始した。当初109名からスタートした研究会は、現在では約300名の生産者が参加するまで成長し、スマート農業を推進する重要な組織となっている。

 また、同年10月には北海道大学などの関係機関と産学官連携体制を構築し、地域課題の解決に向けた取り組みを推進してきた。

注1:Real Time Kinematic Global Navigation Satellite Systemの略語。GPSなどの衛星を用いた測位と地上に設置した「基準局」からの位置情報データを組み合わせることで、衛星だけの測位より高い精度の測位(誤差数センチ以内)を実現する技術を指す。

 

事例の概要

サービスやビジネスモデルの概要

 当市のスマート農業への取り組みを時系列でまとめると、図1のとおりとなる。当市単独で実施した「位置情報配信サービス」や「農業気象配信サービス」の提供に続き、総務省や農林水産省の事業などに採択され、スマート農業の積極的な取り組みを実施している。

 位置情報配信サービスは、農作業機械の自動操舵に活用されている。掛け合わせ幅の減少注2、旋回の効率化、直進精度の向上、作業軌跡の見える化、手放し運転、夜間作業の実施、マーカーの省略などの効果がある。一方、農業気象配信サービスでは、農業気象サービス、市民気象サービスの他、小麦や水稲の出穂期予測・収穫期予測、水稲や玉ねぎの病害虫発生予測などの情報を提供している。

 一方、実証・ほ場整備としては、次のような取組みなどを実施している。

・2020年度に総務省及び農林水産省の実証事業選定のもと、「5G技術を活用した遠隔監視・制御による
 スマート農機(自動運転アシストコンバイン)の大豆の無人自動収穫及びスマート農機(ロボット
 トラクター)で、同一ほ場かつ複数台同時による無人作業の実証実験」を実施(図2、図3参照)

・将来的なスマート農機を共用した作業委託を見据え、2021年度に「5G技術等を活用した複数個所に配置
 する無人走行トラクター(4台)の一括遠隔監視・制御及び遠隔操縦に関する実証」を実施

・2020~2034年度の工期で将来的なスマート農業展開を見据え、「自動走行農機等に対応したほ場整備」
 を実施中。これにより1つのほ場の標準的な面積を2.4ha(231m×104m)に大区画化

・国土交通省北海道開発局や北海道大学などの関係機関と協働し、農地基盤整備データを基にした農機用
 地図データを作成し、農機用地図データを搭載したロボットトラクターの走行試験、大区画ほ場における
 ロボットトラクターの遠隔監視制御を実施予定

 このような実証の推進に貢献しているのは、2019年6月28日に北海道大学、NTTグループと締結した「世界最先端の農業ロボット技術と情報通信技術の活用による世界トップレベルのスマート農業およびサステイナブルなスマートアグリシティの実現に向けた共同検討に関する産官学協定」である。

注2:農業機械が自動操舵で作業する際に、隣接する作業ラインが重なる幅のこと。例えば、トラクターが畑を耕すとき、次のラインに移動する際に前のラインと少し重なるように設定する。この重なり部分が「掛け合わせ幅」。自動操舵システムを使うと、RTK-GNSS技術により高精度な位置情報が得られるため、掛け合わせ幅を2~3cm程度に狭く設定できる。この設定により、作業の効率が向上し、時間の短縮や燃料費の削減にもつながる。

図1:岩見沢市のスマート農業への取り組み経緯
(出所:岩見沢市提供資料)

 

図2:5G技術を利用した遠隔監視・制御による大豆の無人自動収穫の実証実験の模様
(出所:岩見沢市提供資料)

​​​​​​​

 

図3:5G技術を利用した遠隔監視・制御による耕起、心土破砕の無人自動収穫の実証実験の模様
​​​​​​​(出所:岩見沢市提供資料)

 

 

 事例の特徴・工夫点

価値創造

 農業機械の自動操舵を導入した農家からは「現代の農業には欠かせないツール」、「今までは時間的なゆとりがなく、仕事で疲れて夕ご飯の支度ができなかったということが少なくなった」、「作業機の確認のために後ろ向きで運転する必要がなく、体の負担が軽減された」などの声が寄せられている。いわみざわ地域ICT’(GNSS等)農業利活用研究会の中で、農家がスマート農業の勉強会や意見交換をしてスマート農業の利点に気付き、これを受け入れてくれたことが、スマート農業の進展に大きく貢献している。

苦労した点、解決したハードル、解決に要した期間

 当市の通信基盤となっている地域BWA(地域広帯域移動無線アクセスシステム)やRTK-GNSSの基地局の設置場所について、一部の基地局が停止した際に利用できなくならないよう、可用性を踏まえて決定するなど、研究会や関係機関を通して調整をした。

重要成功要因

 いわみざわ地域ICT’(GNSS等)農業利活用研究会を通じて農家の方々と人脈ができたことが大きく、現場の課題解決に積極的な農家が多かったので、同研究会の中で課題を明確化できた。また、市長がICT活用に熱心であったことも重要な成功要因である。

技術開発を必要とした事項または利活用・参考としたもの

 北海道大学の無人農業ロボット研究に関する知見やNTTグループのインフラをはじめとした技術がメインではあるが、地域課題をどう解決するかを考え、解決につながる技術を利用した。

 

今後の展開

現在抱えている課題、将来的に想定する課題、挑戦

 農業は後継者不足等が原因となり、家族経営で実施することが難しくなっている。農業を維持するためには、一人のオペレータが数多くのロボット農機の作業を監視するオペレーションセンターのような仕組みが必要と考えており、この実現のために、民間事業者と調整し事業化することが重要である。

また、当市で立ち上げた事業を当市だけでなく、他の市町村においても活用し、さらには全国展開することを期待している。

技術革新や環境整備への期待

 農林水産省の「農業機械の自動走行に関する安全性確保ガイドライン」では、無人での自動走行については使⽤者が⽬視可能な場所から監視することとなっており、公道走行では人が乗っていることが必須となっている。農業を持続していくためには、ほ場内の遠隔監視制御における無人作業はもとより、ほ場間移動(別のほ場に移動するための公道走行)についても遠隔監視制御により無人化することが重要なため、ガイドラインの改訂をめざした実証をすすめていきたい。

 また、5G基地局はコストが高額のため低廉化を期待しており、現時点では5Gに限らず、通信距離や用途を検討し、優位な通信を組み合わせることが必須と考えている。

強化していきたいポイント、将来に向けて考えられる行動

 スマート農業で必要となる農作業請負の事業化に向け、関係機関と調整していきたい。また、北村豊正地区において、国土交通省北海道開発局が実施主体の「国営緊急農地再編整備事業(先端技術導入実証)」を実施しており、工事成果(3次元点群データ等)を活用したロボットトラクターの走行試験や、大区画化ほ場におけるロボットトラクターの遠隔監視制御を実施している。工事成果のデータを活用し、フィジカル空間をサイバー空間に写像し、3次元仮想空間にバーチャルフィールドを構築することで、事前シミュレーションによりロボット農機の作業計画を自動生成する等の「営農の維持管理の省力化・高度化」を実証している。

将来的に展開を検討したい分野、業種

 市民生活の質の向上を図るため、農業分野に限った取り組みだけでなく、交通分野(自動運転EVバスの遠隔監視制御)や医療分野(遠隔医療)、除排雪分野(RTK-GNSS等を活用した除排雪)のなど、当市の通信基盤を最大限に利用し、多方面における取組も加速させていきたい。

 

本記事へのお問い合わせ先

岩見沢市情報政策部情報政策課

e-mail : media@city.iwamizawa.lg.jp

TEL :   0126-25-8004​​​​​​​