掲載日 2023年08月30日

株式会社ハートネットワーク

【事例区分】
  • ローカル5Gを活用した社会課題解決の取り組み
  • ローカル5Gを活用した実証実験等の取り組み

【関連する技術、仕組み、概念】

  • AI
  • DX
  • 5G 

【利活用分野】

  • 建設・設備
  • その他(非鉄金属、精錬物を扱う企業)

【利活用の主な目的・効果】

  • 生産性向上、業務改善
  • サービス・業務等の品質向上・高付加価値化、顧客サービス向上

課題(注目した社会課題や事業課題、顧客課題等)

 株式会社ハートネットワーク(以下、当社)は、愛媛県の新居浜市、西条市をエリアとするケーブルテレビ事業を行っている。また、街づくりの事業にも積極的に取り組んでいる。新居浜市はものづくり企業が多い街であることから、市はそのDX化に力を入れており、当社としてはローカル5Gを利用して課題解決に取り組むことができるのではと考えていた。そうした中、プラント工場に課題があるということを知り、当社からその課題を確認した。

 調べてみると、業務に活用できる通信ネットワークが整っていないため、業務の多くでは目視、紙を使うなどしていた。しかしながら、有線で通信ネットワークを構築すると、投資額が膨らむ問題を抱えている。こうしたことから離島プラント工場内のデジタル・トランスフォーメーション(DX)には、大容量で高品質のネットワーク整備を手軽に行うことが必須であり、その点からローカル5Gに注目した。

 今回は、プラント工場内の通信ネットワークをローカル5Gで構築し、①大容量データの共有による機械点検業務の効率化、②ドローン搭載4Kカメラ画像による原材料の体積推定、③4Kカメラ映像による不法侵入者の検知、④AIによる精製物の自動粒度判定の4つの実証に取り組んだ。
 

実証を行なった経緯(課題解決の鍵となる技術・アイディアの発想やビジネスパートナーとの出会い等活用に至った経緯)

 今回の実証においては、瀬戸内海に浮かぶ離島のプラント工場を実証地として、プラント工場の所有者や運営者、課題解決アプリケーションを開発構築している企業、ローカル5Gの技術を持った企業などに参加してもらい、離島プラント工場が抱える課題解決にアプローチすべくコンソーシアムを立ち上げた。コンソーシアムメンバーは当社のほか、ソフトバンク株式会社、株式会社地域ワイヤレスジャパン、NECネッツエスアイ株式会社、愛媛大学、日本ケーブルテレビ連盟、新居浜地域スマートシティ推進協議会である。

 当地では通信環境が十分でない企業が多いので、この離島のプラント工場での実証で成果があがると、これがローカル5Gの横展開につながるのではないかと考えた。なお、本実証は総務省の「令和4年度課題解決型ローカル5G等の実現に向けた開発実証」に採択され、行ったものである。
 

実証事例の概要

実証テーマ

実証検証名:『ローカル5Gを活用した精製物のAI粒度判定等による離島プラント工場の業務効率化の実現』

関連URL:https://www.soumu.go.jp/main_content/000852565.pdf

実証内容

 今回の実証では、4つの課題実証を行っている。
一つ目は、プラント工場内にローカル5Gの基地局を設置し、大容量データの共有による機械点検業務の効率化に関する実証である。従来は、工場内に光ネットワークなどの通信設備が整備されておらず、点検の図面などは必要に応じて事務所に移動して確認を行っていた。実証では通信手段にローカル5Gを使用することで、図1にあるように、タブレットを使用して機械点検のデータ、図面データ、点検画像データの送受信が問題なく可能であることを確認した。実証エリア内ですべてのデータを現場で確認することができ、データ確認に伴う移動時間の削減が可能であることが確認できた。また、ネットワークの構築費用も有線で構築する場合と比較して、約63%の抑制ができる見込みとなった。

図1:機械点検業務の効率化実証概要図
(出所:ハートネットワーク提供資料)

 二つ目は、ドローンによる原材料の体積推定に関する実証である。現在は、プラントで使用する原材料は屋外で堆積した状態で保管されていることから、車で移動して在庫の体積量を目視確認していた。

 実証では、図2にあるようにローカル5Gとドローンを使用して多方向から撮影した高画質の画像データをAIエッジザーバーに送り、AIにより体積量の推定を行った。この推定に関しては、目標である90%以上に対して88%精度まで実現することができた。また、作業頻度については毎日実施から2日に1回と削減できたが、想定した業務の効率化は実現できなかった。この実現に向けて、今後、ドローン操作の熟練度向上、対象堆積物の増加などを検討する必要がある。

図2:ドローンによる原材料の体積推定実証概要図
(出所:ハートネットワーク提供資料)

 三つ目は、4Kカメラによる不法侵入者検知に関する実証である。島内の沿岸部は上陸可能な部分があるが、監視が行われていなかった。実証では、図3にあるように侵入リスクのあるエリアに4Kカメラを設置し、撮影した侵入者の映像データをAIエッジサーバに伝送して解析した。侵入者を検知した場合はリアルタイムに遠隔の管理者、現地の管理者へ通知する検証を行った。侵入検知率については、目標の80%以上に対して100%の検知率を確認することができた。また、検知後してから駆け付けるまでの対応をおよそ5分で実施できることを確認した。監視コストについては、目視の場合と比較し33%の削減効果があることを確認している。今後、カメラ監視のカバーエリアを拡大することで、削減効果の拡大を目指す必要がある。

図3:不法侵入者の検知実証概要図
(出所:ハートネットワーク提供資料)

 四つ目は、AIによる生成物の自動粒度判定に関する実証である。これまでは、精錬工程の品質管理は担当者の目視で行っていた。図4にあるように精錬工程で精製されるペレットを4Kカメラで撮影した映像データをAIエッジサーバに伝送し、粒度をAIで解析して問題の有無を判定できることを確認した。異常検知率については、80%以上という目標を達成することができた。また、目視確認の作業をゼロとし、この工程を自動化することが可能であることを確認できた。作業時間に関しては、目視作業の削減だけでなく、他の業務の効率化もあり、目標の30%削減に対して78%の削減を達成することができた。人件費は年間102.4万円の削減が見込まれる。

図4精製物の粒度測定の実証概要図
(出所:ハートネットワーク提供資料)

 

取り扱うデータの概要とその活用法

 ・機械点検業務:画像データ
 ・原材料の体積推定:画像データ
 ・4Kカメラによる不法侵入者検知:映像データ
 ・精製物の自動粒度判定:映像データ

 

 事例の特徴・工夫点

実証で明らかになった価値

 離島において、ローカル5Gは非常に有効であることがわかったことは大きな価値だと考えている。一方、工場が複雑なつくりであったため、基地局と移動基地局(端末)との間の安定的な通信を確保するためのエリア調整が想定以上に難しかった。新たに気づいたこととして、ローカル5GとWi-Fiなどを組み合わせた通信ネットワークを離島の工場などに提供していくことも有効ではないかと考えている。

実証の際に苦労した点、解決したハードル、解決に要した期間

 実証事業の性質上、スケジュール、予算に制限があり、また、定期便が1日3便しかないなど離島という地理的な条件による苦労が多くあった。また、基地局ベンダ、ソリューションベンダが異なる企業であったことで、スケジュール調整にも苦労した。チーム内のコンセンサスを得るため、合意形成を図るための会議、現地での調整を行いながら実証を進めた。また、事前に基地局ベンダとソリューションベンダが協力して実証を行うなどの工夫も行った。これにより、実証を効率的に進めることができた。

重要成功要因

 まずは実証の対象となった企業が、DX化について強い意思を持っていたことが要因としてあげられる。また、実証対象企業側で抽出した課題について、コンソーシアム内で解決のソリューションやその効果を丁寧に検討し、可能なものは事前検証を行ったことも成功要因として挙げられる。

技術開発を必要とした事項または利活用・参考としたもの

 コンソーシアムのメンバーであるソフトバンクのソリューションや技術をベースに、防塵対策など実証環境に合わせた開発を行って課題解決を進めた。

 

今後の展開

現在抱えている課題、将来的に想定する課題、挑戦

 離島のプラント工場では、交通の制約やアクセスの難しさから保守のためにすぐに駆け付けることが難しい場合がある。このため、保守の一次対応をユーザ側で実施することが必要となる。保守の手順やノウハウの伝達などについて、今後、解決していかなくてはならない課題であると考えている。

技術革新や環境整備への期待

 総務省でも検討が進められているが、ローカル5Gではドローンの上空免許が認められていないので、今後の法整備に期待したい。

強化していきたいポイント、将来に向けて考えられる行動

 今後、横展開を推進したいと考えているが、機器の調達コストやランニングコストがまだ高額なので当社を含めてコストダウンに取り組んでいくことが必要である。これを実現するにあたっては、プラットホーム化を進めていくことが必要である。今回実証した4件の成果についても、この一環としてパッケージ化するなど事業展開方法についてもさまざまな工夫をしていきたい。

将来的に展開を検討したい分野、業種

 今回、実証事業の対象となった企業のグループ会社など、同様の課題を抱えているところに横展開を図っていきたい。

 

本記事へのお問い合わせ先

株式会社ハートネットワーク お客様サービス局 山下浩輔

e-mail : kos@heartnetwork.jp

TEL:0897-32-7777

URL : https://heartnetwork.jp/​​​​​​​