掲載日 2023年07月04日

 

株式会社秋田ケーブルテレビ

【事例区分】
  • ローカル5Gを活用した社会課題解決の取り組み
  • ローカル5Gを活用した実証実験等の取り組み

【関連する技術、仕組み、概念】

  • 5G
  • AI

【利活用分野】

  • エネルギー・鉱業

【利活用の主な目的・効果】

  • 生産性向上、業務改善
  • サービス・業務等の品質向上・高付加価値化、顧客サービス向上
  • 事業の全体最適化
  • 新規事業開拓・経営判断の迅速化・精緻化

課題(注目した社会課題や事業課題、顧客課題等)

 株式会社秋田ケーブルテレビ(以下、当社)は、「つながる楽しさ 広がる暮らし 秋田とともに未来を創造」という企業理念のもと事業を展開している。当社が地域の通信事業者として中心においているのは、地域の課題をICTで解決することである。秋田県の課題は、少子高齢化、除雪雪害、再生可能エネルギー、農業などである。今回は再生可能エネルギーにおいて、国内初の商用運転を開始した洋上風力発電に着目して、ローカル5Gを活用した実証検証に取り組んだ。

 現在、電力分野においては設備の経年劣化や電気保安人材の高齢化・人材不足、そして再生可能エネルギー業者等の参入に伴うプレーヤーの多様化など、構造変化に直面している。また、近年大型台風や豪雨等の自然災害の激甚化など、外部環境の変化に伴う課題も多く出現している。電力供給は社会活動の基盤となる重要インフラであり、保安作業の安定性と効率性の向上、高度化を図っていくことが必要である。

 このような状況にあって、近年では IoT、AI やドローンに代表される新しい技術が実用化されている。電気保安の分野においても、これらの技術の活用による保安水準の維持向上と生産性向上等を両立させるスマート化の推進が強く求められている。今回、実証を行なった洋上風力発電では、ライフサイクルコストの 35 %以上を占めるとされる運転保守のコスト削減、売電収入に直結する設備利用率のさらなる向上が課題となっている。

 また、日本の沿岸地域では、地域のもつ風力発電のポテンシャルを最大限に活かし、再生可能エネルギーの導入拡大を地域における関連産業の振興及び雇用創出に繋げる取組みとして強化している。メンテナンスは運転開始後20年以上継続されるため、持続的な雇用確保、関連産業の振興など地域への経済波及効果は大きく、キラーコンテンツとして注目されている。しかしながら、現状の人手による風車ブレードの点検は、特殊技能が要求されるため、同業務の地域定着化(地元雇用化)には、より簡便かつ効率的なメンテナンス技術の確立が求められている。
 

実証を行なった経緯(課題解決の鍵となる技術・アイディアの発想やビジネスパートナーとの出会い等活用に至った経緯)

 洋上風力発電のブレードのメンテナンスは、洋上風力発電アクセス船(Crew Transfer Vessel:CTV)で施設にアクセスし人手で行うのが一般的である。しかし、人手によるメンテナンスは、コストが高いことに加えて、冬期には波高により船が風車まで近接できない、または出航できないなどによるメンテナンス遅延の発生(=発電再稼働遅延)が懸念される。また、洋上での作業は危険を伴うため、ドローンによる撮影及び画像解析技術を活用したメンテナンスが期待されている。しかし、現状、ドローンで撮影した高精細画像を飛行状態のまま陸域へ伝送するための手段が確立されおらず、ドローンの帰還後にSDカードを回収して撮影画像を確認することとなる。このため、撮影漏れやピンボケ、アングルずれ、逆光などの撮影失敗が生じた場合、再度ドローンを飛ばして撮影する必要があり、稼働率を低下させてしまうという課題がある。

 今回の実証では、このようなロスを改善するため、ローカル5Gを活用してリアルタイムで画像を伝送し、飛行しながら損傷箇所の点検を行うことによる作業の効率化を検討した。この方法の有用性が実証され社会実装されることにより、地域のドローンオペレータへの新たなビジネス機会の創出が期待できる。

 今回の実証においては、カーボンニュートラル社会の実現という「国の視点」、地域産業振興や雇用の創出という「地域の視点」、発電の安定化・効率化という「発電事業者の視点」という3つの視点から課題解決にアプローチすべく実証コンソーシアムの参加メンバーの選定を行った。コンソーシアムメンバーは当社のほか、NECネッツエスアイ株式会社、株式会社Dshift、関西電力株式会社、ZEIN株式会社、東京大学先端科学技術研究センター、一般社団法人日本ケーブルテレビ連盟、秋田県である。なお、本実証は総務省の「令和4年度課題解決型ローカル5G等の実現に向けた開発実証」に採択され実施したものである。
 

実証事例の概要

実証テーマ

 実証検証名:『ローカル5Gを活用した風力発電の設備利用率向上によるカーボンニュートラル社会の実現』

 関連URL:https://www.cna.ne.jp/catv-page/other/40087

実証の概要

 洋上風力発電施設にローカル5Gの基地局を設置し、ドローンからの画像を基地局で受信し洋上風力発電施設と陸域を結んでいる光ファイバで送信する。ドローンに搭載した高精細カメラを用いて発電風車のブレードを約 5,000 万画素の画像で連続撮影し、リアルタイムに画像伝送を行う。これによって、ドローン撮影と画像による点検作業を並行して実施することが可能となり、また、撮影失敗時や損傷箇所発見時の再撮影のための飛行など作業手戻りが最小化される。これによって、発電停止時間の大幅削減も可能となる。(図1参照)

 今回の実証では、秋田県秋田市の海岸線上の風力発電所周辺にローカル5G環境を構築し、将来的な洋上風力発電での活用を見据えて、損傷等異常のリアルタイム分析を目指し、ドローンで撮影した風車ブレードの高精細画像を陸域に伝送する実証を実施した。

図1:ローカル 5 G を活用したドローンによる風車メンテナンスの実装イメージ
(出所:秋田ケーブルテレビ提供資料)

実証内容の詳細

 今回の実証では、将来の洋上ウィンドファームの実装形態を想定して、港湾区域等でのウィンドファームでの展開を想定した将来モデル1と、一般海域でのウィンドファームでの展開を想定した将来モデル2の2つのモデルでの検証を実施した。(図2参照)どちらのモデルに対しても周波数4.8-4.9GHz帯のローカル5G を利用して、自律飛行するドローンから 1 秒間隔で撮影した高精細画像・点検画像を伝送し、画像の点検を並行作業で行った。1秒という撮影間隔は、従来方式のSDカードを使用するケースでの撮影間隔を踏襲している。実証の結果、伝送速度は最大60Mbps、伝送遅延は30ms未満を実現することができた。

図2:実証概要図(出所:秋田ケーブルテレビ提供資料)

 

取り扱うデータの概要とその活用法

 点検保守のための画像データ
 ドローンの制御・運航のための動画データ

 

事例の特徴・工夫点

実証で明らかになった価値

 ローカル5Gの活用により、画像を撮影しながら並行して損傷箇所の点検を行うことによって、ブレードメンテナンスにおける作業手戻りをなくすことが大きな価値となることが確認できた。特に、大きな価値が見込まれるのは、将来主流となる陸域からの離岸距離が数キロにもおよぶ一般海域上の洋上風力発電施設での稼働率の向上に伴う機会損失の低減である。

 一定の仮定のもとで試算すると、総出力20万kW(将来モデル 1)のウィンドファームの場合、従来の人手による点検のドローン点検への置き換えで年間3.7億円、20 年間で73.0億円の効果が見込める。さらにローカル5Gの活用で年間0.5億円、20年間で10.0億円の追加効果が見込める。総出力50万kW(将来モデル2)のウィンドファームの場合は、ドローン点検への置き換えで年間 9.1億円、20年間で182.6億円の効果が見込める。さらにローカル5Gの活用で年間1.3 億円、20年間で26.0 億円の追加効果が見込める。

実証の際に苦労した点、解決したハードル、解決に要した期間

 実証で撮影した画像は、破損や欠損を確認するのに十分なものであることが検証できた。今後実装化と併せてこの画像データを蓄積し(ディープラーニング等)、画像のAI解析を使ったこれらの自動検知によってさらなる効率化向上につなげていきたい。

 苦労したのは、風車の向きが時々刻々変わるので、それに合わせてドローンを自動的に飛行できるようにすること。また、画像をブレなく撮影するために、風が強い時のホバリングによる飛行時間の長時間化(動力源)や、緊急危険回避対応を想定した対策を盛り込んでいかなければならない。

重要成功要因

 当社では地域が抱えている課題を解決するために、常日頃からブレストを実施している。今回は、洋上風力発電のメンテナンスコストが、全体のコストの35%以上を占め非常に大きいこと、簡便かつ効率的なメンテナンス技術の確立が地域への定着化(地元雇用化)に貢献することに着目して解決策を考え、ローカル5Gを利用したソリューションを検証することとした。

技術開発を必要とした事項または利活用・参考としたもの

 一般環境とは異なる洋上風力での活用に資するローカル5Gの実装の在り方(アンテナの取付方法、ネットワークの構成など)を検討し、現状の風力発電施設への実装を意識した実装プランを取りまとめた。

 

今後の展開

現在抱えている課題、将来的に想定する課題、挑戦

 ローカル5G利用の費用対効果を上げるため、風力発電のブレードの保守以外の多目的利用を考える必要がある。このため、点検対象を風車のブレードだけでなく水中の施設の状況調査などにも広げていきたい。また、さまざまなセンシング技術を活用し、そのデータを効率よく送受信することも考えていきたい。さらに、AIを活用した自動点検に関する技術も取り入れたい。

技術革新や環境整備への期待

 洋上風力発電施設をつなぐ光ファイバケーブルは芯数があまり多くない。メンテナンスの自動化などの検討を推進し、その実現に必要な光ファイバケーブルの高度利用を可能にすることが望まれる。

 ローカル5Gではエリア化する周辺環境により、電波の出力制限や電波の向きに対する制限がある。また、海上でドローンに搭載した端末が自由に移動して電波を出すことは、現在は認められていない(航空法の一部制約も含め)。今後、電波の影響評価が進み、これらの制限が早期に解消されることを期待している。さらに、海上という劣悪な環境に耐えることができるようにアンテナの耐久性の向上などローカル5G関連製品の性能向上にも期待している。

強化していきたいポイント、将来に向けて考えられる行動

 今後、洋上風力発電のメーカ、事業者と地域が連携して洋上風力発電事業を盛り上げ、発電事業の効率化、地域の活性化につながるような関係性を構築・維持継続していきたい。

将来的に展開を検討したい分野、業種

 ドローンを活用しているメンテナンス会社などと連携しながら、通信の新しい適用領域を増やしていきたい。ICTだけでは解決できない課題が多いので、課題解決に必要な仲間づくりにもさらに力を入れていきたい。

 

本記事へのお問い合わせ先

株式会社秋田ケーブルテレビ

e-mail : h-ishii@cna-catv.co.jp

URL :  https://www.cna.ne.jp/ 

TEL:018-803-0171

担当:石井 浩幸